神槍のルナル

未羊

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第三章『それぞれの道』

ゼロではない

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 少しでも魔王に関する情報が欲しい首脳陣は、会議に召集された2つのハンターギルドに一抹の望みをかける。
 一斉に期待の視線を向けられたハンターギルドのマスターたちは、その中でも戸惑う事も慌てる事もなく、どっしりと落ち着いている。そんな中、マスターが頭を掻きながら口を開いた。
「やれやれ、期待をしているところを悪いんだが、俺たちハンターギルドってのは基本的に依頼をこなすだけだ。で、やって来る依頼ってのは討伐系ばかりだから、魔族と会っても速攻ぶっ倒して終わりなんだ。手掛かりなんてのがあると思うか?」
「まったくな。こちらとてアルファガドと基本的に同じだな。ハンターはもちろん、依頼先の生活だってかかっている以上、淡々と依頼をこなすだけだ。敵に情けなどかけている余裕などない。話なんて聞いていられるわけがない」
 全員が期待したハンターギルドからも、手掛かりはないという回答が返されてしまう。これを聞いた会場の首脳陣たちからは、より強い落胆の声が漏れたのだった。
「ぬぅ……、宣告の期限まであと3か月だというのに、まったくの手掛かりなしとは……。このままでは、世界は魔王に滅ぼされてしまう」
 イプセルタ王も頭を抱えて、怯えるように震えていた。
 会場の中の手詰まり感といったら半端ないもので、もう破れかぶれのように「こちらから打って出るべき」などという声が上がるくらいだった。
 不安と焦りから険悪なムードに包まれる会場内。そんな中でもハンターギルドの面々はとても静かだった。
 そんな中、突如オメガフォースのギルドマスターがマスターに険しい表情をしながら突っ掛かってきた。
「おい、アルファガド。さっきからえらく余裕こいた表情をしてるな。本当は何か知ってるんじゃないのか?」
 大声というか怒鳴り声だったがために、会場の視線が一気にマスターへと向く。
「おいおい、一体何の疑いをかけようって言うんだ?」
 さすがに急にそんな事を言われては、マスターとはいえども少し不機嫌な顔になる。
「ついさっき、ギルドから急な連絡が入ってきただけだ。ちょいと特殊な連絡方法を使ってな」
「なんなんだ、その特殊な連絡方法ってのは」
「そいつは秘密だ。連絡の内容くらいは話してやるから、まあ落ち着け」
 オメガフォースのギルドマスターが噛みついてくる中でも、マスターは落ち着き払っている。
「実は、うちのギルドで魔族の子どもを保護したらしい。ふらついていたところを警備兵に捕まって、連絡を受けたうちのギルドの者が引き取りに行ったらしい」
 マスターの報告に、会場内が一気にどよめく。
「保護した理由としては、その魔族が幼い事、傷の程度が深い事、何より何かに怯えている様子を見せていた事だな。訳ありっぽいらしいんで、ギルドで経過を見る事にしたそうだ。討伐対象にもなってない幼子だ。さすがにうちは血も涙もないようなギルドじゃないんでね」
 マスターの説明が終わると、「演技か?」とか「魔族相手で大丈夫か?」とか、疑問視するような声が聞こえてくる。ところが、マスターは大丈夫だときっぱりと言い切っていた。普段のギルドを切り盛りしているナタリーとルナルのメイドをしているミーアの二人が居るからだろう。ミーアはともかくとして、ナタリーもマスターにはかなり信頼されている人物のようだ。
「まあそれはともかくとして、その魔族の子ってのは何かに怯え続けている状態だから、話を聞くには時間が掛かるらしい。何か分かったら連絡するようには言ってあるんで、しばらくは待っていてもらいたいな」
 マスターはこう締めくくるが、結局新しい情報というものはなかったようだ。
 話を終えたマスターをルナルが「そんな情報知りませんよ」といった感じに睨みつけている。だが、マスターはそれに対してにかっと笑ってごまかしていた。

 ここまで魔族との因縁も深い国やギルドから話を聞いたというのに、目ぼしい情報はなしだった。だが、会議ではそれ以外の国からも聞き取りを行う。
 ところが、当然の結果とでもいわんばかりに、他の国からはこれといった情報は出てこなかった。どこも魔界からは距離のある国なので、ある程度覚悟はしていたもののその通りの結果に終わってしまったのだ。
 諦めムードの漂う会場だったが、ミムニアだけは違っていた。
 報告の順番の最後として登場したのはミムニアのサイキスである。サイキスはにやっと笑うと、話し始める。
「諸君に告げる。実は我が国では、秘密裏に魔界の調査を行っている。数年にわたるその調査の結果はじきにまとめられ、それを元に魔族の討伐に打って出るつもりである」
 このサイキスの発言には、会場内が驚きをもって騒がしくなる。
「肝心の魔王城の位置の特定には至らないだろうが、戦略上重要な地形や勢力図のようなものは把握できるだろう」
 サイキスの発言に驚く会場。だが、そんな会場の空気などお構いなしに、サイキスは勝ち誇ったように上から目線を会場に向けてこう言い放つ。
「魔王の討伐は我が国に任せ、みなさんは大船に乗ったつもりでお待ち頂きたいものですな。わっはっはっはっ!」
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