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第3章 復興編

第93話  ナウル町

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次の日、フェリクス達の代わりの代表者と共に見知った顔がそこにはいた。

「若、久しぶりです」
「そんなでもないでしょ、レオナルド」

そこにいたのは、ホーリーフラッグの面々だった。

「じゃあ、後、頼んだよ」
「はい、若は思う存分、見て来て下さい」

軽い挨拶も済ませ、フェリクスとアベルは港町を後にし、別の場所に向かった。

向かう場所が決まっていない為、2人は軽く歩きながら次の目的の場所を決めていた。

「それで次は何処に向かうんだ?」
「さっきの事もあるし、先に主要な町に行って見ようと思う。残って主要都市は、2つ、西のタリンと東のナウル、アベルはどっちに行きたい?」

フェリクスの選択肢を提示され、考えるが、決められずにいた。

「俺は特にその都市の特徴も知らんからな、何か教えてくれると助かる」
「そうだな、俺もあまり知らないが、タリンは農業、ナウルは鉱山業で有名なぐらいか」
「・・・十分な情報だと思うが」
「それでアベルはどっちがいいの?」
「そうだな――」

アベルが答えようとした時、フェリクスのイヤリングが光り、ダルクの声が聞こえてきた。

「フェリクス、ナウルの方に行かせた者から連絡が途絶えた、至急、向かってくれ」
フェリクスの返事を待たず、魔法は切られた。
「だぞうだ、また、同じような事が起こっているみたいだな、ナウルに急ごうか」
「全く、この国の貴族は意地汚いのが多いらしいな」
「そうらしいね」

また、フェリクスはアベルに身体強化の魔法を掛けて、アベルと一緒にナウルに向かった。

急いだ結果、1時間もしない内に2人はナウルに到着した。

「それでどうするのだ?」

街の外に着いたはいいが、敵の数も味方が何処にいるかもわからないでは行動のしようがなかった。

「生きている事に関しては祈るしかないから、こういう時は、迅速に、かな、探知魔法で町全体を一気に探して即鎮圧かな、アベルはここに居てね」

フェリクスからの待機命令にアベルはむっとした感じの声をだした。

「俺だって戦えるぞ」
「Aランク以上の護衛だっていたはずだし、何があるか分からないかな、ごめんね」

それだけ言うとフェリクスはアベルを置いて、何処かに行ってしまった。

空中で飛びながら、探知魔法を使ったフェリクスは、商会の人物が生きている事が確認できた。そして、そこには完全武装の集団がいる事も分かった。探知魔法も使っている以上、相手にもこちらの事がばれた事になるので、フェリクスは、そのまま、敵の場所に向かった。

そこは豪華な屋敷で、庭には探知魔法で分かっていた通り、武装した集団が居た。そして玄関にはリーダーのような人物が剣を片手にフェリクスの到着を待っていた。

「君かな、探知魔法を使ったのは?」

門の前に来ただけで、相手は探知魔法を使ったのを言い当てた。フェリクスは喋りながら、門をくぐる。

「そうだと、何なのかな?」
「いやはや、クレソン商会の幹部が来ると思っていたが、こんなにも若い人物が来るとは思わなかったなと」
「これでも副会頭、なんですけどね」
「ほう、それ凄い、あの商会でナンバー2とは、私は、アンバー・トレイズ、ここの貴族の息子をしていたものだ、父がこの前の戦争で戦死してしまってね、今は仕方なくここで代表をしている」
「それでアンバーさんは我が商会の者を捕らえて、どうするつもりなのですか、こんな武装集団も集めて?」
「交渉でもしようかなと思って、そっちの方が得意だろう、交渉は」
「なんの交渉でしょうか?話だけでもお聞きしましょう」

それを待っていたと言わんばかりにアンバーは剣を置いて、紙を取り出して、フェリクスに投げた。

「その内容が要求内容だ」
「これは」

紙に書かれていたのは、今までの行いは父、ダグラー・トレイズが行ったものであり、私たちの罪は問ないでほしいと言う内容だった。

「商会の者を人質に取っているとは思えない控えめな要求内容ですね」
「命が惜しいものでね、敗戦国である以上、私たちは君たちに頼むしかない立場だ。普通ならば、即刻斬首か、追放がいい所だろう、普通ならね、でも今回は違う、君たち、クレソン商会が統治権を貸して貰っていると聞いてね、交渉の余地があると思ったのさ」
「ふむ、どうしましょうか」

フェリクスの顔は悩んでいるようだった。

(ここまでの手並み、中々のもんだ)
しかし、一番の問題はここの領民がどう思うか、である。能力があるからと言って今までの罪が消えるわけではない。

「まぁ、今すぐ殺すと言う訳ではないので安心して下さい、それより、先に商会の者を開放してほしいのですが」
「幹部相手に武力は無駄だろう、おい、お前たち、丁重に連れてくるんだぞ」

アンバーは兵士たちに念押しすると、捕まっている商会員たちを連れてきた。縄に掛けてあるが、無事なのを確認するとフェリクスはほっと一息を着いた。

「副会頭~」
「すみません、若」
「油断しました」

フェリクスはナイフでその縄を解いた。

「全く、心配させるな、お前たち」
「問答無用でお前たちを捕まえると言われてしまってね、こっちも仕方がなかったのだよ」

アンバーは軽く肩を竦めるとこうなった経緯を簡単に話した。

「お前たち、そんな事を言ったのか?」
「・・・はい」
「まぁ、民衆が虐げられているかも知れないと言ったのは、俺だが、もう少し状況を確認してくれると助かる」
「すみません、副会頭」
「さっきの件だけど、もう少しここの状況を見て言わして貰うよ、なるべく手は尽くすと約束する」
「その言葉だけでも、感謝する」

フェリクスの言葉にアンバーは深く頭を下げた。

「さて、お前たち、彼と協力して、とりあえず、この領地の統治をやろうか」
「えーさっきまで私たちを捕まえていた奴らですよ」
「だとしても、多分、アンバーさんの方が上手く領地運営できると思うよ、それでいいよね、アンバーさん」

突然、声が掛かり、アンバーは驚いているようだった。

「私としては一向に構わないが」
「なら決まりだね、どちらにしても罪を問うまで時間あるし、一緒にやってみたら分かることもあると思うよ」

フェリクスは変な含みを持たせつつも、この件はそういう事で終わりを告げるのだった。
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