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第十三章 迫る影
19 ルカの子竜
しおりを挟む「ショウ様……」
エスメラルダはショウが公務で航海に出たのだから、謝って貰わなくてもと言いかけたが、キスで塞がれた。
ルカは絆の竜騎士の幸福感に満たされて、卵が孵るのか神経質になっていたのも癒される。しかし、新婚の二人がキスをしてムードが盛り上がっているのを邪魔するつもりは無いだろうが、卵が揺れ始めた。
『卵が孵るよ! 未だ早いよ!』
ルカの心配そうな悲鳴に、エスメラルダはショウから離れて竜舎に飛び込む。
『サンズ? 卵が孵るのが早い事もあるのか?』
前に、サンズは卵を早く産んだので、孵るのも早い事があるのかと尋ねる。
『私は聞いたことがないよ』
竜としては若いサンズは、余り知識が無いので、困惑して首をひねる。ショウは竜が多いイルバニア王国のウィリアム王子なら何か知っているかもとは思うが、今更聞きに行っても仕方が無いと首を横に振る。
『3日は後の筈なのに!』
ルカはコツコツと音を立てて揺れている卵を心配そうに眺める。
『大丈夫よ! 卵は無事に孵るわ!』
既に揺れだした卵をどうすることもできないので、ショウは不安そうなルカを励ましているエスメラルダの側に付き添う。
『ピピン! 頑張って!』
ルカは揺れている卵に向かって叫ぶ。
コツコツと孵角の音はしているが、ショウは何度か立ち合った卵が孵る時の音より小さい気がして心配になる。
「エスメ、この竜心石でルカの卵を叩くんだ!」
自分でしても良いが、気が立っているルカは卵に絆の竜騎士しか近づいて欲しく無いだろうと、エスメラルダにペンダントの竜心石を渡す。
『エスメラルダ、竜は自分で孵らないといけないんだ!』
ルカは卵が孵るのか気も狂わんばかりに心配しているが、竜としての本能で自力で孵らない子竜は駄目だと叫ぶ。
『ルカ! メールは竜心石で孵るのを手伝ったけど、元気に育っているよ』
どんどんと揺れが弱くなっているのをルカは見ていれなくなり、ショウの意見を取り入れる。
『エスメラルダ! 雛竜を助けてくれ!』
エスメラルダは弱くなっている孵角の音に合わせて、竜心石で卵を叩く。何回か叩くと、卵にヒビが縦にのびる。パカッと割れた卵から、濡れた黒い雛竜が転がり出た。
『ピピン! お前はピピン!』
ぴすぴすとお腹が空いたと訴えるピピンは、どこにも異常は無さそうだし、差し出された餌をガツガツと食べている。
ショウは父上に知られたら叱られると思ったが、しかし、幸せそうなルカとエスメラルダを見たら、その時はその時だと開き直る。
『私がピピンを見ているから、餌を食べておいでよ』
少し早めに孵ったが、餌もタップリ食べたし、排便もすませて寝ているピピンをサンズに任せて、ルカは二週間振りに美味しいイルバニア王国の牛を食べた。
お腹が一杯になったルカがピピンの元に帰ったので、後は大丈夫だとショウとエスメラルダは腕を組んで大使館へ向かう。
ショウはメールとピピンとの誕生に手を貸した件が間違っているとは思えなかったが、今まで竜が自分の力で孵った雛しか育てなかったのにも理由があるのだろうと考える。
「一度、ウィリアム様と話してみたいな、竜についての知識が無さすぎる」
エスメラルダはピピンがフルールと比べても何も変わりが無いように思うので、ショウが色々と考えているのを研究熱心だと微笑む。
「そう言えば、エリカ様がウィリアム王子がユングフラウに帰って来られたと仰ってましたわ」
ショウは、エリカが婚約者のウィリアム王子がパトロールから帰って来たのなら機嫌が良いだろうとホッとする。
「レイテに大学と竜騎士の学校を創りたいと計画しているが、竜の事も研究したいな。エリカとウィリアム様を大使館の夕食会に招待して、ゆっくりと話を聞きたいが……」
見習い竜騎士の試験を受けているミミだけ除け者にするのも良くない気がして、夕食会を開くより、ウィリアム王子と話し合うだけにしようか悩みながら歩く。
大使館へ着くなり、竜舎に籠ってしまったショウ王太子を待っていたヌートン大使は、玄関の階段を走り降りて出迎える。
「ショウ王太子、丁度よいところにお帰り下さいました」
ショウは竜がさほど重要視されていない東南諸島の実情に腹立ちを感じている。ルカの卵が孵るのに間に合った事をヌートン大使が騒ぎ立てているのでは無さそうだと、少し警戒しながらエスメラルダと共にサロンに入る。
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