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第2章 異変の兆候
幕間 お花畑
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(うー、もう駄目。これは何とかしないと!)
ナナは見張りの間、さすがに限界を感じていた。
というのも、ピラステアに転移してきてから、【堕天せし満月】が途中立ち寄った休憩所で寝ぼけたままいたして以降、お花摘みの機会が無かったのである。
つまり男女共通の生理現象、平たく言うとトイレに行きたいのである。
もちろん野宿をしている都合上、近くにトイレなどあろうはずもない。
……はずだったのだが、そこは気が利く男、ニアンである。
彼はあらかじめ簡易トイレを用意し、ナナに軽く説明してくれていた。
それは焚火から少し離れた、木と草に囲まれて見えない場所にあった。
おそらく剣か何かで掘ったのであろう、細長く、深い穴があいており、穴の近くには掘り出した土が盛ってある。
用を足した後に、その土をかけて覆うことで、臭いの発生を抑えられるという方式だ。
また、すぐ近くには乾いた木片が敷き詰められた場所があり、その上にはどうやって用意したのか、水や紙も準備してある。
これを使って身体の清潔も保つことが可能だ。
即席だが、野宿においては充分すぎる配慮であり、ナナが喜んだのは言うまでもない。
このようにトイレについては問題なかったのだが、このときナナは別の問題を感じていた。
そう、アイマーの存在である。
(どう考えても魔王が邪魔よね。
バケツで見えないはずなのに、明らかに周りの状況を細かく把握してるっぽいんだよね。
もしかしてこの人、透視能力でもあるのかなぁ。
え、やだ、絶対見られたくないっ!)
彼は現在バケツでおおわれているため、周囲を見ることはできない。
とはいえ、もちろん音は聞こえるし、これまでのやり取りから、何らかの手段で全方位の空間を正確に把握していることが伺えるのである。
イケオジ(ナナの勝手な設定)とは言え、さすがのナナもOSSANにお花摘みまで同行してもらう趣味は無い。
というか何が何でも排除したい。
『ね、ねえ魔王。私これから、お花摘みするんだけど……あなた、ちょっとバケツに収納していい?』
『⁉ そ、そんなことされたら我死ぬわ! いや、すでに死んだ身だが。
花などいくらでも摘めばよいではないか!』
『違う! んーもう! 女の子がお花摘みって言えば、わかるでしょ!』
『む……? あ。ああ、なるほど。我、すごく邪魔であるな。
まあ普段から【魔力探知】で周囲を見ておるから、服を着ていようがいまいが、身体の外だろうが中だろうが、見ようと思えばイロイロ全部わかってしまうし。
……い、いや、しないぞ? ぜぇええったいに、しないぞぉおお⁉
我は紳士であるがゆえに、能力をそのような使い方はせんのだぁああ!』
ナナが言わんとすることにようやく気付いたアイマー。
そして自らイロイロ全部ボロを出してしまい、慌てて取り繕う。
ここでナナは思い至る。
当時は慣れない環境にいっぱいいっぱいだったし、寝起きすぐで判断力が低下していたので気づかなかったが、休憩所でいたした時も、アイマーはナナの頭上に居たのだ。
『ほ、ほほぉう。ま・お・う・さ・ん? 詳しく聞かせてくれます?』
【伝心】を伝わって届く、ナナの恐ろしいまでの純粋な怒りの感情。
『ひ、ひぃいいい! いや、我は潔白だ! 本当だ!
ぜぇえええっっっっっったいに、そのような目的で能力を使うことなどないのだぁあああ!
前回もあらかじめ【魔力探知】は切っておったし、自分に防諜結界を張って音も匂いも遮断しておったのだ!
ほ、本当である! 我は紳士であるが故にぃいい!
ほ、ほれ、そんなことよりも我、今から自分に気絶魔法【スタン】をかけるので、用事が済んだら【伝心】で起こしてくれぇええええっぐぼらぁあああっ……!』
一気にまくしたてて、アイマーは気絶魔法【スタン】を自分にかけて意識を吹き飛ばす。
一見誠意ある行動のようにも見えるが、【伝心】越しに伝わるそれは、明らかなる逃亡の意志であった。
『あ、逃げた。ふーん、なるほど、こういう逃げ方もあるんだね』
頭上に感じる、力を失ってがくんがくん揺れるアイマーの首の感覚に、本当に気絶していることを理解したナナ。
あっさり思考を切り替えて、何かの役に立つかも? と頷きを繰り返す。
もちろんナナは、アイマーから【伝心】越しに伝わってきた感情を受け取り、彼が【魔力探知】で見てはいけないものを一切見ていないということはちゃんと信じている。
とはいえ、やろうと思えばそれが出来てしまうことを、今までナナに黙っていたというのは看過できなかったのだ。
『あとで【魔力感知】から身を隠す方法も教えてもらわなきゃ』
そうして彼女は【気配探知】で周囲の警戒をしつつ、簡易トイレに向かった。
その後、無事にことを済ませたナナは、アイマーを起こして【魔力遮断】と、ついでに【魔力探知】を教わったのであった。
◇
ナナは見張りの間、さすがに限界を感じていた。
というのも、ピラステアに転移してきてから、【堕天せし満月】が途中立ち寄った休憩所で寝ぼけたままいたして以降、お花摘みの機会が無かったのである。
つまり男女共通の生理現象、平たく言うとトイレに行きたいのである。
もちろん野宿をしている都合上、近くにトイレなどあろうはずもない。
……はずだったのだが、そこは気が利く男、ニアンである。
彼はあらかじめ簡易トイレを用意し、ナナに軽く説明してくれていた。
それは焚火から少し離れた、木と草に囲まれて見えない場所にあった。
おそらく剣か何かで掘ったのであろう、細長く、深い穴があいており、穴の近くには掘り出した土が盛ってある。
用を足した後に、その土をかけて覆うことで、臭いの発生を抑えられるという方式だ。
また、すぐ近くには乾いた木片が敷き詰められた場所があり、その上にはどうやって用意したのか、水や紙も準備してある。
これを使って身体の清潔も保つことが可能だ。
即席だが、野宿においては充分すぎる配慮であり、ナナが喜んだのは言うまでもない。
このようにトイレについては問題なかったのだが、このときナナは別の問題を感じていた。
そう、アイマーの存在である。
(どう考えても魔王が邪魔よね。
バケツで見えないはずなのに、明らかに周りの状況を細かく把握してるっぽいんだよね。
もしかしてこの人、透視能力でもあるのかなぁ。
え、やだ、絶対見られたくないっ!)
彼は現在バケツでおおわれているため、周囲を見ることはできない。
とはいえ、もちろん音は聞こえるし、これまでのやり取りから、何らかの手段で全方位の空間を正確に把握していることが伺えるのである。
イケオジ(ナナの勝手な設定)とは言え、さすがのナナもOSSANにお花摘みまで同行してもらう趣味は無い。
というか何が何でも排除したい。
『ね、ねえ魔王。私これから、お花摘みするんだけど……あなた、ちょっとバケツに収納していい?』
『⁉ そ、そんなことされたら我死ぬわ! いや、すでに死んだ身だが。
花などいくらでも摘めばよいではないか!』
『違う! んーもう! 女の子がお花摘みって言えば、わかるでしょ!』
『む……? あ。ああ、なるほど。我、すごく邪魔であるな。
まあ普段から【魔力探知】で周囲を見ておるから、服を着ていようがいまいが、身体の外だろうが中だろうが、見ようと思えばイロイロ全部わかってしまうし。
……い、いや、しないぞ? ぜぇええったいに、しないぞぉおお⁉
我は紳士であるがゆえに、能力をそのような使い方はせんのだぁああ!』
ナナが言わんとすることにようやく気付いたアイマー。
そして自らイロイロ全部ボロを出してしまい、慌てて取り繕う。
ここでナナは思い至る。
当時は慣れない環境にいっぱいいっぱいだったし、寝起きすぐで判断力が低下していたので気づかなかったが、休憩所でいたした時も、アイマーはナナの頭上に居たのだ。
『ほ、ほほぉう。ま・お・う・さ・ん? 詳しく聞かせてくれます?』
【伝心】を伝わって届く、ナナの恐ろしいまでの純粋な怒りの感情。
『ひ、ひぃいいい! いや、我は潔白だ! 本当だ!
ぜぇえええっっっっっったいに、そのような目的で能力を使うことなどないのだぁあああ!
前回もあらかじめ【魔力探知】は切っておったし、自分に防諜結界を張って音も匂いも遮断しておったのだ!
ほ、本当である! 我は紳士であるが故にぃいい!
ほ、ほれ、そんなことよりも我、今から自分に気絶魔法【スタン】をかけるので、用事が済んだら【伝心】で起こしてくれぇええええっぐぼらぁあああっ……!』
一気にまくしたてて、アイマーは気絶魔法【スタン】を自分にかけて意識を吹き飛ばす。
一見誠意ある行動のようにも見えるが、【伝心】越しに伝わるそれは、明らかなる逃亡の意志であった。
『あ、逃げた。ふーん、なるほど、こういう逃げ方もあるんだね』
頭上に感じる、力を失ってがくんがくん揺れるアイマーの首の感覚に、本当に気絶していることを理解したナナ。
あっさり思考を切り替えて、何かの役に立つかも? と頷きを繰り返す。
もちろんナナは、アイマーから【伝心】越しに伝わってきた感情を受け取り、彼が【魔力探知】で見てはいけないものを一切見ていないということはちゃんと信じている。
とはいえ、やろうと思えばそれが出来てしまうことを、今までナナに黙っていたというのは看過できなかったのだ。
『あとで【魔力感知】から身を隠す方法も教えてもらわなきゃ』
そうして彼女は【気配探知】で周囲の警戒をしつつ、簡易トイレに向かった。
その後、無事にことを済ませたナナは、アイマーを起こして【魔力遮断】と、ついでに【魔力探知】を教わったのであった。
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