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終幕 これは始まりの物語
第43話 別々の旅路へ
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「アンタ、一体――」
あまりにも衝撃過ぎて、御礼を言うのすら忘れて。
驚きのままに狐面男の正体を問うような声が漏れ出す。
「これに懲りたら、あんな救世主とは名ばかりのゴミを庇うのなんて止めた方がいい。次はこんなのじゃ済まないかもしれないんだからさ」
けれど狐面男は、シャロンの問いに全く答える気なんてないとばかりに無視して。
忠告とは名ばかりの命令染みた強さで、シャロンにそんな言葉を送る。
「…………」
一方的に救世主を悪人だと決め付ける態度に、シャロンは足を治してもらった事なんて忘れて、何か苛立つモノを感じる。
(ああ、そうか。そういう事だったんだ……)
そしてシャロンは気付いてしまった。
どうして自分があんな馬鹿げた行動を取ってしまったのかを。
「足を治してくれた事は感謝してるけどね、大きなお世話! 私が何を信じて誰を庇うかなんてのは、私が決める!」
多分、本質的には救世主の事どころか、センの事だってシャロンからすれば、どうでもよかったのだ。
ただ何も知らない奴に、一方的に決め付けられるのが嫌だっただけ。
「大体さあ! 身体で誘惑しただけの下賤な女だとか、子どもの癖に男を誑かす魔族との混血に相応しい浅ましい女だとか、下半身だけでしかもの考えられない男だから誑かすのは簡単だったろうとかさあ! 何も知らない奴が一方的に噂で決め付けんなっつーの!」
旅芸人であり煽情的な踊りもする事が多いシャロンは、色々な事を言われ続けてきた。
団長に身体で取り入っている。
生まれ付き見た目が良い奴は適当に腰振ってるだけで金を貰えて楽な人生。
これだから踊りの才能のある奴は、だなんてモノもあった。
けれど――
「こっちはこっちで苦労して努力だってしてんのよ! いつ捨てられて変態親父に売られるか解からない! 踊り以外に何もなかったから必死で磨いて守り続けてきたのよ!」
その度に何も知らない奴が外野から好き勝手喚くなと鬱憤を募らせてきた。
その怒りを気力に変え、踊りだけで一人で生きていけるようになって、全員見返しやるんだと糧にしてきており――
今回の事だって変わらない。
結果的に研一やセンの味方をする事になっただけで、ただ己の意地を守り続けただけの話。
「えっと……」
突然脈絡も解からない内容で怒鳴り散らすシャロンに、狐面男は戸惑いを隠せない。
何を言えばいいのかと迷い言葉を探していたが――
「確かにアイツは女を集めてた。こんなゴミのような事を平気で言う男が居るんだって私も思ったわよ。そこまでは認めてやる!」
白熱し始めたシャロンは、そんな事など気付かない。
おどおどと狐面男が何も言い返せてないのをいい事に、一方的に捲くし立てていく。
「けどね、アイツは私に指一本触れちゃいない! 多分、センちゃんにだってね! 何も知らない癖にピーピーギャーギャー、私に指図してくんな!」
足を治してもらった事には感謝しているが、それはそれ。
それで恩を着せて、自分の生き方にまで口を出されてやる理由なんてない。
「大体、言いたい事があるならこんな面なんて付けずに顔出して言えって――」
「あっ――」
怒りに任せて話をしながら狐面を剥ぎ取るシャロンであったが、そこでお互いに驚きを隠せず、言葉が止まる。
狐面の下から現れたのは、丁度会話の中心となっている救世主、研一の顔であった。
「……ねえ、何なの? アンタってセンちゃんの時といい、逆恨みでもされないと死ぬ病気にでも掛かってる訳?」
「…………」
あながち間違いでもなかった。
病気ではなくスキルで、弱ければ結果的に死活問題になると考えれば完璧に近い推測と言えたであろう。
「まあ何か変な事情があるんだろうってのは解かるけどさあ。偶々何とか生き残れただけで、むしろ生きてたのが奇跡くらいだし、ちょっとくらい事情聴く権利あると思うんだけど?」
「あー、その、えっとですね――」
まさか狐面を剥ぎ取ってくるとは想像しておらず、ほとんど素の口調で話してしまっていた。
おまけに、もはや悪ぶっていたのが完全にバレている状態で今更悪人演技なんてしても意味なんてないだろうという思いもあり、研一は素の口調で大まかに自分のスキルの特性に付いて説明していく。
――確かにシャロンには聞くだけの権利があると思ったから。
「……本当に神様って禄でもない奴ね。っていうかアンタに向いてないわよ、その神様の加護というか、スキルってヤツ?」
全てを聞いたシャロンの目に浮かんでいたのは同情の色だけだった。
そこに怒りもなければ敵意もなく、ただただ研一の手に入れたスキルの面倒臭い仕様に憐みの色だけが瞳に漂う。
「まあ、うん。話は解かったし納得もした。アンタも苦労してんのね」
「その、今回は俺達を庇ったせいで本当に申し訳――」
「なーに景気悪い顔してんのよ!」
そこで謝ろうと研一が口を開いた途端、バンバンと研一の背中を叩いてシャロンは続きを言わせないようにする。
「さっきも言ったでしょ? 私は私がやりたいようにやっただけ。それにさ、足だって治った上に姫様から貰った大金だけが丸々残った。アンタ達を庇った結果、結局は私のボロ儲けで終わったんだからさ。笑ってなさいよ」
本当に謝られるような事なんてなかったからだ。
むしろ会ったばかりの相手を庇うなんて馬鹿な事をしただなんて思っていたのに、それ等が全て引っ繰り返って、良い気分ですらあった。
――おそらく一番は庇った相手が庇うだけの価値があったと解かった事が何よりも嬉しかったのだろうが、そこにはシャロンは気付けなかった。
「にしてもそうかあ。憎まれる程に強くなる、ねえ……」
「ええ。なのでバレると困るというか、その――」
「解ってる解ってるって。でもアレよ? この世の全員に憎まれなきゃいけないって訳じゃないんでしょ? 信じられる奴には話しといた方がいいわよ? じゃないとアンタ真面目そうだし一人で抱え込んで潰れちゃうって」
「それは――」
きっとシャロンの言い分が正しいのだろうとは研一も思う。
サーラやベッカにだけ事情を話して、もっと上手く立ち回っていればシャロンに怪我をさせる事はなかっただろう。
けれど――
(演技がベッカにバレた瞬間、アレだけ力が落ちたんだ。全部知られたら、どこまで力に影響があるか解からない)
それ以上にリスクの方が大きく感じるなんてそれらしい言い訳を並べて、どうしても二人を巻き込みたくなんてなかった。
――全てバレているとは全く気付いていなかった。
「まあいいわ。それを決めるのもアンタの人生だしね。それで? これからどうする気なの?」
「暫くはサラマンドラ国の復旧を手伝おうと思っています。何か力が暴走した時にお城思いっきり壊してたらしいですし、今回みたいにフェットの残党とかもまだ残っているみたいなので、そいつ等も捕まえておきたいですし」
「本当、その憎まれる程にとかいうヤツ向いてないわよ。ちゃんと魔族は倒して国の危機を救ってやったんだからさ、褒賞でも貰ってさっさと国出ればいいのに」
笑いながら批難するような言葉を告げるシャロンであったが、本音は別にあった。
(そっか。じゃあ、ここでお別れかな)
もし当てがないのなら一緒に旅をしようと誘いたかったが、自分の道は本人が決めるべきだというのがシャロンの考えだ。
もう進むべき道を決めている相手を、迷わすような事なんて言えなかった。
「それじゃあ元気でやんのよ。苦労するだろうけど、自分にだけは負けないようにね」
名残惜しさに足が止まらないよう、離れると決めたならすぐに行動する。
それが旅の極意だと思っているシャロンは全ての想いを胸に秘めて、別れの言葉を口にした。
「はい。シャロンさんもお元気で」
研一もそれに笑って答えた。
無理して悪人の演技をしないで済んでよかったからだろう。
それは普段の無理した顔から掛け離れた、自然で柔らかい笑顔で――
(あーあ。最初からそっちの顔で会えてたら、もっと色々話せてただろうになあ)
シャロンは残念そうに僅かに顔を曇らせる。
顔は元々好みだったのだ。
それで性格までマトモで一人で何もかも背負うくらいに頑張っているともなれば、シャロンとしては色々思うところはあったが――
共には歩かないと決めたのだ。
振り返る事もせず、サラマンドラ国とは違う国に向かって歩き始める。
(さあて。これからは『実録、極悪非道の救世主に泣かされる女達』みたいな題目で踊っていこうかしらね?)
せめてこれからも苦しみ続ける救世主様に。
ほんの少しでも力を届けて上げられる事だけを願って。
あまりにも衝撃過ぎて、御礼を言うのすら忘れて。
驚きのままに狐面男の正体を問うような声が漏れ出す。
「これに懲りたら、あんな救世主とは名ばかりのゴミを庇うのなんて止めた方がいい。次はこんなのじゃ済まないかもしれないんだからさ」
けれど狐面男は、シャロンの問いに全く答える気なんてないとばかりに無視して。
忠告とは名ばかりの命令染みた強さで、シャロンにそんな言葉を送る。
「…………」
一方的に救世主を悪人だと決め付ける態度に、シャロンは足を治してもらった事なんて忘れて、何か苛立つモノを感じる。
(ああ、そうか。そういう事だったんだ……)
そしてシャロンは気付いてしまった。
どうして自分があんな馬鹿げた行動を取ってしまったのかを。
「足を治してくれた事は感謝してるけどね、大きなお世話! 私が何を信じて誰を庇うかなんてのは、私が決める!」
多分、本質的には救世主の事どころか、センの事だってシャロンからすれば、どうでもよかったのだ。
ただ何も知らない奴に、一方的に決め付けられるのが嫌だっただけ。
「大体さあ! 身体で誘惑しただけの下賤な女だとか、子どもの癖に男を誑かす魔族との混血に相応しい浅ましい女だとか、下半身だけでしかもの考えられない男だから誑かすのは簡単だったろうとかさあ! 何も知らない奴が一方的に噂で決め付けんなっつーの!」
旅芸人であり煽情的な踊りもする事が多いシャロンは、色々な事を言われ続けてきた。
団長に身体で取り入っている。
生まれ付き見た目が良い奴は適当に腰振ってるだけで金を貰えて楽な人生。
これだから踊りの才能のある奴は、だなんてモノもあった。
けれど――
「こっちはこっちで苦労して努力だってしてんのよ! いつ捨てられて変態親父に売られるか解からない! 踊り以外に何もなかったから必死で磨いて守り続けてきたのよ!」
その度に何も知らない奴が外野から好き勝手喚くなと鬱憤を募らせてきた。
その怒りを気力に変え、踊りだけで一人で生きていけるようになって、全員見返しやるんだと糧にしてきており――
今回の事だって変わらない。
結果的に研一やセンの味方をする事になっただけで、ただ己の意地を守り続けただけの話。
「えっと……」
突然脈絡も解からない内容で怒鳴り散らすシャロンに、狐面男は戸惑いを隠せない。
何を言えばいいのかと迷い言葉を探していたが――
「確かにアイツは女を集めてた。こんなゴミのような事を平気で言う男が居るんだって私も思ったわよ。そこまでは認めてやる!」
白熱し始めたシャロンは、そんな事など気付かない。
おどおどと狐面男が何も言い返せてないのをいい事に、一方的に捲くし立てていく。
「けどね、アイツは私に指一本触れちゃいない! 多分、センちゃんにだってね! 何も知らない癖にピーピーギャーギャー、私に指図してくんな!」
足を治してもらった事には感謝しているが、それはそれ。
それで恩を着せて、自分の生き方にまで口を出されてやる理由なんてない。
「大体、言いたい事があるならこんな面なんて付けずに顔出して言えって――」
「あっ――」
怒りに任せて話をしながら狐面を剥ぎ取るシャロンであったが、そこでお互いに驚きを隠せず、言葉が止まる。
狐面の下から現れたのは、丁度会話の中心となっている救世主、研一の顔であった。
「……ねえ、何なの? アンタってセンちゃんの時といい、逆恨みでもされないと死ぬ病気にでも掛かってる訳?」
「…………」
あながち間違いでもなかった。
病気ではなくスキルで、弱ければ結果的に死活問題になると考えれば完璧に近い推測と言えたであろう。
「まあ何か変な事情があるんだろうってのは解かるけどさあ。偶々何とか生き残れただけで、むしろ生きてたのが奇跡くらいだし、ちょっとくらい事情聴く権利あると思うんだけど?」
「あー、その、えっとですね――」
まさか狐面を剥ぎ取ってくるとは想像しておらず、ほとんど素の口調で話してしまっていた。
おまけに、もはや悪ぶっていたのが完全にバレている状態で今更悪人演技なんてしても意味なんてないだろうという思いもあり、研一は素の口調で大まかに自分のスキルの特性に付いて説明していく。
――確かにシャロンには聞くだけの権利があると思ったから。
「……本当に神様って禄でもない奴ね。っていうかアンタに向いてないわよ、その神様の加護というか、スキルってヤツ?」
全てを聞いたシャロンの目に浮かんでいたのは同情の色だけだった。
そこに怒りもなければ敵意もなく、ただただ研一の手に入れたスキルの面倒臭い仕様に憐みの色だけが瞳に漂う。
「まあ、うん。話は解かったし納得もした。アンタも苦労してんのね」
「その、今回は俺達を庇ったせいで本当に申し訳――」
「なーに景気悪い顔してんのよ!」
そこで謝ろうと研一が口を開いた途端、バンバンと研一の背中を叩いてシャロンは続きを言わせないようにする。
「さっきも言ったでしょ? 私は私がやりたいようにやっただけ。それにさ、足だって治った上に姫様から貰った大金だけが丸々残った。アンタ達を庇った結果、結局は私のボロ儲けで終わったんだからさ。笑ってなさいよ」
本当に謝られるような事なんてなかったからだ。
むしろ会ったばかりの相手を庇うなんて馬鹿な事をしただなんて思っていたのに、それ等が全て引っ繰り返って、良い気分ですらあった。
――おそらく一番は庇った相手が庇うだけの価値があったと解かった事が何よりも嬉しかったのだろうが、そこにはシャロンは気付けなかった。
「にしてもそうかあ。憎まれる程に強くなる、ねえ……」
「ええ。なのでバレると困るというか、その――」
「解ってる解ってるって。でもアレよ? この世の全員に憎まれなきゃいけないって訳じゃないんでしょ? 信じられる奴には話しといた方がいいわよ? じゃないとアンタ真面目そうだし一人で抱え込んで潰れちゃうって」
「それは――」
きっとシャロンの言い分が正しいのだろうとは研一も思う。
サーラやベッカにだけ事情を話して、もっと上手く立ち回っていればシャロンに怪我をさせる事はなかっただろう。
けれど――
(演技がベッカにバレた瞬間、アレだけ力が落ちたんだ。全部知られたら、どこまで力に影響があるか解からない)
それ以上にリスクの方が大きく感じるなんてそれらしい言い訳を並べて、どうしても二人を巻き込みたくなんてなかった。
――全てバレているとは全く気付いていなかった。
「まあいいわ。それを決めるのもアンタの人生だしね。それで? これからどうする気なの?」
「暫くはサラマンドラ国の復旧を手伝おうと思っています。何か力が暴走した時にお城思いっきり壊してたらしいですし、今回みたいにフェットの残党とかもまだ残っているみたいなので、そいつ等も捕まえておきたいですし」
「本当、その憎まれる程にとかいうヤツ向いてないわよ。ちゃんと魔族は倒して国の危機を救ってやったんだからさ、褒賞でも貰ってさっさと国出ればいいのに」
笑いながら批難するような言葉を告げるシャロンであったが、本音は別にあった。
(そっか。じゃあ、ここでお別れかな)
もし当てがないのなら一緒に旅をしようと誘いたかったが、自分の道は本人が決めるべきだというのがシャロンの考えだ。
もう進むべき道を決めている相手を、迷わすような事なんて言えなかった。
「それじゃあ元気でやんのよ。苦労するだろうけど、自分にだけは負けないようにね」
名残惜しさに足が止まらないよう、離れると決めたならすぐに行動する。
それが旅の極意だと思っているシャロンは全ての想いを胸に秘めて、別れの言葉を口にした。
「はい。シャロンさんもお元気で」
研一もそれに笑って答えた。
無理して悪人の演技をしないで済んでよかったからだろう。
それは普段の無理した顔から掛け離れた、自然で柔らかい笑顔で――
(あーあ。最初からそっちの顔で会えてたら、もっと色々話せてただろうになあ)
シャロンは残念そうに僅かに顔を曇らせる。
顔は元々好みだったのだ。
それで性格までマトモで一人で何もかも背負うくらいに頑張っているともなれば、シャロンとしては色々思うところはあったが――
共には歩かないと決めたのだ。
振り返る事もせず、サラマンドラ国とは違う国に向かって歩き始める。
(さあて。これからは『実録、極悪非道の救世主に泣かされる女達』みたいな題目で踊っていこうかしらね?)
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