除霊は致しません! 先ずは話し合いましょう!

梨香

文字の大きさ
13 / 19
第ニ章 逆恨み

6  スペイン風オムレツを食べながら……

しおりを挟む
 バターで炒めたじゃがいもが入ったスペイン風オムレツを食べながら、政宗は作戦を練っていた。

「やはり、彼方から依頼しなおして貰わないとビルの中に勝手には入れそうに無いな」

 グサリとオムレツをフォークで刺して、ムギュムギュと美味しそうに咀嚼する。喫茶店のマスターとして、コーヒーぐらいは淹れ方を覚えて欲しいと渇望している銀狐は、早く食べ終えてもらって教えようと、やきもきしている。

 しかし、政宗がゆっくりと味わって食べている間に、ランチタイムになった。このグリーンガーデンの香り高いコーヒーと一種類しかないが常に外れがないランチを目当てにサラリーマンやOLがやってきた。

「政宗様も手伝って下さい」

 食後のコーヒーを優雅に飲んでいる政宗に、出来上がったスペインオムレツの皿を運ばせる。

「留美さんが居ないと、こういう時は不便だな」

 初めは煩いと感じていた留美だが、居ないとなると寂しい気がするのを、政宗は誤魔化して文句を言う。

「元々、この店はオーナーと私で十分なのです。さぁ、これも運んで下さい」

 確かに贅沢な空間に僅かな席しか置いていないグリーンガーデンなので、二人で十分なのだが……それは、政宗が真面目にオーナーとして働くという事を前提としての話だ。

「やれやれ……」

 天狐のくせにやたらと美味しいランチなどを作るから、こうして手伝わなくてはいけないと渋々ながら政宗は運ぶ。

 カラン、カランとドアベルが鳴る。この銀製のドアベルは人数にあった数だけ鳴る機能がある。

「すみません、満席ですよ……東三条さん……」

 一人だけなのに二回鳴ったのは、東三条に悪霊が憑いているからだ。

「あれから考えたのだ。ビルを売却する事は無理だが、このままでは……」

 自ら断ったのに、こうしてまた頼みに来たのを気恥ずかしく感じているらしく、入口に立ち止まっている。

 そんな時に、カラン! とドアベルが鳴り、留美が入ってきた。

「私が説得してあげたのよ。さぁ、先ずはランチを食べてから話し合いましょう。わぁ、スペインオムレツね!」

 留美は席が満席なのも気にしないで、東三条をカウンターへと案内する。

「ランチを二つお願いね!」

 銀狐は、カウンターに政宗以外が座るのは好きではない。しかし、喫茶店の経営も上手くいって欲しいので、客は客だと、留美の図々しい態度にも我慢する。

「私はここのソバ粉入りガレットが大好きなの。でも、スペインオムレツも美味しいわね」

 喫茶店のランチに然程は期待していなかった東三条も、スペインオムレツを一口食べて「ううむ」と唸る。

「美味しいですね。失礼だか、レストランを開けるのではありませんか? 資金なら相談に乗りますが……」

 東三条は、こんなに腕が良いのに何故こんな喫茶店で働いているのかと、人間離れした美貌の男を眺める。

「私はこの喫茶店を守ることを第一に考えております」

 天狐はレストラン開業なんかは興味がない。恩人である正輝様が大事にされていた喫茶店を営業していくことだけが、生き甲斐なのだ。

「銀さんは欲が無いのね。だから、こんな喫茶店で働いているのかもね」

 留美にこんな喫茶店と言われて銀狐は機嫌が悪いが、東三条はなかなか趣きのある店内と上質なコーヒーに満足する。

「大阪はよく知っているつもりだったが、まだまだ知らない事も多そうだ。今回の件も、私の理解の範疇を超えている。先程は失礼いたしました」

 ランチ後のコーヒーを配り終えた政宗に、東三条は頭を下げる。

「まぁ、突然あんなビルを売れと言われても、なかなかハイとは言えませんよね。でも本当はそうした方が良いのですよ」

 東三条のコーヒーに便乗して「今度はモカ!」と図々しいオーダーをして、隣の席に座る。

「ビルを売る以外の解決策は無いのでしょうか?」

「今度は、銀さんも一緒に付いて行ってもらいます。だから、もう少し詳しく話し合って、怨みの理由を探ってみたいのです。貴方を怨んでいるのは確かですが、あの場所にも執着しているようなのですよねぇ。何か思い当たりませんか?」

 モカを淹れていた銀狐は、いつ一緒に行くことになったのか? と腹を立てる。

「ちょっとお待ち下さい。喫茶店をそうそう閉めて行くわけにはいけません」

「ええっ、さっき協力してくれると言ったじゃないか」

「それは、政宗様がコーヒーの淹れ方をマスターすると言われたから……」

「そうよねぇ、喫茶店のマスターなのにコーヒーも淹れられないだなんて駄目よね」

 余計な口を挟んだ留美を政宗は睨みつける。やはり、居ない方がいい! と内心で罵る。

「皆が退社した後の方が此方にとっても都合が良いので、コーヒーの淹れ方を学んでからでも……」

 東三条は、政宗にギロリと睨まれて、出されたコーヒーを持ち上げて一口飲む。

「やはり絶品だ! このコーヒーの淹れ方なら、私も習いたいです」

 こうして政宗は、銀狐からコーヒーの淹れ方を熱血指導されることになった。探偵業もなかなかハードだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

処理中です...