憎まれ救世主 ~憎まれる程に強くなる力のせいで、マトモに話す事も出来なくて地獄なんだが~

お米うまい

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第三章 擦れ違い合う心と思惑

第98話 まさかの日本食染みた料理

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 翌朝。

 非常に不満そうな顔をしたプロディに、朝食の準備が出来ていると言われ、案内されるままに食事が用意されている部屋に赴いた研一であったが――

「こ、これは――!」

 あまりの驚きに悪党の演技すら忘れ、用意されていた食事に視線が釘付けになる。

 ほかほかの御飯のような物に、漬物のように見えるキュウリっぽい野菜。

 どう見ても豆腐の味噌汁にしか見えない物体からは、懐かしい味噌の香りが漂い――

 鮭の塩焼きにしか見えない物体には、大根おろしのような物が添えられている。

 ――それが洋風のバイキングにでも使えそうな長台に乗っているのは、見慣れなくてシュールに研一には感じた。

(食器こそ、何かよく解からない素材で出来ているけど――)

 ガラスなんだかプラスチックなんだか、イマイチ解からない見慣れない器に盛り付けられているものの――

 箸だってあるし、何か醤油みたいな物が入っている容器すらあって。

 どこをどう見ても、日本食にしか思えない。

「あの、研一様? 何か――」

 あまりに様子がおかしい研一の姿に、先に待っていたマキが何か失礼な事でもしてしまったのかとばかりに、恐る恐る声を掛けてくるが――

 研一はそれに気付く余裕もなく、箸を手に取ると食事を始める。

「……」

 いくら見た目が似ていても、異世界なんだし全然違う物に違いない。

 無意識にそんな保険を掛けていた研一であったが、一口食べた瞬間に理解した。

(米だ……)

 日本で食べ慣れている物に比べれば、触感や風味などに違いは確かにあっただろう。

 けれど、それはコシヒカリ系の米を食べ慣れている者が、ササニシキ系の米を食べた程度の違いでしかなく――

 十分に日本を思い出させる味であった。

「…………」

 懐かしさに打ち震えそうになるものの、そこで止まらず研一は更に箸を進めていく。

 鮭っぽい切り身の端を僅かに崩して魚だけの味を確かめ、次は大根おろしのような物を僅かに添え、醤油を垂らした味も確かめる。

「ああ、これだ。これが食べたかったんだ……」

 まだ味噌汁も漬物にも手を付けていないが、それでも研一は感動でそんな声が漏れ――

 涙を流さずには居られなかった。

 それ程までに懐かしさを感じる味であり――

 もし全ての素材を日本から取り寄せられたと言われれば、信じるしかない程に見た目通りの味だったのだ。

「う、うぅ……」

 そこで聞き慣れない声が響いてきて。

 研一は初めて、自分がマキ達に食事に呼ばれたのだと思い出し、声のした方に目を向ける。

(え、何だ? これどういう状況!?)

 マキが涙を流していた。

 見たところ、マキ自身の食事には一切手を付けていないらしく、どう考えても自分の行動が原因だとは研一も解っているのだが――

(え、俺、何したんだ!?)

 昨日のプロディの話を聞いていたのだから、泣かれるくらい嫌われている可能性自体はある。

 だが、このタイミングで突然泣き出すとなれば意味が解らない。

「嬉しいですわ、研一様」

 迂闊に動けずに戸惑う事しか出来ない研一に。

 マキの口から放たれたのは、あまりに予想外の言葉であった。

「私の料理をそんなに喜んで下さった方は、貴方様が初めてですの」

「お、おう……」

(しまった! ここは、救世主様にこんな貧相な物しか出せねえのかなんて言うべき場面だったか!?)

 これでは折角、昨日わざと嫌われるような事を言ったのに無駄になると思い。

 今から好感度を下げるような事が出来ないかと、研一は慌てて口を開こうとするが――

「……マキーナ国は元々、狩猟国家でした。戦闘に向いた雷魔法を駆使し、獣を狩り、魔族などから奪う事で日々の糧を得ておりました」

 まるで研一に余計な事を言うなと言わんばかりに。

 思考を遮るようにプロディが言葉が響いていく。

「ですが、それでは何れ限界が来ると危惧したマキ様が、国内で生産出来る食べ物を各地から取り寄せ試行錯誤し、生産体制を整えられて、普及させようとしているのが、そちらのお米になります」

(それなら相当に喜ばれたんじゃないか?)

 プロディの言葉に研一は、疑問しか浮かばない。

 危険な上に不安定な狩猟等に比べれば、食糧が安定化出来る農業の発展は諸手を上げて賛成される事にしか思えないが――

 次のプロディの言葉に、それは平和な日本で生きてきた、研一側の視点でしかないのだと思い知らされる。

「ですが、戦いで生計を立てていた旧体制の方々からは、猛反発を受けました。魔力のないマキ様が復讐の為に、魔力のある者達の仕事を奪い、国から追い出そうとしているのだ、と」

 ただマキ様は、飢える人を少しでも減らしたかっただけですのに。

 なんてプロディは怒りと悔しさを隠しもせず、憎々しげに吐き捨てた。

「今でこそ魔族への襲撃の為に配置している警備用の魔導人形なのですが、元々は田んぼを壊そうとする自国の民の為に開発したんですのよ……」

 きっとそんな言葉だけでは済まされない苦労が、たくさんあったのだろう。

 マキは寂しそうに笑ったかと思うと――

「本当は皆様の言うように私のやってる事なんて、皆様を怒らせるだけの事でしかないなんて思っていたんですけど、こうして喜んで頂けるなんて、挫けずに続けて来て本当に良かったですわ……」

 涙を零しながら儚げに笑う。

 国民に理解して貰えなかったとしても。

 研一を喜ばせる事が出来たのなら、それだけで満足だと言いたげに。

(いや、無理だよ、こんなの……)

 さすがに悪党演技を続けてきた研一でも、今このタイミングでマキの気持ちを踏み躙る言葉は、どうしたって絞り出せなかった。

 むしろ、これで余命幾許もないなんて、あまりにも惨過ぎるという同情の想いしか湧いてこなくて。

「……おい、メイド。ぼさっと突っ立ってんじゃねえよ。飯のお代わりだ」

 せめて態度くらい悪くしとこうと。

 研一は涙ぐむマキの顔を見ないように、プロディにそんな言葉をぶつけたのであった。
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