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第二章「信じる者、欺く者」
信じたい心
しおりを挟むノーバイデン教の人間と、初めての接触は非常に不穏なものだった。
ノエルがいたから、より緊張感も高まった。
結果的には、抜け出した穴に戻るまで、特に何か起こることもなく無事にたどり着いた。
時間は、もう少しでメイド達が夕食を持ってくる頃合いだったため、俺はノエルに「また」と言い、早足で部屋に戻る。
部屋は誰も人がいなかったことで、すっかり冷えてしまっている。
ぶるりと先ほどの恐怖と、部屋の寒さに身震いをするが、すぐに部屋をノックする音が聞こえる。
おれは「はい」と言いつつ、ソファに腰かけ、冷えた手を温める。
指先だけが異様に冷たかった。
扉が開き、メイド達が入ってくるかと思いきや、そこにいたのはレオヴィクとヨハンとアレンだった。
全員が、俺の方を向き、そして、そのままソファに各々腰掛ける。
俺の隣にはアレンが、正面にはレオヴィクとヨハンが座る。
そして誰かが話し始めると思って黙っていたが、一向に誰も話し出さない。
すると痺れを切らしたのか、アレンが口を開いた。
「だーー!!リオ君と話をするって言うから、ここにきたんですよー!?なんで誰も話さないんですかー!」
怒っているというよりかは、無言の空気に耐え切れず爆発したというような感じだった。
「アレン様、どうどう。落ち着いてください」
まるで馬でもなだめるかのように、ヨハンが片手をアレンの方に伸ばしながら、手のひらを下に向けた状態で上下させる。
「ヨーハンさん!俺は動物じゃないんですよー!」
ほっほっほっと髭を触りながら笑うヨハンに、また前のような雰囲気が少しだけ戻ってきた気がした。
しかし、その中でも無言のままこちらをずっと見ていたのはレオヴィクだった。
レオヴィクは何も言わず、ただ、俺を見たまま、口を閉ざしている。その視線の意図は俺には汲み取れない。
「レオヴィク様。この件は、レオヴィク様からお話されるのがいいと思いますよ」
ヨハンに促され、ようやくレオヴィクの視線が外れる。
小さな咳払いをした後、レオヴィクが口を開いた。
「リオ、俺の屋敷に移らないか」
レオヴィクと、庭で夜に話したときに、なんだかそんな話をした気がするなと、ふと思い出す。
そして、それを思い出したところで、あの夜の心地よさを再確認する。
「ここは、教団のやつらが来るようになった。今まで一番安全かと思っていたが、もはやここが一番危険な場所となってしまった」
レオヴィクは、特に俺の返答などは待たず話を続ける。
「だから、俺の屋敷にお前の部屋を用意した。俺の屋敷であれば、教団のやつらも簡単にはお前の存在を感知することはできないだろう」
そう言われ、今日の出来事にドキリと心臓が音を立てる。
もう既に接触してしまっているのだ。しかもノエルとともに。
とはいえ、この場所に帰っていることは見られていないと思うから、この部屋にいる子供が俺に結びつくことはないと思った。
だからこそ、やはり言わないほうがいいと、俺はこの時そう考えたのだ。
「俺の屋敷でも、今と同じ生活は保障する」
俺は、特に返事はせず少し俯く。
生活の保障など、もう十分すぎるくらいもらっているから、特に心配も何もしていないのだが、部屋を移動することに関して、一つだけ引っかかることがあるのだ。
もちろん、ここが危険かもしれないということは重々承知している。
しかし……
「ノエル、には、もう会えないのか」
俺は意を決して口を開いた。
すると、レオヴィクは「そうだな」と言いながら考え込む。
その様子を見て、すかさずヨハンが声を上げる。
「ご安心ください、リオ様。ノエルと会えないわけではございません。今までのように、勉強終わりに庭で、ということは難しくなるかもしれませんが、ノエルもたまに、レオヴィク様のお屋敷に私とともに遊びに行かせましょう」
ヨハンが言うと、レオヴィクはヨハンの方を向き「おい!」と声を荒げる。
しかし、そのレオヴィクをヨハンがちらりと見ると、レオヴィクはなぜだか黙り、そしてまた正面、俺の方を見た。
「そ、そうだな。お前の友達はヨハンの孫でもある、…からな。たまに遊びに来てもらえ」
ノエルに会えなくなるわけではない。であれば、特に移動しても問題ないのではないかと思った。
しかし、それが解決するともう一つ、引っ掛かることができた。
ただ、これは素直に口に出せる内容じゃないのだ。
ノエルと初めての秘密。二人でこっそり市街地に行くということは難しくなるのだろうか。
「リオ様、ノエルとそこまで仲良くなってくださっていたのですね。よく、夕食時にノエルがリオ様のお話をなさるのですが、ご迷惑ではないかと少しだけ心配していたのですよ」
「迷惑なんて!……そんな事、絶対にありえない」
声が少し大きなってしまった。そのことに三人とも驚いており、その後はまた少しの沈黙が訪れる。
次に沈黙を破ったのは、レオヴィクだった。
「どうだ?」
そして、ここであることに気づいた。
レオヴィクは俺に選択肢をくれているということに。
本来であれば、俺は利用される立場なのだから、レオヴィクがやりやすいように、動きやすいように使ってくれればいい。
部屋を移動する。とただ一言命令されれば、俺は特に抗いもせずついていく。
もちろんノエルと会えなくなる可能性に関しては、同じように聞いていたかもしれないが、それでも、俺に選択肢があるというこの状況が、とても不思議な感じがした。
信じたい。疑いたくない。でも……怖い。
胸の奥で、何かが軋む音がした。
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