王女になるのはこの私

pkopko0515

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いつから孤児院にいたかは覚えていない。


でも気づいたらすぐそこにはウィラがいた事だけは覚えている。


私達は同じ孤児院出身の幼馴染だった。いや、もう家族と言っても遜色ないくらい一緒にいた。


同じ赤茶髪に同じ赤い瞳、同じ体型。


顔は違えど後ろ姿はそっくりで、何度孤児院の子達に間違われたか分からない。


ウィラは上品な子だった。幼い頃に見たおとぎ話のプリンセスに憧れて、プリンセスになりきっていた。


食事の時だって、食い散らかす子供たちが多い中静かに綺麗に食べてたし、歩く姿勢だってシャンと背筋を伸ばすことを意識しているようだった。


そう、あくまで「意識している」上品さだった。育ちはどうしても滲み出る。所々に出てくるボロが、お高く止まっている本物のプリンセスより逆になんだか好きだった。



対して私は男の子みたいなやんちゃな奴で、孤児院で1番喧嘩もしてたし、編み物よりおもちゃの剣で遊ぶのが好きだった。



よく怪我をする私を手当てしてくれたのはいつもウィラだった。


そう。優しい子だったのだウィラは。














私が庭師の弟子になる前の話だ。


孤児院に突然王宮からの使いがゾロゾロとやってきた。


なんだなんだと窓には子供が張り付き、こんな孤児院に一体なんの用だと院長先生が緊張した面持ちで対面する。


客室から漏れた話を私はしっかりこの耳で聞いてしまった。


「15年前、この国で反乱がありましたでしょう。その時、産まれたばかりの王女を安全な場所に避難させる事を皇太后様に命じられた者がおりましてね。」


「しかし、王女は道中でお亡くなりになられたのでは…」



「それは王室が流したデマです。本当は未だご存命であり、そして先日、王女はこの孤児院にいらっしゃる筈だという事を突き止めました。」


その声に皆がザワつく。貴族でもなく王族、それもプリンセスがこの中にいる!と言う真実に皆は一体誰なんだと思いを馳せた。


15年前に産まれたばかり。という事は15歳の年長者だろう。15歳の女の子はローズとエミリーとシンディとウィラ、後…



「な、なにかの間違いでは?」



「いいえ、いらっしゃる筈です。居ますでしょう。前国王陛下の遺伝子を引く、栗色の御髪に赤い瞳のお嬢さんが。プリンセス・マルディータ。確か現在のお名前は、アンジェ、と。」



――――――私。



周りの子供達が一斉にこちらを見るのが分かった。


私はまさか自分だとは思わずアホみたいに口をポカンと開けたままだった。


「アンジェ?」


「アンジェ、プリンセスだったの?」


「嘘」


こっそり聞く気なんて全くないほどのざわつきを見せる子供達を、「静かに、院長先生に叱られるよ」等と年長者らしく窘める気なんて私には起きなかった。



それどころか、これを夢だとすら思うようになるほど現実味がなくて理解できなかった。



私が、プリンセス。だからなんだって話だ。今更何をしに来たんだこの人達は。今まで放っておいて?



「それで、その子…アンジェをどうしようと?」



「本日はお迎えに参ったのです。アンジェ様には、プリンセス・マルディータ様として、王宮にお戻りになられて欲しいと。マルディータ様の兄君である陛下のご決断です。準備は既に整っております。宜しければ、今すぐにでも。」



私はその言葉を聞くや否や駆け出した。冗談じゃない。


この孤児院は16歳になると出ていかねばならず、就職して働く事になっている。あと1ヶ月もあれば私は16歳で、この孤児院を出て行って庭師に弟子入りをするつもりだったのだが。


共同寝室に駆け込み自分の荷物を大急ぎで纏める。溜め込んで夜中にこっそり食べてたお菓子も全部トランクケースに入れる。心無しか手が震えていた。



「…アンジェ。」



誰もいない部屋に響く柔らかい声。振り返らなくても分かる。ウィラが後ろに立っていた。



「王宮に行くの?」


ウィラは私が王宮に行くために荷物を纏めているのだと勘違いをしたのか、複雑そうな顔だった。



「馬鹿言わないで。…私みたいな奴がプリンセスなんて冗談じゃない。私には私のやりたい事があるんだよ。」


「もうすぐ庭師の仕事に就く貴方が何を言うのよ、貴方庭いじりなんて好きでしたっけ。」



分かってるくせに。庭いじりは可もなく不可もなく、虫も平気だし花は綺麗だけど食べれる植物の名前を知ってるとか、そんな感じ。大好きってほどでは無い。


大好きなこと、って言ったら、やっぱり剣を振り回す事。でも女の子だから剣士になんてなれっこないから夢なんて見てない。


でも明らかにあのままほいほい着いて行きたくない、という思いだけはあった。


「今まで散々ほっといて、今更迎えにだって?!頭にくるよ!生憎私は税をふんだんに無駄遣いして国民を苦しめる王族なんかの仲間入りはしたくないの!」



私はトランクケースを引っ掴んでウィラの横を通り過ぎようとする。


「じゃあ、どこに行くの?」


ウィラは俯いていた。


「庭師のファーチェさんの所。ちょっと早いけど、弟子入りさせてもらって泊まり込みで仕事をさせて貰う。」



「王宮はきっと貴方を探すわ。」



「…逃げればいいんだよ」


「そこまでしてプリンセスになりたくないの?どうして?なんでも出来るのよ?もう空腹を我慢しなくてもいい、綺麗なものも沢山見れる、いい服も着れるのよ。」



「そんなの興味無い!」


鋭く私は声をあげて、ウィラの横を通り過ぎた。


それがウィラと私の最後の会話だった。


あまりにも酷い別れ方、でも、私もウィラも正直混乱していたのだ。


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