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第二章 旅立ち

第6話 巣窟

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「よろしくお願いします」
俺はイケメンが嫌いだ。
嫌いだが、今回は仕方がない。


と言うことで話を聞いたのだが、やはり新しい情報は得られなかった。
今の状態で昔と変わったところは住処と戦闘能力くらいだろうか。
命がかかっているので、あまり曖昧な情報は除外するとして、ともかく住処がわかったのはでかい。
「そうだ、これを持っていくといい」
そう言って渡してきたのは石ころだった。
「僕が家から持ってきたものだ。危なくなったら使うといい」
石ころをもらったところで変わらないという気持ちをぐっとこらえ、鑑定スキルを発動。


【命削りの石】
効果:持っていると、戦闘ダメージが増える。また、手に持って念じると、爆発して持ち主の体力を奪う


(何のつもりだ…?)
明らかに俺を死へと誘う道具アイテムだ。
こんな物はいらないが、下手に拒否するより腹のうちを探ろう。
「家からわざわざ?そんな大切なもの貰っていいんですか?」
「ああ、構わないよ。死にかけたりすると、楽にしてくれるはずだよ?」
楽にって…。死ぬってことだろ…?
爽やかな笑みしてなんつーこと考えてやがんだこの聖騎士は。
俺を単なる剣だけの馬鹿だと思ってやがるな。
悪いが魔法もスキルも剣も弓も盾も槍も、たとえ裁縫や料理だってお前よりうまくやる自信がある。
俺がいくつスキルもってると思ってんだ。
「ありがとうございます!」
そう言って部屋をあとにする。
(あいつは注意しておこう)


部屋に戻った俺は、装備を身につけて冒険者ギルドに向かう。
それっぽいクエストを探したが、特に見つからない。
「すいません」
「はーい?あ、シンジ様!どうなさいました?」
様は要らない、と前置きをして、大樹側のクエストが無いかを聞く。
「でしたら、薬草をつんできていただけませんか?」
「そんなクエストなかったが…?」
見た限り、そんなクエストはなかった。
3回ほど確認したので、間違いないはずだ。
「うちのギルド限定ではあるのですけど、薬草採取はいつでも扱っているため、ギルドボードには貼ってないんですよ。10束5銅貨ですよ!」
「そうか、じゃあそれをやってくる」
「行ってらっしゃいませ!」
思えば、プラチナ冒険者が薬草採取とかちょっとおかしいけど、今回の目的はクエストじゃない。
オーガの行動状況の確認と、拠点の位置を確かめに行くのだ。
できるだけ戦闘は行わない。

漫画などでは主人公(イケメン)が魔物をぶち殺してまわってるけど、普通に考えて血の匂いに反応した魔物が次から次によってくる。
すぐに殺した場所から離れないと八方塞がりになって最後は詰む。
バカみたいに殺しまくって生き残れる世界じゃないのだ。



え?早く戦えって?
退屈?
まてまて、普通に考えてくれ読者諸君。
今から一人でヤクザの組に乗り組みます。
バターナイフだけ持って突撃。
しなくないか!?いやもう、めためたにされて死ぬよね!?
まずは行動を観察するだろうが!
と言う訳で、我慢してみててくれ。
多分あと少しだ。





銀行で20銀貨ほどおろして街を出る。
何故お金を引き出したか。
これはクエストを受けに行った理由でもあるのだが、この世界では街に入るときに3つの方法がある。
一つ、住民票を提示。
二つ、クエスト依頼を受けていた証明をする。
そして最後が、お金を払う。
金もないやつを街に入れて、荒らされたりしては困る。
犯罪とかな。
パスポートがないと飛行機に乗れないようなものだ。
単純。
てなわけでお金をおろして出発。
いいクエストが無かったからお金を払うしかないのだ。
ちなみに、街を出るのにはお金はいらない。
お金がなくなって街を出ていく者も多いからだ。

街を出て十分ほど歩いた。
途中、所々走ったので、既に森の前だ。
「ふーっ…」
約三年ぶりの異世界の街以外の場所だ。
少し緊張するが、落ち着いていこう。
焦れば破滅を招く。
気をつけて行かなければならない。
まずは先に薬草の採取を済ませてしまおう。

「さて、さっそく調べて」

ッ………!!!

危ない。言ったそばから気が緩んでいた。
明らかな殺気。振り返ると、ゴブリン2匹。
おいおいマジか…。
ゴブリン程度でこの殺気…?どんだけ進化してやがるんだ。
ゴブリンは、小さく緑色の肌の魔物。
小説でよく書かれているように、その多くは雑魚だと知られている。
無論、この世界でもそれは変わらない。
少なくとも、200年前までは。
とにかく、戦闘態勢に入って仲間を呼ばれるのはまずい。
本気を出せばまとめて一秒かからずに殺せるが、血に反応して仲間が来るのは避けたい。
そもそもこんな所で戦闘してたら、血に反応したオーガ達が警戒をしてしまい、襲撃の難易度が上がる。
確実にオーガを潰さなければならない現状、ここで他の種族と戦闘するのは避けるべきだ。
ここは逃げよう。
俺は薬草をしまい、で撤退する。
一応遠方を見るスキルで確認したが、完全に見失っている。
まあ、チートレベルのステータスが本気で離脱したのだ。
どの方向にいなくなったのかでさえ見えてないだろう。


それからも魔物は避けて歩き、とうとう見つけた。
(ここがオーガの住処…)
岩の切れ目…いや、洞窟というべきか。
漂う異臭。
間違いなくオーガの住処だ。
暗視スキルを使って中を見る。
(メスが5体、子供が2、3、4…。6体?)
案の定オスはいない。
俺は洞窟の近くの木に登り、夜まで見張ることに。

夜、というより夕方頃だろうか?
オーガ達が帰ってくる。
手ぶらな奴や、ゴブリンやオークらしき魔物を握ってるものもいる。
らしきもの、っていうのはもう死んでいて、原型を保っていないためだ。恐らく餌なのだろう。

俺は息を殺して、オーガが全員洞窟に入るのを待つ。
全部合わせて37匹。
いま洞窟ごと爆破してもいいが、確実に殺したいため、明日また出直すことにする。

とりあえず国王には一週間かからないことを伝え、薬草を換金してからその日は寝た。




翌朝。今、オーガの巣窟の前にいる。
オーガの雄が全匹出ていったのを確認し、洞窟に潜入。
まず一匹。
音を出さずに近づき、後ろから捉えてそのまま喉元をかき切る。
「クォ………」
と言う謎の声を出して絶命。
容易いものだ。
次に、音に反応した2体の頭を握りつぶす。
今度は音もなく倒れ込む。
同じ調子で子供は全滅させた。
問題はここからだ。
いま洞窟に残ってるのはメスのオーガのみ。
だが、メスとは言っても大人だ。
当然オスに近い戦闘力は持っている。
楽に倒せる相手ではない。
静かに近寄って、隙を伺う。
が、流石に大人だ。殺気に反応した。すぐに倒さないとまずい。俺はオーガのかかとの上辺りを切る。
確かに強靭な足だが、かかとより下が地面から離れてしまえば倒れるに決まっている。しかし、さすがは魔物。倒れそうになるのを堪えつつ、殴りかかってくる。
それをかわして、すれ違いざまに左手首から先をいただく。
動脈から血が流れ落ちる。
すると、こらえきれなかったのか、

「ブァアアアアアアアアアアア!!!!!」


と大声で叫び始めた。
「くっそ最悪だッ…!!!」
おそらく想定した中で最悪に近い。
これでオスが帰って来てしまう上に、他のメスも俺に反応しちまった。
猶予はオスが帰ってくるまで。
それまでに早くこいつらを仕留めなくては…!
死にかけの魔物ほど怖いものはない。俺を殺すためなら何だってするだろう。
一匹が叫ぶと、他のやつも叫び出す。
全員ブチ切れてるな。味方を殺されれば当然だろう。
渾身のパンチが空振りに終わったどころか、手を持っていかれたメスは、叫びながらも攻撃しようという気はあるのか、右手を振り下ろしてくる。
「なにしてんだお前?」
だが、そこにもう俺はいない。既に壁を蹴り飛ばした反動でオーガの首の後ろに迫ってる。
咄嗟に驚異的な反応を見せ、振り返るオーガ。
しかし、反応虚しく首から上がバッサリ持っていかれる。
振り返っただけでは何もできない。
と、その時。
「がぁッ…!!」
しまった…!!!
たった1体に時間をかけすぎた。遠くにいたオーガのうちの1体が岩を投擲とうてきしてきてる。1体に集中しすぎたせいで反応が遅れた。
そしてそれは致命的な遅れだった。岩は体にぶつかり、このままでは地面と挟まれてぺしゃんこだ。
しかも、2体目も岩を投擲しはじめてる。
「糞がッ!」
俺は岩をぶん殴って破壊。その反動を利用して右に大きく跳躍。
岩を躱して着地する。
岩を投げてるやつらを先に倒したいが、もう一体も迫ってきてる。
仕方ない。一体ずつ相手にしてる暇はないので、集団戦の立ち回りをする…!
俺は迫ってくる一体の足を前から蹴り飛ばして、衝撃で前に倒れかかってきた所オーガの腹を蹴り上げる。
バランスを崩してるところにを叩き込まれたオーガは少し重心が上がった。
上がった重心が戻る前に、蹴りの威力で落下した流れのまま足を2つとも切り落とす。
スネから下が完全に消え失せたオーガはなすすべが無かった。
そのまま倒れ込む事しかできず、唸る。
残念だが妥協はしない。相手が殺そうとしてきてるのに、どうしてこちらが手加減できようか。
そのオーガの腕も切り落として、上に飛び乗る。
が…。
「は?嘘だろ…?」
同士討ちを懸念して遠慮するかと思ったのだが、お構い無しで岩を投げてくる。
正直、このオーガを盾にしながらぶち殺そうと思ったが、宛が外れた。
なる程な。仲間か仲間じゃないかは関係ないようだ。
「なら、話が早い」
それならむしろ勝機がある。
俺は少し遅めのスピードでオーガの上を降りる。
岩が俺の下にいたオーガを潰しているタイミングで、わざとわかりやすいように岩を投げてるやつの前に立った。
後ろにいた敵二人もこちらを目指して岩を投げている。
「ほら、死ね」
そこから少し動けば勝手に岩に当たってくれた。
そのままぺしゃんこになる。
あと2体…。
「オラァ!」
わかりやすく横1列に並んでくれていたので、片方の膝を蹴り飛ばす。
すると、もう片方にもたれかかるように倒れ込み、ドミノよろしくぶっ倒れる。重なった首の上から剣を一度振るだけで2体とも絶命してくれた。

振り返る。
「よし…」
まだオスは帰ってきていない。なんとか最悪の状況は避けることができたようだ。
僥倖と言える。
「え?」
と、洞窟の外から大きな剣が飛来してくる。
まあ軌道が直線的なので、当たることはない。
訳がわからないが、一応避ける。
なんだ…?と思っているうちに岩が壁にぶち当たり、その振動で柱が折れてしまった。

ゴゴゴゴ

ほんとに勘弁しろ!
次から次に災難が降り掛かる。
ムカつくが、洞窟の崩壊が始まってるので、今は逃げるのが最優先だ。
崩れつつある洞窟を刺激しない程度の速さで駆け抜ける。
あまり早く走りすぎると洞窟がぶっこわれて下敷きになってしまう。
それは避けたいところだ。
やっとの思いで洞窟を飛び出す。
息を整え、剣を投げた主を探そうとしたが、その必要はなかったようだ。

俺はオスに囲まれていた。

「あー、最悪」
脳天気な言い方をしてはいるが、これ、実は本気でまずい。
一体ずつ相手にしていれば後ろから殺されるし、このまま動かなければ岩や剣でダメージを受けるのは目に見えてる。
戦闘において数に勝るものはなく、唯一少数派の勝機があるゲリラ戦もすでに使えない状況。
あきらかな負けイベント。
勝利を確信した笑みを浮かべるオス共。
オーガは、圧倒的に人間を上回るその巨躯で足元の剣を拾う。
怒っているのだろう。
赤い肌が、より際立っている。
「あー、…」
オーガはゴツゴツと隆起した筋肉で剣を持ち上げ、次の瞬間には…!!







「さっきは洞穴で崩れる心配があったから本気出せなかったんだよね」
逆に言えば、心配さえなければ今ここで本気を出すのも可能ということ。
勿論こんなことオーガに説明したところでわかるはずもないが。
「じゃ、さいなら」
にっこり笑った冷淡な瞳でオーガたちを捉える。
剣や腕を振りかぶったものから順番にその腕が自分のものではなくなっていく。
次に足。
「王国じゃあ見せられないな」
俺は勇者。
ステータスがカンストしてるものさえある。
こんな中級モンスターがいくら強くなったからと言って勝てる相手ではない。
が、戦力を明かすのは命取りだ。
できるだけ素性は明かさない。
味方にも。
そもそも、勇者がこんな戦い方するなんて、見せられないからな。
そんな事を考えながら、さっきの岩で受けたダメージを確認する。


1。


全く問題ない。
時間が経てば回復する。
「俺が本気を見せるのは、死にゆく奴の前だけだ」
喜べ…、それが最後にオーガが聞いたセリフだった。
囲まれると確かにやばい。
ただし、それは俺が単独行動しているときには当てはまらない。人前で本気など見せない。
情報を集めたのも、俺以外にオーガを殺そうとしているやつがいないかを確認するためだ。
勿論、戦闘力を測るつもりもあったが。
やっぱり
「死んだな」



城に帰還し、オーガの巣窟を潰した旨を伝えた。
「おお…!まことか!」
と、大歓びの王様から約束の副聖騎士長を譲り受ける前に、やらなければならないことがある。
聖騎士長の件だ。


「ちょっと今夜は忙しいか…」
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