琥珀の灯火を抱く少年と、誓いに囚われた騎士

大城トモ

文字の大きさ
9 / 101
第一章「利用される者、する者」

居心地の悪い場所 ーレオヴィク視点ー

しおりを挟む
「はぁ、またか」

アンブラリア王国、騎士団団長レオヴィク・カストルは頭を抱えた。
その原因は、自身の部屋の隅で丸まっている一人の子供だ。

「こいつは、なぜベッドで寝ないんだ」

そう問いかける先にいる子供は、数日前にスラム街で犯罪組織とともに暮らしていたリオという子供だ。
十分に栄養が取れてないことから、体の大きさは12歳~13歳といったところだが、聞いてみると15歳くらいだという。
とはいえ、自分でも年齢が本当に15歳なのかはわからないとのこと。
いつからスラムに住んでいるのか、まったく出自が不明なのだ。

そんなリオは、レオヴィクがいない間は部屋を好きに使っていいと言われており
レオヴィク自身も仕事の関係であまり自室に帰ってこないことから、ほぼリオの部屋として利用するような意味合いで伝えていた。
しかし、久しぶりの自室に戻ると、リオは寝ていたのだが、その場所はベッドではなく絨毯すら敷かれていない床の上だった。

初めてここに来た日に、心身ともに疲れているだろうと考え「部屋は好きに使え、寝るときはそこのベッドを使え」といって部屋を出た。
その数時間後に戻ってみれば、今と同じように部屋の隅で丸まって寝ているではないか。

最初はもちろん驚いてリオをたたき起こし、なぜそこで寝ているのかと問いただした。

「あのベッドは、居心地が悪い」

リオはそれだけを言うとまた眠りについた。
結局、レオヴィクは眠りについたリオを抱えてベッドに寝かせる。
抱えたときの体の軽さには心底驚いた。

そしてベッドに寝かせて数分。「うぅ」とうめき声とともにリオが目を覚ました。

「は?なんで俺ベッドにいるわけ?」

「俺が運んだ」

「居心地が悪いっていったじゃん…」

リオはいそいそとベッドから足を下ろし、そして定位置と言わんばかりに再び部屋の隅に戻ったのだ。

「はぁ、まぁ今日はそこでもいいが、これからはそこのベッドで寝ろ。いいな」

この日はまだ仕事が残っていたため、リオの様子を見に来るために少し自室に戻っただけであった。
リオは特に返事はせず、視線だけをレオヴィクに向けまた丸まってその場で眠りだした。

せめて何か体にかけてやろうとベッドから薄手の毛布をとり、リオにかけてやる。
するとリオはハッとこちらを見るが、レオヴィクの顔を見るなり少し寂しそうなそんな表情をしながら毛布にくるまって寝始めた。

レオヴィクは特に何も言わずに部屋を出た。

そして今日だ。あれから数日経ち、リオの面倒はメイド達に任せていた。
食事も少ないがしっかりとってはいる。
ただ、どれだけ言ってもベッドでは寝ないのだとメイドからも報告を受けていた。

案の定、部屋の隅で丸まっているリオを見たレオヴィクは、リオにゆっくりと近づき声をかけようとした。

かけようとしたのだが、リオの顔を見てためらった。
決して声は出していなかったものの、静かに涙を流していた。
魘されているような雰囲気はなく、ただただ閉じた瞳から涙が流れていたのだ。

「どうしたものか」

自身で連れてくると決めて、利用すると決めた子供。
しかしその子供は出自も自身のことも何もわからないという。
琥珀の首飾りを持っている理由さえも。


今まで全く手掛かりがなく、いよいよアンブラリア王家の復活は諦めようかと思っていた矢先だった。
まさか犯罪組織解体の任務中に大きな手掛かりに出会うとは思わず、あの時は一瞬ではあるが取り乱した。
しかし、琥珀の首飾りがあったというだけで、アンブラリア王家につながる情報は全くなく、結局今となってはどうやって動くか、何を調べるかなどの目途は立っていない状況だった。

「お前は、何者なんだ。やはりアンブラリア王家の血は完全に途絶えてしまったのか」

リオに問いかけるも、流れる涙は止まらず。
思わず手を伸ばし頬を流れる涙を人差し指ですくっていた。
すると、その人差し指を追いかけるようにリオの頭が動く。
スリっと指に頬を寄せてくるその様はまるで猫のようだった。

「猫……。お前は野良猫だな」

レオヴィクは、前回失敗してしまったリオをベッドに移動するという行動を再びとってみた。
片手で抱えられるほどの軽さの子供。頬に手を当てつつ、横抱きのままリオをベッドへと運ぶ。
そっと気づかれぬようにベッドに寝かせると、頬に添えた手にすり寄りつつ、そのまま寝始めた。
成功だと思い、頬から手を離そうとしたが、なんだかもう少しこのままの方がいい気がして、時間の許す限りリオの頬を撫でた。

「こんな子供に俺は何をさせようとしているんだろうな」

そんな小さな呟きは誰にも聞かれることなく、静かに消えていった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷酷なミューズ

キザキ ケイ
BL
画家を夢見て都会へやってきた青年シムは、「体液が絵の具に変わる」という特殊な体質を生かし、貧乏暮らしながらも毎日絵を描いて過ごしている。 誰かに知られれば気持ち悪いと言われ、絵を売ることもできなくなる。そう考えるシムは体質を誰にも明かさなかった。 しかしある日、シムの絵を見出した画商・ブレイズに体質のことがばれてしまい、二人の関係は大きく変化していく。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

溺愛極道と逃げたがりのウサギ

イワキヒロチカ
BL
完全会員制クラブでキャストとして働く湊には、忘れられない人がいた。 想い合いながら、…想っているからこそ逃げ出すしかなかった初恋の相手が。 悲しい別れから五年経ち、少しずつ悲しみも癒えてきていたある日、オーナーが客人としてクラブに連れてきた男はまさかの初恋の相手、松平竜次郎その人で……。 ※本編完結済。アフター&サイドストーリー更新中。 二人のその後の話は【極道とウサギの甘いその後+ナンバリング】、サイドストーリー的なものは【タイトル(メインになるキャラ)】で表記しています。

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

処理中です...