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第一章「利用される者、する者」
季節が変わるとき
しおりを挟む首飾りの不思議な現象から数日たった。
もうすぐ冬へと季節が変わりゆくころだ。
今まで吹いていた風も、涼しいと思えるものから、だんだんと冷たさを感じてきた。
ノエルが言っていたように、庭の世話は減ったようだ。
レオヴィクと話をしたあの日から、何度かノエルが庭にいないかと見に行ってみたが、今のところすべて空振りに終わってしまっている。
とぼとぼと庭から部屋に戻る廊下の途中でヨハンと会った。
「おや、リオ様いかがされましたかな?」
おそらくこちらを見ている視線に顔をあげ、ヨハンを見る。
手には複数の本を抱えており、その本はすべて見たことがないものだったが、一冊だけ知っていた。
レオヴィクのお爺さんが書いた手記を持っている。
「あ、いや。ノエル、今日もいなかったなって」
「あぁさようでしたか。ノエルも庭の世話に行くといっていたのですが、いかんせん、今日は外に出られない状況でして」
「え?外に出られない?」
庭の仕事がないからここに来ていないだけかと思っていたが、実際は違うようだった。
「はい、実は最近の気温の変化のせいか、風邪をひいてしまいましてな。元々体の強い子ではなかったので、大事を取って今日は大人しく家のベッドで寝ているように言いつけました」
ヨハンのいう言葉に、心配の気持ちが高まる。
「そう心配そうな顔をしなくても大丈夫ですよ、リオ様」
表情を軽く読まれてしまい、急いで表情筋を元に戻すが、時すでに遅しだ。
「そう大事ではございません。ノエルが大人しくベッドで休んでさえいれば、すぐに治るでしょう」
「そっか。ならよかったんだ」
「ご心配のお心、痛み入ります」
そういって、ヨハンは小さくお辞儀をする。
「とろこでヨハン。作戦会議か何かなのか?」
ヨハンが持っている、レオヴィクのお爺さんの手記が気になり尋ねる。
この前の話では冬が始まる前にと、レオヴィクは言っていたから、そろそろ動くための準備も始める頃なのだろうと考えた。
「おや、よくお分かりでしたな。つい先ほど、レオヴィク様達とお話をしていたところでございます」
ヨハンはそう言いながら、本を持っていない方の手で、自慢の髭を撫でつけながら「しかし…」と言葉を濁す。
「何か……。不都合なことでもあったのか?」
ヨハンに聞くと、ヨハンは「うーむ」と唸りつつ、俺から目を離す。
ヨハンは、俺が王に成り代わるというところまできっと知っている人間だろう。
だからこそ、自分のせいで何か不都合なことが起きてしまって、優しいヨハンの事だから、それを俺に伝えるべきか悩んでいるのかもしれない。
「いえいえ、大丈夫でございます。少々作戦内容に行き詰っているのですが、おそらくもう少しで話がまとまるでしょう」
ヨハンはそういうと、顔を上げ俺と視線を合わせるようにしてにこりと笑う。
絶対言わないだろう。たとえ、俺に何か原因があったとしても。
「それはそうとリオ様」
考えていると、ヨハンに声をかけられる。
「最近、レオヴィク様とお話になられたとか」
「あ、うん。そんなにたくさん話したわけではないけど、ちょっとレオヴィクの事を知れた気がする」
「さようでございますか。レオヴィク様は、それはそれは秀でた才のあるお方なんですが、少しばかりコミュニケーションに難ありと言いますか」
「うん、それはなんとなく伝わってきた」
「ですので、このヨハン、レオヴィク様の背中を叩いてみたのですが、うまくいったようで何よりです」
うまくいったのかどうかはこの際置いておいて、レオヴィクとあの時間を取れたことは俺にとってもいい事だと思った。
そしてふと、思い出す。
「そういえば、ノエルから家に遊びに来てといわれていたんだけど……。さすがに今すぐには行けないと思うから、今度ヨハンとノエルの家に遊びに行ってもいい?」
「えぇ、えぇ!もちろんでございます!今はまだ、少し窮屈な思いをさせてしまうかもしれませんが、いづれ必ず、我が家に遊びに来てください。たんとおもてなしさせていただきましょう」
ヨハンはそういうと「では、この後の予定も控えておりますので」と言い、俺は部屋に戻った。
部屋に戻ると、いつもの一人の時間。
ふぅと、息を吐きながらソファに座り、机に置いてある本をまじまじと見る。
絵本から始まり、今では、そこまで難しい内容じゃなければ、自分で最後まで読めるくらいには文字を覚えた。
まだ書くということは難しく、ここは勉強中だ。
「あれ?」
本を見ながらあることを思い出す。
「レオヴィクのお爺さんの手記、ここでしか読んではいけないってヨハン言ってた気がするけど……」
初めてあの手記に触れた時、ヨハンがそんな話をしていたような気がする。
とはいえ、作戦会議をこの部屋ですることはできないだろうし、きっとレオヴィクがいるところで話をしていたのだろう。
であれば、問題のない事だろう。
そう結論づけては、何の本をもう一度読もうかと、机の上の本に再度視線を向ける。
この時。
俺はもう少し考えるべきだったと、後悔するのは、ほんの少し先の話。
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