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第六章 王太子への道 ローラン王国
6 もふもふソリス
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アレクセイ皇太子との、ダカット金貨改鋳に関しての話し合いは難航した。リリック大使に注意されるまでもなく、ショウはアレクセイがルドルフ国王や重臣達の承諾をしっかり取らずに暴走しているのに気づく。
「ショウ王子が言われた、ダカット金貨改鋳の特別国債の発行について考えてみたのです。確かに、借金を申し込むよりは良いプランだと思いました」
あれからアレクセイは、真剣に国債発行について計画を練ったらしく、国債の説明書をショウ達に提示する。ショウとリリック大使は、その説明書はキチンと考えてあると認めたし、アレクセイの熱心な説明を真面目に聞いたが、その通りに実行できるのかは疑問に思う。
「アレクセイ皇太子、ルドルフ国王陛下はこの国債発行の件を、どのようにお考えなのでしょうか?」
国の貨幣を変える重大問題を、国王と話し合わずに進められないと、リリック大使は難しい顔をする。アレクセイは、東南諸島連合王国が国債を買う義務が無いのは承知していたので、リリック大使の態度に脈が無いのかとガッカリする。
「父上はあまり健康状態が思わしくないのだ。だから、国債の買い手が決まってから、報告するつもりです」
ショウとリリック大使はやはり暴走していると、内心でこれでは無理だと思う。
丁度、お昼の時間になったので、交渉は一旦休憩しようとアレクセイは会議室から、王宮の奥の自分達が生活している棟へと案内して行く。暖房のない回廊を歩きながら、大使館で打ち合わせていた通りに、リリック大使から木材の輸入についての話をアレクセイに振る。
「カザリア王国とローラン王国の木材は上質なので、我が国の船屋では品薄状態なのですよ。もう少し多く切り出して貰えませんか?」
アレクセイはカザリア王国の木材をレイテまで運ぶのは遠いでしょうと、怪訝な顔をする。
「東航路が出来ましたから、前よりは早くなったのです。でも、やはり遠いので、今度チェンナイに造船所を建設しようかなと思っているのです」
ショウの雑談めかした言葉に、アレクセイも顔には表さないようにしていたが、自国の主要輸出品の木材に影響が出るのではと、ピクンと眉を上げてしまう。
昼食会はアレクセイ皇太子夫妻とナルシス王子、ショウ王子とロジーナ姫とリリック大使という極少数だったし、若いメンバーが多かったので陽気なものになった。午前中にロジーナはアリエナに王宮を案内して貰って、親しく話していたし、座持ちの良いナルシスもいるので、会話が途切れることがない。
「あっ、忘れるところだった。アレクセイ皇太子、エドアルド国王のターシュが私に付いて旅をしているのですが、船旅では鶏ばかりで飽きてきたと言っているのです」
アレクセイとナルシスはカザリア王国育ちだったので、エドアルド国王の愛鷹ターシュがショウ王子に付いて来ていると聞いて驚いた。
「よくエドアルド国王が許しましたね」
驚く二人に、ターシュは王宮の庭に飽きたのですよと笑う。
「それで、アレクセイ皇太子に王家の狩り場でターシュの狩りを許可して頂きたくて」
アレクセイは笑いながら許可を出す。
「そうだ、今からターシュを狩り場に連れて行ってあげましょう。エドアルド国王の愛鷹を飢えさせては大変ですからね」
ノリの良いナルシスの提案に、アリエナも賛同する。
「狩り場に行くなら、私もソリスを連れて行くわ。ソリスも本来は狩りをする生き物ですもの」
ショウとロジーナがソリスとはと、不思議そうにしているので、アリエナはイルバニア王国から嫁入りに付いて来たのだと子牛程の大きさの白いもふもふの狼を呼び寄せる。
ロジーナはその大きな狼に怯えて、ショウの後ろに隠れたが、金色の目は狼とは思えない程優しい。
『はじめまして』
ソリスはショウの前に座ると、行儀良く挨拶をする。
『はじめまして、ソリス。僕はショウ、こちらはロジーナだよ。鷹のターシュと狩りに連れて行って貰うんだ』
ナルシスがショウとロジーナに手をソリスに嗅がせれば、ソリスが匂いを覚えてくれますよと教える。
『へぇ、ソリスは賢いんだね』
ショウはナルシスに教えられた通りに、手をソリスに差し出す。クンクンとショウの手を嗅いだソリスは覚えたよと頷く。
『ほら、ロジーナも手を出してごらん』
ショウが自分の後ろに隠れているロジーナに手を差し出させている様子を、アレクセイは微笑ましく思って眺める。
「ロジーナ姫は可愛い姫君ですね。女の子らしくて、お淑やかで、ショウ王子にベタ惚れしてなければ、私がアタックしたいぐらいです」
ナルシスにそんな国際問題になりそうな事は止めてくれと言いかけて、冗談だとアレクセイは気づき苦笑する。
アレクセイは、アリエナの真っ直ぐな気性と、文武両道に秀でている事も愛していたが、整い過ぎた美貌は冷たく見えて、元々イルバニア王国の王女に微妙な感情を抱いている貴族達に受け入れられてない。
ロジーナの可愛い容姿と、ソリスに驚いてショウの後ろに隠れた保護欲を刺激させられる態度や、臆病過ぎずソリスに慣れてもふもふの毛皮を撫でている様子を見て、こういった風情があれば貴族達もちやほやしたくなるだろうと溜め息をつく。
王家の狩り場には竜で行くことになり、東南諸島側はショウの護衛にベリージュ大尉とピップスを同行させた。
真冬の狩り場は、雪に覆われていたが、ターシュとソリスは喜んで狩りに出掛ける。灰色の空を滑空するターシュと、雪を蹴散らして森に駆け込んだソリスを少しの間は見ていたが、寒さに身震いする。
「ショウ王子、ロジーナ姫、ターシュとソリスが帰って来るまで、中で待ちましょう。こんな風に立っていると、ブーツが凍りついてしまいますよ」
アレクセイの案内で、メンバーは狩猟屋敷で待つことになり、暖炉の周りに座って話をする。
「ソリスって、とても優しいのね。少し怖かったけど、目が凄く優しいので大好きになったわ」
アリエナは産まれた時から一緒なのと、少し寂しそうに笑う。
「ええ、ソリスはとても優しいの。本当ならフォン・フォレストの森に、帰してあげなきゃいけないのに……」
隣に座っていたアレクセイは、そっとアリエナを抱き寄せる。ショウとロジーナは異国に嫁いだアリエナを心配して、ソリスは側を離れられないのだろうと思った。
「フォン・フォレストにはルナが暮らしているから、ソリスはケイロン周辺の森で相手を探した方が良いのかもしれませんよ」
ナルシスが湿っぽくなった雰囲気を和らげようと発言したので、ショウもパロマ大学でアレックス教授に聞いた話を披露する。
「ローラン王国の辺りには、話せる猪のサイレーンの子孫がいるかもしれませんから、ソリスが見つけてくれると良いですね。あっ、食べてしまうと困るかな?」
アレックスとナルシスは、変人のアレックス教授の講義を受講されたのですかと驚いた。
「あの変人教授の講義を、何故?」
二人に変な目で見られて、ショウも何故だろうと考える。
「う~ん、面白そうだと受講したのが、きっかけなのかな? 私は半年ぐらいしかパロマ大学で勉強していませんが、指導教授のバギンズ教授がアレックス教授の奥方だったので、何となく逃げられなくなって」
真名の件は話せなかったので、バギンズ教授の名前で誤魔化したが、その名前も変人で名高かったので、二人に爆笑されてしまう。
「バギンズ教授! これまた凄く変人の指導教授ですね」
ナルシス王子の言葉にショウは、やっぱり! と笑う。
「パロマ大学の教授は変人ばかりだと思ってましたが、私が受講した教授が変人だったのですね」
ショウが、アン・グレンジャー教授や、他の教授の名前をあげると、二人は顔を見合わせて、スチュワート皇太子は何を案内していたのだろうと笑う。
「よく其処まで、変人の教授ばかり! 何故、普通の教授の講義を選ばなかったのですか?」
「バギンズ教授の講義以外は、講義目録を見て面白そうなのを選んだのです。まぁ、実際に個性的な教授が多くて楽しかったですよ。アレクセイ皇太子やナルシス王子は、何を勉強されたのですか?」
アレクセイは政治を、ナルシスは寒冷地に強い作物を勉強したと答える。
「ナルシス王子、寒冷地に強い作物は良い研究ですね」
ショウの褒め言葉に、ナルシスはなかなか時間のかかる研究なので成果が出にくいのですと愚痴る。
ショウは、アリエナは緑の魔力持ちだから、品種改良を手伝えると思ったが、自分がアリエナ妃の能力について、とやかく言うのは筋違いだとショウは考えて口出しは控えた。
アリエナ妃の能力も、若くて美しい皇太子妃としての魅力も、全く生かせていないのが惜しいとショウには思える。
経済的に逼迫しているローラン王国では、節約も必要なのだろうけど、こうして狩猟屋敷で接待したりして、国内の貴族達とも親しく話していけば良いのにと、ショウは考える。
やがてターシュとソリスは狩りに満足して、狩猟屋敷に帰って来たので、この日はお互いに此処で別れる事になった。
ショウはロジーナを乗せて、ベリージュ大尉とピップスと共に大使館に帰った。半日アリエナと過ごして、何となくリリック大使の宿題が解けたような気がする。
「ショウ王子が言われた、ダカット金貨改鋳の特別国債の発行について考えてみたのです。確かに、借金を申し込むよりは良いプランだと思いました」
あれからアレクセイは、真剣に国債発行について計画を練ったらしく、国債の説明書をショウ達に提示する。ショウとリリック大使は、その説明書はキチンと考えてあると認めたし、アレクセイの熱心な説明を真面目に聞いたが、その通りに実行できるのかは疑問に思う。
「アレクセイ皇太子、ルドルフ国王陛下はこの国債発行の件を、どのようにお考えなのでしょうか?」
国の貨幣を変える重大問題を、国王と話し合わずに進められないと、リリック大使は難しい顔をする。アレクセイは、東南諸島連合王国が国債を買う義務が無いのは承知していたので、リリック大使の態度に脈が無いのかとガッカリする。
「父上はあまり健康状態が思わしくないのだ。だから、国債の買い手が決まってから、報告するつもりです」
ショウとリリック大使はやはり暴走していると、内心でこれでは無理だと思う。
丁度、お昼の時間になったので、交渉は一旦休憩しようとアレクセイは会議室から、王宮の奥の自分達が生活している棟へと案内して行く。暖房のない回廊を歩きながら、大使館で打ち合わせていた通りに、リリック大使から木材の輸入についての話をアレクセイに振る。
「カザリア王国とローラン王国の木材は上質なので、我が国の船屋では品薄状態なのですよ。もう少し多く切り出して貰えませんか?」
アレクセイはカザリア王国の木材をレイテまで運ぶのは遠いでしょうと、怪訝な顔をする。
「東航路が出来ましたから、前よりは早くなったのです。でも、やはり遠いので、今度チェンナイに造船所を建設しようかなと思っているのです」
ショウの雑談めかした言葉に、アレクセイも顔には表さないようにしていたが、自国の主要輸出品の木材に影響が出るのではと、ピクンと眉を上げてしまう。
昼食会はアレクセイ皇太子夫妻とナルシス王子、ショウ王子とロジーナ姫とリリック大使という極少数だったし、若いメンバーが多かったので陽気なものになった。午前中にロジーナはアリエナに王宮を案内して貰って、親しく話していたし、座持ちの良いナルシスもいるので、会話が途切れることがない。
「あっ、忘れるところだった。アレクセイ皇太子、エドアルド国王のターシュが私に付いて旅をしているのですが、船旅では鶏ばかりで飽きてきたと言っているのです」
アレクセイとナルシスはカザリア王国育ちだったので、エドアルド国王の愛鷹ターシュがショウ王子に付いて来ていると聞いて驚いた。
「よくエドアルド国王が許しましたね」
驚く二人に、ターシュは王宮の庭に飽きたのですよと笑う。
「それで、アレクセイ皇太子に王家の狩り場でターシュの狩りを許可して頂きたくて」
アレクセイは笑いながら許可を出す。
「そうだ、今からターシュを狩り場に連れて行ってあげましょう。エドアルド国王の愛鷹を飢えさせては大変ですからね」
ノリの良いナルシスの提案に、アリエナも賛同する。
「狩り場に行くなら、私もソリスを連れて行くわ。ソリスも本来は狩りをする生き物ですもの」
ショウとロジーナがソリスとはと、不思議そうにしているので、アリエナはイルバニア王国から嫁入りに付いて来たのだと子牛程の大きさの白いもふもふの狼を呼び寄せる。
ロジーナはその大きな狼に怯えて、ショウの後ろに隠れたが、金色の目は狼とは思えない程優しい。
『はじめまして』
ソリスはショウの前に座ると、行儀良く挨拶をする。
『はじめまして、ソリス。僕はショウ、こちらはロジーナだよ。鷹のターシュと狩りに連れて行って貰うんだ』
ナルシスがショウとロジーナに手をソリスに嗅がせれば、ソリスが匂いを覚えてくれますよと教える。
『へぇ、ソリスは賢いんだね』
ショウはナルシスに教えられた通りに、手をソリスに差し出す。クンクンとショウの手を嗅いだソリスは覚えたよと頷く。
『ほら、ロジーナも手を出してごらん』
ショウが自分の後ろに隠れているロジーナに手を差し出させている様子を、アレクセイは微笑ましく思って眺める。
「ロジーナ姫は可愛い姫君ですね。女の子らしくて、お淑やかで、ショウ王子にベタ惚れしてなければ、私がアタックしたいぐらいです」
ナルシスにそんな国際問題になりそうな事は止めてくれと言いかけて、冗談だとアレクセイは気づき苦笑する。
アレクセイは、アリエナの真っ直ぐな気性と、文武両道に秀でている事も愛していたが、整い過ぎた美貌は冷たく見えて、元々イルバニア王国の王女に微妙な感情を抱いている貴族達に受け入れられてない。
ロジーナの可愛い容姿と、ソリスに驚いてショウの後ろに隠れた保護欲を刺激させられる態度や、臆病過ぎずソリスに慣れてもふもふの毛皮を撫でている様子を見て、こういった風情があれば貴族達もちやほやしたくなるだろうと溜め息をつく。
王家の狩り場には竜で行くことになり、東南諸島側はショウの護衛にベリージュ大尉とピップスを同行させた。
真冬の狩り場は、雪に覆われていたが、ターシュとソリスは喜んで狩りに出掛ける。灰色の空を滑空するターシュと、雪を蹴散らして森に駆け込んだソリスを少しの間は見ていたが、寒さに身震いする。
「ショウ王子、ロジーナ姫、ターシュとソリスが帰って来るまで、中で待ちましょう。こんな風に立っていると、ブーツが凍りついてしまいますよ」
アレクセイの案内で、メンバーは狩猟屋敷で待つことになり、暖炉の周りに座って話をする。
「ソリスって、とても優しいのね。少し怖かったけど、目が凄く優しいので大好きになったわ」
アリエナは産まれた時から一緒なのと、少し寂しそうに笑う。
「ええ、ソリスはとても優しいの。本当ならフォン・フォレストの森に、帰してあげなきゃいけないのに……」
隣に座っていたアレクセイは、そっとアリエナを抱き寄せる。ショウとロジーナは異国に嫁いだアリエナを心配して、ソリスは側を離れられないのだろうと思った。
「フォン・フォレストにはルナが暮らしているから、ソリスはケイロン周辺の森で相手を探した方が良いのかもしれませんよ」
ナルシスが湿っぽくなった雰囲気を和らげようと発言したので、ショウもパロマ大学でアレックス教授に聞いた話を披露する。
「ローラン王国の辺りには、話せる猪のサイレーンの子孫がいるかもしれませんから、ソリスが見つけてくれると良いですね。あっ、食べてしまうと困るかな?」
アレックスとナルシスは、変人のアレックス教授の講義を受講されたのですかと驚いた。
「あの変人教授の講義を、何故?」
二人に変な目で見られて、ショウも何故だろうと考える。
「う~ん、面白そうだと受講したのが、きっかけなのかな? 私は半年ぐらいしかパロマ大学で勉強していませんが、指導教授のバギンズ教授がアレックス教授の奥方だったので、何となく逃げられなくなって」
真名の件は話せなかったので、バギンズ教授の名前で誤魔化したが、その名前も変人で名高かったので、二人に爆笑されてしまう。
「バギンズ教授! これまた凄く変人の指導教授ですね」
ナルシス王子の言葉にショウは、やっぱり! と笑う。
「パロマ大学の教授は変人ばかりだと思ってましたが、私が受講した教授が変人だったのですね」
ショウが、アン・グレンジャー教授や、他の教授の名前をあげると、二人は顔を見合わせて、スチュワート皇太子は何を案内していたのだろうと笑う。
「よく其処まで、変人の教授ばかり! 何故、普通の教授の講義を選ばなかったのですか?」
「バギンズ教授の講義以外は、講義目録を見て面白そうなのを選んだのです。まぁ、実際に個性的な教授が多くて楽しかったですよ。アレクセイ皇太子やナルシス王子は、何を勉強されたのですか?」
アレクセイは政治を、ナルシスは寒冷地に強い作物を勉強したと答える。
「ナルシス王子、寒冷地に強い作物は良い研究ですね」
ショウの褒め言葉に、ナルシスはなかなか時間のかかる研究なので成果が出にくいのですと愚痴る。
ショウは、アリエナは緑の魔力持ちだから、品種改良を手伝えると思ったが、自分がアリエナ妃の能力について、とやかく言うのは筋違いだとショウは考えて口出しは控えた。
アリエナ妃の能力も、若くて美しい皇太子妃としての魅力も、全く生かせていないのが惜しいとショウには思える。
経済的に逼迫しているローラン王国では、節約も必要なのだろうけど、こうして狩猟屋敷で接待したりして、国内の貴族達とも親しく話していけば良いのにと、ショウは考える。
やがてターシュとソリスは狩りに満足して、狩猟屋敷に帰って来たので、この日はお互いに此処で別れる事になった。
ショウはロジーナを乗せて、ベリージュ大尉とピップスと共に大使館に帰った。半日アリエナと過ごして、何となくリリック大使の宿題が解けたような気がする。
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