【転生先が四天王の中でも最弱!の息子とか聞いてない】ハズレ転生先かと思いきや世界で唯一の氷魔法使いだった俺・・・いっちょ頑張ってみますか

他仲 波瑠都

文字の大きさ
59 / 72
第三章

ご褒美

しおりを挟む
 朝日と表現するには、少々昇り過ぎた太陽が王都の街並みを照らす。

 本日は大変お日柄も良い待ちに待った魔闘祭。街ゆく人々はおめかしをして学院の校舎に隣接される魔闘祭の会場に向かっている。

 優勝予想や注目選手などを語り合ってみんな楽しそうだ。まあ、優勝予想に関しては、どの会話を盗み聞きしたとて会長一色であったが。

 そんな人混みの間隙を縫うように全力疾走するのは俺とアテーネ。

 水で無理矢理流し込んだ朝食が胃袋で暴れるのを感じながら、息を切らせて目的地である会場を目指す。

 ラウンズ武具店を出る間際に確認した時計の針は九時三十分を指していた。

 もう一度言う、九時三十分だ。

 シャーレットに予め伝えられていた選手の集合時間は八時。

 つまり俺は大遅刻をかましたのである。

 昨晩、夫婦の痴話喧嘩に巻き込まれてしまったせいで、案の定寝坊した。

 戦犯の二人はぐっすりと夢の中で、今日は二人っきりで外出する予定と言っていたのを思い出す。

 同居人の晴れ舞台を観にくる気は一ミリも持たないらしい夫婦にムカつくが、今はそれを気にする余裕はないかな。

「アテーネ、間に合いそうか?」

「はぁはぁ・・・どうでしょう。マルス様が寝坊した時点で望みはかなり薄いと思いますが」

「お前だって寝坊しただろうが!人のこと言える立場かよ・・・ったく、サポートキャラのくせにつくづく役に立たねぇな!」

「失礼な!わたしはサポートキャラではありませんよ!主人公を陰ながら支える女神役です!」

「あぁ、そっか。そうだよな。お前はナンチャッテ女神(笑)だったな」

 俺はたっぷりの皮肉を込めて言った。

「ちょっと!女神の後ろに(笑)つけましたね!?」

「気のせいだろ」

 俺はとぼけるが、尚もアテーネは騒ぐ。

 幾分かの憂さ晴らしも済んだ俺は観戦に向かう人々の会話に耳を傾けながら会場への道のりを駆けた。

✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

 俺が到着した時には既に話を終わっており、選手の集合場所に定められていたトーナメント表前では、腕を組みキレ気味のシャーレットと苦笑いのフレイ、ナリータが待ち構えていた。

 シャーレットは何事もなかったかのように挨拶しようとした俺の首根っこを引っ掴むと近くのベンチに強制連行。後ろめたさで目が泳ぐ俺の目の前で仁王立ちすると、恒例のお説教を始めた。

 二十分に及ぶ説教タイムを凌ぎ、フレイが代わりに聞いておいてくれた連絡事項の伝達を済ませ、ナリータからの慰めを受けるとようやく俺は開放された。

 ベンチで項垂れる俺にシャーレットがため息を吐いた。

「散々遅れるなって忠告しておいたのにやらかしたわね。フレイとナリータに感謝しなさい。本当は後一時間は続けたかったのだけれど、今日のところはこれぐらいで勘弁してあげるわ」 

 彼女は俺の隣に腰を下ろして足を組む。

「シャーレットはいつも怒ってるよね。今回はマルスくんにも落ち度があったけど、怒ってばかりだとマルスくんも可哀想だわ」

「あたしはね、マルスの為を想って厳しく言ってるのよ。どっかの誰かさんたちみたいに甘やかすだけの女じゃ男は成長しないわ。ねぇ、マルスも私に叱られて嬉しいでしょ?帰ったら続きをしましょうね」

 慈悲深いナリータの擁護はシャーレットには響かなかったようで、シャーレットはニコニコと怖い笑みを浮かべて俺に振った。

「げっ」

 思わず零れた本音。

 声を出して直ぐに俺は自分の失態に気付いた。

「げっ、てなによ」

 至近距離に迫るシャーレットの綺麗な顔。睫毛は長く、滑らかな肌荒れを知らない真っ白な肌に心臓が色んな意味で爆発しそうだ。

「はぁ・・・もういいわ。マルスは控え室に急ぎなさい。アテーネも着いてってあげてね」

「わたしは構いませんが、御三方はどうなされるのですか?」

「あたしたちは先にVIPルームで観戦してるわ。ここは日差しも強くて暑苦しくてね。冷たいドリンクが飲みたいの」

 彼女の言う通り今日は暑い。俺も走ってきたおかげで全身汗だくの気分が悪い状態で、シャーレットたちも額や肩出しコーデの隙間には汗が滲んでいる。

「じゃあ、あたしたちはもう行くから。マルス、頑張りなさいね」

「はーい」

「不満そうね・・・ご褒美があればマルスもやる気も出す?」

「まあ、そりゃね」

 ご褒美か~王女様だしここは奮発して国宝級の絵画とか、宝剣は要らないな。神器二つ持ってるし。

「九月の遠足の目的地はね、世界有数の海水浴場で大人気リゾート地なのよ」

 どこか遠い目をしてシャーレットは言う。

 時折、突拍子もないことを言い出すシャーレットだが、今回も俺は彼女の意図を読めない。

「水着」

「えっ?」

 思わず顔を上げると、彼女のグリーンガーネットの瞳が俺をその中に映していた。

「あたしたち四人が着る水着をマルスに選ばせてあげてもいいわよ」

「「「えっ?」」」

 シャーレットのとんでも提案に即座に反応を示したのは、勝手に水着を選ぶ選択権を讓渡された彼女以外の三人だ。

「シャーレット!?わたくしたちに相談もなく、勝手に決められては困ります!」

「白々しいわね。あんた、どっちみちマルスに選ばせるつもりだったくせに」

「そ、それは・・・」

「図星ね。ナリータも魂胆が見え透いてるのよ。姑息な手段はあたしの前では通用しないと肝に銘じておきなさい」

「ぐっ・・・考えることは同じなのね」

 観念した二人は顔を真っ赤に染め、それを隠すように俯いてしまった。 
 
「で、マルス。少しは頑張る気になった?美女が揃ってあなたに水着を選ばせてあげるのよ。どんな金銀財宝よりも貴重な権利だと思うのだけれど」

 顔に滴る汗をハンカチで拭き、前髪を軽く弄るシャーレット。

 俺は自分でも目の色が変わるのを感じた。

「シャーレット・・・期待しててくれ。俺が学院最強の称号をかっさらってきてやる」

「随分と気合いが入ってるわね」

「勿論さ、俺自身の力を世界中の人に示すには絶好の機会だからな」
 
 単純で欲にまみれた俺の返答を受けた彼女は艶っぽく微笑む。

「頼もしいわね。じゃあ、楽しみにしてるわ」

 そう言い残すとシャーレットは未だに羞恥心で縮こまった二人の肩を組んで観戦席へと向かった。

 彼女たちの背を見送ったアテーネは何か言いたげに俺にジト目を向けるとため息を吐いて天を仰ぐ。

「はぁ、わたしはとばっちりじゃないですか。マルス様、行きましょう。日向は辛いです」

 日陰に向かおうとするアテーネ。俺も彼女に続こうとしたが、昨日から計画していた重大な作戦を思い出して踏みとどまった。

「ちょっと待った。その前に寄るとこがあるだろ?」

「はい?」

「おいおい、もう忘れたのか?昨日話してたろ」

「あっ!」

 合点がいったアテーネは手を叩く。

「早く受け付けしとかないと締切るかもしんないから急ごう」

「はいっ!」

 後ろから小走りでアテーネが着いてくる。

 俺とアテーネが今から向かう場所をシャーレットたちには絶対知られてはいけない。余裕で法律に抵触するので教師にも知られるとまずいかも。もしもバレた暁には軽く済んで一週間の停学処分、最悪は退学処分がくだる可能性を十分に秘めている。

 しかし、多少のリスクを犯してでも男にはやらねばならない時があるのだ。

「今日は熱くなるぞ」

 意味深に呟く俺を真夏の太陽が見守っていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...