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最終章「繋ぐ者、託される者」
二人の血縁
しおりを挟む「そ、そんな。琥珀は勝手に持ち出されて、カスティアンが一族を裏切って…、それで…」
ゼリウスは追憶の妖精が見せた記憶を見て、狼狽えていた。
もちろん、琥珀を持ち出したのはカスティアンだが、一族を捨てたわけではなかった。
戻れない状況になってしまった。
そして一族も地下から出ることを恐れ、結局お互いに誤解を持ったまま今日まで来てしまっている。
「ゼリウス、お前のやってることも間違いではない」
俺はゼリウスに言う。
「ゼリウスも、母親に言われ、その約束を守っていた。ただ、それだけだ。でも俺はこの国を壊されたくない。あの記憶を見たらなおさらその気持ちが強くなった」
追憶の妖精は何も言わずに、俺の周りを飛んでいる。
ゼリウスの傍に何度か行こうとするものの、躊躇して結局俺の傍に戻ってくる。
「俺は…、なんのために…」
「家族のためだ」
俺の言葉に、ゼリウスはようやく俺と目が合う。
黒い瞳は、この場所ではより黒く、光を通さないその瞳は、まるで昔の自分のようだった。
「かぞ、く?」
「あぁ、お前も家族のためにここまで戦ってきたんだろう」
「俺に、家族、など…」
ゼリウスは必死で俺の言葉を否定する。
「俺にもすでに家族はいない」
「だ、だったら!お前も何ためにここにいるというのですか!」
「新しくできた大切な家族のためだ」
俺は即答する。
ここに来るまで、たくさんの人に助けられていた。
その事に気づくことができたから、俺は今ここに立っていられる。
「馬鹿な。許されるわけないじゃないですか。お前など、お前たちの血筋が、…家族などを語っていいものか!」
ゼリウスは、浮遊したままの体をどうにか動かし、俺の傍まで来ると、思いっきり俺の頬を殴った。
おれは踏ん張りのきかないこの場所で、力に任せてそのまま少し回転しながら、殴られた場所を抑える。
「お前たちの先祖が!我々の先祖を地上に連れて行かなければ!こんなことにはならなかった!」
「でも、これはお前たちの先祖、ゼレディアンが望んだことだ」
「嘘だ!私は信じない……。これは、…これは妖精が見せた嘘の記憶だ!!」
「あらやだ。私の記憶を嘘だななんて」
追憶の妖精は、ゼリウスが言った言葉にようやく反応し、俺の殴られた頬を撫でる。
すると、そこに灯火が集まり、そして、頬の痛みはなくなった。
「ゼリウス、だったかしら。貴方を琥珀から見た時、すぐにわかったわ。ゼレディアンの子孫だと。ゼレディアンとおなじ目をしているんだもの」
追憶の妖精が、ゼリウスの傍に行き、そして瞳を間近で見る。
その様子に、ゼリウスも驚いたのか、後ろに下がりながらも反論する。
「な!なぜ!ならなぜ、私の元に来てくださらなかったのですか!」
「ゼレディアンが望んでいなかったからよ」
追憶の妖精が答える。くるりと一回転しながら、羽を羽ばたかせ、そして、金色の髪を掴み、そのままたくし上げる。
すると首元が露になる。
うなじには、今は見ることがなくなった奴隷紋がそこにはあった。
「これ、私につけられた奴隷紋。妖精用に改良したらしいわ。貴方たちの先祖もよくやるわよね。でもね、これの契約を破棄してくれたのは、ご存じの通りゼレディアンで、その時に私にこう言ったのよ。「もう僕たちの一族には関わらず逃げて。でも、もし兄さんが地上に出るようなら、兄さんのお手伝いをしてあげて」ってね」
ゼリウスは呆然とする。
「だから、私はあなたたち側の人間には関わらないようにしたのよ。しかも、ゼレディアンは望んでいなかったのに、力が使えるからと子孫を残すために無理やり……。私、見ていられなかったわ」
ゼリウスは、自身の先祖たちがしてきたことをようやく理解したようだった。
俺を殴った拳は緩く解放され、そしてそのままだらりと垂れさがる。
光がともっていなかった瞳は、より暗闇を携え、闇に溶けてしまいそうだった。
「貴方も過去のしがらみに捕らわれた可哀そうな子だとは思うけど、でもごめんなさい。もうあなたを助けるすべは私にはないの」
追憶の妖精はそう言うと、ゼリウスの方に人差し指を伸ばし、そして再び指をふるう。
灯火が集まり、そして灯火は追憶の妖精の指に吸い込まれていく。
吸い込まれている灯火は、ゼリウスの体から出ていた。
「な、なん、で」
次第に力が抜けていったゼリウスは、重たそうに顔をあげ、追憶の妖精を見る。
「ゼレディアンの血筋は、残したらダメって、ゼレディアンからの最後のお願いなの」
「追憶の妖精!!!」
俺は思わず叫ぶ。
「どうしたのリオ。もうこいつは生かしておけないのよ。約束だから」
「で、でも!」
俺の声を聞きながら、追憶の妖精はどんどんゼリウスから灯火を回収していく。
ゼリウスの顔から生気がなくなっていき、そして体は、記憶の映像で見たゼレディアンのように、細くなっていった。
「お、おれ、が…」
追憶の妖精がちらりと俺を見る。
「俺が管理しますから!!」
その言葉に追憶の妖精は「あらま」と言って、指を止める。
「管理って、あなた何をいってるかわかってるの?」
「あ、えっと、そのわかってます!」
ゼリウスの体から灯火が出てこなくなり、そしてゼリウスは静かに息を吐く。
その音はとても小さく、俺は逆に大きく息を吐いた。
「も、もうゼリウスは動けないでしょう。だったら、このまま俺の城でゼリウスを管理して、そして家族がどいうものか教えていきます!俺が教えてもらったように!」
叫んだ声は、暗闇に吸い込まれず、まっすぐに追憶の妖精へ届いた気がした。
「…あなたはカスティアンの血筋のはずなのに、性格はまるでゼレディアンにそっくりなのね。カリスタを殺したのも…ーー」
「わかってます!!」
追悼の妖精が言わんとしていることを察して、その言葉を自分の言葉で遮る。
俺は、視線を逸らさずに返答を待つ。
「はぁ、わかったわよ。私の負け」
俺は追悼の妖精の言葉を聞き、思わず笑顔になる。
「貴方が教えてもらった家族というものを、ちゃんとこの子にも教えてあげるのよ」
「はい!」
「もぉ。サービスで少しだけ戻しておいてあげるわ」
追悼の妖精は、そういうともう一度指をふるう。
次は、妖精の指からゼリウスへ灯火が移動していき、そして体の中へ吸い込まれていく。
危うい細さはなくなったものの、そもそもゼリウスの心は既に砕けているようで、ゼリウスはこちらを見ることはなかった。
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