【転生先が四天王の中でも最弱!の息子とか聞いてない】ハズレ転生先かと思いきや世界で唯一の氷魔法使いだった俺・・・いっちょ頑張ってみますか

他仲 波瑠都

文字の大きさ
57 / 72
第三章

俺の平穏

しおりを挟む
 確かにこの手で掴んできたはずが騒ぎの元凶の人物はいなかった・・・

 違う、いるぞ。

 部屋の入口から顔を半分だけのぞかせて、こちらの様子を窺っている。 

「なによ、あれ・・・」 

 非常に不味いぞ。

 俺も引いたが、頼みの綱のメーガンさんもドン引きしている。

 これでは彼女の助力を得られないかもしれない。 

「いや、あれですよ。なんて言うか・・・男のプライドというか・・・チラ見栄というか」

「わたしもう寝るわね」

「メーガンさん見捨てないで。お願いします」

 寝ころんだメーガンさんの枕元付近に近寄って、俺はラウンズさんに聞こえないよう小声で訴える。 

 俺を見つめるラウンズさんの眼光が鋭くなった気がした。俺は心の中でラウンズさんをボコボコに殴っておくことで溜飲を下げる。

「冗談じゃないっすよ!あんな状態のラウンズさんと寝ろって言うんですか!?」

「いいじゃない。たまには男同士水入らずで積もる話もあるでしょ。わたそは邪魔しないから二人で楽しみなさい」 

「あんなのと同じ空間にいたら、心休まる時間を失います!」

「マルスもなかなか言うようになったわよね。それだけわたしたちに心を許してくれてるってことでしょ?嬉しいわ。おやすみなさい」

 目を瞑るメーガンさん。

 これ以上大事な睡眠時間を削がれたくない俺は、もうこれしきのことでは挫けない。

「心は許しましたけど、アレは嫌なんですよ!お願いだから、助けてください!」 

 俺が語気を少し強めると、メーガンさんはやれやれ、と眉をしかめてみせる。 

「しょうがないわね」 

 もはや負のオーラを放出しているラウンズさんと向き合ったメーガンさんは手招きした。

「あなた、こっちにきて一緒に寝ましょ?マルスにも迷惑がかかってるわ。この子は明日大会なのよ?」 

 どっかの誰かさんのせいで明日というか、もう今日なんだけど。

 メーガンさんの言葉を聞くやいなや、ラウンズさんはドアの付近からすごすごと歩み寄って、ベッドに腰掛けるとメーガンさんを見据える。

「お前が、どうしてもって言うなら・・・一緒に寝てやってもいいぞ・・・」

 顔を逸らし、男のツンデレを発揮する。
 
 面倒くさい・・・なんてめんどくさい男なんだ。

 俺は心底そう思った。 

この様子じゃ、メーガンさんも呆れを通り越して怒りのオーラが出ているにちが・・いや、出てい・・・ない・・・だと !?

 むしろなんだろう、この優しさに満ちた眼差しは・・・まるで、弱き者を許す聖母のような・・・

 散々仲を取り持つ為に奔走して俺を除け者にして完全に夫婦の世界が誕生しているが、いったい今のラウンズさんのどこにメーガンさんのツボを刺激するポイントがあったのか。

 解せない。わかりたくもない。 

 メーガンさんは起き上がると、ラウンズさんの頬に口付けた。

「・・・おやすみなさい」

 そのあともラウンズさんになにか動きがあったようだが、キスが始まった時点で俺は目や耳から入る情報をシャットダウンすることに全力を注いでいた。 

 俺は静かに立ち上がり気配を消してベッドを迂回して、部屋の出口へと歩いた。 

 背後でラウンズさんがメーガンさんを組み敷いて、いちゃこらし始めたような気もしたが、決して振り返らない。

 俺は空気が読めるので野暮なことはしないのだ。

 俺は役割を終えた。

 こうして俺は願ってやまない平和を再び手に入れることに成功したのだ。

 それが全てだ。 

 いや、正しくはそう考えないとやってられない。

 彼らから見れば、俺はまだ学院を卒業していない子供なのに、毎日毎日毎日気を使って生きている。 

 学院の連中も変な奴が多いし、メーガンさんはたまに抜けてるし、ラウンズさんは強烈に変だ。 

 でも、いいんだ。

 毎日少しずつ小さな幸せを見つけて生きていこう。

 俺にはヒロイン候補の彼女たちがいるじゃないか。

 みんな癖が強いが、素直で可愛らしい。

 滑るように部屋を出て俺は後ろ手でドアを閉めた。 

 そして何事もなかったかのように、自室へと戻っていった。

 そこには確かに平穏があることを俺は知っていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...