琥珀の灯火を抱く少年と、誓いに囚われた騎士

大城トモ

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第一章「利用される者、する者」

絵本と歴史

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それからは、今までの寝て食べて寝ての生活の中に勉強が加わってきた。
ヨハンにいろいろと教えてもらいながら、俺は今まで見たことはあっても触れてこなかった文字の知識を入れることができ、少しずつではあるが、絵本を読めるようになってだんだん楽しくなってきていた。
スラム街でできなかったことを、ここで新しくできるようになり、毎日が楽しいと思う反面、自分の立場を忘れてはいけないと、心の声が俺に囁く。

あくまでも、俺は利用される立場。自分の意思を持って動いてはいけない。

その気持ちを忘れないようにという気持ちも相まって、俺は今日も部屋の隅で寝る。
何度もレオヴィクからはベッドで寝ろと言われてはいるものの、もう今までのような嫌なことはないとわかっていたとしても、習慣というものだろうか、ベッドで寝ることは嫌だし、何よりそこまで甘えてしまうと、今後またスラム街に戻ることになった時に、今までと同じように暮らすことができないと思うから。

俺は、自分の立ち位置、存在意義を忘れてはいけない。

ちなみに、レオヴィクは俺が部屋の隅で寝ることを居心地が悪いと言って何度かベッドに連れて行っているようだが、俺はそのたびに目を覚まして移動している。
いつだったか、ベッドに移動させられたと気づく前に少しだけ夢を見ていて、その夢では暖かい雲のようなもので頬を撫でられたようなそんな感じがしたが、目を覚ませば目の前にいるのはレオヴィクだったから、またかと、レオヴィクの腕を払い、部屋の隅に戻った。
ただ、その頬にはまだほんのり温かい気配が残っているような気がした。

レオヴィク自身は、あえてなのか、数日間はソファーで寝ていたが、次第にあきらめたのかベッドで寝るようになった。
ぼそりとベッドに入る前に、俺の方を見て「本当に猫と暮らしているようだな」と呟いていたが、俺は猫じゃない。人間だ。




今日も今日とて、ヨハンが部屋に来て絵本を読みながら文字を教えてくれる。

「リオ様は上達が早いですね。まるでスポンジのように吸い込んでいくではありませんか」

「そ、そうかな」

褒められるのはこうもむずがゆいものなんだなと、片手で後頭部を掻きながらヨハンから視線を逸らす。

「では、この絵本での勉強は最後として、一度頭から全部読んでみていただけますかな?」

「あ、うん。わかった」



ーーー

むかしむかし あんぶらりあおうこくをつくった おうさまがいました

おうさまは とてもつよくて とてもかしこい おうさまでした

おうさまは たくさんのひとと たくさんのどうぶつと くらしていました

おうさまは きらきらひかる くびかざりをつけていました

くびかざりは たいようのようでした

そして おうさまもたいようのようなひとでした


おうこくには まいにち ひかりが ふりそそいでいました


しかし かみさまが おうさまをおこりました

「このくには ひかりすぎている わたしたち かみが いちばんでなければいけない」

おうさまは かみさまのはなしを ききませんでした

おうさまの こどもたちも かみさまのはなしを ききませんでした

あたらしいおうさまにかわり ついにかみさまは もっとおこりました


「かみを むししてはいけない このくには つづいてはいけない」


かみさまは おうさまたちをつかまえ おそらにつれていってしまいました


あんぶらりあおうこくのおうさまは わるいことをしたのです

かみさまのおはなしを ちゃんときかなかったおうさまは わるいひとなのです

このくには かみさまといっしょに つくることになりました

かみさまがつれてきた あたらしいおうさまは

まえのおうさまより とてもつよくて とてもかしこいおうさまです

あんぶらりあおうこくは これからもかみさまといっしょに あゆんでいくのです


ーーー

ぱちぱちとヨハンの拍手が聞こえる。
しかし、この絵本は読んでいて気持ちのいいものではなかった。
結局神様がわがままをいっただけじゃないか。

最初にこの絵本を読んでもらったときに、そう言うとヨハンは「リオ様、今はご辛抱ください」とただその一言だけを言うと、また絵本を読みながら文字を教えてくれた。


「やっぱりこの話、「リオ様」」

読み終わった後に、前と同じ感想を言おうとするとヨハンが声を遮ってまで、俺の名前を呼ぶ。

「さて。この絵本での勉強は終わりです。アンブラリア王国の簡単な歴史です。そう、とてもとても簡単な上澄みだけの歴史です。ここからはもう少し掘り下げながら、この国について知っていきましょう」

ヨハンはそう言うと新しい本を取り出してきた。
その本はとても年季が入っている、濃い赤い色の本だった。
表紙の文字は少しかすれていたり、背表紙が少し歪んでいる様子から何度も読んだのだろうということがわかる。

「この本は私しか持っておりません。この本は、この部屋以外で読むことは許されません」

ヨハンは本の表紙を撫でながら、静かに言葉をつづける。

「この本は、この国の本当の歴史が書かれております。リオ様。非常に難しい文章が続きますが一緒に頑張って読んでいきましょう」

そういうヨハンの表情は、眉毛と髭によって読み取ることはできなかったが、雰囲気が、なんだか、悲しそうな感じがした。
俺は、うなずく。
うなずくことしかできなかった。

本当の歴史。
今まで読んでいた絵本とは違う、本当の歴史とはいったいなんなのだろうか。

そして改めて俺は考えた。

「俺はなんで、首飾りを持っているんだ」

絵本にも出てきた首飾り。この首飾りは本当に王家の証なのだろうか。
しかしレオヴィクが確証を持ったような言い方をしていたから、きっと本物なのだろう。
とはいえ、これが偽物か本物か、リオには調べる術もなく。
今はただ言われたことに抗わず、身を委ねるしか方法がない。





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