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第二章
マルス、友達ができる
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入学式を終え、俺は晴れてアースガルズ魔法学院の生徒となった。
久し振りの学生生活は慌ただしくも、前世以来の青春に懐かしさとちょっとばかりの緊張感を抱きつつ、早くも一週間が経過していた。
余談だが俺とシャーレット、フレイ、アテーネは四人揃って同じクラス。誰かさんの力が働いた気がしたがもう過ぎたことだ。今更気にしたって無駄。
この間特になにも起きず俺たちは四人で学院生活を満喫していた。
嘘である。
実際は登校初日に小さな事件は起きたのだ。
前日にシャーレットに言われた「入学後は大変そうね」。
彼女なりの俺を心配しての言葉を思い出しながら、憂鬱な気分で学院に登校した俺を待ち構えていたのは。
『あいつが噂の・・・』
『ええ、なんでも試験官に賄賂を渡して合格したとか』
『え?わたしが聞いた話では試験官を脅したって・・・』
なんとも酷い言われようである。
噂は脚色され尾ひれがついて広まるものだけど、このレベルはあんまりじゃないか?
俺は泣いた。正確には泣いてはいないが心の中で泣いた。
そんな哀れな俺をみて、同情してくれたフレイ。
両手を広げ、彼女の寂しい胸元に俺を誘う。それに素直に甘える俺。
傷付いた心は秒で癒された。彼女の温もりを感じながら俺は終始心の中でやっぱり美女に抱きしめられるってのは良いな、と思っていた。
だが、その一部始終を目の当たりにしたシャーレットは力ずくで俺とフレイを引き剥がすと、俺のみぞおちに渾身の正拳突きを決めた。
痛かった。俺は泣いた。今度は割と本気で涙がちょびっと流れた。
・・・うん、みんなも噂話は程々にしようね!
さて、本日は待ちに待った実践練習の日だ。
入学して一週間は座学がメイン。学院の歴史に王国の歴史。貴族のしきたりや男女に別れてのエスコートの仕方・され方をわざわざ外部からマナー講師を招いての大掛かりな授業。
つまらなかった。退屈だった。教わったことを即実践して彼女をゲットしているイケメンたちが羨ましかった。
俺の容姿は特段悪いわけでもない。かと言って優れているわけでもないが、甘めな自己採点では平均よりちょい上の割かし整った体育会系の爽やか男だ。
一見モテそうなスペックだが、異世界比だと周囲からはフツメンなモブ程度の認識で落ち着くらしい。
そして俺の引きずる足枷がとにかく重い。準男爵・四英傑の跡取り、エルバイスの入学決定賄賂説など。
最後は全くの濡れ衣だがコミュ障な俺では誤解を解くのもままならなかった。
だが、そんな男として惨めな日々も今日で終了。
なんてったって今日からはようやく俺が待ち望んでいた、剣術の授業が開始されるのだ。
俺はワクワクしながら着替えを済ませ、体育館に向かい整列する。
それから教師の指示で準備体操を行った後、全体での揃っての軽い素振り、基本的な動作の確認を終えて、遂にその時間はやってくる。
「ではそれぞれペアを組んで、”対”を始めろ」
教師の一声でぞろぞろと動き出す生徒。
対とは二人一組で行う実戦形式の戦闘訓練で、座学で戦闘技術を学ぶよりもよっぽど有意義な訓練だと俺は思う。
あくまでも個人的な感想だけどね。
それは勉強が苦手だからでは?といったツッコミはなしで頼むよ。
俺の気分は激しく高揚していた。椅子に座り続けてつまらない話を延々と聞かされる日々に懲り懲りしていた中でのオアシスとまで思えたんだ。
だがしかし。
ここで問題が発生した。
俺と組んでくれる相手がいないのだ
シャーレットとフレイは二人して「決着を・・・」「どっちがふさわしいか・・・」とか言ってペアになってるし、アテーネはそもそも寝坊したのを置いてきたのでまだ学院に登校すらしていない。
俺は入学試験などで変に悪目立ちしてしまったせいでクラスメイトから敬遠されているのだ。
可哀想と思ってくれてる子たちもいるようだけど、貴族の同調圧力に屈している。
加えてこっそり盗み聞きした話では、裏でモーガンが自身より階級の低い貴族や平民の生徒に対して、俺を除け者にしろと陰湿な指示をしているらしい。
だから遠巻きに眺めているだけ。
こればっかりは彼らを責めようがないので俺はお手上げ状態。
そうこうしているうちにどんどんペアは決まって残る生徒も少なくなってくる。
間違いない、これは前世の体育の授業で頻繁に起こる「せんせー、○○くんが余ってまーす!」「そうなの?仕方ないわね。○○くん先生と一緒にやりましょうか」現象の前兆。
このクラス内ではいないが、前世だと二人組みと言われているのに最悪三人で組んでる奴らもいた
ああ、トラウマが蘇る・・・
人為的に引き起こされた、ぼっち状態に俺は精神的に参ってしまいそうになる。
だけど、まだ希望はあったのだ。
「あの、もしよかったら僕と組んでくれませんか?」
おずおずと周りの視線を気にしつつも提案してくれたのは、ブラウン色のもっさりとした髪を目が隠れるほどに伸ばしっぱなしな平民出身の男子生徒、ワイド・オーブンくん。
俺の彼に対する印象は物静かだけど良い人そう、だ。
「マジ?俺は嬉しいけど、その・・・・色々と大丈夫?」
嬉しさを隠して俺は尋ねる。
俺と普通に接するということは、モーガンの指示に反するのを意味する。この生徒の今後の学院生活を考えたら容易に決断できる話じゃないのだ。
「なにがですか?」
「ほら、周りの目とかさ」
「あー」
ワイドくんは俺が言わんとするのを理解したみたいで苦笑した。
「いいですよ。僕は元から目立たないし、人と話す機会もさほどないので」
「そうかな。ワイドくん優しそうだし成績も良いじゃん」
「僕なんて全然ですよ。それに僕はマルスくんと一度話してみたかったんです。良かったら僕と友達になってくれませんか?」
剣を交わしながらワイドくんは言う。
太刀筋は悪くない。むしろ、こなれている感がある。これなら変に気遣わずに、多少力を入れても彼は受け止めてくれそうだ。
俺にとっては願ってもない提案。
俺は即座に返事をする。
「うん、よろしく。今日から俺たちは友達だ」
こうして異世界初の友達ができたのであった。
久し振りの学生生活は慌ただしくも、前世以来の青春に懐かしさとちょっとばかりの緊張感を抱きつつ、早くも一週間が経過していた。
余談だが俺とシャーレット、フレイ、アテーネは四人揃って同じクラス。誰かさんの力が働いた気がしたがもう過ぎたことだ。今更気にしたって無駄。
この間特になにも起きず俺たちは四人で学院生活を満喫していた。
嘘である。
実際は登校初日に小さな事件は起きたのだ。
前日にシャーレットに言われた「入学後は大変そうね」。
彼女なりの俺を心配しての言葉を思い出しながら、憂鬱な気分で学院に登校した俺を待ち構えていたのは。
『あいつが噂の・・・』
『ええ、なんでも試験官に賄賂を渡して合格したとか』
『え?わたしが聞いた話では試験官を脅したって・・・』
なんとも酷い言われようである。
噂は脚色され尾ひれがついて広まるものだけど、このレベルはあんまりじゃないか?
俺は泣いた。正確には泣いてはいないが心の中で泣いた。
そんな哀れな俺をみて、同情してくれたフレイ。
両手を広げ、彼女の寂しい胸元に俺を誘う。それに素直に甘える俺。
傷付いた心は秒で癒された。彼女の温もりを感じながら俺は終始心の中でやっぱり美女に抱きしめられるってのは良いな、と思っていた。
だが、その一部始終を目の当たりにしたシャーレットは力ずくで俺とフレイを引き剥がすと、俺のみぞおちに渾身の正拳突きを決めた。
痛かった。俺は泣いた。今度は割と本気で涙がちょびっと流れた。
・・・うん、みんなも噂話は程々にしようね!
さて、本日は待ちに待った実践練習の日だ。
入学して一週間は座学がメイン。学院の歴史に王国の歴史。貴族のしきたりや男女に別れてのエスコートの仕方・され方をわざわざ外部からマナー講師を招いての大掛かりな授業。
つまらなかった。退屈だった。教わったことを即実践して彼女をゲットしているイケメンたちが羨ましかった。
俺の容姿は特段悪いわけでもない。かと言って優れているわけでもないが、甘めな自己採点では平均よりちょい上の割かし整った体育会系の爽やか男だ。
一見モテそうなスペックだが、異世界比だと周囲からはフツメンなモブ程度の認識で落ち着くらしい。
そして俺の引きずる足枷がとにかく重い。準男爵・四英傑の跡取り、エルバイスの入学決定賄賂説など。
最後は全くの濡れ衣だがコミュ障な俺では誤解を解くのもままならなかった。
だが、そんな男として惨めな日々も今日で終了。
なんてったって今日からはようやく俺が待ち望んでいた、剣術の授業が開始されるのだ。
俺はワクワクしながら着替えを済ませ、体育館に向かい整列する。
それから教師の指示で準備体操を行った後、全体での揃っての軽い素振り、基本的な動作の確認を終えて、遂にその時間はやってくる。
「ではそれぞれペアを組んで、”対”を始めろ」
教師の一声でぞろぞろと動き出す生徒。
対とは二人一組で行う実戦形式の戦闘訓練で、座学で戦闘技術を学ぶよりもよっぽど有意義な訓練だと俺は思う。
あくまでも個人的な感想だけどね。
それは勉強が苦手だからでは?といったツッコミはなしで頼むよ。
俺の気分は激しく高揚していた。椅子に座り続けてつまらない話を延々と聞かされる日々に懲り懲りしていた中でのオアシスとまで思えたんだ。
だがしかし。
ここで問題が発生した。
俺と組んでくれる相手がいないのだ
シャーレットとフレイは二人して「決着を・・・」「どっちがふさわしいか・・・」とか言ってペアになってるし、アテーネはそもそも寝坊したのを置いてきたのでまだ学院に登校すらしていない。
俺は入学試験などで変に悪目立ちしてしまったせいでクラスメイトから敬遠されているのだ。
可哀想と思ってくれてる子たちもいるようだけど、貴族の同調圧力に屈している。
加えてこっそり盗み聞きした話では、裏でモーガンが自身より階級の低い貴族や平民の生徒に対して、俺を除け者にしろと陰湿な指示をしているらしい。
だから遠巻きに眺めているだけ。
こればっかりは彼らを責めようがないので俺はお手上げ状態。
そうこうしているうちにどんどんペアは決まって残る生徒も少なくなってくる。
間違いない、これは前世の体育の授業で頻繁に起こる「せんせー、○○くんが余ってまーす!」「そうなの?仕方ないわね。○○くん先生と一緒にやりましょうか」現象の前兆。
このクラス内ではいないが、前世だと二人組みと言われているのに最悪三人で組んでる奴らもいた
ああ、トラウマが蘇る・・・
人為的に引き起こされた、ぼっち状態に俺は精神的に参ってしまいそうになる。
だけど、まだ希望はあったのだ。
「あの、もしよかったら僕と組んでくれませんか?」
おずおずと周りの視線を気にしつつも提案してくれたのは、ブラウン色のもっさりとした髪を目が隠れるほどに伸ばしっぱなしな平民出身の男子生徒、ワイド・オーブンくん。
俺の彼に対する印象は物静かだけど良い人そう、だ。
「マジ?俺は嬉しいけど、その・・・・色々と大丈夫?」
嬉しさを隠して俺は尋ねる。
俺と普通に接するということは、モーガンの指示に反するのを意味する。この生徒の今後の学院生活を考えたら容易に決断できる話じゃないのだ。
「なにがですか?」
「ほら、周りの目とかさ」
「あー」
ワイドくんは俺が言わんとするのを理解したみたいで苦笑した。
「いいですよ。僕は元から目立たないし、人と話す機会もさほどないので」
「そうかな。ワイドくん優しそうだし成績も良いじゃん」
「僕なんて全然ですよ。それに僕はマルスくんと一度話してみたかったんです。良かったら僕と友達になってくれませんか?」
剣を交わしながらワイドくんは言う。
太刀筋は悪くない。むしろ、こなれている感がある。これなら変に気遣わずに、多少力を入れても彼は受け止めてくれそうだ。
俺にとっては願ってもない提案。
俺は即座に返事をする。
「うん、よろしく。今日から俺たちは友達だ」
こうして異世界初の友達ができたのであった。
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