32 / 39
第三十話『朝の一幕』
しおりを挟む
次の日。目を覚ますと、物凄く身体が重かった。
久しぶりの王都で夕食をしっかり食べ、柔らかいベッドで眠った。
ここ最近はミノタウロスやキマイラといった魔物から、魔族であるマモンも含めて連戦が続いていた……疲れが出たというか、溢れたのだろう。
【生命癒術】を使っても身体の疲れが取れないとはよっぽどだな、と俺は考えていた――のだが、どうやら違うことに直ぐ気付く。何故なら……
「……ん……ぅ」
声を漏らしながらシーツの中で身じろぎしたのは、アニエスだ。
俺に抱きついている為、その柔らかな膨らみは俺の身体に押し付けられた状態になっている。
エルザと同じ部屋で寝ているはずのアニエスが何故?
いやそれも気になるが、アニエスは何故――何も着ていないんだ?
俺は慌ててベッドから這い出て、アニエスにシーツをかけ直す。
こんな場面をもしエルザに見られたら――。
バンッと大きな音を立てて扉が開く。
現れたのはもちろん――。
「お早う、カーマイン。アニエスが見当たらないんだけど、知らない?」
「お、お早う、エルザ。いや、知っているといえば知っているし、知らないといえば知らないというか……」
エルザの瞳が鋭く光る。
「あら? 貴方のベッドが膨らんでいるような気がするのだけれど、誰がいるのかしらね」
「そ、それは……」
俺の背中から冷や汗がダラダラと流れ落ちる。
必死で理由を考えるが何も思いつかない。
そんな俺に追い打ちをかけるように、シーツからアニエスが這い出てきた。
「……んぅ……? お早う。カーマイン、エルザ」
ベッドから這い出たアニエスは、瞼を擦り、大きく伸びをする。
もちろん裸の状態でだ。
「ちょっと!? アニエス! 貴女、服は! せっかく買った下着や服はどうしたのっ!?」
「……寝るには邪魔だったから、脱いだ」
アニエスが指差す先には脱ぎ捨てられた服と下着が。
「ああ、もぅ! 早く着なさいよっ! カーマインは外で待つ!」
「わ、分かった!」
俺はエルザの言葉で直ぐに外に出る。
扉を閉めると廊下の奥からエルリックが現れた。
「やぁ、カーマイン。お早う。よく眠れたようだね」
「……お早う、兄さん。兄さんは、その、アニエスに気づいてたのかい?」
「そりゃもちろん。夜中にゴソゴソ音がするから何事かと目を凝らしたらアニエスで、しかも服を脱ぎ始めたんだからね。
直ぐに見えないフリをしてベッドに潜ったよ」
苦笑しながら答えるエルリックに俺は口を大きく開く。
「気づいてたんなら、すぐ起こすなりエルザに知らせるなりしてくれればいいじゃないかっ!」
「あはは、いや、ごめんごめん。あまりにアニエスから敵意や害意といったものが感じられなかったからね。
カーマインに危険がないならいいかな、と」
「~~~~ッッ」
エルリックの言葉に俺は声にならない声を上げ、ガックリと頭を垂れる。
仮にも元・護衛騎士の言葉とは思えない。
と、そこで扉が開き、部屋からエルザとアニエスが出てきた。
「お待たせ。もういいわよ。あら? エルリックじゃない、お早う」
「あぁ、お早う。それと、アニエスもお早う」
「……お早う」
アニエスはまだ眠いのか「……くぁ」と可愛らしい声で欠伸をしながら、しなやかな身体を大きく伸ばした。
美しい翡翠色の髪は寝癖がついており、髪をくしゃくしゃと掻き回しながら、時折口からは意味不明な声を漏らす。
どうやらアニエスは朝が弱いようだ。
俺は眉間を押さえつつアニエスに問いかける。
「アニエス……なんで俺のベッドに潜り込んできたんだ?」
「……何となく?」
「何となくって、あのな……男性と女性は同じベッドで寝ちゃダメなんだ」
「……何で?」
「何でって……それは、だな……くっ、エルザ! 任せた!」
「へっ!? 私!?」
急に話を振られたエルザが目をパチクリと瞬かせる。
俺はエルザから目を逸らし、曖昧に返事をした。
「そうだ。そう! 女性同士の方が説明もしやすいだろう?」
「それは、そうかもしれないけど……あぁ、もう! アニエス! ちょっとこっちに来なさいっ」
エルザがアニエスを引き連れて再度部屋の中に入っていく。
エルリックが呆れ顔で俺の方を見ているが、この手の説明は俺がするよりもエルザの方がいいに決まっている。
俺は視線に気づかないフリをした。
暫くするとアニエスを伴ってエルザが部屋から出てきた。
エルザは何だか疲れた表情をしているが、アニエスは細い小首を傾げている。
そこはかとなく不安を感じ、俺はエルザに問いかけた。
「エルザ……アニエスは理解してくれたのか?」
「はぁ……一応ね。……そうよね、アニエス?」
「……多分?」
エルザは額に手を当て天を仰ぐ。
俺は大きく溜め息を吐きつつ、アニエスに諭すように話しかける。
「アニエス。エルザが言った事を理解しなくてもいい。
但し、今度から俺のベッドに潜り込まないようにしてくれ。
それなら出来るだろ?」
「……カーマインは一緒に寝るの、イヤ?」
ひょいっと上目遣いをして、下から俺の顔を覗き込んでくるアニエス。
無表情ながら俺の顔を映し出す、純粋な翡翠色の瞳に思わず唸り声を上げる。
「ぅ……イヤではないんだ。ただ、恥ずかしくてな。
……誰かと一緒に寝たいのであれば、エルザにしてくれないか?」
「……カーマインが困る?」
俺がそう呟くと、一拍置いてアニエスが問い返してきたので、小さく頷くことで答える。
「……分かった。気をつける」
「そうか……。助かるよ」
アニエスの一言でその場に居た俺達は皆ホッと息を吐く。
そこに飛んでくる人影が――。
「あれ~? 皆どうしたの?」
全てが終わった後に現れて間の抜けた声を出すリルに、俺達全員が肩を落としたのは言うまでもない。
――そんな朝の一幕だった。
久しぶりの王都で夕食をしっかり食べ、柔らかいベッドで眠った。
ここ最近はミノタウロスやキマイラといった魔物から、魔族であるマモンも含めて連戦が続いていた……疲れが出たというか、溢れたのだろう。
【生命癒術】を使っても身体の疲れが取れないとはよっぽどだな、と俺は考えていた――のだが、どうやら違うことに直ぐ気付く。何故なら……
「……ん……ぅ」
声を漏らしながらシーツの中で身じろぎしたのは、アニエスだ。
俺に抱きついている為、その柔らかな膨らみは俺の身体に押し付けられた状態になっている。
エルザと同じ部屋で寝ているはずのアニエスが何故?
いやそれも気になるが、アニエスは何故――何も着ていないんだ?
俺は慌ててベッドから這い出て、アニエスにシーツをかけ直す。
こんな場面をもしエルザに見られたら――。
バンッと大きな音を立てて扉が開く。
現れたのはもちろん――。
「お早う、カーマイン。アニエスが見当たらないんだけど、知らない?」
「お、お早う、エルザ。いや、知っているといえば知っているし、知らないといえば知らないというか……」
エルザの瞳が鋭く光る。
「あら? 貴方のベッドが膨らんでいるような気がするのだけれど、誰がいるのかしらね」
「そ、それは……」
俺の背中から冷や汗がダラダラと流れ落ちる。
必死で理由を考えるが何も思いつかない。
そんな俺に追い打ちをかけるように、シーツからアニエスが這い出てきた。
「……んぅ……? お早う。カーマイン、エルザ」
ベッドから這い出たアニエスは、瞼を擦り、大きく伸びをする。
もちろん裸の状態でだ。
「ちょっと!? アニエス! 貴女、服は! せっかく買った下着や服はどうしたのっ!?」
「……寝るには邪魔だったから、脱いだ」
アニエスが指差す先には脱ぎ捨てられた服と下着が。
「ああ、もぅ! 早く着なさいよっ! カーマインは外で待つ!」
「わ、分かった!」
俺はエルザの言葉で直ぐに外に出る。
扉を閉めると廊下の奥からエルリックが現れた。
「やぁ、カーマイン。お早う。よく眠れたようだね」
「……お早う、兄さん。兄さんは、その、アニエスに気づいてたのかい?」
「そりゃもちろん。夜中にゴソゴソ音がするから何事かと目を凝らしたらアニエスで、しかも服を脱ぎ始めたんだからね。
直ぐに見えないフリをしてベッドに潜ったよ」
苦笑しながら答えるエルリックに俺は口を大きく開く。
「気づいてたんなら、すぐ起こすなりエルザに知らせるなりしてくれればいいじゃないかっ!」
「あはは、いや、ごめんごめん。あまりにアニエスから敵意や害意といったものが感じられなかったからね。
カーマインに危険がないならいいかな、と」
「~~~~ッッ」
エルリックの言葉に俺は声にならない声を上げ、ガックリと頭を垂れる。
仮にも元・護衛騎士の言葉とは思えない。
と、そこで扉が開き、部屋からエルザとアニエスが出てきた。
「お待たせ。もういいわよ。あら? エルリックじゃない、お早う」
「あぁ、お早う。それと、アニエスもお早う」
「……お早う」
アニエスはまだ眠いのか「……くぁ」と可愛らしい声で欠伸をしながら、しなやかな身体を大きく伸ばした。
美しい翡翠色の髪は寝癖がついており、髪をくしゃくしゃと掻き回しながら、時折口からは意味不明な声を漏らす。
どうやらアニエスは朝が弱いようだ。
俺は眉間を押さえつつアニエスに問いかける。
「アニエス……なんで俺のベッドに潜り込んできたんだ?」
「……何となく?」
「何となくって、あのな……男性と女性は同じベッドで寝ちゃダメなんだ」
「……何で?」
「何でって……それは、だな……くっ、エルザ! 任せた!」
「へっ!? 私!?」
急に話を振られたエルザが目をパチクリと瞬かせる。
俺はエルザから目を逸らし、曖昧に返事をした。
「そうだ。そう! 女性同士の方が説明もしやすいだろう?」
「それは、そうかもしれないけど……あぁ、もう! アニエス! ちょっとこっちに来なさいっ」
エルザがアニエスを引き連れて再度部屋の中に入っていく。
エルリックが呆れ顔で俺の方を見ているが、この手の説明は俺がするよりもエルザの方がいいに決まっている。
俺は視線に気づかないフリをした。
暫くするとアニエスを伴ってエルザが部屋から出てきた。
エルザは何だか疲れた表情をしているが、アニエスは細い小首を傾げている。
そこはかとなく不安を感じ、俺はエルザに問いかけた。
「エルザ……アニエスは理解してくれたのか?」
「はぁ……一応ね。……そうよね、アニエス?」
「……多分?」
エルザは額に手を当て天を仰ぐ。
俺は大きく溜め息を吐きつつ、アニエスに諭すように話しかける。
「アニエス。エルザが言った事を理解しなくてもいい。
但し、今度から俺のベッドに潜り込まないようにしてくれ。
それなら出来るだろ?」
「……カーマインは一緒に寝るの、イヤ?」
ひょいっと上目遣いをして、下から俺の顔を覗き込んでくるアニエス。
無表情ながら俺の顔を映し出す、純粋な翡翠色の瞳に思わず唸り声を上げる。
「ぅ……イヤではないんだ。ただ、恥ずかしくてな。
……誰かと一緒に寝たいのであれば、エルザにしてくれないか?」
「……カーマインが困る?」
俺がそう呟くと、一拍置いてアニエスが問い返してきたので、小さく頷くことで答える。
「……分かった。気をつける」
「そうか……。助かるよ」
アニエスの一言でその場に居た俺達は皆ホッと息を吐く。
そこに飛んでくる人影が――。
「あれ~? 皆どうしたの?」
全てが終わった後に現れて間の抜けた声を出すリルに、俺達全員が肩を落としたのは言うまでもない。
――そんな朝の一幕だった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる