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突然の訪問には訳がある

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 数日のうちに、女神フローヴァが召喚した勇者、定森駿しゅんがアルベルト元伯爵とともに捕らえられたことは、王国内に広く知られてしまった。

 それもそのはず。
 2人を捕らえたことを王宮が伝えたのだから。
 罪状までこと細かに隠すことなく。

 勇者と伯爵位を有する貴族が捕らえられたという衝撃は大きい。
 しかも、王女の誘拐に亜人の国との繋がりまで関与していたのだ。
 
 国の根幹を揺るがしかねない大事件。
 王宮としては適当な理由を作って隠すこともできたはずなのに、それをしなかった。
 
 やはり、2人がしでかしたことの大きさも関係しているのだろう。

 あのまま計画が実行されていたら、今頃亜人たちが攻めてきていたかもしれない。
 王子だって亡き者となっていたはずだ。

 王女が誘拐されたことも含めれば、王宮として決して許せるものではない。

 それに、恐らくではあるけど見せしめの意味もあるのだろう。
 王国というからにはルール――決まりがあるはず。
 決まりを破れば当然だが何かしらの罰則はつきものだ。

 罰則のない決まりなど、決まりたり得ない。
 罰則のある決まりだからこそ、国の形が保たれる。

 それは貴族であろうと例外ではないはず。
 勇者だろうと伯爵だろうと、王宮に歯向かえば容赦はしないということを示したのだ。

 まあ、何かしらの処罰を受けたわけではないのだけれど。

 捕らえられた駿とアルベルトは現在、王宮の地下牢にいる。
 監視しているのはヒルデガルドの配下ではなく、サージェス直轄の騎士だ。

 アルベルトが脱走した際に番をしていたのが、ヒルデガルドの配下だったことも理由の一つだが、最大の理由は駿が自分の持つ恩恵について国王に話したことにある。

 そう、魅了について洗いざらい話したのだ。
 これは私がかけた魔法によるものだ。
 
 私に倒されたのではなくマクギリアスに倒されたのだという、記憶をすり替える魔法と、犯した罪を全て話すようにという洗脳魔法の2つをかけてある。

 私以上の術者でなければ効果を解くことはできない。
 つまり、一生解かれることはないだろう。
 
 ちなみに、魅了された女性たちだけど、既に解呪済みだ。
 だから、駿がどれだけ待とうとも助けが来ることはない。
 パーティだった3人の少女も。

「王国もこれで一安心、といったところかしら」

 白磁のカップに注がれた紅茶を口にしたあと、セバスに視線を向ける。

「中の問題は解消されたかと思います。問題は――」

「亜人の国ね」

「さようでございます」

 駿とアルベルトが移送される際に鏡越しに砦の様子を眺めていたのだけれど、亜人たちが仕掛けてくることはなかった。

 2人を助けなかった理由は分かっている。
 あくまでも利害が一致した上での協力関係だったはずだ。

 捕らえられた駿とアルベルトの姿は遠目でも分かったでしょうし、そこで計画が失敗したことも悟ったに違いない。

 わざわざ戦力を割いて2人を助けたところで、王女という人質もおらず王子も健在の状況なのだから、計画は破綻したも同然だ。

 助ける必要性を感じられなくなったのだろう。
 でも、それは王国侵攻を諦めたというわけではないはずだ。
 
 また時期を見て、動き出すに違いない。
 
「監視だけは続けてちょうだい」

「かしこまりました」

 亜人の狙いが分かれば一番いいのだけれど。
 王国の民と亜人では外見が違うらしいから、セバスに潜入を命じるわけにもいかないのよね。

 ……外見か。

 確かにセバスに潜入させるのは難しい。
 もちろんアンも無理だ。
 でも私なら?

 私であれば魔法で外見を変えることができる。
 亜人の国に潜りこむことも可能なのではないか。

 ただ、亜人を見たことがないから、どのような姿をしているのか分からない。

 一目でも見ることができれば姿を変えることができるのだけど……焦っても仕方ない。

 とりあえず亜人の動きだけ注意しておけば、セバスのことだからきっとすぐに教えてくれるでしょう。

 その時に亜人を見ることができればそれでいい。

「国王陛下は、2人についてどんな処分を下すと思う?」

「少なくとも勇者の方は、このまま地下牢に閉じ込めたままにするのではないでしょうか」

「理由を聞かせてちょうだい」

「はい。勇者は女神によって召喚された存在でございます。勇者のやったことは王国にとって許せるものではございませんが、命を奪うといった重い処罰は与えないと愚考いたします」

 曲がりなりにも女神から恩恵を受けた勇者だものね。
 もしもの時には貴重な戦力になるでしょうし、処刑したら女神フローヴァの怒りを買うことになるかもしれない。

 ……今頃、呆れているかもしれないけれど。
 
「アルベルトのほうはどうかしら?」

「彼のしたことを鑑みますと、重罰は避けられないかと存じます」

「そうよね」

 ロザリアの誘拐に、マクギリアスの殺害未遂、そして亜人の国と繋がっていた件。
 どれも重罪だ。

 彼には彼なりに理由があったのかもしれないが、これだけのことをしでかしたのだから、覚悟しているだろう。

 そういえば、善人よしとはロザリアの警護を任されていたみたいだけど、どうしているかしら。

 気になって大鏡に映し出そうとした瞬間。

 ――ドンドンドンッ!

 部屋の扉を叩く音が響き、魔法を中断する。

「エリカ! エリカはいるかっ!」

 返事をする間もなく、レボルが扉を開けて入ってきた。
 最近穏やかな表情をしていたはずの彼が、珍しく顔を強張らせている。

「レボル様、落ち着いてください。そんなに慌ててどうされたのですか?」

「カイルが……」

「カイルくんがどうかしたのですか? そういえば今日は一緒ではないのですね」

 カイルが目を覚ましてからというもの、レボルはカイルと一緒にいることが多くなっていた。
 今までの空白の時間を埋めるかのように。

 にもかかわらず、カイルの姿が見えない。

 レボルは暫く俯いていたけれど、意を決したように顔を上げた。
 その表情は、まるで雨に濡れて救いを求める仔犬のようなすがる目だった。

「カイルが、倒れたのだ」

「……え?」

 私は、その言葉の意味を理解するまでに、一瞬の時間を要した。
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