醜いアヒルの子は白鳥になれるのか?

梨香

文字の大きさ
26 / 86
第一章 醜いあひるの子

25  アンブローシア伯爵夫人の頼み

しおりを挟む
 ジュリアの卑屈な態度を改めさせようと決心した伯爵夫人は、退屈な田舎の領地暮らしに楽しみができたと微笑む。ルーファス王子は、可愛いシルビアの案内から解放されて、サロンでお茶を飲んでいた。

「ルーファス王子、お疲れ様でした」

 今度はジュリアを部屋に案内すると、シルビアが一緒に二階にあがったので、妹が居ない間にセドリックは謝った。

「いや、シルビアは一生懸命説明してくれて、楽しかったよ」

 優しいルーファス王子の言葉に、アンブローシアは微笑んで、クッキーを勧める。

「丁度、ジュリアが居ないので、その間に殿方にお願い事がありますのよ」

 ルーファスとセドリックと伯爵は、何を伯爵夫人が言い出すのかと、興味を持った。

「皆様はジュリアの卑屈な態度を、どう思われますか?」

 伯爵は、元メイドなのだから仕方ないのでは? と思ったが、奥方の話を促す。

「どうって言われても、余り見ていて気持ちが良くはありませんが……」

 セドリックの言葉に、アンブローシアは眉を上げる。

「紳士として、ジュリアに接して頂きたいのです! 特にセドリック貴方はレディとして扱っていませんよ」

 母上に睨まれて、セドリックは慌てて反論する。

「そんなことありません。私はジュリアに紳士的に接していますよ。彼女が卑屈な性格なのは、育ち方に原因があるのでは無いでしょうか? 捨て子だと知っていたそうですし」

 サリンジャーは、その件もあるので、ジュリアには両親のことを話さなくてはと決意を固める。

「あら、セドリック? 貴方は、他所の令嬢にも、ジュリアに言うように命令口調なのですか?」

 なってません! と母上に睨まれて、セドリックはそう言えばと小さくなる。

「皆様方が、ジュリアに対して、紳士として振る舞えば、あの娘も令嬢らしく振る舞えるようになると思うのです。協力して頂けますわよね」

 伯爵は奥方に逆らうつもりは微塵も無かったので、素直に頷く。

「伯爵夫人の仰せに従いますよ。私も、ジュリアの卑屈な態度には、苛立ちを感じていましたが、どうすれば改善できるかわかりませんでした。しかし、私達がジュリアにもっと紳士的に接するべきだったのですね」

 ルーファス王子にアンブローシアは感謝して、とても素晴らしい紳士的な態度だと褒める。

「私も母上のお言葉に従います」

 慌てて返事をしたセドリックに、この息子が一番の原因かも知れないと、アンブローシアは溜め息をつく。

『ジュリアは、息子のハンサムな容姿に、憧れを抱いているのかもしれませんわ。ルーファス王子もハンサムですのに、王子という身分に畏れを感じて、恋心を感じるのは不敬に思っているのかも』

 サリンジャーも同じ事を考えていた。

『真面目なセドリックなら、これからはジュリアに紳士的に接するだろう。ジュリアがその親切な態度を誤解して、恋心を育てなければ良いのですが……』

 サリンジャーは、いずれはジュリアをイオニア王国に連れて帰りたいと考えていたので、ルキアス王国の貴族と恋愛は足枷になるのでは、と心配する。

「先ずは、領地に居る間に、私達と一緒に食事をさせるところから始めましょう! そうですわね、お茶に呼びましょう」

 テーブルの上のベルを鳴らして、ジュリアをメイドに呼びにいかせる。

「ミリアム先生も一緒に呼んできてね」

 普通は家庭教師をサロンでのお茶に同席させないが、ジュリアが少しでも馴染み易くなるようにと、伯爵夫人は配慮する。ルーファス王子は、宜しいですか? と問われて、勿論と鷹揚に頷く。

 ジュリアは、サロンでルーファス王子や伯爵家の人々とお茶をしたが、日頃、離宮で精霊使いの修行の後で、サリンジャー師とお茶をしていたのと、ミリアム先生やシルビアも一緒なので、思ったよりも緊張しないで過ごせた。それに、セドリックがとても親切にしてくれるので、ジュリアはまるで自分が可愛い令嬢になったような、ふわふわした心持ちになる。

 しかし、自分の部屋で鏡を見ると、浮上した気持ちはペシャンと地面に落ちて潰れてしまった。

『馬鹿ね! 若様は、ルーファス王子を屋敷に招いておられるから、礼儀正しくされただけなのよ。ヘレナには可愛い令嬢がいっぱいいるわ! 私みたいな無器量な女の子なんか、セドリック様の目に止まらない……』 

 緑色の瞳が曇り、涙があふれた。

「シルビアお嬢様とまでは望まないけど、せめて普通の容姿に産まれたかったわ……」

 お湯を運んできた侍女のルーシーは、ジュリアが涙を拭きながら呟いた言葉を聞いて、めらめらとやる気に火をつけた。

「さぁ、ジュリア様、旅の汚れを落として、夕食の為にお着替えをしましょう」

「夕食は、シルビアお嬢様とミリアム先生と食べるのでは?」

 お茶ぐらいならジュリアは、ルーファス王子や伯爵家の人達と一緒でもさほど緊張しなかったが、食事までとは思ってみなかった。

「伯爵夫人から、同席するようにと言われましたよ。さぁ、先ずはお風呂です」

 ルーシーは、気合いを入れてジュリアを可愛く装わそうと努力した。

「ほら、ジュリア様、とっても可愛いですよ」

 編み込みをサイドにいれて、後ろは緩やかなカールを付けた髪型は、ジュリアの細い顔立ちに華やかさを与えている。ルーシーは、シルビアお嬢様と違う方向性で攻めようと、白いレースのリボンは避けて、緑色の細いリボンを編み込んだのだ。

「ルーシー、ありがとう」

 鏡の自分が、無器量には見えないのが、ジュリアには嬉しい。

 夕食の間、ミリアム先生にマナーを教わっていたので、大人の会話に口を挟まず、質問されたら言葉少なく答えて、無事に終えた。

「さぁ、ミリアム先生、ジュリア、シルビア、サロンでコーヒーでも飲みましょう」

 食後の葉巻やお酒を、殿方が気がねしないで楽しめるように、伯爵夫人は席を立つ。サロンで、小さなクッキーをつまみながら、コーヒーを手にしたジュリアは、シルビアが母上に海水浴に一緒に行きたいとねだっているのを眺めていた。

「貴方は泳げないでしょ、ルーファス王子やセドリックの足手まといですわよ」

 母上に駄目だと言われても、シルビアは諦めない。

「折角、田舎に来たのですもの、海水浴ぐらいしたいわ! 泳げなくても、波打ち際で足を濡らしたりするぐらいなら、良いでしょ? ルーファス王子も一緒なのよ」

 アンブローシアは、恋に野心的な娘に溜め息をつく。

『まだ10歳のシルビアは、ルーファス王子には対象外だわ。でも、社交界の令嬢に狙われているのを、ルーファス王子はどう感じておられるかしら?』

 殿方は追いかけるのは好きだけど、追いかけられるのは嫌いだと、アンブローシアは考える。

「ミリアム先生、シルビアとジュリアの監督をお願いいたしますね。シルビア、ルーファス王子やセドリックに迷惑をかけないのよ」

 まだ子供のシルビアに、ルーファス王子が興味を持つとは思わなかったが、一緒に遊ばせるのも気分転換になるだろうと許可する。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

処理中です...