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第一章「利用される者、する者」
独りの夜
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就寝時はここに戻らないとレオヴィクが言ったその日から、言葉の通り、全くこの部屋には戻らなくなった。
昼間もこの部屋に来ることはなく、あの失敗してしまった日の翌日から、レオヴィクには会えていない。
ノエルとの楽しい時間があるおかげで、なんとか忘れられる時間もあるのだが、やはりあの時の失敗は結構響いているのだと、一人になると実感する。
「リオ様、おやすみなさいませ」
メイド二人はレオヴィクが来なくても、いつも通りここに来て、いつも通り身の回りのことをやって、やることが終わればいつも通り、二人で扉の前に並び綺麗なお辞儀をしながら、この部屋を出ていく。
いよいよ、あの二人には機械じみたものを感じてきた。
今日もノエルとたくさん話をして、言いたかった言葉も言えた。
「ありがとう」という言葉は、相手も喜ぶし、言った自分も心が温かくなる。とてもいい言葉だと思った。
スラムにいたころ、ありがとうなんて言う暇もなかったし、ありがとうと言える人もいなかった。
いや、ボスにだけはもっと言うべきだったのかもしれない。
ボスは今頃どんな生活をしているのだろうか。
この前アレンと市街地に出た時に姿を見ることはなかった。
とはいえ、スラムに戻っているという可能性も薄いような気がする。
であれば、この国を出てしまっているのだろうか。
釈放の時に、レオヴィクが時間をくれて、あの時ちゃんとありがとうと伝えられたことに、改めてよかったなと感じる。
ぼふん、とベッドに横になる。
あの日以来、部屋の隅で寝ることはできるだけやめて、ベッドで寝るようにしている。
自分で誰もいないベッドに入ることに関しては、今は全く問題ない。
だが、寝ようと目を閉じれば、何もないはずなのに、自分でもわからないくらいの焦燥感に襲われて、結局眠りにつくためにはベッドから降りて、部屋の隅に行かなければならない。
だが、レオヴィクの駒として利用される身として、やはりベッドでちゃんと眠るというのは、今一番達成しなければならない課題だ。
「はぁー……。」
大きなため息を吐いたところで、この部屋には誰もいないから特に聞かれることもない。
そんな安心感からか、独り言が増えたように感じる。
「ベッドがふかふかすぎるのが悪いんじゃないのか」
いや、そんなことはない。
おそらく、ベッドが固いと、それはそれであの行為を思い出してしまうだろうから、ふかふかの方がまだましだろう。
だったら、どうしてこんなにも自分はベッドで寝ることを拒んでしまうのだろうか。
もうあの行為からかなり時間は経っているし、最終的にはボスにも、たぶん、守ってもらっていた。
忘れてしまえばいいのに、忘れることができない。行為自体というよりも、あの怖いという感覚を。
「だめだだめだ」
こうやって、頭の中でぐるぐる考えてしまうからダメなんだ。と自分の頭をゴツンと叩く。
少し強すぎて痛みがあるが、これは逆にちょうどいいのかもしれない。
自分で殴った部分を擦りながら、ベッドに仰向けになり天井……。と言ってもベッドを覆っている天蓋というものを見る。
そこには、キラキラと輝く糸が使われているのか、少し視線をずらすとまるで星のように瞬く。
「きれいだなー。星ってこんな感じにきれいなのかな」
と、自分で呟いて気付く。
スラムにいた時は星なんてものは茶色い視界に遮られて見えなかったが、ここに来てから夜は外に出ることがなかったから、星がどういうものなのかちゃんと見たことはなかった。
よいしょ、と体を起こし窓を見る。
厚手のカーテンが引かれているため、今は外が見えない。
どうしても見たくなった。
ベッドから片足ずつおろし、裸足だったため、簡単にはける薄い靴を履く。
窓まで近づいて、厚手のカーテンの端っこを握る。
少しだけ右にスライドさせると、夜だというのに、黒ではない、紺色の視界がちらりと見える。
その色を見て、ふとある人物を思い出す。
「レオヴィクの髪の色も、こんな色だな」
レオヴィクの髪は後ろをがっしり刈り上げて、その上からサラサラの紺色の髪が覆いかぶさっているような感じだ。
いつ見ても耳にはかかっていないので、恐らくミリ単位で管理しているのだろう。
レオヴィクの神経質な性格が露呈している。
そのまま、少しだけしか開けていなかったカーテンをもう少し右にスライドさせると、自分の体と同じくらいの隙間ができ、そこから見る世界は、今まで見た世界とはまた違う、キラキラと輝く紺色の世界だった。
「きれ、い」
ぼそっと呟き、スライドさせたカーテンの隙間に体を進め、窓に近づく。
窓とはいえ、足元からレオヴィク二人分くらいの高さまである大きなものだ。
なので、窓というより扉といった方がいいのかもしれないが、その窓についている取っ手に手をかけ、ゆっくりと奥に押す。
ギィと少しだけ音がした後は、何のつっかえもなく、そのまま開いていく。
開いた窓から一歩ずつ前に進みバルコニーへ出る。
そこは、今までスラム街では見ることができなかった濃紺で金色の星が輝く素敵な夜空が広がっていた。
昼間もこの部屋に来ることはなく、あの失敗してしまった日の翌日から、レオヴィクには会えていない。
ノエルとの楽しい時間があるおかげで、なんとか忘れられる時間もあるのだが、やはりあの時の失敗は結構響いているのだと、一人になると実感する。
「リオ様、おやすみなさいませ」
メイド二人はレオヴィクが来なくても、いつも通りここに来て、いつも通り身の回りのことをやって、やることが終わればいつも通り、二人で扉の前に並び綺麗なお辞儀をしながら、この部屋を出ていく。
いよいよ、あの二人には機械じみたものを感じてきた。
今日もノエルとたくさん話をして、言いたかった言葉も言えた。
「ありがとう」という言葉は、相手も喜ぶし、言った自分も心が温かくなる。とてもいい言葉だと思った。
スラムにいたころ、ありがとうなんて言う暇もなかったし、ありがとうと言える人もいなかった。
いや、ボスにだけはもっと言うべきだったのかもしれない。
ボスは今頃どんな生活をしているのだろうか。
この前アレンと市街地に出た時に姿を見ることはなかった。
とはいえ、スラムに戻っているという可能性も薄いような気がする。
であれば、この国を出てしまっているのだろうか。
釈放の時に、レオヴィクが時間をくれて、あの時ちゃんとありがとうと伝えられたことに、改めてよかったなと感じる。
ぼふん、とベッドに横になる。
あの日以来、部屋の隅で寝ることはできるだけやめて、ベッドで寝るようにしている。
自分で誰もいないベッドに入ることに関しては、今は全く問題ない。
だが、寝ようと目を閉じれば、何もないはずなのに、自分でもわからないくらいの焦燥感に襲われて、結局眠りにつくためにはベッドから降りて、部屋の隅に行かなければならない。
だが、レオヴィクの駒として利用される身として、やはりベッドでちゃんと眠るというのは、今一番達成しなければならない課題だ。
「はぁー……。」
大きなため息を吐いたところで、この部屋には誰もいないから特に聞かれることもない。
そんな安心感からか、独り言が増えたように感じる。
「ベッドがふかふかすぎるのが悪いんじゃないのか」
いや、そんなことはない。
おそらく、ベッドが固いと、それはそれであの行為を思い出してしまうだろうから、ふかふかの方がまだましだろう。
だったら、どうしてこんなにも自分はベッドで寝ることを拒んでしまうのだろうか。
もうあの行為からかなり時間は経っているし、最終的にはボスにも、たぶん、守ってもらっていた。
忘れてしまえばいいのに、忘れることができない。行為自体というよりも、あの怖いという感覚を。
「だめだだめだ」
こうやって、頭の中でぐるぐる考えてしまうからダメなんだ。と自分の頭をゴツンと叩く。
少し強すぎて痛みがあるが、これは逆にちょうどいいのかもしれない。
自分で殴った部分を擦りながら、ベッドに仰向けになり天井……。と言ってもベッドを覆っている天蓋というものを見る。
そこには、キラキラと輝く糸が使われているのか、少し視線をずらすとまるで星のように瞬く。
「きれいだなー。星ってこんな感じにきれいなのかな」
と、自分で呟いて気付く。
スラムにいた時は星なんてものは茶色い視界に遮られて見えなかったが、ここに来てから夜は外に出ることがなかったから、星がどういうものなのかちゃんと見たことはなかった。
よいしょ、と体を起こし窓を見る。
厚手のカーテンが引かれているため、今は外が見えない。
どうしても見たくなった。
ベッドから片足ずつおろし、裸足だったため、簡単にはける薄い靴を履く。
窓まで近づいて、厚手のカーテンの端っこを握る。
少しだけ右にスライドさせると、夜だというのに、黒ではない、紺色の視界がちらりと見える。
その色を見て、ふとある人物を思い出す。
「レオヴィクの髪の色も、こんな色だな」
レオヴィクの髪は後ろをがっしり刈り上げて、その上からサラサラの紺色の髪が覆いかぶさっているような感じだ。
いつ見ても耳にはかかっていないので、恐らくミリ単位で管理しているのだろう。
レオヴィクの神経質な性格が露呈している。
そのまま、少しだけしか開けていなかったカーテンをもう少し右にスライドさせると、自分の体と同じくらいの隙間ができ、そこから見る世界は、今まで見た世界とはまた違う、キラキラと輝く紺色の世界だった。
「きれ、い」
ぼそっと呟き、スライドさせたカーテンの隙間に体を進め、窓に近づく。
窓とはいえ、足元からレオヴィク二人分くらいの高さまである大きなものだ。
なので、窓というより扉といった方がいいのかもしれないが、その窓についている取っ手に手をかけ、ゆっくりと奥に押す。
ギィと少しだけ音がした後は、何のつっかえもなく、そのまま開いていく。
開いた窓から一歩ずつ前に進みバルコニーへ出る。
そこは、今までスラム街では見ることができなかった濃紺で金色の星が輝く素敵な夜空が広がっていた。
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