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第二章『西の都へ』
しまった!
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ルルが唱えたスコールアロー。それはマジックアローの上位魔法で、多数の魔力の矢を雨のように降らせる範囲魔法だ。
今まさに、ルルが発動させた魔法によって、上空は大量の矢で埋め尽くされている。そして、サキ目がけて一気に降り注ぐ。
普通であるならばそれは絶望的な状況だ。だというのに、サキはその魔法の矢を眺めながら笑みを浮かべている。
「笑っているなんて、ずいぶんと余裕ですね」
「まあそうですね。でも、これを待っていたなんて言ったら、どう思いますか?」
「な、何ですって?!」
思いもしないサキの言葉に、ルルは動揺している。迫りくる魔法の矢を前に、いまだにサキは落ち着き払っている。
「大技っていうのは、最後まで取っておくものです。反撃の可能性も考えずに放つのは、愚かだという事を思い知りなさい」
笑みを浮かべていたサキの表情が、一気に引き締まる。それと同時に、魔法の詠唱を始める。
「魔法の障壁よ、その輝きで数多の魔法を跳ね返せ」
サキはばっと両手を横へと勢いよく払う。
「リフレクト!」
その言葉と同時に、周囲に光の障壁が出現する。すると、その障壁に触れた魔法の矢が、急激に向きを変えてルルへと襲い掛かった。
「ちょっと、何よそれ!」
思わぬ事態にルルは大慌てで魔法の詠唱を始める。その姿を見たサキは、どういうわけか笑みを浮かべている。その一方、この戦いを見守るルナルも、その詠唱に反応していた。
「こ、この魔法は……」
「シェルター!」
詠唱を終えたルルが魔法を発動させると、ルルを護るように半球状の魔法の障壁が現れる。跳ね返されたスコールアローの魔法の矢が、その障壁へと勢いよくぶつかっていく。
「うぐぐぐ……」
必死に歯を食いしばるルル。そのかいあってか、どうやらすべての魔法の矢を防ぐ事ができたようだった。
「はあはあ……。驚きましたよ。まさか、魔法を跳ね返してくるなんて……」
魔法をなんとか防ぎ切ったルル。しかし、安堵したのも束の間の話だった。
ジャキン……。
ルルの首筋に剣が添えられたのだ。
「えっ?」
「おっと、動かない方がいいよ」
そう、それは智将の剣だった。サキによって魔法が跳ね返された事で、ルルの意識は完全にそっちに向いてしまい、智将の接近に気が付けなかったのである。
「さて、君は一体何者なのかな?」
「な、何の事ですか?」
ルルは首筋に剣を当てられ、青ざめながらもとぼけている。だが、智将はそれを無視して言葉を続ける。
「君が人間であるというのならば、魔法を防ぐには『マジックバリア』か『レジスト』を使うはずだ。しかし、君が使ったのは『シェルター』だ。その魔法は、その前にサキが使った『シェル』の上位魔法。つまり、魔族の魔法という事になるんだよ」
「……!」
ルルは驚きの表情をするが、喋るわけにはいかないと黙っている。
「魔族の魔法を使いながらも、その魔族があまり使う事のない『マジックアロー』や『スコールアロー』を使っていた。両方の魔法を難なく使う君は、本当に人間の子どもなのかな?」
智将がルルを問い詰める。その様子を、セインは理解できないとばかりに首を傾げながら見つめ、ルナルはルルたちの様子を凝視している。
ところが、肝心のルルはいまだに黙り込んだままである。
「あまり子ども相手に手荒な真似はしたくないんだがね。答えてもらうと助かるんだが」
智将が首を傾げながらルルに話し掛けると、ルルはついに観念したようにため息を吐いた。
「……参ったなぁ。だますつもりはなかったんですけれど。……いつから疑いを向けてましたか?」
「その杖を見たのが一番最初だね。最終的に確信したのは、さっきの君の対応を見た時のサキの反応だったよ」
ルルの質問に答えながら、智将は剣を引いて鞘に収める。すると、ようやくルルは安心したように首を横に振った。
「ちぇ……。魔力は人間に寄せてたはずなんですけれどね。やっぱり私は未熟かあ……」
「ルルちゃん、あなたは一体……」
ルルの態度を見て、ルナルが問い掛ける。
「ルナル様にはうまくごまかせてたのにな。悔しいな」
ルルは胸の前で杖を抱えて直立する。
「お姉ちゃんから言われてたのになぁ……。ごめんなさい、ルナル様」
ルルは深く頭を下げる。
「ルルちゃん、お姉ちゃんって一体誰なのですか?」
「ルナル様は一度お会いしているはずですよ。つい最近にね」
質問に返ってきたルルの答えを聞いて、ルナルはしばらく考え込む。そして、
「ま、まさか……」
何か思い当たったかのように驚愕の表情を浮かべる。それを見たルルはニコッと笑う。
「そのまさかですよ」
ルルは杖を持ったまま腕を前に伸ばして魔法の詠唱を始める。
「いにしえの記憶よ。我が魔力を介し、ここにその姿を現せ! ヴィジョン!」
そして、ルルが高く杖を掲げると、そこを中心として大きな木の姿が映し出された。
ルルが使った魔法の事は分からないが、ルナルはその木の姿を知っているようで、目を見開いて言葉を失っていた。
「私は人間でも魔族でもありません。そして、この樹こそ、私の本当のお母さん。私はユグドラシルより生まれた精霊なんです!」
ルルは自分の正体を大々的に告白したのだった。
今まさに、ルルが発動させた魔法によって、上空は大量の矢で埋め尽くされている。そして、サキ目がけて一気に降り注ぐ。
普通であるならばそれは絶望的な状況だ。だというのに、サキはその魔法の矢を眺めながら笑みを浮かべている。
「笑っているなんて、ずいぶんと余裕ですね」
「まあそうですね。でも、これを待っていたなんて言ったら、どう思いますか?」
「な、何ですって?!」
思いもしないサキの言葉に、ルルは動揺している。迫りくる魔法の矢を前に、いまだにサキは落ち着き払っている。
「大技っていうのは、最後まで取っておくものです。反撃の可能性も考えずに放つのは、愚かだという事を思い知りなさい」
笑みを浮かべていたサキの表情が、一気に引き締まる。それと同時に、魔法の詠唱を始める。
「魔法の障壁よ、その輝きで数多の魔法を跳ね返せ」
サキはばっと両手を横へと勢いよく払う。
「リフレクト!」
その言葉と同時に、周囲に光の障壁が出現する。すると、その障壁に触れた魔法の矢が、急激に向きを変えてルルへと襲い掛かった。
「ちょっと、何よそれ!」
思わぬ事態にルルは大慌てで魔法の詠唱を始める。その姿を見たサキは、どういうわけか笑みを浮かべている。その一方、この戦いを見守るルナルも、その詠唱に反応していた。
「こ、この魔法は……」
「シェルター!」
詠唱を終えたルルが魔法を発動させると、ルルを護るように半球状の魔法の障壁が現れる。跳ね返されたスコールアローの魔法の矢が、その障壁へと勢いよくぶつかっていく。
「うぐぐぐ……」
必死に歯を食いしばるルル。そのかいあってか、どうやらすべての魔法の矢を防ぐ事ができたようだった。
「はあはあ……。驚きましたよ。まさか、魔法を跳ね返してくるなんて……」
魔法をなんとか防ぎ切ったルル。しかし、安堵したのも束の間の話だった。
ジャキン……。
ルルの首筋に剣が添えられたのだ。
「えっ?」
「おっと、動かない方がいいよ」
そう、それは智将の剣だった。サキによって魔法が跳ね返された事で、ルルの意識は完全にそっちに向いてしまい、智将の接近に気が付けなかったのである。
「さて、君は一体何者なのかな?」
「な、何の事ですか?」
ルルは首筋に剣を当てられ、青ざめながらもとぼけている。だが、智将はそれを無視して言葉を続ける。
「君が人間であるというのならば、魔法を防ぐには『マジックバリア』か『レジスト』を使うはずだ。しかし、君が使ったのは『シェルター』だ。その魔法は、その前にサキが使った『シェル』の上位魔法。つまり、魔族の魔法という事になるんだよ」
「……!」
ルルは驚きの表情をするが、喋るわけにはいかないと黙っている。
「魔族の魔法を使いながらも、その魔族があまり使う事のない『マジックアロー』や『スコールアロー』を使っていた。両方の魔法を難なく使う君は、本当に人間の子どもなのかな?」
智将がルルを問い詰める。その様子を、セインは理解できないとばかりに首を傾げながら見つめ、ルナルはルルたちの様子を凝視している。
ところが、肝心のルルはいまだに黙り込んだままである。
「あまり子ども相手に手荒な真似はしたくないんだがね。答えてもらうと助かるんだが」
智将が首を傾げながらルルに話し掛けると、ルルはついに観念したようにため息を吐いた。
「……参ったなぁ。だますつもりはなかったんですけれど。……いつから疑いを向けてましたか?」
「その杖を見たのが一番最初だね。最終的に確信したのは、さっきの君の対応を見た時のサキの反応だったよ」
ルルの質問に答えながら、智将は剣を引いて鞘に収める。すると、ようやくルルは安心したように首を横に振った。
「ちぇ……。魔力は人間に寄せてたはずなんですけれどね。やっぱり私は未熟かあ……」
「ルルちゃん、あなたは一体……」
ルルの態度を見て、ルナルが問い掛ける。
「ルナル様にはうまくごまかせてたのにな。悔しいな」
ルルは胸の前で杖を抱えて直立する。
「お姉ちゃんから言われてたのになぁ……。ごめんなさい、ルナル様」
ルルは深く頭を下げる。
「ルルちゃん、お姉ちゃんって一体誰なのですか?」
「ルナル様は一度お会いしているはずですよ。つい最近にね」
質問に返ってきたルルの答えを聞いて、ルナルはしばらく考え込む。そして、
「ま、まさか……」
何か思い当たったかのように驚愕の表情を浮かべる。それを見たルルはニコッと笑う。
「そのまさかですよ」
ルルは杖を持ったまま腕を前に伸ばして魔法の詠唱を始める。
「いにしえの記憶よ。我が魔力を介し、ここにその姿を現せ! ヴィジョン!」
そして、ルルが高く杖を掲げると、そこを中心として大きな木の姿が映し出された。
ルルが使った魔法の事は分からないが、ルナルはその木の姿を知っているようで、目を見開いて言葉を失っていた。
「私は人間でも魔族でもありません。そして、この樹こそ、私の本当のお母さん。私はユグドラシルより生まれた精霊なんです!」
ルルは自分の正体を大々的に告白したのだった。
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