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第三章 悪魔、魔境を知る
109泊目 無理なものは無理
リーフィたちがリズブルの街で花の悪魔に出くわしていた頃も、アサーナは引き続き、ヘルファイアハウンドの毒のうと格闘を続けていた。
どんなにアサーナが頑張ろうとも、この毒のうは毒物にしか変化しなかった。しかも、超絶極悪の代物ばかり。ここまで結果に変化がないと、さすがのアサーナもお手上げだった。
「アサーナちゃん、ものすごい顔をしているね」
「ああ、ミリナ。もう終わったの?」
「うん、ちょうど今」
すっかり轟沈しているアサーナのところに、宿の浄化を終えて戻ってきたミリナが姿を見せた。
「ヘルファイアハウンドの毒のうなんだけど、どんなに頑張っても毒物にしかならないのよ。どんな風にいじっても毒にしかならない物も珍しいわよ」
アサーナはでき上がった猛毒ポーションの山を目の前にして、ミリナにも目も向けずに遠い目をしている。
「粉末して一つまみ程度の量でも猛毒にしかならない。他の部位で作った解毒ポーションと混ぜてみてもダメ。シャレになんないわよ、これ。間違って飲んだら解毒ポーションも効かないんじゃないの、これ」
もう限界に来ているらしく、大きなため息をついている。
目の前に並ぶ紫色の液体の入った瓶が並んだ光景は、アサーナの愚痴のせいで本当に毒々しく見えてくる。
「ミリナの浄化があれば大丈夫なんでしょうけどね。エレンさんを助けられたんだから」
「かも知れないな。それにしてもそんな強力な毒なら、飛び道具を使う連中が欲しがるだろうな」
「あれ、リリィさん。聞いてたんだ」
アサーナの愚痴に混じって声が聞こえてきた。入口へと目をやると、そこにリリィの姿があった。
「ちょうど業務に一段落がついたんでな、休憩をしようと思って来たら、アサーナの愚痴が聞こえてきたってわけさ」
「なるほどねぇ」
ここしばらくの間、宿への来客が減ってきている。そのせいで受付の業務は暇だったようだ。
減っている原因としては、実は思い当たる節がある。
「まっ、フォスのせいだろうな。瘴気の本から漏れ出る瘴気には気を付けているだろうが、瘴気の禍々しさが伝える雰囲気ってのまでは消しきれてない。その関係で別館へ近づくやつが減ってるんだよ」
リリィの推測では、瘴気から漏れ出る雰囲気というものが、宿に近寄りがたい空気を作り出していると見ているようだ。
とはいえ、宿にはミリナの張った結界がある。内から漏れ出ていたとしても影響は小さいはずだ。
「そうかも知れないが、宿に泊まっている間に嫌な雰囲気を感じれば、誰だって敬遠したくなる。冒険者どもの口コミで今は魔境に向かうことを止めてんだろうよ」
「瘴気も分からないことが多いわね」
「だな」
さっきからアサーナからため息しか出てこなかった。もう苦笑いをするしかない。
「アサーナちゃん、それよりこれはどうするの?」
テーブルの上にずらりと並ぶ毒物を見て、ミリナが確認してくる。
「こんな危ないもの、他人の手に渡せないわね。当面は収納空間の肥やしだわ」
アサーナはそう答えて、せっせと収納空間に猛毒ポーションをしまい込んでいた。
「こういう時は気分転換ですよ」
アサーナたちのところに、セミルがやって来た。どうやら魔物たちの世話を終えてきたようだった。
なにやら手に持っているようで、入ってくるなりその素材をテーブルの上に並べている。何かと思えば、ホーンラビットの角と、白金の毛の束だった。
「この白っぽい金髪のようなものは?」
「ムーンウルフの毛ですね。ブラッシングをしていたら毛が抜けることがあるじゃないですか。それを集めてきたんです」
セミルが言うには、ムーンウルフの毛らしい。
実に珍しい素材ではあるが、アサーナはホーンラビットの角の方も気になっている。なにせ、前に角が取れてからあんまり時間が経っていないからだ。
「ホーンラビットの角って、こんなに早く生えるものかしら」
「さあ、どうなんでしょうか。でも、間違いなくしっかりとした角が生えてましたよ」
「ふーん……」
アサーナはそう言いながら、早速鑑定にかけている。
【ホーンラビットの角
爪のように硬質化した額の皮膚の一部
そのため、折れても比較的早く再生する
角による頭突きは強力で、その一撃は岩をも貫く】
思わぬ鑑定結果に驚いてしまう。
「これ、皮膚だったんだ」
「それは驚きだな。冒険者の中にはそいつに大穴を開けられて瀕死になったやつもいるっていうのさ」
「そんなに硬いのね」
リリィの証言に、なんとも複雑そうな表情で角を眺めるアサーナだった。
「セミルさん」
「なんですか、アサーナさん」
「今度都から人が来るようなことがあれば、これを売るけどいいかしら」
「いいですよ。その代わり、なるべく高く売って下さいね」
アサーナからの質問に答えながら、セミルは親指と人差し指で丸を作っていた。さすがお金に執着するセミルである。
アサーナがこんな話を出したのには訳がある。
それは、先日都に出向いた時に決定した取引の次回の日程が迫ってきているからだ。
「ホーンラビットの角はともかく、このムーンウルフの毛はいい取引材料になるわ。ここはあたしの腕の見せどころね」
「ええ、お願いしますね」
やる気を見せるアサーナに、セミルは改めて期待をかけているようだった。
次回の取引に向けて意気込むアサーナ。新しい取引材料を見つけたのはいいものの、ヘルファイアハウンドの毒のうはどう考えても無理だと結論付け、このまま収納空間の肥やしにするしかなかったのだった。
どんなにアサーナが頑張ろうとも、この毒のうは毒物にしか変化しなかった。しかも、超絶極悪の代物ばかり。ここまで結果に変化がないと、さすがのアサーナもお手上げだった。
「アサーナちゃん、ものすごい顔をしているね」
「ああ、ミリナ。もう終わったの?」
「うん、ちょうど今」
すっかり轟沈しているアサーナのところに、宿の浄化を終えて戻ってきたミリナが姿を見せた。
「ヘルファイアハウンドの毒のうなんだけど、どんなに頑張っても毒物にしかならないのよ。どんな風にいじっても毒にしかならない物も珍しいわよ」
アサーナはでき上がった猛毒ポーションの山を目の前にして、ミリナにも目も向けずに遠い目をしている。
「粉末して一つまみ程度の量でも猛毒にしかならない。他の部位で作った解毒ポーションと混ぜてみてもダメ。シャレになんないわよ、これ。間違って飲んだら解毒ポーションも効かないんじゃないの、これ」
もう限界に来ているらしく、大きなため息をついている。
目の前に並ぶ紫色の液体の入った瓶が並んだ光景は、アサーナの愚痴のせいで本当に毒々しく見えてくる。
「ミリナの浄化があれば大丈夫なんでしょうけどね。エレンさんを助けられたんだから」
「かも知れないな。それにしてもそんな強力な毒なら、飛び道具を使う連中が欲しがるだろうな」
「あれ、リリィさん。聞いてたんだ」
アサーナの愚痴に混じって声が聞こえてきた。入口へと目をやると、そこにリリィの姿があった。
「ちょうど業務に一段落がついたんでな、休憩をしようと思って来たら、アサーナの愚痴が聞こえてきたってわけさ」
「なるほどねぇ」
ここしばらくの間、宿への来客が減ってきている。そのせいで受付の業務は暇だったようだ。
減っている原因としては、実は思い当たる節がある。
「まっ、フォスのせいだろうな。瘴気の本から漏れ出る瘴気には気を付けているだろうが、瘴気の禍々しさが伝える雰囲気ってのまでは消しきれてない。その関係で別館へ近づくやつが減ってるんだよ」
リリィの推測では、瘴気から漏れ出る雰囲気というものが、宿に近寄りがたい空気を作り出していると見ているようだ。
とはいえ、宿にはミリナの張った結界がある。内から漏れ出ていたとしても影響は小さいはずだ。
「そうかも知れないが、宿に泊まっている間に嫌な雰囲気を感じれば、誰だって敬遠したくなる。冒険者どもの口コミで今は魔境に向かうことを止めてんだろうよ」
「瘴気も分からないことが多いわね」
「だな」
さっきからアサーナからため息しか出てこなかった。もう苦笑いをするしかない。
「アサーナちゃん、それよりこれはどうするの?」
テーブルの上にずらりと並ぶ毒物を見て、ミリナが確認してくる。
「こんな危ないもの、他人の手に渡せないわね。当面は収納空間の肥やしだわ」
アサーナはそう答えて、せっせと収納空間に猛毒ポーションをしまい込んでいた。
「こういう時は気分転換ですよ」
アサーナたちのところに、セミルがやって来た。どうやら魔物たちの世話を終えてきたようだった。
なにやら手に持っているようで、入ってくるなりその素材をテーブルの上に並べている。何かと思えば、ホーンラビットの角と、白金の毛の束だった。
「この白っぽい金髪のようなものは?」
「ムーンウルフの毛ですね。ブラッシングをしていたら毛が抜けることがあるじゃないですか。それを集めてきたんです」
セミルが言うには、ムーンウルフの毛らしい。
実に珍しい素材ではあるが、アサーナはホーンラビットの角の方も気になっている。なにせ、前に角が取れてからあんまり時間が経っていないからだ。
「ホーンラビットの角って、こんなに早く生えるものかしら」
「さあ、どうなんでしょうか。でも、間違いなくしっかりとした角が生えてましたよ」
「ふーん……」
アサーナはそう言いながら、早速鑑定にかけている。
【ホーンラビットの角
爪のように硬質化した額の皮膚の一部
そのため、折れても比較的早く再生する
角による頭突きは強力で、その一撃は岩をも貫く】
思わぬ鑑定結果に驚いてしまう。
「これ、皮膚だったんだ」
「それは驚きだな。冒険者の中にはそいつに大穴を開けられて瀕死になったやつもいるっていうのさ」
「そんなに硬いのね」
リリィの証言に、なんとも複雑そうな表情で角を眺めるアサーナだった。
「セミルさん」
「なんですか、アサーナさん」
「今度都から人が来るようなことがあれば、これを売るけどいいかしら」
「いいですよ。その代わり、なるべく高く売って下さいね」
アサーナからの質問に答えながら、セミルは親指と人差し指で丸を作っていた。さすがお金に執着するセミルである。
アサーナがこんな話を出したのには訳がある。
それは、先日都に出向いた時に決定した取引の次回の日程が迫ってきているからだ。
「ホーンラビットの角はともかく、このムーンウルフの毛はいい取引材料になるわ。ここはあたしの腕の見せどころね」
「ええ、お願いしますね」
やる気を見せるアサーナに、セミルは改めて期待をかけているようだった。
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