醜いアヒルの子は白鳥になれるのか?

梨香

文字の大きさ
71 / 86
第三章 白鳥

10  白鳥

しおりを挟む
 レオナルド王子は、父上が決めた北部の有力者の令嬢と舞踏会の口切りのダンスを始める。それと同時に今回の舞踏会で社交界にデビューする白いドレスを着た令嬢達が、リュミェールが虹を掛けた大広間にパートナーにエスコートされて舞い始める。

「このような舞踏会を見ると昔に戻ったような気持ちになる。ジュリアは、エミリアによく似てきた。この平和を守り抜かなくてはならないな」

 エドモンド王は、側近のゲチスバーモンド伯爵に微笑む。

「そうですね。ジュリアは、この1年でとても綺麗になりました。祖父としては心配事が一つ増えましたがね」

 二人の視線の先にいるジュリアは、エミリア姫のティアラを煌めかせ、ルーファス王子と優雅に踊っている。そのすらりとした姿はまるで白鳥のように優雅だと、舞踏会のあちらこちらで称賛の声があがる。

「エドモンド王の孫娘であり、緑蔭城の相続人、次代の巫女姫には貴族達が群がりそうですな」

 折角の機会だからとルーファス王子と娘を踊らせたいと願う母親に囲まれている大使夫人に苦笑しながら、ルキアス王国の大使は誰とも踊らずに壁際でジュリアとルーファス王子のダンスを眺めているセドリックに話しかける。

「それだけではありませんよ。ジュリア嬢は、とても美しい令嬢ですから」

「おや? セドリック卿、普段は氷の貴公子と呼ばれている貴方にしては熱が入っていますね。ジュリア嬢とは縁の深い貴方ではありますが、ルーファス王子の妃候補だということをお忘れなく。さぁ、貴方も舞踏会を楽しみなさい」

 イオニア王国の貴族だけでもライバルが多すぎるのに、元の雇い主のお坊っちゃままで参戦させたくないと大使は釘をさす。セドリックは、そのくらい留学する前から父上にしっかりと言い聞かされてきたと頷いたが、心がチクリと痛んだ。

『ジュリア……もうメイド服を着て、おどおどとしながら微笑む少女は何処にもいないのだな。煌めくティアラを頭に載せた、美しい白鳥になったのだ』

 領地で過ごした夏の日を懐かしく感じたセドリックだったが、隣国のハンサムな貴公子にはイオニア王国の令嬢達もチェックを入れていた。

「あの、ルキアス王国から留学されているセドリック卿と家のイザベルが踊りたいと願っているのですが……」

 呑気にルーファス王子とジュリアのダンスを見学していた大使は、愛想よくイオニア王国の貴族達の願いを引き受けたものだから、セドリックはその後ずっとよく知らない令嬢達とダンスする羽目になった。

「このままジュリアを独占していたいけど、他の方に睨まれてしまいますね」

「まぁ、それは私の台詞ですわ。ルーファス王子と踊りたいと願っている令嬢方に睨まれてしまいます」

 ルーファスは、ジュリアの保護者であるゲチスバーモンド伯爵夫人の元にエスコートしながら、その場に集まっているイオニア王国の貴族達の多さにげんなりする。国にいる時から、次代の巫女姫を獲得するのは難しいとは聞いてはいたが、これほど露骨にライバル視されるとは思っていなかった。

「ルーファス王子、ジュリアと踊って下さり、ありがとうございます。きっと一生の思い出になると思いますわ」

 隣国の王子と舞踏会で踊るのは輝かしい名誉ではあるが、グローリア夫人も自分との縁談を知っていて、このような牽制をしてきたのだとルーファスは、ジュリアを保護者に返しながら後ろ髪を引かれる気持ちになった。本来なら、大使夫人に一緒に踊って欲しいと依頼した令嬢達の相手をするべきだとわかってはいたが、このままジュリアをライバル達の手に渡す気にはならない。

「グローリア伯爵夫人、私はシェフィールドにはジュリアしか知り合いの令嬢がいません。どうか、もう少しジュリアと一緒に過ごさせて下さい」

「まぁ、でも大使夫人がお困りになりますわ。ジュリアがルーファス王子を独り占めにしたと、他の令嬢方に恨まれても困りますもの」

 にこやかに笑うグローリア伯爵夫人には、未だ若いルーファス王子は太刀打ちできない。それに、次の曲の相手にジュリアはエスコートされてダンスフロアーへと去ってしまった。

 大使夫人に紹介された綺麗な令嬢達とダンスをするが、王子という身分に憧れている視線にはうんざりしている。それは、レオナルド王子も同じようだと、ルーファス王子は気の毒に感じる。

「大使夫人、どうにかジュリアと二人になりたいのですが……」

 ダンスの休憩の合間に、ルーファスは大使夫人に相談するが、今夜の舞踏会の華には蜜蜂ならぬ独身貴族が群れている。

「なかなか難しそうですわね……あっ、彼方にサリンジャー師がおられますわ。二人っきりにはなれませんが、ジュリア嬢と少人数で話すことはできそうです」

 精霊使いの修行がらみの話がしたいわけではないが、それしかジュリアをあの熱心な求婚者の群れから連れ出す理由は見つからないとルーファスは頷いた。

「サリンジャー師が一緒なら、グローリア伯爵夫人もジュリアをバルコニーに出させてくれるでしょう。後は、サリンジャー師が気をきかせてくれたら良いのですが……まぁ、やってみます」

 楽天的なルーファスだったが、サリンジャーは自国の巫女姫を外国に嫁がせる気は無かった。グローリア伯爵夫人から折角ジュリアを引き離したのに、バルコニーではサリンジャー師の監督の元で話し合うことになったのだ。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...