神槍のルナル

未羊

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第四章『運命のいたずら』

加速する運命の輪

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 人間界と魔界との境界付近の魔物による騒動が落ち着き始めた頃、ルナルは単身プサイラ砂漠を北上していた。
 セインとルルも、魔王城に戻るルナルに同行しようとしていたのだが、これは自分の問題だとしてそれを断ったのである。自分の問題にみんなをこれ以上巻き込むわけにはいかない、そう考えたルナルの決意の現れであった。
 プサイラ砂漠を北上するルナルの表情は、実に険しいものだった。
 道中、魔物に襲われる事もあったのだが、そこは魔王でありトップクラスのハンターでもあるルナルである。落ち着いて魔物たちを倒していったのである。
 普段のやんわりとした行動は鳴りを潜め、それは冷淡なものだった。

 ルナルと別行動をする事になったセインとルルは、ようやくシグムスでの用事が終わり、ペンタホーンに乗ってベティスの街に戻ってきていた。ルナルから二人を頼まれたミレルも同行している。
「まったく、がきんちょの服のせいで時間がかかったじゃねえか」
「仕方ないじゃないですか。あれは大切な服なんですよ。ちゃんと直してもらわないと困ります。文句はフレインさんに言って下さい!」
 戻って来るなり口げんかをしている二人。二人に同行したミレルは、口げんかを呆れて見ている。
 そこへマスターが現れて三人を出迎えた。
「おお、セインとルルじゃねえか。……やっぱりルナルは居ないか」
「やっぱりってなんなんだよ」
「いや、こっちの話だ。気にするな」
 マスターとのやり取りではぐらかされたセインは、訝しんでマスターを見ている。
 そこへアカーシャとソルトがやって来た。
「セインくん、ルナル様はどうされたのだ?」
 アカーシャがルナルの姿が見えない事に疑問を抱いた。
「ああ、ルナルだったら一人で魔王城に向かったよ。俺たちもついて行こうとしたんだが、頑なに一人で行くと言って譲らなかったよ」
「ふっ、ルナルらしいな」
 セインの説明を聞いて、マスターは笑っていた。
「まあ、詳しい話は中で聞こうじゃないか」
「賛成です。もう砂漠は行きたくありません。暑さのせいでくたくたですもんー……」
 ルルが愚痴をこぼすと、マスターたちは笑いながら建物の中へと入っていった。

「お帰りなさいませにゃー!」
 中に入ると、元気いっぱいのミーアの声が響き渡る。
「ミーア、ちゃんといい子にしてましたか?」
「うん? ミーアはいい子にしてましたよー?」
 ミレルが確認するように問い掛けると、ミーアは目を丸くしながらこてんと首を傾げていた。その様子を見たミレルはため息を漏らしていた。
「なんでここにミーアが居る」
「居なくなったとは聞いてましたが、まさかここに居るだなんて。それとミレルも」
「申し訳ございません、アカーシャ様、ソルト様。急に居なくなった事はお詫び申し上げます。ですが、ルナル様からの命令ゆえでしたので、どうかご容赦下さいませ。ミーアは……いつものわがままでございます」
「ミーアはわがままじゃないですよーっ!」
 アカーシャとソルトに弁明するミレル。
「あなたは黙っていなさい、ミーア!」
「うぐぅ!」
 ミーアのあまりの態度に、ミレルはつい声を荒げて叱ってしまった。この光景を見て、アカーシャとソルトは顔を見合わせて笑っていた。
 そこへ、ナターシャが入ってくる。
「おやおや、みんなお帰り。無事だったんだね」
「おう、ナターシャ。留守番ご苦労だったな。俺たちが簡単にやられるわけないだろう?」
「そういやそうだね」
 マスターの切り返しにナターシャは笑っている。
「そういや、セインたちはなんであんなに辛気臭い顔をしてるんだい?」
 セインたちは普通に振る舞っているようだが、さすがにナターシャには見抜かれたようである。
「ああ、ルナルが別行動になっちまったからな。それは仕方ない事だから、とりあえずいいとして……。会議の頃に保護したっていう少女を見せてくれないか?」
「その子だったら客間で寝てるさ。まだ寝てるから、今はそっとしといてやんな」
「そうか、分かった」
「まったく、いろいろあったせいで、ミーアちゃんが居なかったら大変だったよ」
 簡単に話を聞いた限りでは、どうやらその少女はしばらくは怯えて暴れたらしい。それを猫人であるミーアが宥める事で何とか落ち着けたらしい。とはいえ、警戒をしているのか、ほとんど喋る事がないらしく、まだまだ様子見の状態なのだそうだ。
「……事情は分かった。とりあえず報告し合う事が多いから会議だな。腹ごしらえをしたいから、ナターシャ、ミーア、料理を頼んだぞ」
「あいよ」
「お任せにゃー!」
 ナターシャとミーアの二人で早速料理に取り掛かる。ミレルも手伝おうとしていたが、さすがにシグムス側での情報を持ちすぎていたがために却下された。仕方ないので魔法で簡単に身ぎれいにすると、そのまま会議に参加したのだった。
 その会議の席で行われた報告は、とにかく情報量が多すぎた。その中から、アカーシャとソルトはわずかな共通点を見出していた。
「……なるほど、情報を突き合わせると、ディランがルナル様に対して反逆するというわけですか」
「くそっ、ディランの奴。すぐさま戻って剣の錆にしてやりたいくらいだ」
 ソルトは冷静だったが、アカーシャはかなり怒り心頭のようだ。
「まあ、ミムニアの進軍を把握した上で、待ち伏せをしていたくらいだからな。表に出さないようにして、綿密に計画を練ってたんだろうな」
 マスターは落ち着いて話をしてる。
「それだったら、無理やりにでも俺たちもついて行くべきだったな」
「まったくですよ。ルナル様の身が危ないじゃないですか」
 セインとルルは冷静さを失っていた。
「二人とも落ち着け。相手はアカーシャのすぐ下に居る魔族だ。お前たちが行ったところで相手になりゃしない。いくら破邪の剣があるからといっても、そもそもの力量が違い過ぎる」
「くっ……」
 マスターの諭されて、セインは黙るしかなかった。
「とりあえず、俺に任せておいてくれ。ディランの次の行動は大体見当がついているからな」
「ぐぬぬぬぬ……。マスターがそう仰るのでしたら、……従います」
 アカーシャは必死に怒りを抑えて、マスターの方針に従った。
 それぞれに思うところはあるのだが、とりあえずは腹ごしらえをする面々なのであった。
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