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ジンセイカクテイガチャ
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「受かるって決まっているなら、頑張れそうなんですけどね。」
珍しく頼んだタルトをつつき回しながら、いつも通り生産性のない愚痴をマスターへ零した。
「そういうものですか。」
「そーいうものです。」
「じゃあ、願掛けします?」
また、この人は妙なことをさらりと言う。
「願掛け、って。」
「神社のお守りだと思って下さい。行きませんでした?高校受験の時、お参り。」
私中高一貫校なんですけど、と訂正しつつ、中学受験の記憶をなぞる。周りの人は何人か、いやほとんどがお守りを持っていた気がする。そういえば、姉の受験の時もお参りに出かけてくると言っていた。ただ自分の場合はというと、お守りもお参りも考えなかった。今も昔もこの先も、神社へお参りすることはないだろう。
「マスターあのね、私無神教なんですよ。」
「へぇ?」
皿を拭いていた手を止めて、彼はカウンターに近づいてきた。真面目に聞いてくれるらしい。
「だって神様がいたとするでしょう。神頼みした時にね、成功したら、私が頑張ったからじゃなくて、神様のおかげで成功したことになると思いませんか。」
当時も面白い奴、と不思議がられた話だ。成功するならなんだっていいだろう、皆、所謂「苦しい時の神頼み」、都合がいいと分かってやっているのにと。
「では、神様がいなかったとしたら?」
「いない神に縋ることになる。惨めで時間の無駄ですね。だから。」
言葉を切って、パカリと大きく口を開ける。うん、タルトも美味しい。
「私、願掛けしたことないです。」
なるほどと小さく呟いたマスターは、皿ふきに戻るのか流しの方へ向き直る。
「僕は、貴方の神になれるならこれほど嬉しいことはないんですけどね。」
ぎょっとして顔を上げた。背中しか見えないが、どうせ何食わぬ顔をしているに違いない。奇妙なことをいうものだ、というかちょっと恥ずかしい台詞ともとれる。やはり彼は生粋の日本人ではないのかもしれない、なんて。
「いいじゃないですか、他人の力でも。」
「まぁ、今はそれでもいいと思える程度にはしんどいですよ。でもやっぱり、自分の力で受かりたいとも思います。」
小さくため息をついてから、もう一口タルトを放り込んだ。
「大学確定ガチャとか引きたい気分。」
「まるでスマホゲームみたいなことを言いますね。」
クスクスと笑うマスターにつられて、思わず笑い声をあげる。
「まぁ人生課金制はちょっと嫌ですけど。」
皿が拭き終わったらしく、彼はそっと私の前から空のコップを持ち上げた。
「人生確定ガチャ?」
恐ろしいことを言いながら彼が悪戯っ子のように笑う。ガチャで人生が確定するのはさすがに、いや、なんというかあんまりだな。
「人生は壮大過ぎません?まぁ大学もほら、私の志望校だけ詰め込んだガチャってことで。」
コーヒーを差し出したマスターが、漏らした言葉に随分と楽しそうな顔をした。面白いものを聞いた、というように。奥へ引っ込んだと思ったら、何やら大きなものを抱えて戻ってくる。ガチャガチャだ。カプセルの詰まった、あのガチャガチャ。
「やりましょうよ、大学確定ガチャ。」
「なんで持っているんです、ガチャガチャなんて。」
思わず呆れたように突っ込んだ。随分と楽しそうにマスターは私に紙とペンを差し出して、自分は中に入っていたカプセルを開けて並べていく。
「好きなところ書いてください。当たったのは絶対に受かります。」
「えぇ?マスター、本当に私の神になるつもりですか?」
「絶対に受かるところを書けばいいんですよ。保険をかけておくと思って。凡ミスしたり緊張したりで、受かりそうだった大学をうっかり落とすと、ショックが他のテストにも響くでしょう?」
至極最もではある。今既に固い学校が受かれるという保証が出るなんて、精神的に随分と楽になるだろう。
「というか、本当に受かるんですか?」
「信じられないなら、僕の戯言だと思って付き合ってください。」
時間を売るマスターだ、有り得る。なんとなく信じられると心の中で返事を返し、手元の紙に志望校を偏差値の低い順に書き付けていく。四枚のメモを、そっとマスターの方へ押しやった。強く行きたい大学がない私としては、皆第一志望のようなものだ。どれが当たっても別にいい。メモの入ったカプセルが四つ、ガチャガチャの中に放り込まれるのを、私はタルトを食べながら眺めていた。
「どうぞ。回してください。」
言われるままにつまみをゆっくり回す。コロリと出てきたカプセルを開ければ、自分で書いた大学名が出てきた。あぁ、ここか。いや、本当に受かるかは分からないが。声に出して読み上げてから顔を上げると、すぐ目の前にマスターの顔があって思わず動きが止まった。
「失礼、脅かすつもりはありませんでした。」
そのまま離れていくマスターの目を追いながら、場違いではあるが思わず尋ねる。
「マスター、カラコンですか?」
「いえ、生まれつきですよ。」
生まれつき紫の目の人がいるかどうか。私は知らなかったので、黙ってタルトを口に運んだ。大学確定ガチャの結果が当たるかどうかが分かるのは、まだ大分先だ。本当か分からないけれど、少しだけ、少しだけ気持ちが楽になった。
珍しく頼んだタルトをつつき回しながら、いつも通り生産性のない愚痴をマスターへ零した。
「そういうものですか。」
「そーいうものです。」
「じゃあ、願掛けします?」
また、この人は妙なことをさらりと言う。
「願掛け、って。」
「神社のお守りだと思って下さい。行きませんでした?高校受験の時、お参り。」
私中高一貫校なんですけど、と訂正しつつ、中学受験の記憶をなぞる。周りの人は何人か、いやほとんどがお守りを持っていた気がする。そういえば、姉の受験の時もお参りに出かけてくると言っていた。ただ自分の場合はというと、お守りもお参りも考えなかった。今も昔もこの先も、神社へお参りすることはないだろう。
「マスターあのね、私無神教なんですよ。」
「へぇ?」
皿を拭いていた手を止めて、彼はカウンターに近づいてきた。真面目に聞いてくれるらしい。
「だって神様がいたとするでしょう。神頼みした時にね、成功したら、私が頑張ったからじゃなくて、神様のおかげで成功したことになると思いませんか。」
当時も面白い奴、と不思議がられた話だ。成功するならなんだっていいだろう、皆、所謂「苦しい時の神頼み」、都合がいいと分かってやっているのにと。
「では、神様がいなかったとしたら?」
「いない神に縋ることになる。惨めで時間の無駄ですね。だから。」
言葉を切って、パカリと大きく口を開ける。うん、タルトも美味しい。
「私、願掛けしたことないです。」
なるほどと小さく呟いたマスターは、皿ふきに戻るのか流しの方へ向き直る。
「僕は、貴方の神になれるならこれほど嬉しいことはないんですけどね。」
ぎょっとして顔を上げた。背中しか見えないが、どうせ何食わぬ顔をしているに違いない。奇妙なことをいうものだ、というかちょっと恥ずかしい台詞ともとれる。やはり彼は生粋の日本人ではないのかもしれない、なんて。
「いいじゃないですか、他人の力でも。」
「まぁ、今はそれでもいいと思える程度にはしんどいですよ。でもやっぱり、自分の力で受かりたいとも思います。」
小さくため息をついてから、もう一口タルトを放り込んだ。
「大学確定ガチャとか引きたい気分。」
「まるでスマホゲームみたいなことを言いますね。」
クスクスと笑うマスターにつられて、思わず笑い声をあげる。
「まぁ人生課金制はちょっと嫌ですけど。」
皿が拭き終わったらしく、彼はそっと私の前から空のコップを持ち上げた。
「人生確定ガチャ?」
恐ろしいことを言いながら彼が悪戯っ子のように笑う。ガチャで人生が確定するのはさすがに、いや、なんというかあんまりだな。
「人生は壮大過ぎません?まぁ大学もほら、私の志望校だけ詰め込んだガチャってことで。」
コーヒーを差し出したマスターが、漏らした言葉に随分と楽しそうな顔をした。面白いものを聞いた、というように。奥へ引っ込んだと思ったら、何やら大きなものを抱えて戻ってくる。ガチャガチャだ。カプセルの詰まった、あのガチャガチャ。
「やりましょうよ、大学確定ガチャ。」
「なんで持っているんです、ガチャガチャなんて。」
思わず呆れたように突っ込んだ。随分と楽しそうにマスターは私に紙とペンを差し出して、自分は中に入っていたカプセルを開けて並べていく。
「好きなところ書いてください。当たったのは絶対に受かります。」
「えぇ?マスター、本当に私の神になるつもりですか?」
「絶対に受かるところを書けばいいんですよ。保険をかけておくと思って。凡ミスしたり緊張したりで、受かりそうだった大学をうっかり落とすと、ショックが他のテストにも響くでしょう?」
至極最もではある。今既に固い学校が受かれるという保証が出るなんて、精神的に随分と楽になるだろう。
「というか、本当に受かるんですか?」
「信じられないなら、僕の戯言だと思って付き合ってください。」
時間を売るマスターだ、有り得る。なんとなく信じられると心の中で返事を返し、手元の紙に志望校を偏差値の低い順に書き付けていく。四枚のメモを、そっとマスターの方へ押しやった。強く行きたい大学がない私としては、皆第一志望のようなものだ。どれが当たっても別にいい。メモの入ったカプセルが四つ、ガチャガチャの中に放り込まれるのを、私はタルトを食べながら眺めていた。
「どうぞ。回してください。」
言われるままにつまみをゆっくり回す。コロリと出てきたカプセルを開ければ、自分で書いた大学名が出てきた。あぁ、ここか。いや、本当に受かるかは分からないが。声に出して読み上げてから顔を上げると、すぐ目の前にマスターの顔があって思わず動きが止まった。
「失礼、脅かすつもりはありませんでした。」
そのまま離れていくマスターの目を追いながら、場違いではあるが思わず尋ねる。
「マスター、カラコンですか?」
「いえ、生まれつきですよ。」
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