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第一部 スライム姉妹、登場
番外編2 眷属、ショークアに行く2
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翌日、明るくなると隊商はガタゴトと馬車でショークア王国へ向けて移動を始める。人数も荷物も多いので、馬車の数は多い。
隊商の目的としては、ショークアでこれらの商品を売り捌き、ショークアの特産を購入して戻る事である。国王の誕生祭の日程も迫っている事もあって、購入品目には高額な物もたくさんある。今回の訪問は責任重大であった。
だが、ミミックスライムのキャンディとガムには、そんな事などどうでもよかった。とにかく今は、同行している隊商の様子を観察する事に集中している。ゼリアにあれだけ言われたので、忠実に実行しようとしているのである。
「おっ、人間観察かい。君らは初めてだもんな。他人を知るというのは、重要な事だぞ」
同じ馬車に乗るグースが話し掛けてきた。うん、うざい。
「露骨に嫌な顔をするなよな。さすがに傷つくぞ」
二人の対応にグースは困った顔をする。だが、二人の対応は変わらなかった。膨れっ面でそっぽを向く二人の姿は可愛いと言えば可愛いのだが、さすがに面と向かって直にやられると傷つくものである。
「本当にひどいな、君たちは。だが、俺も君たちを任された以上はそれをきちんとやり遂げないといけないんでな」
グースはこう言いながら、懐から何やら紙を取り出してきた。それはビボーナ王国王都とショークア王国王都とを結ぶ街道の地図だった。グースはそれを二人に見せながら話をする。
「今はまだこの辺りだ。一日しか経ってないから王都からはあまり離れていない。4日目に国境を超える事になる。その時は、君たちはできるだけおとなしくしておいてくれ」
キャンディとガムを見ながら、グースは真剣に話し掛けた。
「なぜ?」
ガムが無表情で首を傾げている。
「国境警備っていうのは国を守る重要な立ち位置にある。そこでの印象は俺たちの今後の評価を決める事になるんだ。悪い印象を刻めば、今後入国を拒否される事だってあり得るんだ」
キャンディとガムは、まだ人間たちの常識に疎い。それがゆえに自分が思ったままの行動を取ってしまうのだ。それによって相手がどう思うのかも理解できないままにである。つまり、この二人の行動が不用意な軋轢を生む可能性があるのだ。だからこそ、おとなしくしていてくれという発言につながるわけなのだ。
「分かった」
「なら、隠れていればいい?」
無表情に反応を示す二人。
「そうだな、見つからなければ一番いいだろう。相手とて面倒は起こしたくないだろうが、立場上不審に思えば突いてくる可能性があるからな」
「うん、分かった。困らせるのは良くない」
相変わらずの無表情で、淡々と喋るキャンディとガムである。グースは本当に大丈夫なのかと困り顔をして頭をかいた。
キャンディとガムは、商業に関する知識だけは事前に叩き込まれていた。だが、やはり魔物という事で、どうしても人間たちの常識が酷く欠落しているのだ。こればかりはすぐにどうこうなるものでもなかった。根気強く教え込んでいくしかないのである。
(やれやれ、アレス様やカレン様から念押しされていたが、どうにもこいつぁ手強いね)
どうやらグースは、王子とゼリアから二人の事をお願いされていたようだ。だからこそ、グースは二人にやたら構っていたのだった。当の二人からは鬱陶しがられているわけなのだが、グースはへこたれなかった。
そうしているうちに、2日目の宿泊地に着いた。ここには街があるので、宿を取っての宿泊になる。ここで食糧の補給などを行うのだ。
その宿泊の時の交渉を、キャンディとガムはじっと見ていた。仮にも商人のところに潜り込むのだから、こういう交渉の現場を見ておく必要があるのだ。グースがそう諭しておくと、二人は静かに頷いて遠巻きのその様子をずっと見ていた。無表情なのは相変わらずだが、真剣だったのでグースは特に何も言わなかった。
(本当に不思議な子どもだな。世間を知らなさすぎるあたりは本当に子どもだが、その落ち着き方は子どもとは明らかに異なる。アレス様たちは語られなかったが、この子たちはもしかしたら……)
グースはここまで思いながらも、
(いやいや、王族がそんなわけないな。うん、あり得ない。俺の思い違いだ)
と首を振って否定した。
その夜、隊商の馬車に近付く怪しい姿があった。
「へっへっへ、こんだけありゃあ、遊んで暮らせますな」
「さっさとやっちまいましょう、兄貴」
「おう、野郎ども、とっとと持って帰るぞ」
「へいっ」
どうやら賊のようである。街の中に住民を装って潜入していたようだ。その賊どもが馬車に近付いた瞬間、その賊どもを何かが包み込んだ。
「な、なん……もごぉっ?!」
10人は居ただろう賊が、一瞬で全員動けなくなった。
「……本当、魔物より臭い連中……」
「ゼリア様の命令、絶対。隊商の荷は死守する」
馬車の上には2つの影が座っていた。
「食べても腹を壊しそう」
「うん、こいつらは人間に任せる」
キャンディとガムの二人は、ゼリアから教えてもらった魔法で賊たちを拘束した。首から下を土でガチガチに固めたのである。
「ん、これで安心」
「睡眠要らないけど、今は人間。眠らなきゃいけない」
二人は土で固めた賊に振り返る事なく、宿の中へと姿を消した。
翌朝、この賊たちを発見した隊商や宿の人が驚いていたが、無事に街の衛兵へと引き渡されたのだった。
隊商の目的としては、ショークアでこれらの商品を売り捌き、ショークアの特産を購入して戻る事である。国王の誕生祭の日程も迫っている事もあって、購入品目には高額な物もたくさんある。今回の訪問は責任重大であった。
だが、ミミックスライムのキャンディとガムには、そんな事などどうでもよかった。とにかく今は、同行している隊商の様子を観察する事に集中している。ゼリアにあれだけ言われたので、忠実に実行しようとしているのである。
「おっ、人間観察かい。君らは初めてだもんな。他人を知るというのは、重要な事だぞ」
同じ馬車に乗るグースが話し掛けてきた。うん、うざい。
「露骨に嫌な顔をするなよな。さすがに傷つくぞ」
二人の対応にグースは困った顔をする。だが、二人の対応は変わらなかった。膨れっ面でそっぽを向く二人の姿は可愛いと言えば可愛いのだが、さすがに面と向かって直にやられると傷つくものである。
「本当にひどいな、君たちは。だが、俺も君たちを任された以上はそれをきちんとやり遂げないといけないんでな」
グースはこう言いながら、懐から何やら紙を取り出してきた。それはビボーナ王国王都とショークア王国王都とを結ぶ街道の地図だった。グースはそれを二人に見せながら話をする。
「今はまだこの辺りだ。一日しか経ってないから王都からはあまり離れていない。4日目に国境を超える事になる。その時は、君たちはできるだけおとなしくしておいてくれ」
キャンディとガムを見ながら、グースは真剣に話し掛けた。
「なぜ?」
ガムが無表情で首を傾げている。
「国境警備っていうのは国を守る重要な立ち位置にある。そこでの印象は俺たちの今後の評価を決める事になるんだ。悪い印象を刻めば、今後入国を拒否される事だってあり得るんだ」
キャンディとガムは、まだ人間たちの常識に疎い。それがゆえに自分が思ったままの行動を取ってしまうのだ。それによって相手がどう思うのかも理解できないままにである。つまり、この二人の行動が不用意な軋轢を生む可能性があるのだ。だからこそ、おとなしくしていてくれという発言につながるわけなのだ。
「分かった」
「なら、隠れていればいい?」
無表情に反応を示す二人。
「そうだな、見つからなければ一番いいだろう。相手とて面倒は起こしたくないだろうが、立場上不審に思えば突いてくる可能性があるからな」
「うん、分かった。困らせるのは良くない」
相変わらずの無表情で、淡々と喋るキャンディとガムである。グースは本当に大丈夫なのかと困り顔をして頭をかいた。
キャンディとガムは、商業に関する知識だけは事前に叩き込まれていた。だが、やはり魔物という事で、どうしても人間たちの常識が酷く欠落しているのだ。こればかりはすぐにどうこうなるものでもなかった。根気強く教え込んでいくしかないのである。
(やれやれ、アレス様やカレン様から念押しされていたが、どうにもこいつぁ手強いね)
どうやらグースは、王子とゼリアから二人の事をお願いされていたようだ。だからこそ、グースは二人にやたら構っていたのだった。当の二人からは鬱陶しがられているわけなのだが、グースはへこたれなかった。
そうしているうちに、2日目の宿泊地に着いた。ここには街があるので、宿を取っての宿泊になる。ここで食糧の補給などを行うのだ。
その宿泊の時の交渉を、キャンディとガムはじっと見ていた。仮にも商人のところに潜り込むのだから、こういう交渉の現場を見ておく必要があるのだ。グースがそう諭しておくと、二人は静かに頷いて遠巻きのその様子をずっと見ていた。無表情なのは相変わらずだが、真剣だったのでグースは特に何も言わなかった。
(本当に不思議な子どもだな。世間を知らなさすぎるあたりは本当に子どもだが、その落ち着き方は子どもとは明らかに異なる。アレス様たちは語られなかったが、この子たちはもしかしたら……)
グースはここまで思いながらも、
(いやいや、王族がそんなわけないな。うん、あり得ない。俺の思い違いだ)
と首を振って否定した。
その夜、隊商の馬車に近付く怪しい姿があった。
「へっへっへ、こんだけありゃあ、遊んで暮らせますな」
「さっさとやっちまいましょう、兄貴」
「おう、野郎ども、とっとと持って帰るぞ」
「へいっ」
どうやら賊のようである。街の中に住民を装って潜入していたようだ。その賊どもが馬車に近付いた瞬間、その賊どもを何かが包み込んだ。
「な、なん……もごぉっ?!」
10人は居ただろう賊が、一瞬で全員動けなくなった。
「……本当、魔物より臭い連中……」
「ゼリア様の命令、絶対。隊商の荷は死守する」
馬車の上には2つの影が座っていた。
「食べても腹を壊しそう」
「うん、こいつらは人間に任せる」
キャンディとガムの二人は、ゼリアから教えてもらった魔法で賊たちを拘束した。首から下を土でガチガチに固めたのである。
「ん、これで安心」
「睡眠要らないけど、今は人間。眠らなきゃいけない」
二人は土で固めた賊に振り返る事なく、宿の中へと姿を消した。
翌朝、この賊たちを発見した隊商や宿の人が驚いていたが、無事に街の衛兵へと引き渡されたのだった。
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