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第46話 白黒同舟
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夜を迎えようとする夕日の落ちる間際。
ちょっと話題のスイーツショップ。その店の前で出会ったのは四人の男女。
奇遇なことに、顔見知りの二人と二人。
だけども、向けられる感情は大きく違うもので……。
「お前は、月華!?」
「おや? 誰かと思ったら銀平じゃないか。もしかして、そちらのお兄さんと知り合い? もしや、デートでもしていたのかな?」
顔を合わせる二人の少女。
ライトオーガとダークオーガ。
月華と銀平。
そう、二人は幼なじみなんだ。
「そんな事はお前に関係無ぇだろ!」
「なるほど確かに。ただ、そちらのお兄さんがスーラ君の探していたアルフェンさんで間違いないかな?」
「確かにアルフェンは私だが……。そちらは?」
「これは失礼を。先に名乗るのが模範的淑女の嗜みでしたね。私の名前は武威垣月華、気安く月華とでもお呼び頂きたい。こちらのスーラ君とは数時間ばかりの清いお付き合いをさせて頂いておりますもので」
「な、なななっ! 何言ってんだお前!!?」
それを聞いて顔を真っ赤にするのは、銀平。
初な彼女はその台詞一つで過大な妄想を膨らませてしまう。
初めてのデート? を得ても彼女の拙さばかりは、簡単に取れるものじゃないんだね。
「こちらの月華さんにアルフェンさん達を探して貰っていたんです。探しましたよ」
「そうか……。連れの者が世話になったな月華とやら。改めて自己紹介をさせて貰う、アルフェンだ。よろしく」
「いえいえ、困っている幼気な少年を助け導くのも淑女の努め、礼を謂《い》われる事ではありません」
お互いに自己紹介をする二人は差し手を出し合い、握手を交わした
アルフェンと月華とでは五十センチ程の身長差があるけれど、アルフェンには彼女に負けない程の大人びた落ち着きがある。
そんな二人を見て、面白くないのが銀平だ。
彼女は因縁のある月華とつい先程までデート? をしていたアルフェンが仲良くなるかもしれないこの展開が気に入らない。
文句の一つも付けようと月華に声を掛けようとした時である。
「あの~、もしかして以前、ぼくに声を掛けてくれた人ですか?」
銀平に話し掛ける少年が一人、スーラだ。
その姿を改めて認めた銀平は、
「……ッ!」
思わず息を飲む。
彼は、銀平がナンパ、と呼べるかもわからない声掛けに失敗した美少年だ。
あの時の気恥ずかしさが蘇って、なんと声を出したらいいのか詰まってしまった。
「あの、どうかしましたか?」
「い、いや、なんでもねぇ。アンタ、あの女に何かされなかったか?」
「? いいえ。何かって一体?」
「そ、そうか。なら良いんだけどよぉ……」
(あのアマとまさかこの子がお知り合いになっていたなんて……)
銀平は自分の知らないところで、月華がスーラに良からぬ事をしていないか心配してしまう。
何故なら月華という少女は、その美貌と口の上手さを活かして男、それも年下の少年を落とし込むことに長けた男たらしだから。
銀平自身、初恋の男の子を取られた過去があって月華の事を目の敵にして生きてきたわけなんだ。
「おいおい、何をしているんだい君は。スーラ君が怯えているじゃないか」
「勝手言ってんじゃねぇ! オレがいつ怖がらせたっていうんだよ!!」
「そうやってすぐ怒鳴り散らすのは君の良くないところだよ銀平。まるで淑女の品性を感じない。アルフェンさん、彼女が何か粗相をしでかしてはいませんでしたか? 彼女もそれなりの年齢なのにまるで男性との付き合いを心掛けておりませんので」
「ちょ、ちょっと待てよ月華!? お前はまたそういう余計なことを……」
「心配は無用だ。今日出会ったばかりだが、何も問題など起きてはいない。……そうか、銀平というのか。ならば改めて名乗ろう、アルフェンだ。今日は世話になったな」
「え、あ、おう……こっちこそ」
そう言うと、銀平の顔が高揚で赤い色が差し始める。
今日出会って、結局名前も知らずに別れるはずだったデート? 相手の素性を少しでも知る事が出来て純粋に嬉しかったんだ。その上、一目奪われた少年の名も知ることが出来た。
……それが、よりにもよって月華のおかげというのが彼女的には気に入らないところだけれども。
でも、きっと銀平だけじゃなんの進展も無かっただろうから、そこは感謝してもいいんじゃないかな? 無理か。素直になんてなれる子じゃないからね。
ただこれを逃してはならないとは考えてるわけで。
さらにアルフェンの事を知りたいと思い、訪ねようとした。
「あの……」
「そう言えばスーラ、お前だけか? ユール―達はどうした?」
訪ねようとしたけども、残念かな、当の本人に遮られてしまった。
「ユールーちゃん達、やっぱり一緒じゃなかったんですね。お兄さんの貴方となら一緒にいると思ったんですが……」
「いや、あれから会っていないな。だがどうせ、こちらの位置はわかっているはずだ。その為にもこれを付けているのだからな」
アルフェンは、左手に付けていた腕時計に目を落とす。
実は、この時計にはGPS機能もついているんだって。
「ははは……。ぼくはそれを付けてても道に迷ってしまいました。恥ずかしい話です」
「仕方ない。初めての土地では誰だってそうなるものだろう」
何の話をしているか、それなりに話が見えてきたのは月華。
そもそも彼女は、スーラの友達探しに協力していたから元々自体を把握していた。
出会った場所から近い場所に一人いるとわかっていたけれど、道に迷ってたどり着けなくなっていたんだ。
その道中に四人でこの街に来ていて、夜も近づいてきたので探していたのだと聞いていた。
ただ、あの腕時計にそんな機能があった事は知らなかった。
何故、近場にお友達がいるのかわかっていたのか、これで合点がいく。
そしてこの状況を利用しない手も無いのだ。
「どうだろう、探し人が見つかるまで私も同伴させてはくれないだろうか? この街の住人として、せっかう観光に訪れた方が困っているのを見過ごすなど、心苦しい。スーラ君、よろしいかな?」
「え、あの……」
「せっかくの申し出だが、もう夜になる。学生の身だろう? 後はこちらで対処する。そこの銀平とは顔見知りらしいが、一緒に帰ったらどうだ?」
スーラの返事を遮り、アルフェンが代わりに答えた。
ただ、彼の言い分ももっともで、学生の身なりをした彼女達を夜分に付き合わせるわけにもいかない。その言葉には善意しかないのだから、月華としても食い下がろうか迷いが出てしまったね。
だが、ここで思わぬところから声が上がった。そう、先ほどまで照れていた銀平がやっと再起動したんだ。
「ちょっと待ってくれ! こいつとは単なる腐れ縁だぜアルフェンさん。何でこんなヤツと一緒に帰らなきゃならないんだ!」
それはこちらとしても同じ事、そう思った月華だったけど、この反発を利用して食い下がる事に決定した。
「失礼な奴だな君は。だが、君と一緒に帰る気もこちらには無いし、それに、やはり土地勘のある人間と一緒にいた方が探し人もスムーズに見つかるというもの。どうだろうか?」
「一理ある、が、遅い時間に連れ歩くのは家族が心配するはずだ」
「それなら問題ないさ。両親は仕事で明日まで戻らない。銀平については知らないが、私は構わないはずだ。……というわけで銀平、君は帰るといい。明日学校で事の顛末くらいは話して上げるからさ」
「冗談じゃねえ! オレもアンタ達について行くぜ。コイツと一緒に帰る気も無いが、コイツをアンタ達の側に置いておくのも危険だ。見張りがいる。家にも遅く帰るって連絡入れれば問題無い!」
月華が思った、余計な一言で焚き付けてしまったと。
とはいえ、もうどうにもならない以上は仕方ないと諦めることにした。
こうなってはもう引き下がらないだろう。
アルフェンはスーラと顔を見合わせ、その表情から連れて行く他無いと彼も判断したらしい事を読み取る。
かくして、ここに男女四人のパーティーが完成を迎えたわけだ。
ちょっと話題のスイーツショップ。その店の前で出会ったのは四人の男女。
奇遇なことに、顔見知りの二人と二人。
だけども、向けられる感情は大きく違うもので……。
「お前は、月華!?」
「おや? 誰かと思ったら銀平じゃないか。もしかして、そちらのお兄さんと知り合い? もしや、デートでもしていたのかな?」
顔を合わせる二人の少女。
ライトオーガとダークオーガ。
月華と銀平。
そう、二人は幼なじみなんだ。
「そんな事はお前に関係無ぇだろ!」
「なるほど確かに。ただ、そちらのお兄さんがスーラ君の探していたアルフェンさんで間違いないかな?」
「確かにアルフェンは私だが……。そちらは?」
「これは失礼を。先に名乗るのが模範的淑女の嗜みでしたね。私の名前は武威垣月華、気安く月華とでもお呼び頂きたい。こちらのスーラ君とは数時間ばかりの清いお付き合いをさせて頂いておりますもので」
「な、なななっ! 何言ってんだお前!!?」
それを聞いて顔を真っ赤にするのは、銀平。
初な彼女はその台詞一つで過大な妄想を膨らませてしまう。
初めてのデート? を得ても彼女の拙さばかりは、簡単に取れるものじゃないんだね。
「こちらの月華さんにアルフェンさん達を探して貰っていたんです。探しましたよ」
「そうか……。連れの者が世話になったな月華とやら。改めて自己紹介をさせて貰う、アルフェンだ。よろしく」
「いえいえ、困っている幼気な少年を助け導くのも淑女の努め、礼を謂《い》われる事ではありません」
お互いに自己紹介をする二人は差し手を出し合い、握手を交わした
アルフェンと月華とでは五十センチ程の身長差があるけれど、アルフェンには彼女に負けない程の大人びた落ち着きがある。
そんな二人を見て、面白くないのが銀平だ。
彼女は因縁のある月華とつい先程までデート? をしていたアルフェンが仲良くなるかもしれないこの展開が気に入らない。
文句の一つも付けようと月華に声を掛けようとした時である。
「あの~、もしかして以前、ぼくに声を掛けてくれた人ですか?」
銀平に話し掛ける少年が一人、スーラだ。
その姿を改めて認めた銀平は、
「……ッ!」
思わず息を飲む。
彼は、銀平がナンパ、と呼べるかもわからない声掛けに失敗した美少年だ。
あの時の気恥ずかしさが蘇って、なんと声を出したらいいのか詰まってしまった。
「あの、どうかしましたか?」
「い、いや、なんでもねぇ。アンタ、あの女に何かされなかったか?」
「? いいえ。何かって一体?」
「そ、そうか。なら良いんだけどよぉ……」
(あのアマとまさかこの子がお知り合いになっていたなんて……)
銀平は自分の知らないところで、月華がスーラに良からぬ事をしていないか心配してしまう。
何故なら月華という少女は、その美貌と口の上手さを活かして男、それも年下の少年を落とし込むことに長けた男たらしだから。
銀平自身、初恋の男の子を取られた過去があって月華の事を目の敵にして生きてきたわけなんだ。
「おいおい、何をしているんだい君は。スーラ君が怯えているじゃないか」
「勝手言ってんじゃねぇ! オレがいつ怖がらせたっていうんだよ!!」
「そうやってすぐ怒鳴り散らすのは君の良くないところだよ銀平。まるで淑女の品性を感じない。アルフェンさん、彼女が何か粗相をしでかしてはいませんでしたか? 彼女もそれなりの年齢なのにまるで男性との付き合いを心掛けておりませんので」
「ちょ、ちょっと待てよ月華!? お前はまたそういう余計なことを……」
「心配は無用だ。今日出会ったばかりだが、何も問題など起きてはいない。……そうか、銀平というのか。ならば改めて名乗ろう、アルフェンだ。今日は世話になったな」
「え、あ、おう……こっちこそ」
そう言うと、銀平の顔が高揚で赤い色が差し始める。
今日出会って、結局名前も知らずに別れるはずだったデート? 相手の素性を少しでも知る事が出来て純粋に嬉しかったんだ。その上、一目奪われた少年の名も知ることが出来た。
……それが、よりにもよって月華のおかげというのが彼女的には気に入らないところだけれども。
でも、きっと銀平だけじゃなんの進展も無かっただろうから、そこは感謝してもいいんじゃないかな? 無理か。素直になんてなれる子じゃないからね。
ただこれを逃してはならないとは考えてるわけで。
さらにアルフェンの事を知りたいと思い、訪ねようとした。
「あの……」
「そう言えばスーラ、お前だけか? ユール―達はどうした?」
訪ねようとしたけども、残念かな、当の本人に遮られてしまった。
「ユールーちゃん達、やっぱり一緒じゃなかったんですね。お兄さんの貴方となら一緒にいると思ったんですが……」
「いや、あれから会っていないな。だがどうせ、こちらの位置はわかっているはずだ。その為にもこれを付けているのだからな」
アルフェンは、左手に付けていた腕時計に目を落とす。
実は、この時計にはGPS機能もついているんだって。
「ははは……。ぼくはそれを付けてても道に迷ってしまいました。恥ずかしい話です」
「仕方ない。初めての土地では誰だってそうなるものだろう」
何の話をしているか、それなりに話が見えてきたのは月華。
そもそも彼女は、スーラの友達探しに協力していたから元々自体を把握していた。
出会った場所から近い場所に一人いるとわかっていたけれど、道に迷ってたどり着けなくなっていたんだ。
その道中に四人でこの街に来ていて、夜も近づいてきたので探していたのだと聞いていた。
ただ、あの腕時計にそんな機能があった事は知らなかった。
何故、近場にお友達がいるのかわかっていたのか、これで合点がいく。
そしてこの状況を利用しない手も無いのだ。
「どうだろう、探し人が見つかるまで私も同伴させてはくれないだろうか? この街の住人として、せっかう観光に訪れた方が困っているのを見過ごすなど、心苦しい。スーラ君、よろしいかな?」
「え、あの……」
「せっかくの申し出だが、もう夜になる。学生の身だろう? 後はこちらで対処する。そこの銀平とは顔見知りらしいが、一緒に帰ったらどうだ?」
スーラの返事を遮り、アルフェンが代わりに答えた。
ただ、彼の言い分ももっともで、学生の身なりをした彼女達を夜分に付き合わせるわけにもいかない。その言葉には善意しかないのだから、月華としても食い下がろうか迷いが出てしまったね。
だが、ここで思わぬところから声が上がった。そう、先ほどまで照れていた銀平がやっと再起動したんだ。
「ちょっと待ってくれ! こいつとは単なる腐れ縁だぜアルフェンさん。何でこんなヤツと一緒に帰らなきゃならないんだ!」
それはこちらとしても同じ事、そう思った月華だったけど、この反発を利用して食い下がる事に決定した。
「失礼な奴だな君は。だが、君と一緒に帰る気もこちらには無いし、それに、やはり土地勘のある人間と一緒にいた方が探し人もスムーズに見つかるというもの。どうだろうか?」
「一理ある、が、遅い時間に連れ歩くのは家族が心配するはずだ」
「それなら問題ないさ。両親は仕事で明日まで戻らない。銀平については知らないが、私は構わないはずだ。……というわけで銀平、君は帰るといい。明日学校で事の顛末くらいは話して上げるからさ」
「冗談じゃねえ! オレもアンタ達について行くぜ。コイツと一緒に帰る気も無いが、コイツをアンタ達の側に置いておくのも危険だ。見張りがいる。家にも遅く帰るって連絡入れれば問題無い!」
月華が思った、余計な一言で焚き付けてしまったと。
とはいえ、もうどうにもならない以上は仕方ないと諦めることにした。
こうなってはもう引き下がらないだろう。
アルフェンはスーラと顔を見合わせ、その表情から連れて行く他無いと彼も判断したらしい事を読み取る。
かくして、ここに男女四人のパーティーが完成を迎えたわけだ。
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