かつての勇者はクラスメイトと再臨するようですよ？

第五章 勇者

第24話 華乃風香という勇者②

男性恐怖症になった。
その事実を認識してまもなく、唐突にそれは訪れたのだった。
「ここは…」
自室でストレッチをしていたはずの風香は、前触れなくして変化した景色に目を疑う。
今しがた学校の準備を終えたばかりのカバンや、長年愛用している勉強机。
何一つないだけにとどまらず、壁どころか床ですら材質が違う。
というか、そもそも広さが段違いだ。
まるでどこかのお城の玉座の間のよう。
玉座の間といえば、あの豪勢な椅子に座っている偉そうな人は誰だろう。
よく見れば周りに甲冑を着た人たちもいる。
何がどうなっているのか。
「おお、勇者様は混乱されているようだ」


「その勇者召喚ということですの？」
男性恐怖症とはいえ、流石に3mも4mも離れていれば会話ぐらいは容易だ。
実際に襲われたわけではないため、それほど酷く恐怖対象になっていないことも理由の一つかもしれない。
あのいじめっ子グループには未だに近づけないが、その他の男なら多少はましだ。
なにやらこの世界を救う必要があって呼び出されてしまったらしいので、その恐怖症も徐々に克服できるようにしたい。
「無論、世界を救ってくれた暁にはそなたの望むものを望むだけ授けよう！」
それが勇者華乃風香の冒険の掛け声だった。
スライムやゴブリンを始めとした下級モンスターを倒して経験値を稼ぎ、時間をかけてマナ運用方法を学び、感覚と知識を総動員して魔法を覚えた。
後に語られる勇者の伝説では、最も得意とされる呪文が回復魔法であったと記されている。
努力家の風香の実力は凄まじいものであり、その世界では知らぬものがいなかった。
まず冒険を始めた風香は………、と進みたいが、少しだけ時間を進めたいと思う。


「おお、勇者よ。無事に魔王を倒したのですね。よくぞ戻りました」
風香には知る由もないことだったが、漫画や小説ではお決まりの『天界』と言うのがある。
いわゆる神の住まう世界で、狭く書かれたり、ただ空の上だったり、はたまた何もない空間だったり…。
ともかく、そんな空間に呼び出された風香は、世界を救った代わりに願いをひとつだけ叶えることができるのだ。
いきなりそっちの都合で呼び出しておきながら、「世界を救うまでは知らない」っていうのもどうなのかと思うが、それはもう致し方ない。
実際に世界を救うことは出来たし、目立つような外傷はない。
魔王との戦いは熾烈を極めたが、聖属性魔法を得意とする風香が勝つことになったのだ。
というか、最初の説明をすっ飛ばしていきなり王様のもとに飛ばすような神様がまともなわけがなかった。
「では、願いを言いなさい」
「私を、真司様のもとに返してください。あの、勇者様のもとに」
「……………。いいでしょう。願いが2つとは少々意外でしたが、世界を救っていただけたことを考えれば目を瞑るとしましょう」
願いが2つ、というのはいまいちよく分からないが、まあ、叶えてくれるならそれでいい。
「では、あなたがいなくなった時間軸に戻します。さようなら勇者よ。感謝しております」


「ここは？」
「あ、どうも」
コンビニのサンドイッチをむさぼっていた真司は気がつくと謎の真っ白い空間にいた。
「えっと…」
「私は女神です。貴方の住まう世界とは別の、世界を治めてますね」
目の前にいるのは金髪の神々しい女性。
古代ローマ人が来ているような布は羽織っておらず、何と言うか、もっとこう洗練されたものを羽織っている。
説明ができなくてムズムズするが、ともかく神々しいのは間違いない。
『降臨』という言葉が当てはまる女性だ。
「そのですね、私の世界が危機に貧してまして…」
なるほど。小説でお決まりの「世界を救え」という展開か。
「とある先輩女神に、貴方を指名されまして、えー、どうか救っては貰えないかな…と…」
こうして2人の勇者の冒険は交差しだす。
一方は超堅実な努力家魔法使い。
一方はステータスアップ厨のチート級魔法剣士。

真司が世界を救うのはまた別のお話。