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第二章

入学式直前のあーだこーだ

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 俺は囲まれて四人から一斉に話しかけられる。

 気分は聖徳太子にでもなったかのよう。だけど彼みたいに全てを聞き取れるなんて不可能だ。

 てかさ、聖徳太子って凄いよな。たしか十人だっけ?同時に話しかけられて全部を理解してさ、それぞれに最適解を与えるなんて。

 俺には到底できっこない芸当。

 まあ、諸説ありだが。

 耳から入ってくる情報を遮断し、視覚情報のみで行く末を見守る俺は、四人の声をBGMに空を見上げてボーッとするのであった。

 一向に静まる気配のない彼らの言い争い。

 仏のような広い心の持ち主の俺でもうんざりしてきた頃。

「おい、そこの新入生!もうすぐ式が始まるんだ。早く体育館へ行け!」

 教師と思われる男性が俺たちに注意を促す。

 四人は顔を見合わせる。

「まだ文句はたくさんあるんだけど、仕方ないわね」

 シャーレットが不機嫌に言う。

「そうですわね。これ以上騒いでもマルスくんの迷惑になりかねませんし、妥当かと」

 フレイには悪いけど、既に迷惑被ってましたよ。

「マルス様!就寝前にあれほど明日は起こしてくださいってお願いしましたよね!?レディとの約束を破るだなんて男として最低ですよ!!」

 うるさい。

「エルバイス!俺はお前を認めねぇからなぁ!!」

 ノーコメントで。

 どうやら彼女たちは一旦休戦と定めたらしい。

 モーガンが鼻息荒く一足先に会場へと向かった。

「ちっ!気に食わねぇな。エルバイス!この決着はいつか必ずつけてやるからな!」

 捨て台詞を吐く彼の背中を見送る。

 あはは、遠慮してくよ。

 心の中で乾いた笑いと共に、彼の提案を却下しておく。


「少し騒ぎすぎましたね」

「ええ、そうね。誰かさんのせいで火がついちゃったわ」

「うふふ、誰のせいでしょうね?」

「あら、心当たりがないのかしら?マルスの鈍感は可愛いけど、女の鈍感はイライラするのよね」

「ストレスはお肌の大敵ですよ。王女様の特権で今すぐ帰宅してご就寝なさった方がよろしいのでは?」

 微笑み合う美女二人。

 だが間に流れる空気はなぜか冷たかった。


「あのぉ、お二人とも、そろそろ向かった方がよろしいかと。入学前から教師の方々に目をつけられるのは得策ではありません」

「アテーネ・・・それもそうね。行きましょう」

「ですね」

 再度、口論を開始しそうな煽り合いをする彼女らをなんとか落ち着かせるのに成功したアテーネ。

 俺に振り返って不敵に笑った。

 借りでも作った気になっているのだろう、とことん恩着せがましい奴だ。

 こいつの今までの俺へと持ってきた面倒ごとに比べれば、これくらい屁でもない。

 もはや清々しく感じてしまう程の、図太い神経の持ち主がアテーネという女だ。

「わたしは多くを望みません。謝礼は高級酒一瓶で手を打ちましょう」

 寝ぼけた発言をするアテーネを無視する。

 面倒事に巻き込まれはしたが、思わぬ形でヒロインとの再会を果たした俺は、受け付けを済ませるために会場へと向かうのであった。
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