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最終章「繋ぐ者、託される者」
信頼と失望
しおりを挟む俺の両頬を挟んだまま動かないタロル。
「ど、どうしたんだよ」
挟まれてしゃべりにくい状態ではあるが、タロルに問いかける。
どんどん頬がつぶれていく。
「ひゃ、ひゃへほほ!(や、やめろよ!)」
俺の制止を聞かずに、タロルは自身の腕に力を入れていく。
そしてピタリと止まった時には、俺の頬は完全にぺしゃんこつぶされていた。
口の中で舌を動かすこともままならないため、しゃべることもできない。
俺と恐らく目が合っているタロルは、次第におれに顔を近づけてきた。
思わず目をづぶると、こつんと額に何かが当たる感触がした。
恐る恐る目を開けると、タロルの額が俺の額に当たっていた。
とは言え、フード越しなので、たぶん額だろう、という感じだった。
つぶされていた頬がゆっくりと解放され、そしてその両手は静かに俺の背後に回り、そのまま抱きしめられる。
「タ、タロル!?」
俺は驚いて、思わずタロルの体を押すがびくともしなかった。
あたり前だが一言もしゃべらないタロルに、こちらもどう声をかけたらいいかわからず、ひとまずタロルに身を預けることにした。
そうして、しばらくした後、タロルが俺からはなれ、そして俺の両肩を掴み、再びこちらを見てくる。
言いたいことがわからず、俺はきょろきょろと視線を彷徨わせるが、タロルがじっとこちらを見ているような感じたしたので、俺も意を決してタロルの目があるであろう場所をじっと見る。
「タロル?」
「リオ」
すると、どこからか声が聞こえた。
「え?」
声はタロルの方からではなかった。別の場所から聞こえる声に、俺は再びタロルから視線を逸らし、周りを見る。
「リオ、聞こえるか」
「き、きこえ、る……。レオ、ヴィク?」
聞こえる声は、確実に聞き覚えのある声だった。
「よくわかったな」
そんな茶化すような声も聞き覚えのある声だった。
「なん、で」
俺は、久しぶりに聞くレオヴィクの声に思わず立ち上がろうとしたが、タロルが強く肩を掴んでいるため、動くことができない。
「リオ、そのまま聞いてくれ」
俺はレオヴィクの声の出所を探りたくてきょろきょろするが、俺とタロル以外の気配をこの部屋から感じることはできない。
「明後日、お前のお披露目式典で、俺達は動く」
「うご、く」
「あぁ。その日が最後だ」
俺は思わず唾を飲み込む。「ゴクリ」と、自分の音なのに全身に響いてい聞こえるくらい、大きく感じた。
お披露目、動く……最後。
俺は特に返答をせずに、レオヴィクの声に耳を澄ませた。
「あまり長くは話せない。タロルの傍にいろ。そしたらすぐに終わる」
声を発しようとするが、のどが引っ付いてうまく音が出てこない。
タロルは俺にまた額を近づけ、そしてコツリと合わさる。
その動きに思わず寒気がして、びくりと肩を上下に動かしてしまう。
「どうかそれまで、無事でいろ」
その言葉を最後に、レオヴィクの声は聞こえなくなった。
「え、タロル、お前は…ーー」
こちらから質問しようとしたが、肩に置かれていたタロルの片腕が動き、人差し指で口元を抑えられる。
それ以上の質問を許さないというような、そんな雰囲気に大人しく口を閉じる。
最後だといっていた。
明後日の式典で動くレオヴィク。そしてその日が最後。タロルの傍にいればすぐに終わる。
「そっか…」
俺は小さく呟いて、タロルに背中を向ける。
『レオヴィク騎士団長が、リオ様を害そうとしていると噂を聞きつけました』
アモンの言葉を思い出し、俺は静かに悟る。
それがいい事なのかわるいことなのか、今の俺に判断することはできない。
俺はアモンとレオヴィク、どちらを信じればいいのか全く分からない。
俺は一体、どうすればいいのだろうか。
どうすることが正解なのだろうか。
そう考えていると、髪を整える作業が再開された。
シャキ、シャキ、と先ほどまで心地よく聞こえていたはずのはさみの音は、俺の心音を早めるには十分すぎるくらいの材料だった。
「はっ、…はっ、……はっ……っ!」
気が付けば息の仕方を忘れていた。
吸って、吐く。
ただこれだけなのに、息を吸えない。
この部屋の空気が瞬間的になくなってしまったような錯覚に陥り、なおさら焦る。
それにきづいたタロルが、はさみをバンっと机に置き、そして俺の体を横抱きにしながら背中をさする。
俺はその行為すらも怖くて、タロルを思いっきり押しのけた。
はずだったのだが、手には全く力が入っておらず、タロルは離れない。
だんだんと体の中の空気も無くなっていく。
俺、このまま死ぬのか。
だめ、だ、ここで死ぬのだけはだめだ。
「無事で」と、レオヴィク言っていた。
であれば、ここで死んでしまうと、レオヴィクの計画がまたダメになるかもしれない。
その気持ちをもって、呼吸を戻そうと思うものの、そう簡単には戻らない。
俺の視界は完全に落ちた。
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