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第8話 異世界ヤンキーオーク、コンビニを溜まり場にするの巻 ⑤
しおりを挟む「みんなっこれはね、このボクのおごりだからね」
母さんがフライドチキンをほおばる少年剣士に手の平を向ける。
「なっなにっ!?」
オーク達がどよめく。
「昨夜、銀貨一枚先払いしてもらったのよ」
かっ母さんっ!! 貨幣価値の差分を教えちゃだめっ!!
「みんな、お礼言って仲良くするのよ~」
母さんが少年の隣に立って頭をポンポンと撫でる。
ガキが照れて顔を桜色に染める。
「ぐっ」
「なんてトラップだ」
「はめられたぜ」
オーク達が揚げ物をほおばりながら悔しがる。
「くっ……ご馳走になったのは事実――ありがとうよ」
ぶっきら棒に、礼を言うオーク番長。
「うむ、マムの前で争いはしたくない、剣を抜こうとしたこと、謝罪する」
少年剣士も素直に頭を下げる。
「うんっ。一件落着ね」
母さんが女神の様に眩しい笑顔で客を照らす。
朝日よりもまばゆく、客は目を開けてられない。
「ママぁ……」
「母ちゃん……」
「マム……」
母さんを見つめるその顔が恍惚としていて、宗教と信者みたいだ……。
くっ、もうけが……。
俺は信者を横目にレジを死んだ顔で見つめる。
「おい店員さんよぉ」
オークのリーダーは懐からジャラリと何かを取り出した。
それは、ずっしりと重い銀貨だった。
「えっ!?」
「これで、この店の食いもん全部、売ってくれ」
「えっ!?」
まだ喰うのか……。という常人の驚きより、商売人の血がざわめく。
「こ、これで足りるか? 足りねえなら、俺の斧も置いていくが」
「い、いえ! 十分です! お釣りが出ます!」
俺のスキル【邪悪なる精算(エビルソロバン)】が発動する。
瞬時に銀貨の純度と質量を目視で鑑定。現在の金相場と照らし合わせ、日本円に換算する。 (……純銀だ。これ一枚で、チキン百個分以上の価値があるぞ……!)
カズヤは震える手でレジを打ち、日本円の硬貨をお釣りとして渡した。
オークたちは、キラキラと輝く日本の硬貨(アルミニウムやニッケル)を見て、「未知の貴金属だ!」とさらに興奮している。
「よいか!! この店は『聖域』だ! 絶対にマムの前で暴力は許さない!」
「おうよ! この『女神(ママ)』の店に手出しする奴は、俺たちがぶっ殺す!」
少年剣士とオークたちは口々に母さんを称える。
いつの間にか(ちょっとだけ)仲良くなってる。
オークは楽しそうに大笑いしながら、大量の食料と雑誌(主にグラビア誌)を抱えて店を出て行った。
少年剣士は弁当を持って、またイートインコーナーに戻っていく。(帰れっ!!)
自動ドアが閉まり、再び静寂が戻る。
俺はその場にへたり込んだ。
「……助かった……のか?」
「あらあら、いい人たちだったわねぇ。また来てくれるかしら?」
母さんは、はだけた胸元を直そうともせず、のんきに微笑んでいる。
俺は立ち上がり、大きくため息を吐く。
「母さん! それにその胸! 早くしまって!」
「え? あら、やだ。カズヤくん、顔が赤いわよ?」
母さんのおっぱい吸いたいのかしら? と潤んだ瞳で言う。
「もう赤ちゃんじゃないでしょ」
はだけた胸元を惜しげもなくさらけ出し、母さんが小首をかしげる。
「ちげーしっ」
そこには、どこまでも続く深い緑の海と、空を悠々と泳ぐドラゴンの影。 どうやらここは、本当に俺たちの知る日本ではないらしい。だが、不思議なことに電気は通っているし、レジも動いている。バックヤードの勝手口を開ければ、そこには見慣れた実家の庭が繋がっていることも確認済みだ。
店だけが、異世界と日本を繋ぐ「境界線」になってしまったらしい。
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