道具として生きた令嬢、雪解けの冬

こまの ととと

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第6話

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「その女性はその土地では見慣れない髪色の子供にも関わらず、純粋な親切心で話しかけ、何度も励ましの言葉をくれた。あの時貰った飴玉の味は今でも鮮明なままだ」

 飴……?


『大丈夫! きっとお母さんと会えるから。そうだっ、これ食べる? あたしのお気に入りなんだ。ま、こんなの貧乏人でも買えるくらいの安物なんだけどね。でもこの甘さがやさしくて……。だからきっと気に入って……貰えるといいかなぁ。なんて』


 遠い昔、嗜んでいたもの。甘い……。

「手を握って母を探して貰った。遠くで俺を呼ぶ母の声に喜んだ時、一緒に微笑んだ女性の顔が美しかった。問題はそれっきり会えなかった事だな。礼もまともに言えずに別れてしまったから。――だから今言いたい、俺に励ましと思い出をくれてありがとう」

「!? あの時の……っ。まさか、こんな事があるなんて」

 甘い物を食べる気が無くなったのは、あの後に引き取られたからだ。
 今の家。貴族の教育を受けた私は、自分の人生に嘆き、それでも生来の負けん気がそれまでの人生との決別を選んだから。

 逃げ場を自分で塞いだんじゃない、諦めたんだあの時に……!

(忘れていた。例え貧しくても、親は居なくても、それでも自由はあった。それにあの街の人達は笑顔だった。孤児だからって私の事を無視なんてしなかった、食べ物だってお菓子だって分けてくれた! 温かかったんだ! あの人生が無くなった事が悔しくて……。それで忘れる事で今の自分になった。環境に従順になれば辛さなんて耐えられるから)

「どうして? どうして私だって……」

「再開は偶然だった。君は知らないだろうが、当主就任の際に王都へ行った事がある。国王と面会の後、君の姿を王城で見つけた。一目で分かったさ、あの時のお姉さんの美しさは俺の目にはそのままだった。声を掛けようともしたが、直ぐ隣に君の肩を抱く王子が居た。君が貴族になった事も、婚約していた事も、知ったのはその後だったな」

 知らなかった。あの時は目に映るものが全て灰色だった。
 道具になる為に感情を出来るだけ殺した結果、何もかもに無関心になっていたから。

 何も、気づこうとしなかった。

 体から力が抜けそうになる。それに耐え、私は再び聞き返す。

「私の婚約破棄をどうしてお知りに? ここから王都まで距離があります。ここまで知れ渡ってから婚約の希望を出したとて、破棄から一週間で南方の屋敷に届くはずはありません」

「不快に思うかもしれないが、王都に駐在している部下を使って君と王子の動向を探っていた。あの王子は良い噂を聞かん愚物だからな、どうしても心配になった。案の定だったな、王子が別の令嬢との逢瀬を楽しんでいる情報を掴んだ。それからだ、半ば賭けだったが君の家門に婚約の申し出を飛ばしたのは。この俺の予想通り、王子は婚約破棄。後の事は、言わなくてもいいだろう」

「そんな事があったのか……。私にくらい話してもよかったんじゃないか?」

「兄者に話すと、そこから彼女に話が漏れてしまいそうだからな。こういうのは自分の口から話たかったのさ」

「信用が無いな」

 不満顔のレイフ様を何のそのと、素知らぬ顔で彼はまた話を続けた。

「そういえば、預かっていたものがある。少し待ってくれ」

 ルパート様は壁に掛けていた遠征用の制服に向かうと、その懐から何かを取り出した。
 それは二つの……手紙?

「帰る途中に配達員と会ってな、君宛てだ。勿論中身は見ていない」

 手渡されたそれには、私の家紋の封印が押されている。
 差出人は……義父と義妹だった。

(どういうこと?)

 疑問より早いか、私の手は気づけば中から手紙を取り出し、その視線は既に文面へと落ちていた。
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