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第十三章 迫る影
7 リリアナ皇太子妃のお茶会で……
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「大丈夫よ! 私がついて行くのですもの……それにしても、婚約者もいるのに、いつまでこんなお子さまワンピースを着なきゃいけないのかしら?」
エリカは膝下丈のワンピースに少し不満気な顔をしたが、お洒落のセンスが良いカミラ夫人に、長い丈のドレスを若い女の子が着るのはマナー違反だと諭されて我慢する。
「エリカ、よく似合ってるよ! それに、ロングドレスを着たら、髪の毛をアップしなきゃいけないんだろ? 私はおろした髪の方が好きだよ」
褒められて嬉しいが、ウィリアム王子が社交界の綺麗な令嬢達とパーティに行ってるのがエリカには不満なのだ。
「でも……来年には絶対に長い丈のドレスを作るわ! 見習い竜騎士の試験にも合格して、秋には社交界デビューするのだから!」
ショウは今でもミミとの結婚式を来年まで延ばしたい気持ちもあるが、大騒動になるのがわかりきってるので口には出さない。
「社交界デビューは良いけど、ウィリアム王子はパーティは嫌いだと思うよ。
あまり振り回したら、嫌われるよ」
エリカは、そんな事ぐらいわかってるわ! と強気な言葉を発したが、ウィリアム王子は私のことを好きかしらと、ショウ兄上の隣に座って真剣に尋ねる。
「政略結婚の相手だから、仕方なく優しくして下さっているのではないかと不安なの……」
ショウはエリカの不安を真剣に受け止めて、ウィリアム王子との交際を尋ねたが、聞かなきゃ良かったと後悔するほどノロケられてうんざりする。
「エリカ様、お待たせしました」
慣れないドレスアップに手間取った事を詫びるエスメラルダだが、薄いグリーン色の昼間用のドレスが巫女姫と呼ばれるのに相応しい神秘性を高めていた。
「エスメ、とても綺麗だよ!」手を取って、キスをしている兄上に、今までノロケていたのも忘れて、熱々ねぇとエリカは文句をつける。
「私も付き添えることになりましたから、ショウ王太子は心配なさらないで下さいね」
ヌートン大使は、エスメラルダ妃は社交界に出た事も無いのでと、カミラ夫人の付き添いをリリアナ皇太子妃に申し出て、許可を受けていたのだ。
「カミラ夫人、お願いしておきます」
ヌートン大使は、王宮に向かう馬車を見送ると、今回は親竜のメリルの付き添いが無いのだからと、竜舎に籠るショウ王太子を『竜馬鹿!』と内心で呆れる。
「ほら、あちらに王宮が見えてきましたわ」
折角の新婚旅行なのに、花婿が竜舎に籠りっきりなのを同情したカミラ夫人は、エスメラルダにユングフラウの街並みを説明する。
「ユングフラウみたいな大都市は見たことがありません」
エリカは自国の首都レイテも素敵だとエスメラルダに教える。
「私は後宮で育ったから、レイテの街を歩いたことは無かったの。
でも、一昨年の夏休みに、ウィリアム王子とサンズの双子竜を見に行った時に、ショウ兄上にあちこち案内して貰ったわ。
メーリングのバザールなんて、レイテのバザールに比べたら規模が小さいわ!」
エスメラルダはメーリングのバザールも見学していないと、小さな溜め息をついた。
「もしかして、何処にも行かれて無いのですか?」
カミラ夫人はいくら騎竜が卵を産んだからといって、酷いと怒る。
「仕方ありませんわ、私もルカが卵を産んだら側に付いててあげたいですもの……」
この点ではエリカもヴェスタと絆を結べたら、同じ行動をするだろうと頷く。
「もう! 竜騎士の方の考えは理解できませんわ。
でも、ショウ王太子が竜舎にお篭りの間に、ドレスを何枚か作りましょう。
子竜の羽根が伸びるまでは、此方に滞在されるのはイルバニア王国も知っていますわ。
きっと卵が孵ったらカップルで招待されるでしょう」
今日着ている薄いグリーンのドレスは、カミラ夫人の新作のドレスを詰めた物なので、卵が孵るまでに花嫁に相応しいドレスを作らなくてはと張り切る。
「良いわねぇ! 私も丈の長いドレスが欲しいわ」
カミラ夫人は懲りないエリカ王女に、今のワンピースも可愛いですよと褒めて取り合わない。
「もう! ウィリアム王子にお子様扱いされるのは、こんなワンピースを着ているからだわ」
ぷんぷん怒っているエリカ王女だが、結婚式までは不適切な行動は絶対にして欲しくないと、カミラ夫人はアスラン王の顔を思い出して身震いする。
そんな話をしているうちに、馬車は王宮の門を通り抜けていた。
「まぁ! バラの王宮ね!」
カミラ夫人やエリカは花の都のバラの見事さには見慣れていたが、エスメラルダの感嘆の声で、改めて美しさに気づく。
「ユングフラウは花の都と呼ばれているのですよ。
それに、ユーリ王妃は緑の魔力をお持ちだと言われてますから、こんなにバラが見事なのですわ」
エスメラルダは自分も緑の魔力を持っているし、ショウからユーリ王妃のキャベツ畑の子作りの呪いを教えて貰ったので、一度会って話してみたいと思う。
リリアナ皇太子妃の側近の貴婦人が離宮へと案内してくれる。
エスメラルダは美しい王宮に興味を持ったが、きょろきょろしないように真っ直ぐ前を向いて歩んでいく。
カミラ夫人は、初めての外国の王宮なのに、堂々としておられるとホッとした。
皇太子夫妻が住む離宮に着いた一行を、リリアナ妃とキャサリン王女、そして踝が見える長めのワンピースを着たテレーズ王女が出迎える。
「ようこそ、イルバニア王国に」
カミラ夫人はにこやかに出迎えてくれたリリアナ妃にエスメラルダを紹介し、エスメラルダが礼儀正しく挨拶をしている間に、エリカとテレーズはにこやかな顔をしながら舌戦を開始した。
「テレーズ様、そのワンピースは丈が少し長いのではないかしら?」
テレーズは、あら? とチラリとエリカの膝下のワンピースの裾に目をやった。
「私のワンピースはキャサリン姉上のお古だから、少し長いのよ。
エリカ様みたいに自分のワンピースを次々と作って貰えないのですもの」
エリカがカチンときたのは、その場にいる全員が気づいた。
「テレーズ! 私のお古が長いのなら、裾を侍女に詰めさせるわ。 14歳になるまでは、裾の長いドレスは着ては駄目よ」
優しいリリアナ妃には我が儘天使のテレーズ王女を叱れないので、姉のキャサリン王女がビシッと指摘する。
エリカも今回はショウ兄上に、新妻のエスメラルダの付き添いを頼まれたのだと、にこやかな態度でお茶会の席についた。
カミラ夫人は竜姫の恐ろしさを知っているので、無事にお茶会が済めば良いけどと、平静さを装ってはいたが、心配でたまらなかった。
リリアナ妃は新妻のエスメラルダ妃が社交界に慣れていないだろうと、父親のマウリッツ外務大臣から忠告されていたので、親切に接したし、キャサリン王女も明るい話題を提供する。
テレーズ王女も、エリカ王女と揉めたりしたら、母上にこっぴどく叱られるのがわかっていたし、初々しいエスメラルダ妃の歓迎のお茶会を台無しにするつもりは無かったので、大人しくお茶を飲んでいた。
「まぁ、ショウ王太子のサンズはまた卵を産んだのですね」
明るい話題なので、普通なら問題はないのだが、キャサリン王女とエスメラルダは少し羨ましそうな目をした。
大人しくお茶を飲んでいたテレーズ王女とエリカ王女は、竜が卵を産む事や交尾飛行について興味深々なのだが、若い女の子に誰も詳しく説明をしてくれないので、この場所には女性しかいないのは質問するチャンスだと目を輝かせる。
「ねぇ、キャサリン姉上……」テレーズ王女が昨年キャサリン姉上の嫁ぎ先のサザーランド公爵の騎竜が卵を産んだ時の話を質問しかけたが、リリアナ妃が珍しく話の腰を折って庭を案内すると席を立った。
「皆さま、王宮はバラも見事ですが、サクラも素敵ですのよ。
今は満開ですから、是非見て下さい」
テレーズとエリカは、リリアナ妃の後を他のメンバーがついて行くのを、唖然として追いかける。
「ねぇ、何かマズいことを言ったのかしら?」
テレーズに小声で質問されて、エリカは少し考え込む。
「キャサリン様はご懐妊されてないわよね……騎竜が交尾飛行すると、赤ちゃんができると噂をきいたけど……」
一昨年にレイテに帰った時に、後宮で仕入れてきたショウ兄上の赤ちゃんの誕生と子竜の誕生とのタイミングの噂をエリカは思い出して、テレーズに耳打ちする。
テレーズ王女は我が儘天使と呼ばれているが、愛情に満ちた両親に育てられたので、性格は素直な暖かな面も持っている。
「しまったわ! だから、いつもは大人しいリリアナ妃が私の失言を止められたのだわ。
キャサリン姉上に悪いことをしちゃったわ……」
落ち込むテレーズを見ていると、いつも喧嘩をしているエリカも可哀想に思う。
それに、後宮育ちのエリカには赤ちゃんができないのは重大な問題だと身体の芯まで染みついている。
「騎竜の交尾飛行で赤ちゃんが確実にできるわけでは無いのね。
竜騎士や魔力の強い人は赤ちゃんが出来にくいと言われてるわ。
困ったわ! 私はヴェスタと絆を結んで、交尾飛行で赤ちゃんを作るつもりだったのに……」
何時もなら、既に騎竜と絆を結んでいることを自慢して、エリカと喧嘩になるテレーズだが、今はそんな気分にならない。
「母上は絆の竜騎士だし、魔力もフォン・フォレストの魔女と呼ばれた曾祖母様譲りだと言われているわ。
でも、私を含めて8人も赤ちゃんを産んだのよ」
桜並木をそぞろ歩いてる大人達から離れて、二人は頭をつき合わせて考える。
「サザーランド公爵の騎竜が卵を産んだから、キャサリン様は懐妊しなかったのではないの?」
「いいえ、フィリップ兄上の騎竜は卵を産まなかったけど、リリアナ妃はマキシウス王子を産まれたのよ!」
カミラ夫人が、何をしているのですか? と歩み寄って来たので、二人は天使のように無邪気な笑顔を浮かべて、夏休みの予定だと口を揃える。
「未だ、春なのに夏休みの計画ですか?」
不審そうなカミラ夫人に、エリカはテレーズ王女をレイテに招待したいのと、嘘の話をでっち上げる。
「まぁ、そんなにテレーズ王女と仲良くなられたのですねぇ。
グレゴリウス国王とユーリ王妃の許可がおりると良いのですが」
カミラ夫人の思考が、二国間の若い王族の付き合いが良い方向に向かうか? テレーズ王女の訪問の問題点などに移ったのを察して、エリカとテレーズはリューデンハイムの寮で話し合おうと目配せする。
エリカは膝下丈のワンピースに少し不満気な顔をしたが、お洒落のセンスが良いカミラ夫人に、長い丈のドレスを若い女の子が着るのはマナー違反だと諭されて我慢する。
「エリカ、よく似合ってるよ! それに、ロングドレスを着たら、髪の毛をアップしなきゃいけないんだろ? 私はおろした髪の方が好きだよ」
褒められて嬉しいが、ウィリアム王子が社交界の綺麗な令嬢達とパーティに行ってるのがエリカには不満なのだ。
「でも……来年には絶対に長い丈のドレスを作るわ! 見習い竜騎士の試験にも合格して、秋には社交界デビューするのだから!」
ショウは今でもミミとの結婚式を来年まで延ばしたい気持ちもあるが、大騒動になるのがわかりきってるので口には出さない。
「社交界デビューは良いけど、ウィリアム王子はパーティは嫌いだと思うよ。
あまり振り回したら、嫌われるよ」
エリカは、そんな事ぐらいわかってるわ! と強気な言葉を発したが、ウィリアム王子は私のことを好きかしらと、ショウ兄上の隣に座って真剣に尋ねる。
「政略結婚の相手だから、仕方なく優しくして下さっているのではないかと不安なの……」
ショウはエリカの不安を真剣に受け止めて、ウィリアム王子との交際を尋ねたが、聞かなきゃ良かったと後悔するほどノロケられてうんざりする。
「エリカ様、お待たせしました」
慣れないドレスアップに手間取った事を詫びるエスメラルダだが、薄いグリーン色の昼間用のドレスが巫女姫と呼ばれるのに相応しい神秘性を高めていた。
「エスメ、とても綺麗だよ!」手を取って、キスをしている兄上に、今までノロケていたのも忘れて、熱々ねぇとエリカは文句をつける。
「私も付き添えることになりましたから、ショウ王太子は心配なさらないで下さいね」
ヌートン大使は、エスメラルダ妃は社交界に出た事も無いのでと、カミラ夫人の付き添いをリリアナ皇太子妃に申し出て、許可を受けていたのだ。
「カミラ夫人、お願いしておきます」
ヌートン大使は、王宮に向かう馬車を見送ると、今回は親竜のメリルの付き添いが無いのだからと、竜舎に籠るショウ王太子を『竜馬鹿!』と内心で呆れる。
「ほら、あちらに王宮が見えてきましたわ」
折角の新婚旅行なのに、花婿が竜舎に籠りっきりなのを同情したカミラ夫人は、エスメラルダにユングフラウの街並みを説明する。
「ユングフラウみたいな大都市は見たことがありません」
エリカは自国の首都レイテも素敵だとエスメラルダに教える。
「私は後宮で育ったから、レイテの街を歩いたことは無かったの。
でも、一昨年の夏休みに、ウィリアム王子とサンズの双子竜を見に行った時に、ショウ兄上にあちこち案内して貰ったわ。
メーリングのバザールなんて、レイテのバザールに比べたら規模が小さいわ!」
エスメラルダはメーリングのバザールも見学していないと、小さな溜め息をついた。
「もしかして、何処にも行かれて無いのですか?」
カミラ夫人はいくら騎竜が卵を産んだからといって、酷いと怒る。
「仕方ありませんわ、私もルカが卵を産んだら側に付いててあげたいですもの……」
この点ではエリカもヴェスタと絆を結べたら、同じ行動をするだろうと頷く。
「もう! 竜騎士の方の考えは理解できませんわ。
でも、ショウ王太子が竜舎にお篭りの間に、ドレスを何枚か作りましょう。
子竜の羽根が伸びるまでは、此方に滞在されるのはイルバニア王国も知っていますわ。
きっと卵が孵ったらカップルで招待されるでしょう」
今日着ている薄いグリーンのドレスは、カミラ夫人の新作のドレスを詰めた物なので、卵が孵るまでに花嫁に相応しいドレスを作らなくてはと張り切る。
「良いわねぇ! 私も丈の長いドレスが欲しいわ」
カミラ夫人は懲りないエリカ王女に、今のワンピースも可愛いですよと褒めて取り合わない。
「もう! ウィリアム王子にお子様扱いされるのは、こんなワンピースを着ているからだわ」
ぷんぷん怒っているエリカ王女だが、結婚式までは不適切な行動は絶対にして欲しくないと、カミラ夫人はアスラン王の顔を思い出して身震いする。
そんな話をしているうちに、馬車は王宮の門を通り抜けていた。
「まぁ! バラの王宮ね!」
カミラ夫人やエリカは花の都のバラの見事さには見慣れていたが、エスメラルダの感嘆の声で、改めて美しさに気づく。
「ユングフラウは花の都と呼ばれているのですよ。
それに、ユーリ王妃は緑の魔力をお持ちだと言われてますから、こんなにバラが見事なのですわ」
エスメラルダは自分も緑の魔力を持っているし、ショウからユーリ王妃のキャベツ畑の子作りの呪いを教えて貰ったので、一度会って話してみたいと思う。
リリアナ皇太子妃の側近の貴婦人が離宮へと案内してくれる。
エスメラルダは美しい王宮に興味を持ったが、きょろきょろしないように真っ直ぐ前を向いて歩んでいく。
カミラ夫人は、初めての外国の王宮なのに、堂々としておられるとホッとした。
皇太子夫妻が住む離宮に着いた一行を、リリアナ妃とキャサリン王女、そして踝が見える長めのワンピースを着たテレーズ王女が出迎える。
「ようこそ、イルバニア王国に」
カミラ夫人はにこやかに出迎えてくれたリリアナ妃にエスメラルダを紹介し、エスメラルダが礼儀正しく挨拶をしている間に、エリカとテレーズはにこやかな顔をしながら舌戦を開始した。
「テレーズ様、そのワンピースは丈が少し長いのではないかしら?」
テレーズは、あら? とチラリとエリカの膝下のワンピースの裾に目をやった。
「私のワンピースはキャサリン姉上のお古だから、少し長いのよ。
エリカ様みたいに自分のワンピースを次々と作って貰えないのですもの」
エリカがカチンときたのは、その場にいる全員が気づいた。
「テレーズ! 私のお古が長いのなら、裾を侍女に詰めさせるわ。 14歳になるまでは、裾の長いドレスは着ては駄目よ」
優しいリリアナ妃には我が儘天使のテレーズ王女を叱れないので、姉のキャサリン王女がビシッと指摘する。
エリカも今回はショウ兄上に、新妻のエスメラルダの付き添いを頼まれたのだと、にこやかな態度でお茶会の席についた。
カミラ夫人は竜姫の恐ろしさを知っているので、無事にお茶会が済めば良いけどと、平静さを装ってはいたが、心配でたまらなかった。
リリアナ妃は新妻のエスメラルダ妃が社交界に慣れていないだろうと、父親のマウリッツ外務大臣から忠告されていたので、親切に接したし、キャサリン王女も明るい話題を提供する。
テレーズ王女も、エリカ王女と揉めたりしたら、母上にこっぴどく叱られるのがわかっていたし、初々しいエスメラルダ妃の歓迎のお茶会を台無しにするつもりは無かったので、大人しくお茶を飲んでいた。
「まぁ、ショウ王太子のサンズはまた卵を産んだのですね」
明るい話題なので、普通なら問題はないのだが、キャサリン王女とエスメラルダは少し羨ましそうな目をした。
大人しくお茶を飲んでいたテレーズ王女とエリカ王女は、竜が卵を産む事や交尾飛行について興味深々なのだが、若い女の子に誰も詳しく説明をしてくれないので、この場所には女性しかいないのは質問するチャンスだと目を輝かせる。
「ねぇ、キャサリン姉上……」テレーズ王女が昨年キャサリン姉上の嫁ぎ先のサザーランド公爵の騎竜が卵を産んだ時の話を質問しかけたが、リリアナ妃が珍しく話の腰を折って庭を案内すると席を立った。
「皆さま、王宮はバラも見事ですが、サクラも素敵ですのよ。
今は満開ですから、是非見て下さい」
テレーズとエリカは、リリアナ妃の後を他のメンバーがついて行くのを、唖然として追いかける。
「ねぇ、何かマズいことを言ったのかしら?」
テレーズに小声で質問されて、エリカは少し考え込む。
「キャサリン様はご懐妊されてないわよね……騎竜が交尾飛行すると、赤ちゃんができると噂をきいたけど……」
一昨年にレイテに帰った時に、後宮で仕入れてきたショウ兄上の赤ちゃんの誕生と子竜の誕生とのタイミングの噂をエリカは思い出して、テレーズに耳打ちする。
テレーズ王女は我が儘天使と呼ばれているが、愛情に満ちた両親に育てられたので、性格は素直な暖かな面も持っている。
「しまったわ! だから、いつもは大人しいリリアナ妃が私の失言を止められたのだわ。
キャサリン姉上に悪いことをしちゃったわ……」
落ち込むテレーズを見ていると、いつも喧嘩をしているエリカも可哀想に思う。
それに、後宮育ちのエリカには赤ちゃんができないのは重大な問題だと身体の芯まで染みついている。
「騎竜の交尾飛行で赤ちゃんが確実にできるわけでは無いのね。
竜騎士や魔力の強い人は赤ちゃんが出来にくいと言われてるわ。
困ったわ! 私はヴェスタと絆を結んで、交尾飛行で赤ちゃんを作るつもりだったのに……」
何時もなら、既に騎竜と絆を結んでいることを自慢して、エリカと喧嘩になるテレーズだが、今はそんな気分にならない。
「母上は絆の竜騎士だし、魔力もフォン・フォレストの魔女と呼ばれた曾祖母様譲りだと言われているわ。
でも、私を含めて8人も赤ちゃんを産んだのよ」
桜並木をそぞろ歩いてる大人達から離れて、二人は頭をつき合わせて考える。
「サザーランド公爵の騎竜が卵を産んだから、キャサリン様は懐妊しなかったのではないの?」
「いいえ、フィリップ兄上の騎竜は卵を産まなかったけど、リリアナ妃はマキシウス王子を産まれたのよ!」
カミラ夫人が、何をしているのですか? と歩み寄って来たので、二人は天使のように無邪気な笑顔を浮かべて、夏休みの予定だと口を揃える。
「未だ、春なのに夏休みの計画ですか?」
不審そうなカミラ夫人に、エリカはテレーズ王女をレイテに招待したいのと、嘘の話をでっち上げる。
「まぁ、そんなにテレーズ王女と仲良くなられたのですねぇ。
グレゴリウス国王とユーリ王妃の許可がおりると良いのですが」
カミラ夫人の思考が、二国間の若い王族の付き合いが良い方向に向かうか? テレーズ王女の訪問の問題点などに移ったのを察して、エリカとテレーズはリューデンハイムの寮で話し合おうと目配せする。
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