最強の転生令嬢、異世界へ行く〜幼馴染を応援していたら、魔王様に気に入られました〜

洸夜

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あなたは奇跡の目撃者

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 こちらの世界にきてから2週間が経つのね……。

 私は日課となった鏡に映った善人よしとたちの行動を監視――もとい、見守りながら、軽くため息を吐いた。

 うーん。

 経験値3倍の恩恵を受けているだけあって、善人の成長は早い。
 今はレベル20になっている。

 レボルと見ていた時に比べると、動きも格段によくなっていた。

 喜ばしいことではあるけど、他の勇者も同じことなので素直に喜ぶことはできない。

 彼らも同じく経験値3倍を所有しているのだ。
 むしろ、先にこの世界にやってきた彼らの方がアドバンテージがある。
 
 まあ、それについては秘策があるのでいいとして。
 私には気になることがあった。

 善人たちのパーティを見ていて分かったことだけど、この世界のレベルアップは魔物を倒すことでしか経験値を得ることができないようだ。

 その証拠に攻撃に参加している善人や魔道士の女性、盾使いの男と比べて、神官の少女のレベルは明らかに上がり方が遅い。

 少女のステータスを視ると神聖魔法が使えるみたいだから、不死属性の魔物相手なら経験値を稼げるだろうが、街の周辺にはいないようだ。

 補助と回復を兼ねているのだから、戦闘に重要なポジションなんだけど……。

 戦闘に傷はつきものだ。
 盾使いの男がどれだけ防御に秀でていようと無傷ではいられないし、遭遇した魔物の数が多ければ、当然1人では対応しきれない。

 となると必然的に回復魔法の出番となるのだけど、レベルが低ければ使用できる魔法も低レベルのものになるし、魔力量が少ないので使える回数も限られる。

 ならば、魔法を付与したマジックアイテムや回復ポーションをどんどん使えばいいのでは、と思ったのだけど……。

 先日セバスから聞いた情報によると、治療に使う薬草はあるものの、ポーションなど存在しないというのだ。

 つまり、神官の魔力が枯渇した場合、その後はいっさい回復できなくなってしまう。

 回復役がいないパーティがどうなるかは考えるまでもない。

 軽微な傷であれば戦い続けることはできるかもしれないが、重傷を負ってしまえばそこから綻びが生じてしまい、一気に全滅してしまうだろう。

 ああ、そうか。

 女神がいくら勇者を召喚して送り出しても、魔王城までろくにたどり着くことができていない理由はこれかもしれない。

 いくら強くなったとしても、体力も魔力も限りがある。
 回復できなければそこで終わりだ。
 
 と、そこで思いつく。

 ポーションが存在しないのなら、私が作ってしまえばいいのだ。
 確か錬金術を使えば作成できたはずだけど、材料も必要よね。

 私は右手を空中に差し出す。
 すると、手首の先が何もない空間にするりと入り込む。

 5回目の転生の時に習得した恩恵、『アイテムボックス』である。

 確かこの辺りに――あった!

 収納していた空樽とハーブを取り出す。

 水は……自分で出せばいいかしら。

 空樽に手を振りかざすと、樽の底から透明な水が溢れ出てくる。
 
 後は白いハーブを一つまみ入れて、と。

「創造錬金:ポーション」

 樽の中の水が渦を巻き始めた。
 白いハーブと混ざり合ったかと思った次の瞬間、ポン! と音を立てて煙が上がる。
 樽を覗き込むと、水の色は透明から真っ白へと変化していた。

 うまくいったかしら?

 鑑定を使うと、白ポーション(上級)と表示されている。
 効能も体力回復、疲労回復とあるし問題ないだろう。

 味はどうかな、と近くにあったスプーンで一口飲んでみる。
 ドロッとしてはいるけれどわずかな酸味とほのかな甘みが口に広がっていく。
 はちみつレモンに近い味だ。

 ただ、肝心の効果は特に疲れているという訳ではないので、いまいち分からないけれど。

 とりあえずできたけど、問題はこれをどうやって広めていくかだ。

 この世界にポーションが存在しないのだから、いきなりこれを使えば回復しますよ、と言っても信じてくれないだろう。

 ――そうか。
 
 私はテレビの実演販売を思い出した。
 あれに近いことをやればいいのだ。
 街にいるセバスに『念話』で呼びかける。
 
『セバス』

『お嬢様、どうかなさいましたか』

『貴方にお願いしたいことがあるのだけど……』


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 


 セバスはギルドにいた。
 
 換金に来たという訳ではない。
 エリカからある任務を命じられたからだ。

 ギルドには善人たち勇者以外に様々な職業の冒険者が集まる。
 主に魔物を狩って収集した魔石や素材を売るためではあるが、別の用事で足を運ぶ者もいるのだ。

 セバスはそれを待っていた。

 突然、バンッ! とギルドの扉が荒々しく押し開けられる。

「すまん、神官はいないかっ!」

 弓を持った若い男が飛び込んでくるなり大声で叫んだ。
 少し遅れて、盾を持った同じくらいの年の男が入ってきた。
 ぐったりとした血まみれの女を背負っている。

「ベアウルフにやられちまった! 血が止まらないんだ、頼む!」

 ギルドの受付がカウンターから出てきて、女の傷を確かめる。
 背中をざっくりと爪で裂かれており、重傷なのは明らかだった。

 こういうもしもの時の為に、ギルドにはお抱えの神官を常駐させているのだが――。

「申し訳ありません。ギルドの神官は現在隣街のギルドの応援に出ておりまして、戻るまでに数日かかります……。ここにいる皆さんの中で職業が神官の方はいらっしゃいませんかっ」

 ギルドの受付は振り返り、その場にいた他の冒険者たちに視線を向けるが、誰もが目を逸らす。
 
 冒険者の中で神官の占める割合は非常に少なく、必ずパーティに1人いるというわけではない。

 ギルドの受付は入ってきた3人に対して、無情の宣告を下す。

「残念ですがいないようです……。ただ、常備している薬草や包帯でしたら貸し出しますので……」

 その言葉にパーティは絶望の表情を浮かべる。
 薬草や包帯程度で何とかなるような怪我ではないのは、一目瞭然だった。
 今も傷口からは血が止まることなく流れ続けている。

 傷口を刺激しないように女をうつぶせで寝かすが、誰もが何もできないまま呆然と立ち尽くすのみだった。

 その時、セバスがスッと3人に近づき、泣き崩れている男に声を掛ける。

「失礼。私でしたらその方の傷を治せますが」

「……あんた、回復魔法が使えるのか……?」

「いえ。ですが、お任せ頂けるのであれば必ず助けてみせましょう。どうされますか?」

 盾を持った男は一瞬だけ戸惑いを見せるが、迷っている時間はない。
 すぐ首を縦に振った。
 
「では、受付の方。すみませんが水をいただけますか? 傷口を洗い流したいのです」

「わ、分かりました!」

 受付はカウンターの奥へ駆けていき、すぐに水の入った瓶を持ってきた。
 セバスはそれを受け取ると、傷口にかけて綺麗にする。

 次にセバスは、内ポケットから白い液体が入った細長い瓶を取り出した。
 中身はエリカから渡された白ポーションだ。

 セバスは瓶の栓を開け、白ポーションを直接傷口へと注ぎかけた。

 すると、ざっくりと開いていた背中の傷口は瞬く間に塞がっていく。
 数秒後には、痕跡すら残さず綺麗に消え去っていた。
 蒼白だった女の横顔に赤みが差し、荒かった呼吸も落ち着いており、すうすうと寝息を立てている。

「え? ……な、治ったのか?」

 盾を持った男が女の背中に触れる。
 
「治ってる……治ってるぞ!?」

「ありがとう、本当にありがとう!!」

 弓を持った男に両手で感謝を告げられたセバスは、ただ穏やかに微笑む。

 今まで怪我をしても、回復魔法でしか治すことができないと誰もが思っていた。
 それを魔法も使わずにあっという間に治したのだ。

 冒険者たちが奇跡を目の当たりにした瞬間だった。

 興奮した冒険者たちがセバスを囲み、口々に褒め称える。

 このことがきっかけとなり、ポーションの存在は瞬く間に広がるのだった。
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