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第八章 分断

第45話 七席

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「自信のほどはあるのか」
「珍しいな。[無]が話しかけてくるとは」
「私とて喋ることはある。傀儡でもあるまいに」
淡々と術式を編む女に男が話しかけているという、この世界ではよくある構図。
いや、よくあるかはわからないが、少なくとも聞いた限り違和感のない話であるのは確かだ。
この二人が【七獄天】ではなければ。
「あらあら~?行っちゃのねミンティアちゃん~」
と、そこに一人加わる。
やはり、あの会議に参加していた人物の一人。
つまりは【七獄天】だ。
「まあ、決まったことだからな」
ワープゲートを作りつつも、淡々と会話に応じているところを見ると、顔には出さないが、早く行きたいのはよく伝わってくる。ワクワクして会話をつい返してしまうと言ったところから。普段は無口な方だが。
ところで…と、話を切り出したのは壁に寄りかかっていた男だった。
「少し力を使ってみたが、その男、なかなかやるぞ。恐らくはニンファと同等程度には戦えるはずだな。それから、種族があいつに似ていたな。特に、顔がそっくりだった」
「そっくり~?」
「ああ。かつての我らの主を完膚なきまでに叩きのめして命を奪い、その後、姿を眩ませた勇者とは名ばかりの蛮族とな」
「「………ッ!!!!」」
笑止。
魔族特有の赤い目がより赤く光る。
「あの時は我らもまだ未熟だったからな。だが、親愛なる我が主人を弄んで殺したあいつは、今でも憎い」
軽く殺気を撒いたが、ハッと気を取り直して再び沈黙になる男。
幹部ともなれば、やすやすと殺気も撒けない。
「ふん…。ニンファ並か。いよいよ持って信憑性の高まった話だな。戦いたい理由が増えただけだ」


ここは魔王城の地下室中でも更に厳重な部屋。
ワープゲートを作る際、場合によっては向こう側からこちら側に入ってくることがある。
その際、魔王城の魔力に心身を蝕まれて獰猛な害獣となる可能性があるため、念の為にこういう場所を作っているのだ。
当然、基本的にはワープゲートを使うものなどおらず、下位の魔物にはワープゲートの魔法すら使えないものがほとんどだ。
まあ、上位が使えるとはいえ、上位になればその分任務地から離れられない魔物も多いため、結局は使われないのだが。


「ミンティアちゃんはずっと一緒だったのに~」
「この前は久しぶりと言っていたように記憶しているが」
「任務は仕方ないわよ~」
「今回も任務だ」
「心配するわよ~」
「不要だな」
「いやいや~」
と、その瞬間音という音が消え、ボソリとつぶやいたニンファと呼ばれた女の声だけが響く。


「私と同じ強さなら、ミンティアちゃんは多分傷一つつけられずに死んじゃうじゃな~い」


鋭く光った眼光と、射殺すような眼力は並のものではなかった。
更に恐ろしいのは、あれだけ心配していると言ったミンティアが死ぬという事実を前に、笑みを抑えきれていないことだろうか。
なんとも思っていないのか、思っていることを察せられないだけなのかはわからないにせよ、結果的に張り詰めた空気になったのは確かだ。
と、一般人なら泡を吹いて死にそうな冷徹無比な空気感は、その長い長い1秒を終え、時の流れを通常に戻す。
「私が、一度でもニンファに負けたか?」
「やってみる~?ちょっと痛い目にあうわよ~?」
と、恐らくは察知できないであろうスピード。
端的に言うと、1mも無い距離で音よりも早いスピードであった、と言えばその途方もなさが伝わるだろうか。
ともかく、そのスピードを持ってしてニンファの背に剣をつきたてた女。
「やってもいいぞ。肩慣らしでな」
「ふふふ。面白わね~。自分が命の危機に貧してることを知らないのかしら~」
女が剣を突き立てるほんの一瞬前。
誤差とも呼べないようなその一瞬で、ニンファは背後のミンティアにナイフを突きつけていた。
「心臓に突き立てるのは私のほうが早い」
「まだ気がついていないのね~。可愛いわ~」
ニンファの突き立てたナイフは手に持つ一本ではない。
ミンティアが振り返ると、12本のナイフがミンティアの心臓に狙いを定めて浮遊していた。
ニンファの持つナイフや、浮かんでいるもの。その全てがミンティアを挟んだ反対側の机に乗っていたものである事を考えれば、速さはミンティアの倍では済まない。
明確な力量差で押し黙ったミンティアは、また術式を組み始める。
「賢いわ~。七席が二席に勝てるわけないのだから~」
「ふん…」
「無駄に争うのはよせ。ブラックが参戦してくるのは目に見えているだろ。仇討ちの可能性で興奮するのはわかるが、この大陸を滅ぼすつもりか」
「そんなつもりはないのよ~?ちょ~と可愛くて~」
「これが二席とは、なかなか先が思いやられるな」
「そんなこと言って~?いつもよりよく喋るキリウストの方が興奮してるんじゃないかしら~」
「………………。かもな…」


「私が、殺す━━━━━」
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