二年間不眠不休で結界を守り続けた俺、聖女に連れ出されて人生が変わる

オータム

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第3話:私はずっと見ていました。

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その後の守人は無双だった。
剣で触れただけで魔物が絶命し、凄まじい勢いで魔物を狩りながら、二人は東京湾の湾岸エリアの奥深くへと進んでいく。
港にたどり着くと、巨大な影が海面から姿を現した。
東京湾の主、邪悪なるシードラゴン。
全長数十メートルの、海の王。
「……でかすぎるだろ」
守人の剣の間合いよりも、シードラゴンの攻撃可能範囲ははるかに広く、攻撃を避けて近づくのは不可能だとわかる。
守人は覚悟を決めた。
「日陰さん、逃げてくれ。ここまでのようだ」
「嫌です」
「君、何でも嫌って言ってないか? どう考えても俺のスキルで攻撃する前に、ブレスか尻尾で薙ぎ払われるだろ。一応挑戦するけど、死んだ後で俺の心臓のエネルギーコアを取り出す人がいないと困るから、逃げてくれよ」
日陰は守人の腕を掴んだ。
「逃げません。死ぬことを前提にしないでください。私も一緒に戦うので、勝ちましょう」
「いや、君は聖女なんだから、生き延びる義務がある。多くの人が聖女の結界に守られてるんだ」
「私は、あなたにずっと救われてきました。だから、私もあなたを救いたい、一緒に助かりたいんです」
日陰の声は震えていた。
「聖女の結界は、数え切れない魔物の攻撃で摩耗していて、維持するためのエネルギーは枯渇寸前です。この状態では、結界に与えられたダメージは聖女に伝わり、とてつもない激痛に襲われます。先代の聖女は、痛みに耐えきれず精神を壊し、身を投げました」
守人は息を呑んだ。
「でも、結界の裂け目ができてからは、魔物の攻撃がすべてそこに集中しました。二年前からあなたが裂け目を守って、押し寄せる魔物を葬り続けてくれたおかげで、私は……痛みで心を壊すことなく、生きていられたんです」
日陰は涙を浮かべた。
「あなたの戦いを、私はずっと見ていました。岩鉄さんは私の恩人で……憧れの人です。だから、諦めないでください。一緒に、生きて帰りましょう」
守人の胸に、温かいものが灯った。
「……わかった。もうひと踏ん張り、頑張ってみよう」
守人は港の巨大クレーンを見上げた。
「あのクレーンは、ちょうどシードラゴンの頭の上まで伸びている。気付かれないように近付いて、上から飛び降りて、頭に一撃。シードラゴンのコアなら、結界を修復して広げるのに十分なはずだ」
「結構な高さですが、シードラゴンの頭を引っ叩いた後、岩鉄さんはどうなるんですか?」
「それはまあ、何とかする予定だから、日陰さんは離れていてくれ」
「嫌です。二人で戻らないと意味がないと言っているでしょう」
日陰はきっぱりと言った。
「私も一緒にクレーンから飛び降ります。あなたが攻撃した瞬間、私が固有スキルの小結界で包めば安全です」
「小結界? 初めて聞くスキルだな」
「小結界は、防御障壁を展開する、聖女固有のスキルです。一回だけならどんな攻撃でも壊れずに防ぐけれど、強弱に関わらず一回攻撃を受けると壊れてしまいます。一日三回まで使用できます」
「そのスキルなら確かに落下のダメージも防げそうだけど……君、あんな高いところ、登れるのか?」
「当たり前です。聖女と言うと軟弱なイメージかもしれませんが、私は毎日筋トレをしています」
「わかった。そういうことなら、協力してくれ」

守人と日陰はクレーンを登り、海を見下ろした。
シードラゴンは、二人が何をしているかなど気にせず、港の魔物に食いついて飲み込んでいる。
「行くぞ」
「はい。二人を包む形で小結界を展開できるよう、私は岩鉄さんにしがみついて飛び降りるつもりですが、動きにくいですか?」
「大丈夫だ。ホーリーウェポンの追加ダメージのおかげで、一回でも当てればドラゴンも即死のはずだからな」
二人は同時に飛び降りた。
気付かないままのシードラゴンの頭を、守人が剣で切りつける。
そのまま落下していき、地面に衝突する直前、白い障壁が守人と日陰を包み込み、衝撃を吸収した後でパリンと割れた。
「シードラゴンは……!?」
立ち上がって見ると、シードラゴンは生きて、怒りの目を守人に向けていた。
「どういうことだ? 一撃入れたはずだが」
「はい。岩鉄さんは、確かに切りつけていました」
シードラゴンは大きく吠えた。
「人間どもが、生意気なことをしおって!」
「しゃべった!?」
「聖なる力には驚いたがな。我の鱗に、人間の小さな武器の攻撃が効くはずがなかろう!」
「剣のダメージが通っていなかったか……」
日陰は視線を落とし、拳を握りしめた。
「申し訳ございません。私の見通しが甘かったです」
「いや、自分の攻撃力とシードラゴンの防御力、どちらが大きいか見極められなかった俺の責任だ」
ドラゴンは二人を敵と認識して、今にも攻撃を仕掛けようとしている。
再度頭を切りつけて聖属性のダメージを与えるのは至難の業だろう。
「日陰さん、小結界はまだ張れるんだよな?」
「ええ。あと二回だけですが」
「十分だ」
守人は剣を構えた。
「タイミングを間違えずに小結界を張ってくれ。一回目は、俺の剣の柄が日陰さんに突き刺さるのを防ぐため。二回目は、それでも止まらなかったあいつの攻撃を防ぐためだ」
「どういうことです……?」
「この剣、ホーリーウェポンの効果が持続している限りは絶対に折れないんだろ。小結界も一回だけなら絶対に破れない。あいつの尻尾はどうだろうな」
シードラゴンが巨大な尾を振り上げた。
「来るぞ!」
日陰が小結界を展開。
守人はその結界に剣の柄を押し当て、切っ先を迫りくるドラゴンの尾に向けた。
「人間の小さな武器ごときで――」
シードラゴンの嘲笑は、悲鳴に変わった。
絶対に折れない剣。
絶対に破れない小結界。
そして、ドラゴン自身の圧倒的な攻撃力。
強烈な圧力で、剣の切っ先はドラゴンの誇る鱗を貫き、深々と尾に突き刺さった。
直後に聖属性の光が、切り裂かれた肉の中で爆ぜる。
「日陰さん、今だ!」
日陰が二度目の小結界を張り、ドラゴンの尾の衝撃を防いだ。
白い障壁が砕け散ると同時に、シードラゴンは絶叫し、崩れ落ちた。

シードラゴンのエネルギーコアを戦利品に、結界の裂け目に戻ると、兵士たちが拍手で迎えた。
先ほどの皆の態度から、複雑な気持ちで何も言えずにいる守人に、日陰が雑誌を見せてきた。
「守人さん、このお店、桜子さんたちがデートした場所だそうです」
「うん。素敵なお店だね。俺の心の傷口に塩を塗らないでほしい」
「今から一緒に行きましょう。聖女のコネで、当日でも入れていただきます」
日陰は照れたように笑い、守人の手を引く。
「では皆さん、私たちはこれからデートですので、失礼します。結界の修復は後日ですが、近辺の魔物は守人さんがあらかた駆除したので、安心して休んでください」
有無を言わさず、日陰は守人とともに守備基地を後にする。
「あなたのおかげで、この二年間、私は本当に救われていました。いくら感謝してもしきれません。今日は私に奢らせてください」
「これまでの戦いに、意味があったならよかった」
守人は、ようやく心から笑えた。
「……俺、二年ぶりに街に出るんだな」
「大丈夫ですよ。私が案内しますから」
二年ぶりに湾岸前線を離れ、守人は日陰と二人、静かな夜の街へ歩き出した。
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