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最終章「繋ぐ者、託される者」
王の想い
しおりを挟む拳を握る手がどんどん痛くなる。
自分でも気づかぬほどに強く握りしめてしまっていたようだ。
それに小さな光も気が付いたのか、こぶしの周りをふわふわと飛び、そして俺はその光を見て握る力を緩める。
『ありがとう』
お礼を言うと、小さな光は嬉しそうに飛び回る。
そして目の前の光景は、悲惨なものになっていった。
「民の暴動が起き、城まで迫ってきております!!」
焦る騎士の声を、玉座に座るセヴァリウス王は静かに聞いていた。
王は口を開くこともしない。
そして、この場面に来るまでの間、度々現れては隣に居座るアモン神官。
彼は、王の手をしきりに撫で続けていた。
最初は拒否していた王も、次第にアモン神官の手を受け入れはじめ、そして次第に抵抗という抵抗をしなくなっていた。
『あれって…』
その光景を見て、一つの疑惑が思い浮かぶ。
俺の頭をしきりに撫でようとするアモンの事を。
アモンに頭を撫でられると、思考に靄がかかる。きっと王もそういう状態になってしまっているのだろう。
しかし、今の俺ではどうすることもできない。
何度か近くまで行って声をかけてみたものの、反応する気配すらないのだ。
「あぁ王よ。これで琥珀の首飾りは神の元に返るのですね」
アモン神官がセヴァリウス王の手を撫でながら言う。
そんな異様な雰囲気に、騎士はアモン神官を王から引き離そうとするが、それよりも早く玉座の扉が開く。
「愚王よ!今ここでその罪改めろ!」
民衆が入ってきた。
暴動を起こした民衆は、皆がそれぞれに農具を持っていたり、自宅にあるであろう武器となりえるものを持っていたりと、様々なものを手にしていた。
中には騎士団に取り押さえられ地面に伏しえているものもいたが、騎士団よりも民衆の数の方が多かった。
そしてその民衆の中から声が聞こえる。
「おと、うさま…」
セヴァリウス王はその声を聞き、今まで微動だにしていなかった体を動かし、民衆の近くまで向かう。
民衆は、城にいたセヴァリウス王の家族を既に捕えていた。
王妃ミリア、第一王子ラシエル、第二王子ティオル、第三王女セラフィナ。
セヴァリウス王は、王妃と子どもたちの姿に目を開き、そして大粒の涙を流す。
「や、やめてくれ、こどもたち、だけは、どうか」
しかし民衆はそんなことをお構いなしに、民衆の近くに丸腰できた王を捕らえ、そして家族と同じように捕縛する。
「家族思いの王様は、家族と同じがいいんだなぁ!」
民衆のひとりがそういうと「そうだそうだ!」「愚王が!」「お前たちのせいだ!」など口々に発する。
その言葉を聞いて、子どもたちが批判の声をあげるものの、民衆の多さと勢いにすぐにかき消されてしまった。
『セヴァリウス王…』
俺が小さく呟く。
その時だった。
セヴァリウス王と目が合った気がした。
今まで何を言ってもこちらを見ることも反応することもなかったが、俺のその小さな声、民衆には確実に負けるだろうと思われる声に、セヴァリウス王が反応したように感じたのだ。
俺は、一縷の望みをかけ王の元に向かう。
すると王が口を開いた。
「未来の王よ、そなたに託そう、そなたに繋ごう」
その声は俺にしか聞こえない声だった。
それほどまでに小さな声だった。
瞬きをする。
目を開くと、そこは既に処刑の目前だった。
セヴァリウス王たちが捕らえられてからの記憶は、誰かの手で覆い隠されたように、ぽっかりと抜け落ちていた。
小さな光を見る。
今まで元気に飛び回っていた光は、これから起こることを知っているのだろう。
ピクリとも動かず、俺と同じように目の前の光景を黙って見守っているようだった。
市街地にある大噴水の前、臨時で作られた処刑台。
そこにセヴァリウス王とその家族たちは並べられる。
子どもたちはまだ若く、未来ある年齢だ。
ミリア王妃に至っては、未だにその美しさは健在で、今から処刑されるとは思えないほどの力強い意思を感じた。
そして、セヴァリウス王。
最後に俺に言葉をかけた瞬間から、傀儡のようだったなりは潜め、バルコニーでみた、あの輝かしい王が戻った気がした。
その雰囲気に民衆も一度はたじろぐものの、ここまで来てしまってはもうだれも止めることはできない。
ミリア王妃がどこかを見て、口を動かす。誰にも聞き取ることはできないが、手記によればエルドリクへ向けた最後のメッセージ。
そしてセヴァリウス王が俺をちらりと見るとニコリとほほ笑む。
そして
「アンブラリア王国、現国王セヴァリウス・アンブラリアの名のもとに。民たちの未来が潰えないことをここに誓う」
目を背けてはいけない。
俺はその覚悟のまま、セヴァリウス王を見続けた。
スパンと、何の引っ掛かりもなく下まで落ちていく大きな刃物。
そしてゴトリ、ゴトリと首の落ちる音。
その音をかけ消すように聞こえてくる民衆の歓声。
『おぇっ』
俺は思わず吐いてしまう。
初めてだ。実際に人の首が落とされる瞬間を見るというのは。
しかし、セヴァリウス王が諦めなかった。
最後を俺に託したのだ。
そしてここまで見て再確認する。
『ノーバイデン教団、が……悪。だ』
俺は口元を拭う。
『でもなんで、琥珀の記憶は…、この場面を鮮明に……』
湧いてきた疑問を口に出す。
すると小さな光が俺を心配するように周りを飛び回り、そしてある場所に向かっていく。
そこは群がる民衆よりももっと後ろ。
一人の女の子と、黒いフードを被った背の高い人が女の子の肩を抱いていた。
フードの人は、女の子を抱き抱える。
民衆を見ないように、今処刑された王家を見ないように。
そして、女の子も必死で黒いフードの男にしがみつく。
小さな光が返っていく。
女の子が首から下げていた、琥珀の首飾りの元へ
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