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5巻
5-1
一 雛竜育ては大変だぁ
シラス王国の北東にあるカリン村の森の奥に、一本の桜の木が生えている。
その根元には偉大な魔法使いアシュレイが眠っており、春になると彼の亡骸から吸い上げられた魔力が、開花とともに放出される。
今年も満開になったその桜の下で、新たに三頭の竜が孵った。
火の竜、フレアー。水の竜、アクアー。風の竜、ゼファーだ。
その竜達を、五人の少年が見つめていた。
カリン村出身で、アシュレイ魔法学校中等科一年生のフィンと、その同級生であるパック、ラッセル、ラルフ。そして高等科三年生のファビアンだ。
孵ったばかりの三頭の雛竜は羽根も伸びておらず皺くちゃで、よたよた歩く姿ははっきり言ってみっともない。
しかし、「可愛いよなあ」とその場にいる全員が夢中だった。
「グラウニーが孵った時も、これぐらい小さかったな」
いつも冷静なファビアンでさえ、一年前のグラウニーを思い出して感動している。
「三頭ともうんちが終わったなら、そろそろサリヴァンへ帰ろう!」
チビ竜をずっと眺めていたいが、フィンは少しでも早く発とうと急かす。
「そうだな。グラウニーは長距離飛行に慣れていないし、二人乗りさせるのも初めてだから時間がかかるだろう。さあ急ごう!」
ファビアンとフィンに急かされて、新たに生まれた竜のパートナーとなるパック達は、慣れない手つきで雛竜をバスケットの中に入れて立ち上がった。
金色の光を漂わせる桜の木に、フィンは「また来るよ」と挨拶をして、ウィニーとグラウニーが待つ森の外の空き地へ向かう。
『あっ! 孵ったんだね!』
『チビ竜を見せて!』
木が密集している森の中には行けなかった風の竜ウィニーと土の竜グラウニーに、バスケットの蓋を開けて見せてやる。
『グラウニーと同じだね』
一年先輩のウィニーに言われて、グラウニーは自分も一年前はこんなに小さかったのかと驚く。
『ウィニーも同じぐらい小さかったよ』
フィンに言われて、ウィニーは昔を思い出す。
『そうか……そう言えば、フィンの肩に乗っていたんだよね。今じゃ無理だもん。でも、今はフィンを乗せて飛べるから良いや!』
フィンもチビ竜だった頃のウィニーの可愛さを思い出したが、一緒に空を飛べる爽快感に優るものはないと笑う。
『じゃあ三人で乗るから、疲れたら言うんだよ』
長距離飛行に慣れていないグラウニーには、パートナーであるファビアンとラッセル。三人乗るウィニーには、体重の軽いフィン、ラルフ、パックが乗った。
『さぁ、サリヴァンへ!』
ウィニーとグラウニーは、いつもより多い人数を乗せていたが、何事もなく空へ舞い上がった。
『ウィニー、大丈夫かい?』
三人を乗せての長距離飛行は初めてだ。ウィニーが疲れていないか、フィンは心配する。
『平気だよ! それより、雛達が寝ているうちに、距離を稼ごう!』
卵から孵ったばかりの雛竜は、目を覚ますとぴぃぴぃ餌をねだるのだ。その度に、降りて餌をやらなくてはいけない。
グラウニーも長距離飛行に慣れていないので、なるべく早くサリヴァンに着きたいところだが、三頭も雛竜がいると、なかなか思うようにはいかない。
ウィニーには、パックとラルフが乗っているのだが、もちろん二人はパートナーであるゼファーとフレアーのバスケットも抱えている。
どちらかが空腹を訴えて鳴き出すと、片方も起きて餌を欲しがるので、ちょっと飛んだと思うと、降りて餌やりタイムだ。
「ねぇ! ゼファーがお腹空いたと鳴いているんだ」
ウィニーに合わせてグラウニーも降りると、二頭の雛竜につられたようにアクアーも空腹を訴える。
フィンはパック達三人が餌をやるのを観察して、何かを考え込んでいる。
「フィン! ちょっと見てないで、手伝ってよ!」
指ごと食べそうな勢いのゼファーに餌をやっているパックが、呑気に見ているのを咎めるが、フィンはそれに構わず「なるほど!」と、手を叩いた。
「今回は、ゼファーがお腹を空かせて目を覚ましたんだよ! フレアーとアクアーは、ゼファーの鳴き声で起きたから、本当にお腹が空いている訳じゃない。ついでに餌を食べているだけなんだね」
グラウニーのパートナーで、今回の手助けをしに付いて来てくれたファビアンが、納得して頷いているが、それがわかったからといって旅が楽になる訳ではなかった。
「私には双子の従兄弟がいるんだ。赤ちゃんの時は大変だったと叔母さんが愚痴っていたのを、今は理解できるよ」
ラルフは、フラフラになって呟く。彼は長距離飛行に慣れていないし、ラッセルやパックより体力がないのだ。フィンは、ラルフに休憩しておくように言って餌やりを代わる。
ファビアンも、ラッセルやパックと交代して餌やりをし、どうにか夕方にはサリヴァンに着いた。
「ウィニー、グラウニー! 大丈夫かい? わぁ、雛竜だな!」
魔法学校の竜舎では、竜の飼育係のバースが、ウィニーとグラウニーを心配して待っていた。フィン達はバスケットの中の雛竜を彼にチラリと見せた後、早速ヘンドリック校長と師匠ルーベンスに報告をしに行く。
「ほう、水の竜はアクアー、火の竜はフレアー、風の竜はゼファーか。相変わらず、単純なネーミングだなぁ」
フィンの師匠でシラス王国を守護する魔法使い――ルーベンスもわざわざ塔から校長室まで出向いてきた。
雛竜が見たくて仕方ないくせに、ルーベンスはクールな態度を崩さない。そのへそ曲がりっぷりに、フィンは苦笑した。
ヘンドリック校長は、床に跪いて熱心に雛竜を眺める。
「あのアシュレイが竜から授かった卵が、またも孵るとは!」
ヘンドリック校長の大仰な物言いで、ルーベンスは彼がフィンとアシュレイの血の繋がりに気づいていることを察した。
だから校長がその話題に触れる前に、フィン達をさっさと寮に帰らせようとする。ここにいるメンバーは全員秘密を知っているが、大っぴらに話すべきことではないとルーベンスは考えているのだ。
「ほら、そろそろ夕食の時間だ。マイヤー夫人に雛の餌の手配を丁重に頼むのだぞ」
もちろん、ここにいる五人ともマイヤー夫人に無礼な真似をする気はない。夕食に遅れてはいけないと、バスケットを抱えて寮に向かった。
「私が校長を務めている間に、あのアシュレイの竜の卵が全て孵るとは! やはり、フィンが……」
そこでルーベンスに睨みつけられ、ヘンドリック校長は口を閉じた。
しかし、校長が黙っていたからといって、その事実が広まらない訳ではない。魔法学校の他の教授達も気づいているのだ。
ウィニーの時は気づかない者もいたが、グラウニーもカリン村で孵った時から、ほとんどの者がもしやと考えていた。今回でダメ押しになるだろう。
「なるべく秘密を守ってやりたい」
ルーベンスは渋い顔でそう呟いた。
あの傲慢な大魔法使いが、弟子の心配をしていることにヘンドリック校長は感心したが、こればかりは無理だろうと、立ち去るフィン達の背中を見送った。
フィン達は、校長室を出てまず寮母のマイヤー夫人に新しい竜を紹介した。
「まぁ、可愛いこと! 雛竜のうちは寮に置いて良いですよ」
三頭も逆らってはいけない相手だと察知したのか、お行儀よくぴすぴす鳴く。
「このままバスケットを持って階段を上がったら、大騒動になっちゃうよね。移動魔法で部屋に送るよ」
ファビアンは、冬の間にフィンがそんなことをできるようになるまで魔法の腕を上達させたのに驚きつつも、ラッセル達にアドバイスをする。
「これから二週間は、夜中も餌を欲しがって大変だと思うよ。でも、その分絆も深まるから、頑張ってくれたまえ」
そして、自治会長の仕事があるので、と言ってファビアンは立ち去った。これから巻き起こる竜フィーバーに対処するため、自治会のメンバーと話し合うのだ。
「俺も手伝うよ! 大丈夫、ファビアンでもグラウニーを育てられたんだから」
フィンはそう言うと、まずはラッセルの部屋にバスケットを三つとも送り、交代で竜の面倒を見ながら、夕食を食べることにした。
やっと四人全員が夕食を済ませて一息ついていると、シラス王国の王子で竜好きのアンドリューが、ノックと同時に入ってきた。
「ラッセル、竜の卵を……えっ! 三頭とも孵ったの!?」
「アンドリュー! 部屋に入って!」
フィンは、ついでに後ろにいる学友のユリアンも部屋に引き入れる。廊下では早くも生徒達が「雛竜が孵ったのか?」と色めき立ち、騒ぎになり始めている。
早速三頭の雛竜に夢中になっているアンドリューが恨めしいが、いつまでも秘密にできるものではない。これも運命だ。
「あのう? 土日にどこへ行かれていたのですか?」
ユリアンの冷静な質問にすらラッセルは頭が痛くなる。これから二週間、三人は他生徒からの質問攻めに遭いながら、雛竜の面倒を見なければならない。
ラッセルの悪い予感は的中し、三人はフィンとファビアン同様に、竜フィーバーを経験することになった。
しかし、今までとは違い、協力者も増えた。
フィンはもちろんだが、アンドリューやユリアン、他の同級生達も手伝ってくれて、どうにか地獄のような二週間は過ぎた。
「夜中に眠れるって、こんなに幸せなことだったんだね」
竜が来てから初めて朝まで眠れた、と廊下を歩きながらパックは喜ぶ。ラルフのフレアーは、割りと食いだめしてくれるので、早いうちに夜中に起きなくなった。しかし、ラッセルは一人浮かぬ顔だ。
「アクアーは、まだ夜中に二回も起きるんだ」
もはや級長の仕事どころではない状態だ。これも雛竜の個性なのかなと、フィンは少し首を傾げた。
二 水の竜アクアー
(まだラッセルは夜中の餌やりをしているんだね)
授業中に居眠りしているラッセルなんて、フィン達は初めて見る。
先生も、ラッセルがうとうとしているのに気づいたが、雛竜を育てている事情を承知しているし、優等生なので注意せずに見逃している。
授業が終わると同時に、ラッセルはハッと目を覚まし、アクアーに餌をやらなきゃと言ってふらふらと立ち上がった。
「餌は俺がやっておくから、ラッセルは寝た方が良いよ」
真面目なラッセルだが、体力の限界がきていたので、フィンの提案をありがたく受け入れる。
フィンがラッセルの部屋でアクアーに餌をやっていると、アンドリューがやって来た。
「アクアーは、水の魔法体系の竜なんだよねぇ」
アンドリューが、フィンに代わってアクアーに餌をやりながら何気なく呟いた。
その言葉でフィンは閃いた。実は、アクアーはフレアーやゼファーよりも餌を食べる量が少ない。その解決策を思いついたのだ。
フィンはアンドリューに餌やりを任せて部屋を飛び出し、急いでマイヤー夫人の部屋へ向かう。
「マイヤー夫人、何か魚はありませんか? アクアーにやってみたいのです」
ウィニーも海で泳いだ時に、獲った魚を投げてやると食べていた。水の魔法体系だからといって、魚が好きだとは限らないが、試す価値はある。
マイヤー夫人の手配で食堂から魚の切り身をもらったフィンは、部屋に戻ると早速アクアーの前に差し出した。
『ほら、アクアー、食べてごらん』
竜が魚を食べるのかな? と疑問に思うアンドリューをよそに、アクアーは『おいしい!』と、今までの倍のスピードで口に入れる。
「アンドリュー、魚をあげといて! ちょっと試してみたいことがあるんだ」
餌の他にも何か思いついた様子のフィンに、アンドリューは興味津々だ。餌をやりながらフィンの挙動に注目する。
「床がびしょ濡れになったら困るよね。この絨毯は、ラッセルが家から持ってきた物だろうし……」
フィンがそう言った途端、床に敷いてあった絨毯がくるくると巻き上がり、壁に丸まって立て掛けられる。
「家具の下に敷いてあったのに、どうやったの? 痛い! アクアー!」
驚きのあまり手を止めたアンドリュー。アクアーはその指を容赦なく啄んでいた。
「ええっと、暖炉の前が良いかなぁ。確か、お風呂場のタイルが地下に置いてあったよね」
フィンはアンドリュー達のてんやわんやには全く構わず、思考を巡らすことに集中する。
この辺にあったはず、とブツブツ呟いているうちに、タイルが暖炉の前に現れペタペタペタと敷き詰められていった。
『そろそろお腹いっぱいかい?』
食べるスピードが落ちたアクアーを、アンドリューは慣れた手つきで暖炉の灰の上に置く。フィンは、王子様が竜の糞の始末をしているというのに、まだ色々と魔法で作業中だ。
「盥はこれで良いとして、綺麗な水を確保しなくちゃね」
冬の間、バルト王国からの留学生、アイーシャと水の魔法陣の研究をしたフィンは、水が自動で湧き出るように、壁に魔法陣を描く。
そして排水の魔法陣を掛けるのも忘れない。
「寮を水浸しにしたら、マイヤー夫人に天罰を与えられちゃうから、慎重にしなきゃ!」
バルト王国の宿でやった時より苦労したが、どうにかやり遂げた。
後は、ラッセルが簡単に使えるように、注ぎ口と排水の栓を付けるだけだ。風呂桶の栓と、ワインの樽に付いた注ぎ口を一つずつ移動魔法で取り寄せて、壁の魔法陣にくっつける。
「盥に穴を空けたら、マイヤー夫人に叱られるかな?」
アンドリューは、ここまで部屋を改造しておいて今更そんなことを気にするフィンに、突っ込みたくなったが、今は滅多に見られない魔法が次々と使われているので、黙って見学する。
「まぁ、叱られたら、その時は謝ろう!」
一人納得したフィンは、盥に穴を空け、風呂桶の栓をギュッと押し込むと、底に排水の魔法陣を引っ付ける。
「これで、大丈夫なはず……やってみよう!」
大丈夫なのか? と不安に思うアンドリューの視線の先で、フィンは注ぎ口の取手を横に倒す。
すると、水が盥に満ち始めた。
『くるるっぴ!』
アクアーが水を見て、アンドリューの手の中で暴れる。
「アクアーを盥に置いてやって!」
「こんなに小さいのに大丈夫かな? 溺れたりしない?」
アンドリューは、心配そうにアクアーを水の入った盥の中に入れる。
アクアーは気持ち良さそうに、ぱしゃぱしゃと羽根で水を撒き散らす。
「わぁ~! 部屋を水浸しにしたら、ラッセルに叱られるよ! アンドリュー、少し下がってて」
フィンは慌ててタイルに手をつけて、腰の高さぐらいの防衛魔法を掛ける。
アンドリューは、水がタイルの外に飛ばなくなったのを見て、心底驚いた。
「これって防衛魔法だよね! フィンは、本当に上級魔法使いになるんだなぁ」
「なれたらね……まだまだ習わないといけないことが山ほどあるんだ」
中等科になって魔法の修業が本格化したフィンは、猛スピードで知識や技術を習得している最中だ。先はまだ長い。
そして、魔法の技を習うだけが、上級魔法使いの修業ではないと気づき始めてもいる。
『もう、そろそろ良いだろう?』
雛竜は、食べてはウンチして寝るのが仕事だ。他の雛竜は、その合間にボールや紐で遊んだりするのだが、アクアーは水遊びがその代わりになるらしい。ひとしきり遊んだアクアーを、フィンはタオルで拭いてやる。
「アクアーは、やっぱり泳ぐのが上手だね」
「そうだね。ウィニーもグラウニーもなかなか泳げなかったけど、アクアーははじめから泳げたね。さすが水の竜だ」
バスケットに丸まってもう眠っているアクアーの手足には、水掻きがついている。
「それならフレアーは火で遊ぶのかな? 寮が焼けたら困るよ」
アンドリューの言葉に、フィンも同意して眉を顰める。
「ラルフに注意するように言っておくよ。ウィニーが風の魔法を使って空を飛べるようになったのは、二ヶ月ぐらいしてからだったからまだ心配ないとは思うけど……いや、兎に角、注意はしておこう!」
竜の世話で、三時間目に大幅に遅刻した二人は、走らずに急ぐ。寮の廊下を走ると、マイヤー夫人の天罰が下るからだ。こうして、魔法学校の生徒達は行儀良くなっていく。
三 フローレンスの戸惑い
小さな雛竜が三頭、食堂でアイーシャやルーシーと遊んでいる。
男子も女子も、お互いの寮には一歩も足を踏み入れることができないので、アイーシャは授業で会ったラッセルやパックに頼み、共有スペースの食堂まで雛竜を連れて来てもらったのだ。
「フローレンスも一緒に雛竜と遊びましょうよ」
ルーシーは、兄のパックの雛竜ゼファーと遊んでいたが、フローレンスが食堂の前を通りかかったのを見て声を掛ける。
「ほら、可愛いわよ!」
アイーシャが抱き上げたフレアーは、確かに可愛いし、興味深い。
しかし、フローレンスにはなるべく中等科の生徒達に近づきたくない事情があるのだ。少し見渡して、フィンの姿がないのを確認してから、合流した。
『可愛いわねぇ!』
フローレンスは、膝の上で寛ぐアクアーを撫でて、うっとりとする。伝説の存在だった竜を、自分が抱っこしているのだ。
「やぁ、食堂にいたんだね!」
昼からの魔法学の授業が長引いたフィンが寮に帰って来て、三頭の雛竜達を見ようと近づいてきた。
「あっ、私は宿題をしなくちゃあ」
フローレンスは、膝の上のアクアーをラッセルに返すと、そそくさと女子寮へ向かう。
冬休みに実家に帰った彼女は、一族の長であるマーベリック伯爵に「一族が栄えるために、早く将来有望なフィンを籠絡するように」と圧力を加えられた。
それからというもの、伯爵の思惑とは裏腹にフィンを避けているのである。
(色仕掛けなんてできないわ!)
早足で去っていくフローレンスを見て、フィンは心が騒ぐ。
(えっ? 今のって、俺が来たから?)
同級生のアイーシャ達は、宿題のことなど気にしていない様子で雛竜と遊んでいるのに、フローレンスの態度は不自然だ。
師匠から「フローレンス・マーベリックには近づくな」と釘を刺されていたのだが、それでも意識せずにはいられなかった。フィンの心には、もう金髪の少女が住み着いていたのだ。
「ねぇ、フィン! フィンったら、さっきから質問しているのに!」
女子寮への階段をぼんやりと眺めていたフィンは、アイーシャに声を掛けられて我に返る。
「何? アイーシャ?」
「もう! アクアーは飛べるのか? って、皆で心配していたのよ」
確かにアクアーは、水で遊ぶのが好きだし、手足に水掻きがついている。皆が心配になるのももっともだ。
フィンは、ゼファーよりも小振りなフレアーの羽根を広げて観察するのと同時に、魔法体系を調べてみた。
(こんなに小さいのに、魔力の塊なんだよなぁ。水の魔法体系なのは明らかだけど、それに加えて、土、風、少ないけど火の魔法体系も持っている)
調べ終わったフィンは、皆を安心させるように言う。
「水鳥も空を飛ぶだろ? アクアーだって羽根があるんだから、飛べるに決まっているさ」
ラッセルはたとえ飛べなくても受け入れようと密かに覚悟していたのだが、やはり空への憧れは捨て切れていなかったので、フィンの言葉にホッとした。
『きゅるるるる……』
アクアーはそんなラッセルの胸に頭を擦り付けて甘える。
それを見て、フィンはウィニーが恋しくなった。
そこで、賑やかな食堂を抜け出して、竜舎へウィニーに会いに行く。
ウィニーは、フィンが竜舎に来たのを不思議に思う。
『フィン? 何かあったの?』
ついさっきまで、ルーベンスの塔で一緒に魔法の技の練習をしていたのだ。会いに来てくれたのは嬉しいが、何か変に感じた。
『雛竜達を見ていたら、ウィニーに会いたくなったんだ』
フィンの言葉は嘘ではなかったが、全てが本当という訳でもない。フローレンスに避けられたような気がして、傷つくとまではいかなくても、落ち込んでいた。
だから、あの場にはいたくなかったし、気を紛らわしたいとも思ったのだ。
(前は、アレックスとかマリアンに無視されたり、意地悪を言われたりしたけど、そんなに気にならなかった……やわになったのかな?)
上級魔法使いの弟子として、皆に優しくされるのに慣れてしまったのかもしれない。
(きっと、俺は知らないうちにフローレンスを避けるような態度を取っていたんだろう。男の俺でも、何となく傷つくんだから、フローレンスはもっと嫌な感じだったんだろうな)
ウィニーは、フィンの複雑な気持ちが理解できず、とりあえず元気づけようとする。
『ねぇ、フィン! 一緒に飛ぼうよ!』
フィンは、ウィニーに心配かけてごめんねと笑いかけると、鞍を付けてサリヴァンの空へ舞い上がった。
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