琥珀の灯火を抱く少年と、誓いに囚われた騎士

大城トモ

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第一章「利用される者、する者」

考える言葉、与える言葉

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レオヴィク様に連れてこられてから数日。
俺は、今までのスラムでは考えられないような生活を送っていた。

毎日のように食事にありつけ、毎日のように風呂に入れられ、雨風にさらされることもなく、服もボロボロではない。
こんな生活をしてもいいのかと、罪悪感が生まれてくる。

なぜなら、ここでこんな生活をしているのは俺だけなのだ。
ボスは恐らくまだ地下牢にいて、レオヴィク様曰く話を聞いてからじゃないと釈放はできないとのこと。
何度か部屋に帰ってくるものの、ボスがどうなったかの話は全く聞かない。
というより、レオヴィク様が帰ってくる時間は決まって夜遅いため、俺も寝てしまっている。

その寝る場所なんだが。
異常なほどに居心地が悪い。
なぜかって、ベッドがふわふわすぎる。
何より、ベッド=俺の体を使うときという記憶が邪魔をして、ベッドで寝ようとすると、小さな物音ですら目を覚ましてしまって寝た心地にならない。
だからとても居心地が悪いのだ。
部屋の隅、あのスラムにいたときのように隅で丸くなってる方がまだ落ち着く。

レオヴィク様からは、なぜベッドで寝ないんだと訊かれたものの、今のことを説明したところで何かが変わるわけでもないし、男の俺が体を使われていたと知ったら何かしら嫌悪などの感情を抱くだろう。
そう思って、特に理由は言わずに「居心地が悪い」とだけ返した。

レオヴィク様は俺を利用するといっていたが、結局部屋に帰ってくる時間も少なく、俺が寝ていることも多いからか、どうやって使ってくれるのかは全くわからない。
何か作戦とかを考えなければいけないのかもしれないが、そもそもアンブラリア王家のことも、琥珀の首飾りのことも、ましてや自分自身のこともわからないから、計画のしようがない。


そんなことを考えていたある日。
その日は珍しくレオヴィク様が昼間に部屋に戻ってきた。

「リオ、昼食をとろう」

そういうと、部屋の中に食事が用意され、俺も特に何か言うわけでもなく椅子に座った。

「食事はちゃんととっているのか」

「え?…あ、う、はい」

「そうか。お前は軽すぎる。食べられるならもっとしっかり食べろ」

レオヴィク様は時々優しさなのか、慈悲なのかこうやって心配してくれるような言葉を投げかけてくることがある。
とはいえ、おそらく心配というのも、利用する駒が死んでしまわないようにという気持ちからくる心配だろうから、俺もそれには答えなければならない。

俺は、利用されるためにここにいるのだから。

「そうだ、リオ。近々お前のボスを釈放する」

「え!?本当か!?」

「…。お前はそっちの方がいい」

「は?何が…ですか」

「それだ。お前に敬語は似合わん。というか今まで敬語なんてものは使ったことがないだろう」

大当たりだ。敬語を使うどころかあまり人と話すことがなかったから、どうやって接するのが正解なのかが全く分からない。

「俺に敬語を使う必要もない。だから、そのレオヴィク様ってのもやめろ」

「いい…のかよ」

「俺がいいって言っているんだ」

「あっそ」

少し肩の荷が下りたような気がする。

「で、お前のボスの釈放の件だが、恐らく明日か明後日くらいには釈放されるだろう。何か話すか?」

レオヴィクは俺を見ることなく、食事を進めながら話を続けていく。
俺の返事を待っているようだが、俺には答えが見出せなかった。

話。何か話したい事。

「特にないのか」

「…」

「まぁいい。何か話したいことが思いついたなら、今日の夜までに俺に伝えろ。少しだが時間を作ってやる」

その言葉を最後に昼食での会話が続くことはなかった。
昼食をとり終わるとレオヴィクはそのまま仕事だからと部屋を後にする。
俺はレオヴィクのいなくなった部屋の隅に座り、考える。

「ボス…」

話したいことと言われると何を話せばいいのか全く分からない。
今まで俺の面倒を見てくれてありがとう?
俺はここで騎士団長に使われてくる?
ボスはボスの人生を歩んでください?
なんだ。まるで、ボスが俺を気にかけている可能性があるような言葉だ。
もしかしたら、ボスはもう俺のことを忘れている可能性だってある。
お荷物だったガキがいなくなったと、羽を伸ばしている可能性もある。

そんなことをぐるぐると考えていると、気づけば外は暗くなり、部屋にはメイドが夕食の準備をしてくれていた。
考えながら食事をとったせいで、ほとんど食べられなかった。

「本日のお食事はもうよろしいのですか?」

メイドの一人に声をかけられ、慌てつつも「はい」と返事をして、夕食を下げてもらう。
あの料理、ボスにも食べさせてあげたいな。

結局、夜にレオヴィクが戻ってくるまでボスに何か話したい事という返答については用意することができず「特に話すことはない」と返すことしかできなかった。

「そうか」

レオヴィクはそれだけを言うと、ソファに座ったまま仕事の続きだろうか書類に視線を戻した。

「あ、あの…」

「なんだ」

「えっと…あ、ありがとう…って。ありがとうって伝えて」

「…。明日の午後に釈放が決まった。お前を連れてくるように団員に伝えておくから自分で伝えろ」

「え」

「そういうことは自分で伝えるから意味があるんだ。その気持ちがあるなら自分の言葉でちゃんと伝えろ」

レオヴィクの声は冷たいものではあったが、決してリオを突き放すようなものではなかった。
逆にリオのために時間をとってくれるという。
存外にこいつは悪い奴じゃないのかもしれない、とリオは思うものの、明日会うであろうボスのことを考え始めると、どうやって声をかけるべきか、何を伝えるべきかぐるぐると悩み、そのまま毛布にくるまって部屋の隅で就寝した。

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