醜いアヒルの子は白鳥になれるのか?

梨香

文字の大きさ
41 / 86
第二章 白鳥になれるのか?

4  緑蔭城の暮らし

しおりを挟む
「まぁ! ジュリアから手紙が届いたのですか!」

 早朝、セドリックは窓を叩くシルフィードに気づいて、手紙を受け取ったのだ。

「ええ、ジュリアは精霊を上手く使いこなしていますね」

 父親のベーカーヒル伯爵に、お前もちゃんと修行しろと睨まれて肩を竦める。サリンジャー師がジュリアと共に帰国してから、セドリックもルーファス王子も精霊使いの修行をさぼりがちだった。

「女中頭のケインズ夫人にも手紙がありますね……うん? トーマスにも? ああ、これはルーシーからだな」

 話を露骨に反らしたセドリックに、伯爵は溜め息をつく。精霊使いを育成したいと願うミカエル国王のお気持ちを考えないのかと、お気楽そうな息子に腹を立てたが、師匠がいなくては修行もはかどらないのも理解できる。

「イオニア王国の内乱がおさまったら、留学させてもいいのだが……」

 外国に留学できるかもと、セドリックは喜んだが、内乱が何時おさまるのか、それがジュリアの保護者であるゲチスバートンド伯爵達にとって良い結果であるのかを考えて深刻な顔をする。

「まぁ! 緑蔭城には温泉が引いてあるから、朝と夜に入浴できるだなんて、羨ましいわ! だから、グローリア様は綺麗なお肌をしていらしたのね」

 朝食の席で、アンブローシア夫人に温泉へ連れて行ってとせがまれながら、ベーカーヒル伯爵は精霊使いの能力に優れていたジュリアが居なくなったのを残念に思った。


 ヘレナから遠く離れたゲチスバーモンドの緑蔭城では、ルーシーがあんな空中に手紙を投げたりして、当てにならないと愚痴りながら、ジュリアの服を用意していた。

「ジュリア様、手紙はちゃんと届いたのでしょうか」

 遠い異国との手紙のやり取りは庶民には縁が無いし、船便ならいざ知らず、風の精霊に頼むだなんて、ルーシーには理解できない。

「もちろん、マリエールが届けてくれたわよ」

 ルーシーが精霊への不信の言葉を発したので、慌ててジュリアはフォローする。サリンジャー師から名前を付けた精霊をちゃんと育てなくてはいけないと忠告されていたからだ。

「私も精霊が名前を教えてくれるとは知ってましたが、名前を付けることができるとは知りませんでした。マリエールはまだ若い精霊ですが、名前がついたことで自我が発生してしまいました。貴女の気持ちを読む程の絆が結ばれているのですから、マリエールを不安にさせたりしないように、常に愛情と信頼を与えてやって下さい」

 精霊使いの能力が無いルーシーの不信感などマリエールは気にしないかもしれないが、何となく他の兄弟に劣等感を持ちながら育ったジュリアは、褒めて自信をつけてあげたいと考えていたのだ。ルーシーはジュリアから説明されて、そんなものなのかしらと肩を竦める。

「まぁ、緑蔭城が快適なのも精霊のお蔭だから、信じることにしましょう! それにしても、伯爵夫人は沢山のドレスを用意して下さってますねぇ……でも、大きすぎるから、縫い縮める必要があるのが難点ですけど」

 さぁ、着てみて下さいと、ルーシーにドレスを差し出されて、ジュリアは溜め息をつく。

「私はベーカーヒル伯爵の屋敷にいる時みたいに、部屋で食事をしたいわ……それか、朝食の時みたいに、お祖母様とだけなら気楽なのに……」

 緑蔭城に常駐する騎士やその家族との食事が、ジュリアは苦手に感じる。ルーシーは郷にいったら郷に従えですよと、てきぱきとドレスを詰める為のまち針を打っていく。

「何か意地悪でも言う人がいるのですか?」

 まち針に気をつけて、ドレスを脱がしながら、ジュリアが溜め息をつくのを見とがめてルーシーは心配する。

「まさか! 皆さん親切にして下さるわ……ただ、食事の度に着替えたり、気の効いた会話なんて無理だもの」

 ルーシーはベーカーヒル伯爵家では、シルビアお嬢様と子供部屋で家庭教師と一緒に食事をしていたから、貴族の正式な食事に慣れていないのだと察した。

「若い令嬢が食卓で気の効いた言葉を発する事など、誰も期待していませんよ。そんなのは座持ちの良い伯爵夫人に任せて、ジュリア様はにこにこしながら、食事に専念しておけば良いのです! ほら、簡単でしょう! ドレスは私が選んでちゃんとした格好をさせてあげますしね」

 ルーシーに励まされて、そんなものなのかとジュリアは少し気が楽になった。

 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...