琥珀の灯火を抱く少年と、誓いに囚われた騎士

大城トモ

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第二章「信じる者、欺く者」

神の遺物と王の証 ーレオヴィク視点ー

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ノーバイデン教団のアモン神官。
名を引き継ぎ、神官としてノーバイデン教団の頂点に立っているという。
しかし、手紙にも「アモン」と名前が書いていたし、リオの隣に立っているという事は、普通の信徒とは違うという事だろう。
手記にもアモン神官という名前が出てきているところを見るに、やはり名前は受け継いでいっているようだ。

そして、リオだ。
アモン神官の隣の玉座に座るリオは、全く生気を感じられない。
ただ一点を見つめて、その瞳は、前に夜の庭で見たキラキラとした翡翠の色はしておらず、濁ったような、暗い色をしていた。
そして手はだらりと体の横に垂れている。
首元につけている琥珀の首飾りだけが、異質に見えるような、まるで人形のようだった。

「我々は一度神を失いました」

拳を握りしめリオを見ていると、アモン神官が話し始める。

「我々の前に神は再び顕現してくださったのです」

その言葉を皮切りに、玉座に続く道を見ていた信徒たちは、アモン神官の方へ体を向け、そして先ほどよりも深く頭を下げる。

「我々は神に見捨てられてなどいなかったのです」

異様な雰囲気の中、どうにか前に飛び出さないよう、後ろに下がらないよう、団員全員が足を地面に縫い付けていた。小さく、団員たちの力む筋肉の音が聞こえてくる。
それほどまでにここは、アモン神官の声以外、音がないのだ。

「我々は一度神を失いました。この玉座に座っていたアンブラリア王家の所業により」

一体何が始まるというのか、式典というからには何かしら儀式などが行われる可能性もあるが、現時点でアモン神官はリオに触れるようなそぶりは見せていない。ただ、目の前にいる信徒たちへの説教を行っているようだ。

「かつて、この国を支配していたアンブラリア王家は、神の怒りを買い、そして神によって葬り去られた。しかし、その後、神は我々の元に姿を現さなくなってしまった」

言いたい放題だ。
事実とも言い難い内容に反論したい気持ちはあるが、今は声を出してはいけない。
ひとまず我慢するほかないのだ。

「神は、アンブラリア王家を葬り去った後、琥珀の首飾りと共にこの世を去った。しかし!神は戻ってこられたのだ!」

琥珀の首飾りが神、だと?
手記で伝わっている内容と、ノーバイデン教団が言っている内容がいよいよ食い違ってきている。
琥珀の首飾りは王家の証となりえるもの。決して神の遺物ではないのだ。

「そして、神はお姿も顕現され、我々の元に戻ってきてくださっております」

「姿……?」

俺は思わず声を出してしまう。アモン神官が話し終わった後に声を出してしまったために、俺の声はこの場所に響いてしまい、アモン神官と他信徒が全員こちらを向く。
ぎょろりと、まるで目玉だけがこちらを見ているかのように、たくさんの視線が刺さる。

「騎士団は、我々の神を隠していた。我々が入れぬあの場所に神を隠していたのだ」

「なんと、」

「騎士団はやはり信用できん」

「神を隠すなど、神への冒涜だ!」

アモン神官の言葉で、信徒たちが口々にこちらへの非難の声を浴びせてくる。
俺含め、騎士団はリオがあの部屋で保護されたことを知っている。
神を隠していたという内容は、にわかに信じられない言葉であり、団員たちも信徒たちの声を全て無視するように正面だけを見据えていた。
それは、後ろにいる団員たちの雰囲気でわかる。
こいつらは強いのだ。俺がしっかり鍛えたのだから。

「粛に」

アモン神官が、信徒たちへ一言告げる。
すると、それまでこちらを見ていた信徒たちは、もうこちらには興味をなくしたかのように、再びアモン神官の方へ向き直る。

「神を隠したことについては、いずれ神からの罰が下るであろう。そなたたちが心を痛める必要はないのだ」

まるで教会にいる神父のように、信徒たちの痛みがわかるかのように、寄り添うような声に信徒たちは「アモン神官…」と呟きながら、頬を染めている。

「では、神の顕現を、改めて皆に自覚してもらうため、神に御力を皆に……」

アモン神官はそう言うと、隣の玉座に座っているリオの耳元に自身の口元を近づける。
何を言っているかは全くわからない。
ただ、リオの耳元に近づいたアモン神官の口が動き、何か言葉を発した瞬間

「あ、やだ、ごめんなさい、ごめん、なさい」

とリオの小さい声が聞こえてきた。
その声は、前にベッドへ引き込んでしまったときと同じ声だった。
まさかとアモン神官の方を見ると、アモン神官と目があう。
その時、アモン神官の口角がいびつな程に上がり、目はまるでこちらをあざ笑うかのように細められていた。

俺は、思わず帯刀している剣に手を置き、駈け出そうとしたが、俺と同じくらいの力で、俺の剣を握る手を上から押さえつける手があった。

「団長。今は辛抱してください。今行くべきではありません」

ずっと俺の後ろについていたアレンがそう告げる。
その言葉を聞いて、俺は上昇しきっていた感情を静かに納め、そして手を剣から外す。

リオは、その間も「ごめんなさい、ごめんなさい、」と小さく呟いているが、その目からはやはり涙は流れていない。
しかし前回は自分の体を守るような動作をしていたが、今回は、体の隣にだらりと垂れている手すら動かないのだ。
口元だけが、同じ言葉を何度も繰り替えし動いている。

「神のお導きの元、ただいまより儀式を執り行います。前へ」

アモン神官はリオの傍から離れ、玉座まで続く階段を3段降りる。
他の信徒と同じ低さにはなるが、階段を下りた先、中央部分に、大人の人間が一人寝そべることができるくらいの大きさ祭壇があった。
祭壇の高さは、丁度アモン神官の腰当たりまである。

そこに一人の男が歩いてくる。
その男は「あぁ、私が選ばれるなど…光栄なことでございます」
と、アモン神官を見て、そして自身の首飾りを額に当てる。

そのまま、その男の行動を見ていると、男は何の躊躇もなく祭壇の上に乗り、そして仰向けに寝そべった。
胸元で首飾りを握りしめている。

アモン神官はリオを背にし、祭壇の中央へとゆっくり動く。
そしてアモン神官のすぐそばに他の信徒がしゃがみこむ。
その手には鈍く光る剣が握られていた。
アモン神官はしゃがんでいる信徒の額に、自身の首飾りをあて、そして信徒の頭を一撫でする。
そのまま信徒から剣と受け取り、両腕で高らかに掲げ、刃先を祭壇にいる信徒の方へ向け、口を開いた。

「神のご加護があらことを!」

その言葉をきっかけに、アモン神官は祭壇にいる男の腹を剣で貫いた。

「ああああああああああ!!」

痛みに声を上げる信徒、それを見て歓喜の声を上げる信徒。
それは、気持ちの悪いほどに異様な光景だった。

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