魔境の宿屋さん【リメイク】

未羊

文字の大きさ
109 / 187
第三章 悪魔、魔境を知る

109泊目 無理なものは無理

 リーフィたちがリズブルの街で花の悪魔に出くわしていた頃も、アサーナは引き続き、ヘルファイアハウンドの毒のうと格闘を続けていた。
 どんなにアサーナが頑張ろうとも、この毒のうは毒物にしか変化しなかった。しかも、超絶極悪の代物ばかり。ここまで結果に変化がないと、さすがのアサーナもお手上げだった。

「アサーナちゃん、ものすごい顔をしているね」

「ああ、ミリナ。もう終わったの?」

「うん、ちょうど今」

 すっかり轟沈しているアサーナのところに、宿の浄化を終えて戻ってきたミリナが姿を見せた。

「ヘルファイアハウンドの毒のうなんだけど、どんなに頑張っても毒物にしかならないのよ。どんな風にいじっても毒にしかならない物も珍しいわよ」

 アサーナはでき上がった猛毒ポーションの山を目の前にして、ミリナにも目も向けずに遠い目をしている。

「粉末して一つまみ程度の量でも猛毒にしかならない。他の部位で作った解毒ポーションと混ぜてみてもダメ。シャレになんないわよ、これ。間違って飲んだら解毒ポーションも効かないんじゃないの、これ」

 もう限界に来ているらしく、大きなため息をついている。
 目の前に並ぶ紫色の液体の入った瓶が並んだ光景は、アサーナの愚痴のせいで本当に毒々しく見えてくる。

「ミリナの浄化があれば大丈夫なんでしょうけどね。エレンさんを助けられたんだから」

「かも知れないな。それにしてもそんな強力な毒なら、飛び道具を使う連中が欲しがるだろうな」

「あれ、リリィさん。聞いてたんだ」

 アサーナの愚痴に混じって声が聞こえてきた。入口へと目をやると、そこにリリィの姿があった。

「ちょうど業務に一段落がついたんでな、休憩をしようと思って来たら、アサーナの愚痴が聞こえてきたってわけさ」

「なるほどねぇ」

 ここしばらくの間、宿への来客が減ってきている。そのせいで受付の業務は暇だったようだ。
 減っている原因としては、実は思い当たる節がある。

「まっ、フォスのせいだろうな。瘴気の本から漏れ出る瘴気には気を付けているだろうが、瘴気の禍々しさが伝える雰囲気ってのまでは消しきれてない。その関係で別館へ近づくやつが減ってるんだよ」

 リリィの推測では、瘴気から漏れ出る雰囲気というものが、宿に近寄りがたい空気を作り出していると見ているようだ。
 とはいえ、宿にはミリナの張った結界がある。内から漏れ出ていたとしても影響は小さいはずだ。

「そうかも知れないが、宿に泊まっている間に嫌な雰囲気を感じれば、誰だって敬遠したくなる。冒険者どもの口コミで今は魔境に向かうことを止めてんだろうよ」

「瘴気も分からないことが多いわね」

「だな」

 さっきからアサーナからため息しか出てこなかった。もう苦笑いをするしかない。

「アサーナちゃん、それよりこれはどうするの?」

 テーブルの上にずらりと並ぶ毒物を見て、ミリナが確認してくる。

「こんな危ないもの、他人の手に渡せないわね。当面は収納空間の肥やしだわ」

 アサーナはそう答えて、せっせと収納空間に猛毒ポーションをしまい込んでいた。

「こういう時は気分転換ですよ」

 アサーナたちのところに、セミルがやって来た。どうやら魔物たちの世話を終えてきたようだった。
 なにやら手に持っているようで、入ってくるなりその素材をテーブルの上に並べている。何かと思えば、ホーンラビットの角と、白金の毛の束だった。

「この白っぽい金髪のようなものは?」

「ムーンウルフの毛ですね。ブラッシングをしていたら毛が抜けることがあるじゃないですか。それを集めてきたんです」

 セミルが言うには、ムーンウルフの毛らしい。
 実に珍しい素材ではあるが、アサーナはホーンラビットの角の方も気になっている。なにせ、前に角が取れてからあんまり時間が経っていないからだ。

「ホーンラビットの角って、こんなに早く生えるものかしら」

「さあ、どうなんでしょうか。でも、間違いなくしっかりとした角が生えてましたよ」

「ふーん……」

 アサーナはそう言いながら、早速鑑定にかけている。

【ホーンラビットの角
 爪のように硬質化した額の皮膚の一部
 そのため、折れても比較的早く再生する
 角による頭突きは強力で、その一撃は岩をも貫く】

 思わぬ鑑定結果に驚いてしまう。

「これ、皮膚だったんだ」

「それは驚きだな。冒険者の中にはそいつに大穴を開けられて瀕死になったやつもいるっていうのさ」

「そんなに硬いのね」

 リリィの証言に、なんとも複雑そうな表情で角を眺めるアサーナだった。

「セミルさん」

「なんですか、アサーナさん」

「今度都から人が来るようなことがあれば、これを売るけどいいかしら」

「いいですよ。その代わり、なるべく高く売って下さいね」

 アサーナからの質問に答えながら、セミルは親指と人差し指で丸を作っていた。さすがお金に執着するセミルである。

 アサーナがこんな話を出したのには訳がある。
 それは、先日都に出向いた時に決定した取引の次回の日程が迫ってきているからだ。

「ホーンラビットの角はともかく、このムーンウルフの毛はいい取引材料になるわ。ここはあたしの腕の見せどころね」

「ええ、お願いしますね」

 やる気を見せるアサーナに、セミルは改めて期待をかけているようだった。
 次回の取引に向けて意気込むアサーナ。新しい取引材料を見つけたのはいいものの、ヘルファイアハウンドの毒のうはどう考えても無理だと結論付け、このまま収納空間の肥やしにするしかなかったのだった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

世界のはしっこ、灯りの宿

あめとおと
ファンタジー
世界の端に、地図に載らない小さな宿がある。 そこへ辿り着けるのは、 旅に疲れた人、居場所を失った人、 そして――少しだけ立ち止まりたくなった人だけ。 宿の決まりは三つ。 滞在は三日まで。 名前を名乗らなくてもいい。 出発の日、灯りをひとつ置いていくこと。 宿を守るのは、無口な管理人リノ。 彼女はただ食事を出し、話を聞き、見送るだけ。 救うわけでも、答えを与えるわけでもない。 けれど訪れた人々は、帰る頃にはほんの少し前を向いている。 元勇者の青年。 魔法を怖がる少女。 それぞれの「終わりかけた物語」が、静かに動き出す。 これは、終わりの場所ではない。 また歩き出すための、途中の宿の物語。

本の虫な転生赤ちゃんは血塗りの宰相の義愛娘~本の世界に入れる『ひみちゅのちから』でピンチの帝国を救ったら、冷酷パパに溺愛されてます

青空あかな
ファンタジー
ブラック企業に勤める本の虫でアラサーOLの星花は、突然水に突き落とされた衝撃を感じる。 藻掻くうちに、自分はなぜか赤ちゃんになっていることを理解する。 溺死寸前の彼女を助けたのは、冷徹な手腕により周囲から「血塗りの宰相」と恐れられるアイザック・リヴィエール公爵だった。 その後、熱に浮かされながら見た夢で前世を思い出し、星花は異世界の赤ちゃんに転生したことを自覚する。 目覚めた彼女は周囲の会話から、赤ちゃんの自分を川に落としたのは実の両親だと知って、強いショックを受けた。 前世の両親もいわゆる毒親であり、今世では「親」に愛されたかったと……。 リヴィエール公爵家の屋敷に連れて行かれると、星花にはとても貴重な聖属性の魔力があるとわかった。 アイザックに星花は「ステラ」と名付けられ彼の屋敷で暮らすようになる。 当のアイザックとはほとんど会わない塩対応だが、屋敷の善良な人たちに温かく育てられる。 そんなある日、精霊と冒険する絵本を読んだステラはその世界に入り込み、実際に精霊と冒険した。 ステラには「本の世界に入り込み、その本の知識や内容を実際に体験したように習得できる特別な力」があったのだ。 彼女はその力を使って、隣国との条約締結に関する通訳不在問題や皇帝陛下の病気を治す薬草探索など、様々な問題を解決する。 やがて、アイザックは最初は煩わしかったはずのステラの活躍と愛らしさを目の当たりにし、彼女を「娘として」大切に思うようになる。 これは赤ちゃんに転生した本好きアラサーの社畜OLが、前世の知識と本好きの力を活かして活躍した結果、冷徹な義父から溺愛される話である。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

家族に忘れられていた第五王子は愛され生活を送る

りーさん
ファンタジー
 アズール王国の王宮には、多くの王子や王女が住んでいる蒼星宮という宮がある。  その宮にはとある噂が広まっていた。併設されている図書館に子どもの幽霊が現れると。  そんなある日、図書館に出入りしていた第一王子は子どものような人影を見かける。  その時、父である国王にすら忘れられ、存在を知られていなかった第五王子の才覚が露になっていく。

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

異世界で 友達たくさん できました  ~気づいた時には 人脈チート~

やとり
ファンタジー
 異世界に突然迷い込んだ主人公は、目の前にいた人物に何故かぶぶ漬け(お茶漬け)を勧められる。  そして、自身を神の補佐である天使というその人物(一応美少女)に、異世界について教わることに。  それから始まった異世界での生活は、様々な種族や立場の(個性的な)人に出会ったり、魔界に連れていかれたり、お城に招待されたり……。  そんな中、果たして主人公はどのような異世界生活を送るのだろうか。  異世界に迷い込んだ主人公が、現地の様々な人と交流をしたり、一緒に何かを作ったり、問題をなんとかしようと考えたりするお話です。  山も谷も大きくなく、話の内容も比較的のんびり進行です。 現在は火曜日と土曜日の朝7時半に投稿予定です。 感想等、何かありましたら気軽にコメントいただけますと嬉しいです! ※カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様にも投稿しています

虐げられた前王の子に転生しましたが、マイペースに規格外でいきます!

竜鳴躍
ファンタジー
気が付いたら転生していました。 でも王族なのに、離宮に閉じ込められたまま。学校も行けず、家庭教師もつけてもらえず、世話もされず。社交にも出られず。 何故なら、今の王様は急逝した先代の陛下……僕の父の弟だから。 王様夫婦には王子様がいて、その子が次期王太子として学校も行って、社交もしている。 僕は邪魔なんだよね。分かってる。 先代の王の子を大切に育てたけど、体が弱い出来損ないだからそのまま自分の子が跡を継ぎますってしたいんだよね。 そんなに頑張らなくても僕、王位なんていらないのに~。 だって、いつも誰かに見られていて、自分の好きなことできないんでしょ。 僕は僕の好きなことをやって生きていきたい。 従兄弟の王太子襲名の式典の日に、殺されちゃうことになったから、国を出ることにした僕。 だけど、みんな知らなかったんだ。 僕がいなくなったら困るってこと…。 帰ってきてくれって言われても、今更無理です。 2026.03.30 内容紹介一部修正

転生少年は、魔道具で貧乏領地を発展させたい~アイボウと『ジョウカ魔法』で恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 男(30歳)は、仕事中に命を落とし異世界へ転生する。  捨て子となった男は男爵親子に拾われ、養子として迎えられることになった。  前世で可愛がっていた甥のような兄と、命を救ってくれた父のため、幼い弟は立ち上がる。  魔道具で、僕が領地を発展させる!  これは、家族と領地のために頑張る男(児)の物語。