琥珀の灯火を抱く少年と、誓いに囚われた騎士

大城トモ

文字の大きさ
32 / 101
第一章「利用される者、する者」

飛び込む夜空

しおりを挟む
見上げた夜空に瞬く星は、時々ゆらゆらと光が揺れているように見えた。
まるで琥珀の首飾りを見た時に炎のような揺らめきが見えるのと似ている気がした。
そう思って、首元の首飾りを見る。

「お前は、いろんな記憶をここにとじこめているのか?」

そう思ったのは、この前買って、ヨハンのおかげで内容が理解できた妖精と宝石の物語の本。
追憶の宝石とも呼ばれている琥珀は、数多の記憶を保管しておくことができるという。
もちろん物語の中のお話なので、本当に信じているわけではないが、記憶を保管できているのであれば、もしかしたら本当の王様の居場所とかも分かるんじゃないかと、すこしだけ強く首飾りを握る。

その時だった。
ガサリと庭の方から音がする。

ここに入れるのは教団以外の人間と聞いてはいるものの、教団以外といわれればどういった人たちが対象になるかは理解していない。
最初に俺をここに連れてきた騎士はレオヴィクの騎士団の人間ではあるが、まるで今回の計画を知っているような感じではなかった。
ということは、計画を知らない人間でも入ろうと思えば入ってこれる。
そんな場所なのだろう。とりあえず、教団の人間が持っている首飾りさえつけていなければ。

恐る恐るバルコニーの手すりまで歩みを進める。
庭の物音はその一度だけで、今はまた世闇に吸い込まれるように、音がない。

ようやく手すりまでやってきた。
ゆっくりと手すりに手をかけ、庭の方を見下ろす。

「え」

バルコニーから斜め下あたり、ちょうど庭と建物の境目にある柱に背を預け、腕を組んだ状態で一人の人間がこちらを見ていた。
建物で影になっているので、かなり暗い場所ではあるが、その髪色には見覚えがあった。
濃紺の髪色に、こちらを見るブラウンカラーの瞳、レオヴィクだった。

「レオヴィク、なんで」

「なんだ、お前まだ起きてたのか」

レオヴィクはそういうと、柱から背を離しバルコニーの正面まで歩いてくる。

「ベッドで寝られるようになったのか」

「い、いや。まだ……。」

レオヴィクは「そうか」と言いながら組んでいた手を外し、そっと腰に携えている剣に手を添える。

「レオヴィクは、なんで、ここに?」

「俺の場所に、俺がいたらいけないのか?」

「そういうわけじゃ、ないけど……。」

だんだん言葉が尻すぼみになっていってしまう。
別にそういう意図で聞いたわけではないのだが、やはりレオヴィクは俺の事を面倒と思ったのだろうか。

少し俯きながら、手すりを掴む手にぐっと力を入れる。

「あー…。いや違う。そうじゃないんだ。えーっと…」

すると、下から何やら唸るような声が聞こえてくる。
見てみると、レオヴィクがおでこを押さえながらうーんと唸っている。どうしたのだろうか。

「くそ。ヨハン、もっとうまく助言してくれ」

急に出てくるヨハンという名前に、何があったのだろうかと心配にはなるが、今のレオヴィクに聞ける雰囲気ではなかった。

「その…。なんだ。……眠れないのなら、外にくるか?」

おでこを押さえていた手を外し、こちらを見る。
再びブラウンカラーの瞳と目が合い、レオヴィクは少しだけ首を傾げていた。

「え、外」

「ここまでこい」

レオヴィクはそういうと、片手をこちらに伸ばす。
手のひらを上にした状態でこちらに伸ばすものだから、まるで、本当の騎士のようだ。
いや、本物の騎士だった。

その手を見て、そしてそのまま視線をレオヴィクに移し、俺は少しドキリと心臓が跳ねる。
口調はとてもぶっきらぼうで命令じみた言葉ではあるが、あのレオヴィクが少し、ほんの少しではあるが微笑んでいたのだ。

その微笑みが、この夜空にとても似合っていて、俺は思わず。

「お、おい!?」

手すりに手をかけ、そのまま前に乗り出し、足をかけ、レオヴィクが伸ばしている手の方へ飛んだ。

「おまっ!」

レオヴィクは、急にとんだ俺にもちろん驚きはしていたが、すぐに両手を俺に伸ばして、そして難なく俺を抱きとめた。

「お、まえは…何を考えてんだ!!」

頭上で聞こえる怒号に、自分でも何をしているのだろうと、自分が今やった行動を思い返す。

「え?俺、飛んだ?」

「飛んだ?落ちてきたの間違いだろうが」

抱きとめてくれたままのレオヴィクが、はぁとため息を吐きながら俺を見る。

「ここまでこい、とはいったが、誰も飛び降りろと入ってないだろうが」

そう言われて、それもそうだと納得する。
ノエルと話すときは、ちゃんと部屋の扉から出て、庭へ続く廊下を進み、庭に出る。
どうして、俺は飛び降りてしまったんだろう。

「きれい、だなって」

「はぁ?」

「レオヴィクの髪色がこの夜空と一緒で、そこに飛び込めたら俺もきれいになれるかなって」

「なんだそれは、そんな意味の分からない理由で飛び降りるな。心臓がいくつあっても足りん」

「ご、ごめん」

口から出た言葉に、自分でも意味不明だなと思いつつも、口から言葉を出したことで少しだけ腑に落ちた。
綺麗だったのだ。
伸ばされた手をまっすぐ辿り、夜空と同じ色の髪色を見て、そしてこちらを見るブラウンの瞳。
そこに飛び込みたいと、ただ無性に思ったのだ。

「何だったんだろう」

「それはこちらのセリフだ。全く。お前はもう少し自分が重要な立ち位置にいることを自覚しろ」

「う、うん」

そう言われて、少しだけ現実に引き戻される。
重要な立ち位置。俺は、レオヴィクが使う駒だ。それは忘れてはいけない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷酷なミューズ

キザキ ケイ
BL
画家を夢見て都会へやってきた青年シムは、「体液が絵の具に変わる」という特殊な体質を生かし、貧乏暮らしながらも毎日絵を描いて過ごしている。 誰かに知られれば気持ち悪いと言われ、絵を売ることもできなくなる。そう考えるシムは体質を誰にも明かさなかった。 しかしある日、シムの絵を見出した画商・ブレイズに体質のことがばれてしまい、二人の関係は大きく変化していく。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 8/16番外編出しました!!!!! 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭 4/29 3000❤️ありがとうございます😭 8/13 4000❤️ありがとうございます😭 12/10 5000❤️ありがとうございます😭 わたし5は好きな数字です💕 お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭

溺愛極道と逃げたがりのウサギ

イワキヒロチカ
BL
完全会員制クラブでキャストとして働く湊には、忘れられない人がいた。 想い合いながら、…想っているからこそ逃げ出すしかなかった初恋の相手が。 悲しい別れから五年経ち、少しずつ悲しみも癒えてきていたある日、オーナーが客人としてクラブに連れてきた男はまさかの初恋の相手、松平竜次郎その人で……。 ※本編完結済。アフター&サイドストーリー更新中。 二人のその後の話は【極道とウサギの甘いその後+ナンバリング】、サイドストーリー的なものは【タイトル(メインになるキャラ)】で表記しています。

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

処理中です...