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第一章 旅立ちの前に
第89話 雷と機械の国マキーナ
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「馬鹿な! こんな魔人、殺して何が悪い!」
それは研一が召喚されるより、二十年近くも昔の話。
かつて雷の国と呼ばれていたマキーナ国の国王である男は、怒りに狂っていた。
「コイツのせいで娘は死んだんだぞ! 私の後を継いで国を背負う筈だった娘を殺しておいて、それでも生かせと言うのか!」
それも無理からぬ事かもしれない。
知恵と魔力に優れ、将来を嘱望されていた男の愛娘であったが、魔族との戦いの果てに囚われてしまい――
その魔族の子どもを孕まされた果てに、その命を失ったのだ。
――人が魔族の子を孕んでしまった場合、出産と同時にその生命力を子どもに奪い尽くされて死んでしまう。
子どもがお腹に宿った時点で、母となる人間に選べる道は二つだけ。
お腹の子諸共々、誰かに殺してもらうか。
あるいは、自らの命と引き換えに子どもを産み落とすか。
「私だって殺してやりたいくらいです。ですが、それがあの娘の最期の願いですから……」
そして、娘は子を産む道を選んだのだと男の妻は答える。
どちらにせよ自分が死んでしまうのなら、まだ罪も何も犯してない子を道連れにするのは忍びないという想いで。
「罪も何も犯していない、だと。娘の命を奪う事以上の罪がどこにあると言う!」
「…………」
いくら魔族の血を引いているとはいえ、まだ胎児でしかない子どもに、意志などない。
ただ強過ぎる魔族の力を宿した子どもを産むのに、人では耐えられない結果、必ず母体が死んでしまうのだが――
そんな話で納得して割り切れる男や妻ではなかった。
「それならば殺すに足るだけの理由を付けてやろうではないか! コイツをアレの専属の世話係に任命してくれるわ!」
アレとはマキという名の、男が妾に生ませた子どもの事だ。
男は国王に相応しい絶大な魔力を持っていたというのに、男の実子である筈の娘は、あまりにも乏しい魔力しか持ち合わせておらず――
おまけに生まれながら病のようなモノを患っているらしく、近い内に死ぬだろうと噂されている、まだ生後間もない赤ん坊の事だった。
「それは良い案ね。これであの出来損ないにも生まれてきた意味があるというモノだわ」
党首の血を引いているにも関わらず魔力が低いから男からは、世継ぎにも出来ない無価値な存在として扱われ――
妻からは妾の子として疎まれていたマキ。
「そうだろう? これでアレが死ねば、責任は全てコイツのモノ。王族を殺したのだ。死罪でも飽き足らん。苦しませた上で死なせてくれるわ!」
愛される事もなく、死さえ望まれていた娘であったが――
運命というのは数奇なモノらしい。
王達の予想を裏切り、マキは病に抗いながら生き続け。
世話係である魔人のメイドと共に、健やか過ぎる程に成長していき――
「おーほっほっほ。魔力が全て、魔力が少ない人間なんて家畜も同然なんて価値観は古いにも程がありましてよ!」
「ええ、その通りです、マキ様。時代遅れの父君と母君には、この世から速やかに退場して頂きましょう」
ついには十五という若さにて、自らの父である王を打ち倒し、王座を奪い取ったのだ。
腹心である従者、プロディ・トラシオと共に。
「それでは愚かな王が使い潰してきた国を立て直していきますわよ、ディー」
「はい、マキ様」
そして、それから数年の時が流れ。
かつて雷の国と呼ばれていたマキーナ国は、マキの手によって雷と機械の国と呼ばれるまでに、急激に文明を発展させていく。
けれど――
「またですの! 魔導人形だって、無料じゃないんですのよ!」
「おそらく魔族の仕業でしょう。最近ではサラマンドラ国とドリュアス国に、魔族からの侵攻があったと聞いております」
ようやく国の立て直しに目途が立ち、上手く回り始めた頃。
防衛に配備していた魔導人形が破壊される事件が立て続けに起きたのだ。
「仕方ありませんわね。まだ元国王派閥の人間も排除し切れてない時期に外部の人間を入れたくはありませんでしたが、背に腹は代えられませんわ」
「というと、あの件ですね?」
「ええ。サラマンドラ国の党首が異世界から呼び寄せたと噂の、救世主様とやらの件。前向きに検討していこうと思いますわ」
こうして雷と機械の国、マキーナ国は。
サラマンドラ国に救世主の救援を依頼する事にしたのであった。
--------------------------
申し訳ありません。
予約設定間違えて、先週は投稿出来ていませんでした。
今週からは毎週、更新します。
それは研一が召喚されるより、二十年近くも昔の話。
かつて雷の国と呼ばれていたマキーナ国の国王である男は、怒りに狂っていた。
「コイツのせいで娘は死んだんだぞ! 私の後を継いで国を背負う筈だった娘を殺しておいて、それでも生かせと言うのか!」
それも無理からぬ事かもしれない。
知恵と魔力に優れ、将来を嘱望されていた男の愛娘であったが、魔族との戦いの果てに囚われてしまい――
その魔族の子どもを孕まされた果てに、その命を失ったのだ。
――人が魔族の子を孕んでしまった場合、出産と同時にその生命力を子どもに奪い尽くされて死んでしまう。
子どもがお腹に宿った時点で、母となる人間に選べる道は二つだけ。
お腹の子諸共々、誰かに殺してもらうか。
あるいは、自らの命と引き換えに子どもを産み落とすか。
「私だって殺してやりたいくらいです。ですが、それがあの娘の最期の願いですから……」
そして、娘は子を産む道を選んだのだと男の妻は答える。
どちらにせよ自分が死んでしまうのなら、まだ罪も何も犯してない子を道連れにするのは忍びないという想いで。
「罪も何も犯していない、だと。娘の命を奪う事以上の罪がどこにあると言う!」
「…………」
いくら魔族の血を引いているとはいえ、まだ胎児でしかない子どもに、意志などない。
ただ強過ぎる魔族の力を宿した子どもを産むのに、人では耐えられない結果、必ず母体が死んでしまうのだが――
そんな話で納得して割り切れる男や妻ではなかった。
「それならば殺すに足るだけの理由を付けてやろうではないか! コイツをアレの専属の世話係に任命してくれるわ!」
アレとはマキという名の、男が妾に生ませた子どもの事だ。
男は国王に相応しい絶大な魔力を持っていたというのに、男の実子である筈の娘は、あまりにも乏しい魔力しか持ち合わせておらず――
おまけに生まれながら病のようなモノを患っているらしく、近い内に死ぬだろうと噂されている、まだ生後間もない赤ん坊の事だった。
「それは良い案ね。これであの出来損ないにも生まれてきた意味があるというモノだわ」
党首の血を引いているにも関わらず魔力が低いから男からは、世継ぎにも出来ない無価値な存在として扱われ――
妻からは妾の子として疎まれていたマキ。
「そうだろう? これでアレが死ねば、責任は全てコイツのモノ。王族を殺したのだ。死罪でも飽き足らん。苦しませた上で死なせてくれるわ!」
愛される事もなく、死さえ望まれていた娘であったが――
運命というのは数奇なモノらしい。
王達の予想を裏切り、マキは病に抗いながら生き続け。
世話係である魔人のメイドと共に、健やか過ぎる程に成長していき――
「おーほっほっほ。魔力が全て、魔力が少ない人間なんて家畜も同然なんて価値観は古いにも程がありましてよ!」
「ええ、その通りです、マキ様。時代遅れの父君と母君には、この世から速やかに退場して頂きましょう」
ついには十五という若さにて、自らの父である王を打ち倒し、王座を奪い取ったのだ。
腹心である従者、プロディ・トラシオと共に。
「それでは愚かな王が使い潰してきた国を立て直していきますわよ、ディー」
「はい、マキ様」
そして、それから数年の時が流れ。
かつて雷の国と呼ばれていたマキーナ国は、マキの手によって雷と機械の国と呼ばれるまでに、急激に文明を発展させていく。
けれど――
「またですの! 魔導人形だって、無料じゃないんですのよ!」
「おそらく魔族の仕業でしょう。最近ではサラマンドラ国とドリュアス国に、魔族からの侵攻があったと聞いております」
ようやく国の立て直しに目途が立ち、上手く回り始めた頃。
防衛に配備していた魔導人形が破壊される事件が立て続けに起きたのだ。
「仕方ありませんわね。まだ元国王派閥の人間も排除し切れてない時期に外部の人間を入れたくはありませんでしたが、背に腹は代えられませんわ」
「というと、あの件ですね?」
「ええ。サラマンドラ国の党首が異世界から呼び寄せたと噂の、救世主様とやらの件。前向きに検討していこうと思いますわ」
こうして雷と機械の国、マキーナ国は。
サラマンドラ国に救世主の救援を依頼する事にしたのであった。
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申し訳ありません。
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