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第十三章 迫る影
6 少し大人になったね!
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「イルバニア王国からリリアナ皇太子妃のお茶会に、エスメラルダ様を招待したいとの手紙が届きました」
夜明け前、無事にサンズが卵を産むのを見届けたショウは、大丈夫だから朝食を食べに行くように勧められた。昼前に大使館に来たのを待ち構えるように招待状を差し出されて、眉を顰める。
「ええっ! 私はサンズの側を離れられないのに……竜騎士に護られているユングフラウなら、事情はわかっている筈だが?」
読んでいくうちに、女性だけの気楽なお茶会だとわかったが、エスメラルダは社交に慣れてないのにと心配する。
「ミミ姫は見習い竜騎士の試験中なので、リューデンハイムから離れられないでしょう。
エリカ王女にエスメラルダ様の付き添いを頼まれたら如何ですか?
二国間の若い女性王族の集いですから、キャサリン様やテレーズ様も一緒でしょう」
年上のサザーランド公爵家に嫁がれたキャサリン王女には、エリカは逆らわないだろうが、半年年下のテレーズ王女とはお互いに我が儘王女振りをぶつけていたので、仲裁役のミミがいないのに大丈夫かなぁと心配する。
「エスメラルダはエリカとは初めての顔合わせですし、社交界など慣れていません。
私が一緒ならフォローできますが、サンズから離れられないのを見越して、このような招待状を送ってくるとは……」
新婚旅行中なのに、サンズと竜舎に篭っている事を、同じ絆の竜騎士であるエスメラルダは寛容に許してくれてはいたが、大国の皇太子妃のお茶会だなんて心細いのではと返事に困る。
「エリカ王女とエスメラルダ様に招待状を見せて、判断をお任せしては如何ですか?」
絶世の美貌としなやかな身のこなし、世慣れた対応ができるレティシィア様とは違い、未開のイズマル島出身のエスメラルダ様が王宮に気後れするのではと心配するショウ王太子の気持ちは理解できたが、ヌートン大使は大丈夫だろうと考える。
「エスメラルダ様は何処に行かれても、堂々とされていると思いますよ」
ショウも、巫女姫としてメッシーナ村を精神的に支えてきたエスメラルダなら、度胸はあるだろうと、判断を任せることにする。
「そうですね、いつかはエスメも社交デビューしなくてはいけないのですから。
本当は私がエスコートしてあげたいですが、女性だけのお茶会なら大丈夫でしょう」
早速、エスメラルダとエリカ王女を会わせる段取りをして、カミラ夫人にはお茶会の作法などを教えさせる。
「まぁ! ショウ兄上のお役に立つなら、何でもしますわ!」
新しい兄嫁との挨拶を済ませると、お茶会の付き添いは任せて! とエリカは張り切る。
「エスメ、どうする? 不安なら、今回はパスしても良いんだよ。リリアナ皇太子妃には、私からお断りの手紙を書けば大丈夫だから」
エリカは相変わらずショウ兄上は優しいと微笑んだ。
「ショウ様に嫁いだのですから、妻として相応しく頑張りたいですわ! とは言うものの、マナーも付け焼き刃ですけど……エリカ王女様、宜しくお願いします」
エリカは野性味あるエスメラルダが素直な性格なのが気に入った。
「エリカで良いのよ! だって、義理の姉妹ですもの。
リリアナ妃はとても優しい方だし、キャサリン様は快活で楽しい方よ! テレーズ様は……まぁ、前よりはまともになっているから、大丈夫よ」
「やれやれ、未だテレーズ王女とは相変わらずなのか?」
お互いに似た性格なのと、双子のアルフォンス王子がエリカと仲が良いのが喧嘩の原因なのだが、入学した時よりはマシになっている。
「あら、時々は喧嘩をするけど、近頃は一緒に遊んだりもしているわ。
テレーズ様が管理されているアイスクリームパーラーに氷を運ぶのを手伝ったりもしてるもの!
そうだ! 兄上が竜舎にお篭りになるのなら、私がエスメラルダ様をパーラーに案内するわ」
ミミが見習い竜騎士の試験勉強で忙しくて、遊ぶ相手が居なくて退屈していたエリカは良い事を思いついたと、優しいショウ兄上に頼み込む。
「それは良いけど、護衛をちゃんと付けるんだよ。
ローラン王国の難民が増えているみたいだから、問題を起こさないように警備を強化しているのだからね」
ショウは東南諸島連合王国に恨みを持つザイクロフト卿が、エリカやミミに害をなさないかと心配して、大使館の警備を強化していた。
「流石に、竜騎士の養成学校リューデンハイムに迄は手を出せないだろうが、街を歩く時は侍女と護衛を付き添わせなさい」
エリカは、前よりはローラン王国の難民も減ってきているのに変だとは思ったが、心配症のショウ兄上の言いつけに従う。
「兄上ったら、エスメラルダ様がそんなに心配なの? 騎竜のルカが付いてるから、大丈夫なのに。
でも、ちゃんと侍女と護衛を付き添わせるから大丈夫よ」
エリカは王女として産まれ育ったので、侍女や護衛がいようと全く何も感じないで自由に振る舞うのに慣れているから、この点は安心だとショウは頷く。
「エリカ、少し大人になったね! エスメを宜しく頼むよ」
竜姫と恐れられたエリカだったが、大好きなショウ兄上に褒められて、嬉しい! と抱きついた。
エスメラルダは長い間一人っ子で過ごしていたので、ショウが大勢の兄弟達と仲良くしているのを見て羨ましく思うと同時に、自分の子ども達をレイテの後宮で育てたいと言っていたのを思い出す。
「私は東南諸島連合王国の王太子の妻なのだわ……」
見たこともない大都会のユングフラウにある王宮に、ショウ様のエスコート無しで行くのには、少し緊張するエスメラルダだが、妻として恥ずかしくない言動をしようと決意した。
夜明け前、無事にサンズが卵を産むのを見届けたショウは、大丈夫だから朝食を食べに行くように勧められた。昼前に大使館に来たのを待ち構えるように招待状を差し出されて、眉を顰める。
「ええっ! 私はサンズの側を離れられないのに……竜騎士に護られているユングフラウなら、事情はわかっている筈だが?」
読んでいくうちに、女性だけの気楽なお茶会だとわかったが、エスメラルダは社交に慣れてないのにと心配する。
「ミミ姫は見習い竜騎士の試験中なので、リューデンハイムから離れられないでしょう。
エリカ王女にエスメラルダ様の付き添いを頼まれたら如何ですか?
二国間の若い女性王族の集いですから、キャサリン様やテレーズ様も一緒でしょう」
年上のサザーランド公爵家に嫁がれたキャサリン王女には、エリカは逆らわないだろうが、半年年下のテレーズ王女とはお互いに我が儘王女振りをぶつけていたので、仲裁役のミミがいないのに大丈夫かなぁと心配する。
「エスメラルダはエリカとは初めての顔合わせですし、社交界など慣れていません。
私が一緒ならフォローできますが、サンズから離れられないのを見越して、このような招待状を送ってくるとは……」
新婚旅行中なのに、サンズと竜舎に篭っている事を、同じ絆の竜騎士であるエスメラルダは寛容に許してくれてはいたが、大国の皇太子妃のお茶会だなんて心細いのではと返事に困る。
「エリカ王女とエスメラルダ様に招待状を見せて、判断をお任せしては如何ですか?」
絶世の美貌としなやかな身のこなし、世慣れた対応ができるレティシィア様とは違い、未開のイズマル島出身のエスメラルダ様が王宮に気後れするのではと心配するショウ王太子の気持ちは理解できたが、ヌートン大使は大丈夫だろうと考える。
「エスメラルダ様は何処に行かれても、堂々とされていると思いますよ」
ショウも、巫女姫としてメッシーナ村を精神的に支えてきたエスメラルダなら、度胸はあるだろうと、判断を任せることにする。
「そうですね、いつかはエスメも社交デビューしなくてはいけないのですから。
本当は私がエスコートしてあげたいですが、女性だけのお茶会なら大丈夫でしょう」
早速、エスメラルダとエリカ王女を会わせる段取りをして、カミラ夫人にはお茶会の作法などを教えさせる。
「まぁ! ショウ兄上のお役に立つなら、何でもしますわ!」
新しい兄嫁との挨拶を済ませると、お茶会の付き添いは任せて! とエリカは張り切る。
「エスメ、どうする? 不安なら、今回はパスしても良いんだよ。リリアナ皇太子妃には、私からお断りの手紙を書けば大丈夫だから」
エリカは相変わらずショウ兄上は優しいと微笑んだ。
「ショウ様に嫁いだのですから、妻として相応しく頑張りたいですわ! とは言うものの、マナーも付け焼き刃ですけど……エリカ王女様、宜しくお願いします」
エリカは野性味あるエスメラルダが素直な性格なのが気に入った。
「エリカで良いのよ! だって、義理の姉妹ですもの。
リリアナ妃はとても優しい方だし、キャサリン様は快活で楽しい方よ! テレーズ様は……まぁ、前よりはまともになっているから、大丈夫よ」
「やれやれ、未だテレーズ王女とは相変わらずなのか?」
お互いに似た性格なのと、双子のアルフォンス王子がエリカと仲が良いのが喧嘩の原因なのだが、入学した時よりはマシになっている。
「あら、時々は喧嘩をするけど、近頃は一緒に遊んだりもしているわ。
テレーズ様が管理されているアイスクリームパーラーに氷を運ぶのを手伝ったりもしてるもの!
そうだ! 兄上が竜舎にお篭りになるのなら、私がエスメラルダ様をパーラーに案内するわ」
ミミが見習い竜騎士の試験勉強で忙しくて、遊ぶ相手が居なくて退屈していたエリカは良い事を思いついたと、優しいショウ兄上に頼み込む。
「それは良いけど、護衛をちゃんと付けるんだよ。
ローラン王国の難民が増えているみたいだから、問題を起こさないように警備を強化しているのだからね」
ショウは東南諸島連合王国に恨みを持つザイクロフト卿が、エリカやミミに害をなさないかと心配して、大使館の警備を強化していた。
「流石に、竜騎士の養成学校リューデンハイムに迄は手を出せないだろうが、街を歩く時は侍女と護衛を付き添わせなさい」
エリカは、前よりはローラン王国の難民も減ってきているのに変だとは思ったが、心配症のショウ兄上の言いつけに従う。
「兄上ったら、エスメラルダ様がそんなに心配なの? 騎竜のルカが付いてるから、大丈夫なのに。
でも、ちゃんと侍女と護衛を付き添わせるから大丈夫よ」
エリカは王女として産まれ育ったので、侍女や護衛がいようと全く何も感じないで自由に振る舞うのに慣れているから、この点は安心だとショウは頷く。
「エリカ、少し大人になったね! エスメを宜しく頼むよ」
竜姫と恐れられたエリカだったが、大好きなショウ兄上に褒められて、嬉しい! と抱きついた。
エスメラルダは長い間一人っ子で過ごしていたので、ショウが大勢の兄弟達と仲良くしているのを見て羨ましく思うと同時に、自分の子ども達をレイテの後宮で育てたいと言っていたのを思い出す。
「私は東南諸島連合王国の王太子の妻なのだわ……」
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