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第4話
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グリュスティ様に案内されて屋敷を歩き回る。
途中で会ったメイドに挨拶をすると、何故か驚かれた。
「あら、クーアさん。おはようございます。お体の方はもう大丈夫ですか?」
「あなたは誰?」
「これは申し遅れました。私は当お屋敷でメイドをさせて頂いております、ファティーと申します」
「そう」
「はい、実を言うと重症で運び込まれた貴女を看病していたもので。経過を聞いてはいましたが、お元気な様子で何より」
「ちょっとファティー? わたくしに対して挨拶はありませんの?」
「あ、これはこれはグリュスティお嬢様。ごきげんよう」
「ごきげんようでは無くてね? 貴女、わたくしの方が立場は上なんですのよ?」
「いえ、お嬢様。挨拶なら今朝も含めていつもの事ですし、今はやはり怪我人の心配が先かと思いまして」
ここでは使用人は主人と会話が出来るんだ……。
向こうではそんな光景を見たことが無かった。一方的に命令だけをして終わり、それだけ。
ここは、変わった屋敷。
「貴女って人は、よそでは通じません事よ?」
「よそのお屋敷に務める予定もございませんので」
「全く……。まあいいわ。それで、クーアさん。ファティーは長年ここに仕えているから、お屋敷の中の事について聞きたい事があれば彼女に聞くとよろしいですわ」
「そう」
「はい。それでは何かありましたらご遠慮なく」
「ありがとう」
「……う~ん。クーアさんは随分とその、表情が乏しいというか」
「詳しい事情はまだ知らないけど、こういう子らしいから。何かあったら貴女、サポートしてあげなさい」
「承知致しました。……ところでお嬢様方はこれからどちらへ?」
「別にどこって決まってはいないけれど、そうねぇ……ではお庭にでも行ってみましょうか? 午前のティータイムでも楽しみましょう」
「了解いたしました。では、準備をして参りますのでこれにて」
「そう」
「ほら、行きますわよクーアさん」
「わかったわ」
「……やっぱり貴女、少し変わってるわね」
ところで、ティータイムって何? わからない。
庭へ案内されると、そこは色とりどりの花で溢れていた。知っている花は一つも無い。そもそも名前を知っている花なんて一つも無いけれど。
その中を歩く私達。周りには誰もいない。まるで貸し切りみたいだと思った。
庭の中央には丸いのテーブルと丸い屋根。
似たようなものは見たことがある。よくそのテーブルを拭いていた。
使っているところは見たことが無い。使用中は近づくなと言われていたから。
「さあ、お掛けなさいな」
「わかった」
「本当に、何を考えているのか分からないわね……」
椅子を引いて、腰掛ける。
するとすぐにさっきのメイド……ファティー様がやってきた。台車を引きながら。
その上にはカップやポットなど道具一式が載っている。
「お待たせしてしまい申し訳ありません。只今用意いたしますので少々お待ち下さいませ」
「ええお願い。……クーアさん、当家のティータイムは他の貴族のお屋敷よりも優れた味を提供しておりますの。きっと貴女も感動で体が震える事間違いありませんわ」
「そう。でも、そういう経験が無いからわからない」
「そうですの? ならば尚の事、一度体験しておくべきでしょう。その身をもって当家の良さを知るのです。そしてその素晴らしさを全身に伝えるのです!」
「……? 何を言っているのかわからないわ」
「と、とにかく、まずは飲んでみて頂戴。ファティー」
「は、既にご用意は出来ております。クーアさん、どうぞ」
「わかったわ」
目の前に置かれたのは、湯気が立ち昇る液体の入ったカップと、それに刺されたスプーン。
これは、飲めば良いのだろうか?
「お砂糖はご自由にお入れ下さい。個人的にはまず一口お飲み頂いた後に調整をなされた方がよろしいかと」
「砂糖ってどれ? 見たことが無いの、私」
「え?」
グリュスティ様が驚いた声を上げた。
何故だろう? そんなに変な事を言ったつもりはないのだけれども。
「クーアさん、まさかとは思うけれど、お紅茶をお召しになった事が?」
「聞いた事はあるわ」
「……そうなの。ならば普段どのようなものを口にしていたのかしら?」
「硬いパンと水」
「それだけ?」
「ええ」
グリュスティ様がまた驚いている。
一体何なのだろう?
ファティー様に視線を向けると、彼女はポットに手をかけたまま目を開いてこちらを見ていた。
何故? 私はただ質問に答えただけなのに。
途中で会ったメイドに挨拶をすると、何故か驚かれた。
「あら、クーアさん。おはようございます。お体の方はもう大丈夫ですか?」
「あなたは誰?」
「これは申し遅れました。私は当お屋敷でメイドをさせて頂いております、ファティーと申します」
「そう」
「はい、実を言うと重症で運び込まれた貴女を看病していたもので。経過を聞いてはいましたが、お元気な様子で何より」
「ちょっとファティー? わたくしに対して挨拶はありませんの?」
「あ、これはこれはグリュスティお嬢様。ごきげんよう」
「ごきげんようでは無くてね? 貴女、わたくしの方が立場は上なんですのよ?」
「いえ、お嬢様。挨拶なら今朝も含めていつもの事ですし、今はやはり怪我人の心配が先かと思いまして」
ここでは使用人は主人と会話が出来るんだ……。
向こうではそんな光景を見たことが無かった。一方的に命令だけをして終わり、それだけ。
ここは、変わった屋敷。
「貴女って人は、よそでは通じません事よ?」
「よそのお屋敷に務める予定もございませんので」
「全く……。まあいいわ。それで、クーアさん。ファティーは長年ここに仕えているから、お屋敷の中の事について聞きたい事があれば彼女に聞くとよろしいですわ」
「そう」
「はい。それでは何かありましたらご遠慮なく」
「ありがとう」
「……う~ん。クーアさんは随分とその、表情が乏しいというか」
「詳しい事情はまだ知らないけど、こういう子らしいから。何かあったら貴女、サポートしてあげなさい」
「承知致しました。……ところでお嬢様方はこれからどちらへ?」
「別にどこって決まってはいないけれど、そうねぇ……ではお庭にでも行ってみましょうか? 午前のティータイムでも楽しみましょう」
「了解いたしました。では、準備をして参りますのでこれにて」
「そう」
「ほら、行きますわよクーアさん」
「わかったわ」
「……やっぱり貴女、少し変わってるわね」
ところで、ティータイムって何? わからない。
庭へ案内されると、そこは色とりどりの花で溢れていた。知っている花は一つも無い。そもそも名前を知っている花なんて一つも無いけれど。
その中を歩く私達。周りには誰もいない。まるで貸し切りみたいだと思った。
庭の中央には丸いのテーブルと丸い屋根。
似たようなものは見たことがある。よくそのテーブルを拭いていた。
使っているところは見たことが無い。使用中は近づくなと言われていたから。
「さあ、お掛けなさいな」
「わかった」
「本当に、何を考えているのか分からないわね……」
椅子を引いて、腰掛ける。
するとすぐにさっきのメイド……ファティー様がやってきた。台車を引きながら。
その上にはカップやポットなど道具一式が載っている。
「お待たせしてしまい申し訳ありません。只今用意いたしますので少々お待ち下さいませ」
「ええお願い。……クーアさん、当家のティータイムは他の貴族のお屋敷よりも優れた味を提供しておりますの。きっと貴女も感動で体が震える事間違いありませんわ」
「そう。でも、そういう経験が無いからわからない」
「そうですの? ならば尚の事、一度体験しておくべきでしょう。その身をもって当家の良さを知るのです。そしてその素晴らしさを全身に伝えるのです!」
「……? 何を言っているのかわからないわ」
「と、とにかく、まずは飲んでみて頂戴。ファティー」
「は、既にご用意は出来ております。クーアさん、どうぞ」
「わかったわ」
目の前に置かれたのは、湯気が立ち昇る液体の入ったカップと、それに刺されたスプーン。
これは、飲めば良いのだろうか?
「お砂糖はご自由にお入れ下さい。個人的にはまず一口お飲み頂いた後に調整をなされた方がよろしいかと」
「砂糖ってどれ? 見たことが無いの、私」
「え?」
グリュスティ様が驚いた声を上げた。
何故だろう? そんなに変な事を言ったつもりはないのだけれども。
「クーアさん、まさかとは思うけれど、お紅茶をお召しになった事が?」
「聞いた事はあるわ」
「……そうなの。ならば普段どのようなものを口にしていたのかしら?」
「硬いパンと水」
「それだけ?」
「ええ」
グリュスティ様がまた驚いている。
一体何なのだろう?
ファティー様に視線を向けると、彼女はポットに手をかけたまま目を開いてこちらを見ていた。
何故? 私はただ質問に答えただけなのに。
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