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最終章「繋ぐ者、託される者」
影と記憶
しおりを挟む俺はここに来たことがある。
真っ暗な視界の中で、ふわふわとした浮遊感。
ここは琥珀の記憶の中だ。
感覚的にそう感じて、俺は閉じているであろう目を開く。
やはり視界は真っ暗で、何も見えなかった。
しかし、今回は小さな光もいない。
「あれ。俺、一人?」
俺はあたりを見渡してみるが、小さな光はなく、飲み込まれそうな暗闇だけがそこにあった。
だんだんと怖くなる闇に、心が蝕まれそうになる。
「なんで、なんで…」
頭を抱え、体を丸める。
「俺は…一人で、でもレオヴィクが俺を、必要としてくれて…」
駒だとしても、レオヴィクは俺を必要としてくれた。
そしてテーラーにも、利用されてでも生きろと言われたから、その言葉の通りにここまで来た。
なのに、テーラーはいないし、レオヴィクは遠く感じる。
アレンもヨハンもノエルもここにはいない。
「一人…」
俺は暗闇に完全に飲まれる。
琥珀の首飾りが胸元にあるはずなのに、全く温かみを感じない。
つめたい暗闇に、俺は一人になってしまった。
涙が流れる。
あの日、レオヴィクの前で泣いてから、涙腺が壊れてしまったのかもしれない。
そもそもなんで俺はこんなところに。
そうだ、式典だ。
俺が王家の人間だという事を民衆に伝え、そして俺は琥珀の力を使って、みんなを導かないといかけないんだ。
導くってなんだ。
俺は今まで一人で生きてきて、自分が生きることで精いっぱいだったのに。
どうして、俺が導かなければいけないんだ。
「なんで、なんで…」
もう一度声を出してみるが、その声は暗闇に吸い込まれて消える。
「誰か、た、…たす」
そこまで言いかけてふと気づく。
その先に続く言葉を俺は誰かに伝えたことがない。
伝えたことで、その願いが実行されるわけがないとわかっていたから。
なのに、どうしてここでその言葉を言おうと思ったのだろうか。
レオヴィクたちが優しくしてくれて、テーラーに守られていたと知って、俺は自惚れてしまったのだろうか。
『ただの利用されるための駒のくせに』
声が聞こえた気がした。
誰もいないはずの暗闇から。
『お前は利用されるためだけの存在なのに、期待した』
ち、違う
『お前が期待したから、あいつらは離れていった』
違う、違う!
『お前が期待などしなければ、使いやすい駒として、傍にいられたかもしれないのに』
俺は期待なんかしていない!
『お前は期待した。そして求めた』
俺は、求めてなんか…
『オマエハ ヒトリダ』
俺は、ひと、り
『王家の生き残り?そんなの嘘だ。駒として使われているだけだ』
……
『お前をいいように使うための、優しい嘘さ』
抱えていた頭から手を離し、声が聞こえる方を見る。
そこに真っ暗なはずなのに、人間のような形をした影があった。
首元には俺と同じ琥珀の首飾りもあった。
『オマエハ オレダ』
その言葉を最後に、影は霧散した。
俺は影がいた場所から視線が逸らせなかった。
そうか、俺は自分が気づかないうちに期待してしまったんだ。
影は俺自身だから、俺のその気持ちに気づいていたんだ。
俺が、求めてしまったから。
また捨てられたんだ。
また?
またってなんだ。
俺は期待して、求めて、そして捨てられるのはこれが初めてのはずなのに。
俺は、何に期待して、何を求めてしまったんだ。
テーラーの事か?
でも、違う、テーラーは俺を守るためにしてくれていたという事はわかってる。
だったら。
『リオセル、ごめん』
『リオセル、ごめんなさい』
また違う声が聞こえてくる。
さっき影がいた場所とは反対側。
そこは、いつかアンブラリア王家の記憶を見た時と同じように、暗闇の中に映像として流れる。
俺はその映像に近づき、そして映像に触れる。
浮遊感の後、映像の中に入る。
「リオセル……私たちを許して…」
「ごめんなリオセル。必ず、必ず迎えに行く」
そう言いながら、二人の男女がスラムで膝をつく。
その二人の前には目を閉じた少年が一人。
『俺…?』
その容姿はまるで、子供のころの俺だった。
年齢は十歳くらいだろうか。
今よりもっと小さい。
では、その前にいる二人は誰なんだろうか。
「行こう、カリスタ。記憶は消えたはずだ。リオセルが起きてしまう前に早く」
「えぇ。でも…でもどうして」
「仕方のない事なんだ。ノーバイデン教団がリオセルの存在を知った可能性が高い。だが、今ならまだ隠し通せる」
男はそういいながら、子どもの俺の首に琥珀の首飾りを付ける。
「ごめんなさい…あなたに出会わなければ、あなたもこんな辛い思いは…」
「違う、そうじゃないカリスタ。またみんなで幸せになるんだ。リオセルと俺と、カリスタで」
二人は寝ている俺を一緒に抱きしめ、そして言う。
「アンブラリア王家の存続のために」
あの二人は一体誰なんだ。
子どもの俺から二人が俺から離れていく。
「リオセル…リオ、リオ。貴方を置いていく母を許して」
「リオ、父の事も許してくれ。迎えに行く。迎えに行くからな」
そうして、二人は手を繋ぎ俺に背を向け走り出す。
スラムの茶色い通路に人は誰もいなくなった。
子どもの俺は、うっすらと目を開け、そしてその目から一粒の波が流れる。
『おとう、さん…。おかあさん…。僕を…すてない、で、もうわがまま、言わない…から』
俺がその言葉聞いた瞬間に、暗闇が映像を飲み込む。
「ち、違う、お父さんとお母さんは俺を捨てた、わけじゃなく…て、そうじゃなく、って」
頭が痛む。
琥珀で見た記憶は俺の記憶だ。
アンブラリア王家の記憶じゃない。
俺が捨てた、俺がいらないと捨てた記憶だ。
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