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第一章 やる気の無い喫茶店のオーナー
5 除霊はいたしません!
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大阪のオフィス街にある雰囲気のあるビルの一階にあるグリーンガーデンでは、天狐と称する妖しが、不機嫌そうに喫茶店の開店準備をしている。
「ねぇ、お腹が空いたんだけど……モーニングを頼めるかな?」
この喫茶店のオーナーである政宗が、口ひとつ聞かない銀狐に、何度目かの声を掛けたが、そ知らぬ顔で外へオープンと書いてあるドアノブを出しにいく。
「銀さん、私には断ったよ! でも、バイト代は要らないと言われて……」
冷たい視線で睨まれて、政宗は口を閉じる。そんな時にタイミング悪く瑠美が、チリン! チリン! と銀の鈴の音を二つさせて入ってきた。銀狐の不機嫌な原因の登場だ。
「おはようございます!」
グリーンガーデンの扉に付けられた銀の鈴は、人数の分鳴る機能がある。瑠美には未だ美夜という悪霊がついているのだと、政宗はうんざりする。
「瑠美さん、バイトは断った筈だよ。それに大学はどうするの?」
「政宗さんもそんな事を言ってる場合じゃないのはわかっているでしょ。此処で美味しいソバ粉のガレットを食べないと、都伯母さんに意識を乗っ取られてしまうんですもの。だから、この件が解決するまでは、大学は休学します」
そう言うと、ブランド物のトートバックの中から可愛いメイド風のエプロンを取り出して、水色のワンピースの上につける。
『可愛いけど……困るんだよなぁ』
いそいそとテーブルの上を拭いている瑠美と銀狐が揉めている。
「もう、とっくに拭きました!」
「あら、じゃあ明日からはもっと早く来るわ」
「結構です! 誰もバイトとは認めていません」
観葉植物の水やりをどちらがするか言い争っている二人に、政宗は声をかける。
「それより、モーニングを頼むよ」
「まぁ? 未だモーニングも食べさせて貰って無いの? 私が作ってあげるわ」
「部外者はカウンター内には立ち入り禁止です!」
銀狐はカウンター内だけは死守しようと、政宗のモーニングを作り始める。今朝は、政宗が読んでいるアメリカのハードボイルドに合わせてジャズが流れているので、コーヒーとホットドッグだ。
「あっ、私は紅茶のイングリッシュブレックファーストをお願いするわ」
バイトなのか? 客なのか? 瑠美の立ち位置は曖昧だ。それも銀狐の勘に障るのだ。
「お客様なら、あちらのテーブル席に座って下さい」
「あら、だって、もうすぐお客様が来られるでしょ? 六席しか無いから悪いもの」
確かに、瑠美が無料のバイトをしだしてからグリーンガーデンにはサラリーマンの客が増えた。邪魔な瑠美を追い出したいが、やる気の無いオーナーでは潰れるかもと心配していたので、客が増えたのは嬉しい。その矛盾した気持ちが、天狐を不機嫌にさせる。
そして、普通のオーナーなら客が増えたのを喜ぶのだろうが、やる気の無い政宗には迷惑だ。おちおちミステリー小説を読んでいられないからだ。
「あのさぁ、ソバ粉のガレットを食べたいなら、バイトなんかしないでも食べに来たら良いだけじゃないか。そしたら、大学にも通えるしさぁ」
「だって、ランチタイムには来られない日もあるし、ランチがソバ粉のガレットじゃない日もあるもの。バイトの賄いなら、我が儘を聞いて貰えるでしょ? だって、バイト代も貰って無いんだから」
イライラが頂点に達した天狐は、瑠美の前に香り高い紅茶のイングリッシュブレックファーストを出してやりながら、オーナーである政宗を「どうにかしろ!」と睨み付ける。
美味しそうにホットドッグを食べていた政宗は、銀狐の殺気に噎せる。
「ごほん、ごほん! なら、瑠美さんにはいつもソバ粉のガレットを出してあげれば……」
「違うでしょう! その影をどうにかしろと言っているのです。それに、ソバ粉のガレットをこの娘の為に毎日焼くのはごめんです」
「そうよ、除霊してくれれば……」
瑠美も、この影をどうにかして欲しいと願っている。期待に煌めく瞳で、政宗を見つめる。しかし、『除霊!』という言葉で、瑠美に憑いている黒い影が警戒心を強めて、シャーと威嚇する。
「だから、除霊はいたしません! ってか、除霊なんてできないんだよ。だから、美夜さんが何故、君に憑いたのか? それを調査しないと駄目なんだ。美夜さん、先ずは話し合いましょう!」
除霊する能力は無い政宗だが、妖しを見て話せる能力がある。銀狐の機嫌が悪いと居心地が悪いので、どうにか美夜と話し合って解決したいと思う。
「ねぇ、お腹が空いたんだけど……モーニングを頼めるかな?」
この喫茶店のオーナーである政宗が、口ひとつ聞かない銀狐に、何度目かの声を掛けたが、そ知らぬ顔で外へオープンと書いてあるドアノブを出しにいく。
「銀さん、私には断ったよ! でも、バイト代は要らないと言われて……」
冷たい視線で睨まれて、政宗は口を閉じる。そんな時にタイミング悪く瑠美が、チリン! チリン! と銀の鈴の音を二つさせて入ってきた。銀狐の不機嫌な原因の登場だ。
「おはようございます!」
グリーンガーデンの扉に付けられた銀の鈴は、人数の分鳴る機能がある。瑠美には未だ美夜という悪霊がついているのだと、政宗はうんざりする。
「瑠美さん、バイトは断った筈だよ。それに大学はどうするの?」
「政宗さんもそんな事を言ってる場合じゃないのはわかっているでしょ。此処で美味しいソバ粉のガレットを食べないと、都伯母さんに意識を乗っ取られてしまうんですもの。だから、この件が解決するまでは、大学は休学します」
そう言うと、ブランド物のトートバックの中から可愛いメイド風のエプロンを取り出して、水色のワンピースの上につける。
『可愛いけど……困るんだよなぁ』
いそいそとテーブルの上を拭いている瑠美と銀狐が揉めている。
「もう、とっくに拭きました!」
「あら、じゃあ明日からはもっと早く来るわ」
「結構です! 誰もバイトとは認めていません」
観葉植物の水やりをどちらがするか言い争っている二人に、政宗は声をかける。
「それより、モーニングを頼むよ」
「まぁ? 未だモーニングも食べさせて貰って無いの? 私が作ってあげるわ」
「部外者はカウンター内には立ち入り禁止です!」
銀狐はカウンター内だけは死守しようと、政宗のモーニングを作り始める。今朝は、政宗が読んでいるアメリカのハードボイルドに合わせてジャズが流れているので、コーヒーとホットドッグだ。
「あっ、私は紅茶のイングリッシュブレックファーストをお願いするわ」
バイトなのか? 客なのか? 瑠美の立ち位置は曖昧だ。それも銀狐の勘に障るのだ。
「お客様なら、あちらのテーブル席に座って下さい」
「あら、だって、もうすぐお客様が来られるでしょ? 六席しか無いから悪いもの」
確かに、瑠美が無料のバイトをしだしてからグリーンガーデンにはサラリーマンの客が増えた。邪魔な瑠美を追い出したいが、やる気の無いオーナーでは潰れるかもと心配していたので、客が増えたのは嬉しい。その矛盾した気持ちが、天狐を不機嫌にさせる。
そして、普通のオーナーなら客が増えたのを喜ぶのだろうが、やる気の無い政宗には迷惑だ。おちおちミステリー小説を読んでいられないからだ。
「あのさぁ、ソバ粉のガレットを食べたいなら、バイトなんかしないでも食べに来たら良いだけじゃないか。そしたら、大学にも通えるしさぁ」
「だって、ランチタイムには来られない日もあるし、ランチがソバ粉のガレットじゃない日もあるもの。バイトの賄いなら、我が儘を聞いて貰えるでしょ? だって、バイト代も貰って無いんだから」
イライラが頂点に達した天狐は、瑠美の前に香り高い紅茶のイングリッシュブレックファーストを出してやりながら、オーナーである政宗を「どうにかしろ!」と睨み付ける。
美味しそうにホットドッグを食べていた政宗は、銀狐の殺気に噎せる。
「ごほん、ごほん! なら、瑠美さんにはいつもソバ粉のガレットを出してあげれば……」
「違うでしょう! その影をどうにかしろと言っているのです。それに、ソバ粉のガレットをこの娘の為に毎日焼くのはごめんです」
「そうよ、除霊してくれれば……」
瑠美も、この影をどうにかして欲しいと願っている。期待に煌めく瞳で、政宗を見つめる。しかし、『除霊!』という言葉で、瑠美に憑いている黒い影が警戒心を強めて、シャーと威嚇する。
「だから、除霊はいたしません! ってか、除霊なんてできないんだよ。だから、美夜さんが何故、君に憑いたのか? それを調査しないと駄目なんだ。美夜さん、先ずは話し合いましょう!」
除霊する能力は無い政宗だが、妖しを見て話せる能力がある。銀狐の機嫌が悪いと居心地が悪いので、どうにか美夜と話し合って解決したいと思う。
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