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第一章「利用される者、する者」
不気味な訪問者
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今日は、アレンと市街地に出た時に買った本、妖精と宝石の物語を読むことにした。
そう言えばと、この本のタイトルは何だったかなと表紙を見る。
「……、とも、灯火の、眠る、琥珀。灯火の眠る琥珀ってタイトルなんだ」
書かれているタイトルをそっとなぞりながら、素敵なタイトルだなと思いつつ、表紙をめくる。
一ページ目の冒頭に書かれている言葉を、声に出しながら読んでいく。
「昔々、妖精の国がありました。そこでは妖精たちが幸せそうにくらし、」
コンコン
急に部屋の扉がノックされる音が聞こえる。こんな時間に誰だろうと、扉の方を見る。
今はお昼を少し過ぎて、太陽が頂点から少し傾いたくらいの時間だ。
この時間、レオヴィクは訓練だし、ヨハンはさっきすれ違った。
アレンももちろん訓練だし、メイド達は身の回りの世話が終われば、次の給仕の時間までは絶対に部屋にやってこない。
では誰だろう。
そっと、もっていた本を閉じ、机の上に置く。
ここは、レオヴィクが知っている人しか来ないといわれている。
とはいえ、ノーバイデン教も、教団の首飾りを外していれば、たどり着くことはできるという。
もし、ノーバイデン教の人だったらどうしよう、とそこまで考えた後で気づく。
ノーバイデン教の人ってどんな人なんだろう?
今まで何度か話に出てきて、ノーバイデン教という教団があることはわかっているが、結局どんな人たちなのか、どういった服装なのかなど、そういった細かな情報は知らなかったのである。
そうこう考えているうちに、もう一度扉がノックされる。
「どなたかお部屋にいらっしゃいますかな?」
扉の向こうで声がした、声は聞き覚えのある声だった。
「ヨ、ハン?」
先ほどすれちがったヨハンの声だった。
その声に少し気を緩めてしまい小さく声を出してしまった。
「おや、お部屋にいらっしゃるようですね?ヨハンでございます。こちらの扉を開けていただけますかな?」
声はヨハンだ。声はヨハンなのだが、何か嫌な違和感を拭いされない。
先ほどヨハンは俺とすれ違ったはずなのだ。
何か忘れ物や、俺に対して用事があるのであれば、いつもみたいに入ってくればいいのだ。
しかし、今扉の前にいるヨハンと思われる人物は、扉をノックするだけで、決して開けようとはしない。
「申し訳ございません、両手がふさがっておりまして、もしお部屋にいらっしゃるなら、開けていただいてもよろしいですかな?」
続けて、扉の向こうから声が聞こえる。
両手がふさがっているから、扉を開けてほしい。
先ほどのヨハンも本を数冊持っていた。しかし、いつもの髭を触る仕草ができていたから、両手がふさがるほどの量ではない。
何より一番の違和感は、部屋に俺がいるということをわかっていないような問いかけだ。
ヨハンなら、おそらく「リオ様」と声をかけるはずだ。
しかし、扉の向こうにいる、ヨハンと同じ声をする人物は、俺の名前を呼ばない。
俺は、次は声を出すまいと、自分の両手で口元を覆う。
一度声を出してしまったため、中に人がいるかもしれないということは、きっとわかっているだろうが、ここでむやみに再び声を出せば、相手の思う壺になる気がした。
「あれ、先ほど声が聞こえたような気がしたのですが……。どなたか、ここの扉を開けていただけますかな?」
やはり、扉を自分では開けてこないようだ。
何か細工があるのだろうか?ヨハンが話していた呪いのようなものが、実はこの扉にもかけられているみたいな。
そうこうしているうちに、再度扉のノックする音が響く。
「ヨハンでございます」
扉の向こうの人物は名前を言う。やはり、思っていたように”ヨハン”であった。
しかし、そいつは”ヨハン”であって”ヨハン”ではない。
俺は静かにソファから立ち上がり、ゆっくりとバルコニーの方へと扉を見たまま後ずさる。
その間も扉の前の異様な気配は消えず、何度か扉を叩いては「ヨハンでございます」と言っている。
俺は、何とかバルコニーまでたどり着く。
今日は、風の冷たさが気持ちよかったので、窓を開けていたのだ。
そのため、そのままバルコニーまで出ると、手すりに背中を預け、扉を見つめる。
「声が聞こえたと思ったんですがね。勘違いだったのでしょうか。……また日を改めるか」
話し方がだんだんヨハンではなくなっていった。
なんなんだ。ヨハンではないことはわかっていたが、ヨハンの声を真似ていたのか?
不気味な雰囲気に身震いをして、バルコニーの手摺を触りながら、端っこまで移動する。
すると、ふと不穏な空気が消える。
しかし、まだ気を抜いてはいけない。
感覚的にそう思ったリオは、端っこに移動したバルコニーにそっと片膝をついてしゃがむ。
息を殺し、スラム街にいたころのように、自分はいないものと思われるよう気配を消す。
「くそ、この呪いさえなければ、こんな扉、簡単に壊すこともできるというのに」
不穏な空気がなくなったと思っていたが、やはり不審な人物はその場にいた。
そうして、扉の前で放つ言葉に、扉にも呪いがかけられていたのかと、納得した。
「あの老いぼれ、この手記をさっさと渡しておけばよかったものを」
そして扉の前の人物は、驚愕の言葉を零す。
手記を……。渡す?
リオは心の中で、相手の言葉を繰り返す。
「ふん、まぁいいわ。この手記は面倒な記録が残されている。即刻消さなければ」
そういうと、コツコツと足音がどんどん遠ざかっていく音が聞こえた。
次第に足音が聞こえなくなり、先ほどまで張りつめていた緊張感も一気に解放された。
そっと立ち上がり扉の前まで進む。
そして、扉の前の気配を探りつつ、そっと扉を開ける。
扉の前には誰もいない。意を決して部屋から出て、足音が遠ざかった方を見るが、すでにもう誰もいなかった。
ふぅと肩をおろし、今見ていた方と反対を見る。
そちらはヨハンが歩いていった方だ。
そして、その廊下の少し先、人が倒れている。
「え」
鼓動が早鐘を打つ。一歩ずつ部屋から出て、人が倒れている方へ進む。
白い髪に、白髭、そしてあたりに散らばる数冊の本。
「ヨハン!!」
俺は、思いっきり地面をけり、倒れている人物、ヨハンの元へと走った。
そう言えばと、この本のタイトルは何だったかなと表紙を見る。
「……、とも、灯火の、眠る、琥珀。灯火の眠る琥珀ってタイトルなんだ」
書かれているタイトルをそっとなぞりながら、素敵なタイトルだなと思いつつ、表紙をめくる。
一ページ目の冒頭に書かれている言葉を、声に出しながら読んでいく。
「昔々、妖精の国がありました。そこでは妖精たちが幸せそうにくらし、」
コンコン
急に部屋の扉がノックされる音が聞こえる。こんな時間に誰だろうと、扉の方を見る。
今はお昼を少し過ぎて、太陽が頂点から少し傾いたくらいの時間だ。
この時間、レオヴィクは訓練だし、ヨハンはさっきすれ違った。
アレンももちろん訓練だし、メイド達は身の回りの世話が終われば、次の給仕の時間までは絶対に部屋にやってこない。
では誰だろう。
そっと、もっていた本を閉じ、机の上に置く。
ここは、レオヴィクが知っている人しか来ないといわれている。
とはいえ、ノーバイデン教も、教団の首飾りを外していれば、たどり着くことはできるという。
もし、ノーバイデン教の人だったらどうしよう、とそこまで考えた後で気づく。
ノーバイデン教の人ってどんな人なんだろう?
今まで何度か話に出てきて、ノーバイデン教という教団があることはわかっているが、結局どんな人たちなのか、どういった服装なのかなど、そういった細かな情報は知らなかったのである。
そうこう考えているうちに、もう一度扉がノックされる。
「どなたかお部屋にいらっしゃいますかな?」
扉の向こうで声がした、声は聞き覚えのある声だった。
「ヨ、ハン?」
先ほどすれちがったヨハンの声だった。
その声に少し気を緩めてしまい小さく声を出してしまった。
「おや、お部屋にいらっしゃるようですね?ヨハンでございます。こちらの扉を開けていただけますかな?」
声はヨハンだ。声はヨハンなのだが、何か嫌な違和感を拭いされない。
先ほどヨハンは俺とすれ違ったはずなのだ。
何か忘れ物や、俺に対して用事があるのであれば、いつもみたいに入ってくればいいのだ。
しかし、今扉の前にいるヨハンと思われる人物は、扉をノックするだけで、決して開けようとはしない。
「申し訳ございません、両手がふさがっておりまして、もしお部屋にいらっしゃるなら、開けていただいてもよろしいですかな?」
続けて、扉の向こうから声が聞こえる。
両手がふさがっているから、扉を開けてほしい。
先ほどのヨハンも本を数冊持っていた。しかし、いつもの髭を触る仕草ができていたから、両手がふさがるほどの量ではない。
何より一番の違和感は、部屋に俺がいるということをわかっていないような問いかけだ。
ヨハンなら、おそらく「リオ様」と声をかけるはずだ。
しかし、扉の向こうにいる、ヨハンと同じ声をする人物は、俺の名前を呼ばない。
俺は、次は声を出すまいと、自分の両手で口元を覆う。
一度声を出してしまったため、中に人がいるかもしれないということは、きっとわかっているだろうが、ここでむやみに再び声を出せば、相手の思う壺になる気がした。
「あれ、先ほど声が聞こえたような気がしたのですが……。どなたか、ここの扉を開けていただけますかな?」
やはり、扉を自分では開けてこないようだ。
何か細工があるのだろうか?ヨハンが話していた呪いのようなものが、実はこの扉にもかけられているみたいな。
そうこうしているうちに、再度扉のノックする音が響く。
「ヨハンでございます」
扉の向こうの人物は名前を言う。やはり、思っていたように”ヨハン”であった。
しかし、そいつは”ヨハン”であって”ヨハン”ではない。
俺は静かにソファから立ち上がり、ゆっくりとバルコニーの方へと扉を見たまま後ずさる。
その間も扉の前の異様な気配は消えず、何度か扉を叩いては「ヨハンでございます」と言っている。
俺は、何とかバルコニーまでたどり着く。
今日は、風の冷たさが気持ちよかったので、窓を開けていたのだ。
そのため、そのままバルコニーまで出ると、手すりに背中を預け、扉を見つめる。
「声が聞こえたと思ったんですがね。勘違いだったのでしょうか。……また日を改めるか」
話し方がだんだんヨハンではなくなっていった。
なんなんだ。ヨハンではないことはわかっていたが、ヨハンの声を真似ていたのか?
不気味な雰囲気に身震いをして、バルコニーの手摺を触りながら、端っこまで移動する。
すると、ふと不穏な空気が消える。
しかし、まだ気を抜いてはいけない。
感覚的にそう思ったリオは、端っこに移動したバルコニーにそっと片膝をついてしゃがむ。
息を殺し、スラム街にいたころのように、自分はいないものと思われるよう気配を消す。
「くそ、この呪いさえなければ、こんな扉、簡単に壊すこともできるというのに」
不穏な空気がなくなったと思っていたが、やはり不審な人物はその場にいた。
そうして、扉の前で放つ言葉に、扉にも呪いがかけられていたのかと、納得した。
「あの老いぼれ、この手記をさっさと渡しておけばよかったものを」
そして扉の前の人物は、驚愕の言葉を零す。
手記を……。渡す?
リオは心の中で、相手の言葉を繰り返す。
「ふん、まぁいいわ。この手記は面倒な記録が残されている。即刻消さなければ」
そういうと、コツコツと足音がどんどん遠ざかっていく音が聞こえた。
次第に足音が聞こえなくなり、先ほどまで張りつめていた緊張感も一気に解放された。
そっと立ち上がり扉の前まで進む。
そして、扉の前の気配を探りつつ、そっと扉を開ける。
扉の前には誰もいない。意を決して部屋から出て、足音が遠ざかった方を見るが、すでにもう誰もいなかった。
ふぅと肩をおろし、今見ていた方と反対を見る。
そちらはヨハンが歩いていった方だ。
そして、その廊下の少し先、人が倒れている。
「え」
鼓動が早鐘を打つ。一歩ずつ部屋から出て、人が倒れている方へ進む。
白い髪に、白髭、そしてあたりに散らばる数冊の本。
「ヨハン!!」
俺は、思いっきり地面をけり、倒れている人物、ヨハンの元へと走った。
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